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取材報告

2009
医療放射線防護連絡協議会
「20周年記念・高橋信次記念講演と記念シンポジウム」を開催


菊地 透 氏(医療放射線防護連絡協議会総務理事)
菊地 透 氏
(医療放射線防護連絡協議会総務理事)

座長:福士政広 氏(首都大学東京,写真右),多田順一郎 氏(理化学研究所)
座長:福士政広 氏(首都大学東京,写真右),
多田順一郎 氏(理化学研究所)

鈴木昇一 氏(藤田保健衛生大学)
鈴木昇一 氏(藤田保健衛生大学)

大野和子 氏(京都医療科学大学)
大野和子 氏(京都医療科学大学)

岡野友宏 氏(昭和大学)
岡野友宏 氏(昭和大学)

夏堀雅宏 氏(日本動物高度医療センター)
夏堀雅宏 氏(日本動物高度医療センター)

清 哲朗 氏(厚生労働省医政局)
清 哲朗 氏(厚生労働省医政局)

シンポジストによる総合討論の様子
シンポジストによる総合討論の様子

黒川英明 氏((株)千代田テクノル)
黒川英明 氏(千代田テクノル)

 医療放射線防護連絡協議会の「20周年記念・高橋信次記念講演と記念シンポジウム」が,12月11日(金),国立がんセンター(東京都中央区)内の国際交流研究会館国際会議場で開催された。テーマは「医療領域の放射線防護における今後の課題と解決に向けて」。
  同記念講演とシンポジウムは,医療放射線防護連絡協議会の年次大会として行われているもので,第1回は連絡協議会の設立記念として1990年12月に開催された。高橋信次氏(1912〜85年)は,放射線診療医としてCTの原理となる回転撮影法を開発し,日本の放射線防護の草分け的存在であり,その功績を讃える意味を込めて名前を冠している。20周年記念の年次大会開催に当たって挨拶した菊地透氏(医療放射線防護連絡協議会総務理事・自治医科大学RIセンター)は「20年前に連絡協議会の役割として“医療被ばくを半減する”という宿題をいただいたが,この間,医療被ばくは増加した。それは一方で,この20年間で患者に有用な検査の選択肢が増えていることでもあり,20周年記念を放射線防護を低減だけではなく,医療における“放射線安全”をどう考えるかという方向に転換して次の時代に託していく,ひとつの契機としたい」と述べた。

 20回の節目の大会となった今回の記念講演は,同連絡協議会の会長で原子力安全研究協会の古賀佑彦氏による「低線量被ばくのリスクと安心・安全問題−緊急被ばく医療に関連して」が予定されていたが,残念ながら入院療養中のため,座長を務める予定だった菊地氏が,古賀氏が入院前に作成したスライドを使って講演した。
  菊地氏は,冒頭で「高橋信次氏の放射線診療,放射線防護にかける精神は,大きな巡り合わせの中で古賀会長に受け継がれている」として,古賀佑彦氏の経歴と業績を紹介した。佑彦氏の父親である古賀良彦氏は,東北大学放射線科の初代教授として胸部間接撮影法の開発など数多くの業績を残した(1901〜67年)が,その良彦氏の東北大の放射線科に入局したのが高橋信次氏である。その後,名古屋大学の放射線医学教室の教授となった高橋氏の元に今度は佑彦氏が入局することになる。
  講演では,古賀氏が2001年から取り組んできた“緊急被ばく医療”における医療従事者の被ばくのリスクと安全・安心の問題を紹介した。緊急被ばく医療は,原子力発電所などでの事故の際に放射線被ばくした従事者や地域住民を対象に行われるが,その際には治療に当たる医療従事者や搬送する救急関係者が二次被害を受けないことが必要になる。普段,放射線を扱っている専門家でも,突然の事故によって放射線を浴びた患者からの二次被ばくにはたとえ低線量でも不安を感じる人が多い。その不安によって適切な医療が受けられないことは,大きな問題になる。古賀氏は,その不安を取り除くためには放射線レベルに応じたトリアージを行うこと,トリアージの退出基準を決めるために関係者が容認できる線量の"目安レベル"を策定することが重要だとして,関係者へのアンケートや二次被ばくに関するエビデンスづくりなどの研究を行ってきた。二次被ばくの目安として1mSvを容認できる線量として挙げた。

 午後から行われた記念シンポジウムでは,「医療における放射線防護の現状と将来」をテーマに福士政広氏(首都大学東京),多田順一郎氏(理化学研究所)を座長として,画像診断の利用が広がるにつれてさまざまな領域で必要となる放射線防護の取り組みについて,医科だけでなく歯科,獣医療での現状と課題について4題が報告された。
 「医療における放射線管理者の役割〜第29回『医療放射線の安全利用』フォーラムから」では,鈴木昇一氏(藤田保健衛生大学医療科学部)が9月に行われたフォーラムの内容の概略を報告し,医療放射線の安全利用のためには,放射線管理に関する複雑な法制度の見直しや現場での人材の育成と活用のための体制づくりが必要だと述べた。
 「医科領域における放射線診療の特徴と放射線防護の課題〜真のtender loving careを目指して」では,大野和子氏(京都医療科学大学)が医療安全の視点から必要とされる課題について(1)放射性医薬品などの正確な知識・技術の教育 ,(2)医療従事者間の知識の共有によるコミュニケーションエラーの防止 ,(3)患者対応を挙げ,放射線安全文化を浸透させることが患者の信頼と安心に繋がると提案した。
 「歯科領域の放射線診療の特徴と放射線防護の課題〜画像診断ガイドラインを中心にして」を講演した岡野友宏氏(昭和大学歯学部)は,歯科領域における画像診断の現状と診療における役割を概説して,国内で1000台といわれる歯科用コーンビームCTの普及など画像診断が今後ますます重要となる中で,歯科領域においてもガイドラインの策定などによる適正な検査と放射線防護への取り組みが必要になると述べた。
 「獣医領域における放射線診療の特徴と放射線防護の課題」では,夏堀雅宏氏(日本動物高度医療センター)が,戦後の獣医療の変化(経済動物=家畜から,伴侶動物=ペットへ)と放射線診療の広がりを紹介した。いまやX線CTを導入する施設は100以上,放射線治療を行う施設も全国で8施設程度あるという。利用が増える一方で,放射線防護や安全に対する意識や教育が不足していると解説した。
 総合討論「医療領域の放射線防護における今後の課題と解決に向けて」では,指定発言として清 哲朗氏(厚生労働省医政局指導課医療放射線管理専門官)が行政の取り組みを概説。清氏は「2007年の医療法改正で“医療安全”が法制化されたことが,大きなターニングポイントとなった。その観点で“放射線安全”の課題の解決に向けて行動していただきたい」と述べ,引き続き各領域での課題や方向性について討論された。

 また,午前に行われた教育講演では,個人線量測定機関協議会(個線協)の黒川英明氏((株)千代田テクノル)による「被ばく測定サービス機関と防護に係って〜半世紀の経験から」。個人の被ばく線量を測定するフィルムバッチなどの測定業務に携わる企業の集まりである個線協の活動などを紹介した。


●問い合わせ先
医療放射線防護連絡協議会
TEL 03-5978-6433 FAX 03-5978-6434
http://www.fujita-hu.ac.jp/~ssuzuki/bougo/bougo_index.html