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取材報告

2009
病院での情報伝達のあり方を検討するシンポジウム
「医療機関でのユニファイド・コミュニケーションを考える」開催


山野辺裕二氏(国立成育医療センター)
山野辺裕二氏(国立成育医療センター)

神野正博氏(恵寿総合病院)
神野正博氏(恵寿総合病院)

山本康仁氏(都立広尾病院)
山本康仁氏(都立広尾病院)

澤 智博氏(帝京大学)
澤 智博氏(帝京大学)

 公開シンポジウム「医療機関でのユニファイド・コミュニケーションを考える」が,12月2日(水),ライブハウス・グラフィティ(東京都港区赤坂)で開催された。同シンポは,平成21年度厚生労働科学研究「医療機関での職員間情報伝達を改善するための、プレゼンス情報生成手法に関する研究」の一環として行われたもの。

 ユニファイド・コミュニケーション(UC)とは,電話やFAXといった音声系システムと電子メールやグループウェアといったシステム系の通信手段をIPネットワーク上で統合して,適切なコミュニケーション環境を構築すること。企業などでは,IP電話(VoIP)の導入や携帯電話を社内電話の子機として使うFMC(Fixed Mobile Convergence)の利用,個人が特定の机を持たない“フリーアクセス”など,UCを導入した新しい通信環境が構築されつつある。

  医療機関では,医師や看護師などへのPHS・携帯電話が普及したことで“いつでもどこでも”繋がる環境ができたが,一方でクリティカルな状況での呼び出しが医療ミスにつながるケースも起こっているという。医療機関でのUCの導入は,こういった状況で最適な通信手段を選択し,安全で確実に情報を伝達することで医療安全の実現と業務の効率的な運用を進めることが求められている。

 そのための重要な要素が「プレゼンス」で,相手が今どのような状態にあるかを把握することだ。オフィスなどでは,在席か外出かなどシンプルなステータスで運用できるが,医療現場の場合は,どこで何をしているのかをより詳細に把握する技術や方法が必要となる。研究代表者の山野辺裕二氏(国立成育医療センター医療情報室長)は,「今回の研究班で取り組んでいるのは医療機関に適したより粒度の高いプレゼンスの把握方法だ。GPSを利用したり,端末の状態から状況を把握する方法が可能かどうかなど,実際の運用面での課題を含めて,医療現場での活用の方向性を探っていきたい」と述べた。

 今回の公開シンポでは,医療機関でのUCの導入・活用について,どういったケースで必要とされるのか,プレゼンスの生成に関する最新技術,大学病院における最新導入事例,企業からのUCへの取り組みついての講演と意見交換が行われた。会場は,赤坂のライブハウスで80名が出席して,リラックスした雰囲気で討論が行われた。

 基調講演は,神野正博氏(社会医療法人財団董仙会理事長)による「病院経営者の立場から見たユニファイド・コミュニケーションの必要性と展望について」。地域中核の民間病院として先駆的に関連施設のIT化を進めてきたその先に,なぜUCが必要となるのかを講演した。

 高齢化が進む石川県の能登地域で医療を展開してきた神野氏は,「能登は日本の未来であり,われわれは未来の日本でどういった医療が必要かを実践してきた」と述べ,医療福祉複合体で地域に密着した“ヘルスケア”を提供するために,ITを手段として先駆的に取り入れてきた取り組みを紹介した。医療ITの次の段階としてデータの利活用,リアルタイムでの情報把握,空間を超えたシームレスなネットワークの構築が求められ,さらに「ES(employee satisfaction)として職員の仕事が楽になって,もっと本来の業務に時間が使えるようにすることがUCに対しての期待だ」と述べた。

 講演1は,山本康仁氏(東京都立広尾病院小児科医長)が,「既に数年間の稼働実績を持つ、病院情報システムと連動した構内PHS・電子メール呼び出しシステムの詳細について」で,基幹システムである電子カルテシステムと平行して構築した診療支援システムを紹介した。電子カルテで発生するデータをリアルタイムで解析したデータウェアハウス(DWH)を構築し,そのデータを基にイベントの把握,スタッフのプレゼンスをシステムが自動的に確認する。トリガーとなる条件がそろうと,該当する対象者に直接メッセージを,PHSに電話をかけ音声合成で注意を促す仕組みを持つ。プログラムはファイルメーカーのスクリプトで書かれており,山本氏がシステムのほとんどを一人で構築した。山本氏は,「医師である自分がプログラムを構築しているため,最初から診療の場面で必要とされる情報がわかっており,最適な粒度で情報を集めて,必要なデータだけを抽出することができる。電子カルテのデータ解析から得られたプレゼンスの情報は,PHSの位置情報より精度が高かった」と述べた。

 講演2の澤 智博氏(帝京大学・本部情報システム部部長)のタイトルは,「『ヘルシー・ホスピタル』として今年5月に新装なった帝京大学医学部附属病院のコミュニケーションインフラについて」。澤氏は,2003年に4億5000万円で帝京大学市原病院(現ちば総合医療センター)のシステム構築を担当し,その後,本院の全面リニューアルで電子カルテを含む統合病院情報システム「iEHR」の構築に当たった。澤氏は,2003年当時の電子カルテの課題は現在も変わっておらず,それは日本での電子カルテがデータの入力・参照や保存に重点が置かれて,診療支援機能が重視されていないからだという。「ヘルシー・ホスピタルでは経営や診療のサポートはもちろん,医療スタッフが働きやすい環境を提供することも,システムの構築の目的のひとつだった」と述べた。
 同病院では,院内の電話回線のIP化を図り,携帯電話と無線LANのデュアル端末のN902iLを採用した全病院的なUCを導入。病棟の看護システムとも連携して,ナースコールを看護師の携帯電話に直接発信する“IPナースコール”をネットマークス,NECなどと構築した。

 そのほか,UCに取り組む企業(マイクロソフト,シスコシステムズ,日本電気,富士通)から,UCのアプリケーションやPBXも含めた医療機関向けシステム構築の紹介があった。


●問い合わせ先
研究班ホームページ
http://ymnb.net/uc/