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取材報告

2007
医療安全とITをキーワードに
「第27回医療情報学連合大会」が神戸で開催

メインホールでのシンポジウム
メインホールでのシンポジウム

土屋文人氏
大会長:土屋文人氏
(東京医科歯科大学
歯学部附属病院)
(写真1)

山本隆一氏
学会長:山本隆一氏
(東京大学)
(写真2)

企業展示

企業展示

産学官合同企画2007 産学官合同企画2007

HELICS協議会シンポジウム会場 HELICS協議会シンポジウム会場

 2007年11月23日(金)〜25日(日)の3日間,兵庫・神戸市の神戸コンベンションセンター(神戸国際会議場・神戸国際展示場)を会場に,「第27回医療情報学連合大会」が開催された。大会長は,東京医科歯科大学歯学部附属病院薬剤部の土屋文人氏(写真1)。土屋大会長は,長年,医薬品に関するIT化にかかわり,医療安全に結びつく薬剤システムの開発やトレーサビリティの確保に取り組んできた。また,大会の開催時期が医療安全週間であることから,「医療安全を支えるIT−その光と影」が大会テーマとして掲げられた。

プログラムは,特別講演が学会長講演など3,シンポジウムが17,ワークショップが20,チュートリアルが5となった。ほかにも,中国,韓国,日本の代表者によるCJKキーノート,同時期に開催されている医療の質・安全学会の会場と二元中継で行った特別講演企画「医療情報と医療の質・安全を考える」,プレ大会長企画「治験・臨床研究における標準的IT化」,大会長企画「医薬品とIT−その光と影 開発から市販後迄のデータ等に関わる課題」などが設けられた。産学官共同企画としては,「これからの医療情報化にむけて〜行政に望まれること,行政ができること」,オーガナイズドセッションとしては,病院薬剤師会共催の「薬剤情報システム−治験」,日本薬剤師会共催の「医薬品情報」が行われた。一般口演,ポスターなどを含めると採択論文数は493となった。また,従来の大会では,メーカー共催によるランチョンセミナーが開かれ,参加者から好評を博しているが,今回は新たな試みとして,それに加えスイーツセミナーが用意された。洋菓子の有名店が多い神戸での開催ということで実現したこの粋な計らいに,参加者も満足したことと思われる。

初日,開会式が行われた後には,神戸国際会議場のメインホールで,シンポジウム「IHEのあゆみと最新の成果−部門システム連携から電子カルテ・施設間連携へ」が行われた。座長は放射線医学総合研究所重粒子医科学センターの安藤 裕氏と京都医療科学大学の細羽 実氏が務めた。これまで施設内における放射線部門のシステムやモダリティとの接続を中心に発展してきたIHEであるが,現在では臨床検査,循環器などの分野にも広がっている。最近では,Cross-enterprise Document Sharing for Imaging(XDS-I)が登場し,複数の医療機関にまたがって画像データを共有するケースも米国などでは増えつつある。日本国内でも今後IHEを用いた医療情報システムの構築や他施設との連携が進んでいくと思われることから,最新の状況と問題点が発表された。

同じく初日の午後には,神戸国際展示場のF会場において,学会長講演が行われた。2007年から学会長となった東京大学大学院の山本隆一氏(写真2)が「日本医療情報学会の果たすべき責任」をテーマに講演した。山本氏はまず,日本医療情報学会の歩みについて触れ,黎明期から現在に至るまでの歴史を振り返った。また,自身の医療情報学とのかかわりについても取り上げ,大阪医科大学でのWWW サーバや院内ネットワーク構築に取り組んだ経験が,医療情報学を専門とするきっかけとなったことや,その後の公開鍵基盤などのセキュリティを研究テーマとしたことにつながっていると述べた。山本氏は,ジョン・レノンの"Power to the People"になぞらえ,"Power to the Information"と述べ,医療情報学がより多くの人に貢献していくことが重要であると述べた。さらに日本医療情報学会にも社会的責任が求められるようになってきており,医学への貢献を考える時期に来ていると言及。より学術的な評価と医学の中での医療情報学というスタンスの明確化,専門職のビジネスモデルの確立が学会に求められているとまとめた。

これに引き続いて行われた大会長講演では,今回スイーツセミナーが設けられたこともあって,焼き菓子が参加者に配布された。土屋大会長の演題は,大会テーマに基づいて「医療安全と情報」であった。土屋大会長は,医療情報学連合大会の前身である,1981年に開かれた医学・生物学に関する情報学連合大会の第1回大会において,「医薬品識別のための漢字データベース」を発表して以来,医療情報学の世界に入ったと述べ,その後の大会における発表テーマを取り上げながら,長年ヒューマンエラーの防止をテーマに,この世界に身を投じてきたと振り返った。土屋氏は,この立場から医薬品分野の標準化の現状や医療情報システムの問題点について取り上げた。その上で,まとめとして,現在の医療情報システムは医療安全の観点から情報の粒度を検討し直す必要があること,処方権と処方者の関係を明確化すること,処方歴,調剤歴,服薬歴の記録機能の必要性について触れた。そして,医薬品の適正使用にはITが果たす役割が大きく,今後のシステム開発にはこれに配慮した機能が必要だとして,現在の医療情報システムを捨てて,新たな視点での開発に取り組む勇気があってもよいと締めくくった。

一方,神戸国際展示場1階では,企業展示と産学官共同企画2007,ポスターセッションが行われた。出展社数は55社となり,2006年より若干増加した。また,企業展示の中央には,富士通(株)がホスピタリティルームを設けていた。ホスピタリティルームは,ほかにも4社が参加していた。

なお,大会前日の11月22日(木)には,標準化推進協議会(HELICS協議会)の5回目となるシンポジウムが開催された。このシンポジウムのテーマは,「部門システムにおける標準化の進展−小粋な標準規格の発掘」。安藤 裕会長の挨拶に続いて,臨床検査・生理検査のデータ交換規約,経済産業省の相互運用性実証事業における基本データセット,眼科・放射線治療領域の標準化をテーマに4題の講演があった。

第28回医療情報学連合大会は,2008年11月23日(日)〜25日(火),神奈川・横浜のパシフィコ横浜会議センターを会場に行われる。大会長は東京医科歯科大学の田中 博氏。テーマは「日本版EHRの展開−ユビキタス健康医療社会へ」(仮)となっている。


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