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取材報告

2011
日本医療情報学会が可搬型媒体での画像情報連携をテーマにしたワークショップを開催

満席となった会場
満席となった会場

木村通男 氏 (浜松医科大学)
木村通男 氏
(浜松医科大学)

大会長:奥田保男 氏 (岡崎市民病院)
大会長:奥田保男 氏
(岡崎市民病院)

座長:坂本 博 氏 (東北大学病院)
座長:坂本 博 氏
(東北大学病院)

座長:松田恵雄 氏 (埼玉医科大学総合医療センター)
座長:松田恵雄 氏
(埼玉医科大学総合医療センター)

武田幸司 氏 (山形県立中央病院)
武田幸司 氏
(山形県立中央病院)

原瀬正敏 氏 (豊橋市民病院)
原瀬正敏 氏
(豊橋市民病院)

栃原秀一 氏 (熊本大学医学部附属病院)
栃原秀一 氏
(熊本大学医学部附属病院)

谷川琢海 氏 (放射線医学総合研究所重粒子医科学センター病院)
谷川琢海 氏
(放射線医学総合研究所
重粒子医科学センター病院)

池田龍二 氏 (熊本大学医学部附属病院)
池田龍二 氏
(熊本大学医学部附属病院)

川眞田 実 氏 (大阪府立成人病センター)
川眞田 実 氏
(大阪府立成人病センター)

渡辺宏樹 氏 (東京大学医学部附属病院)
渡辺宏樹 氏
(東京大学医学部附属病院)

鈴木真人 氏 (JIRA)
鈴木真人 氏
(JIRA)

中安一幸 氏 (厚生労働省)
中安一幸 氏
(厚生労働省)

参加者に配布された「PDI一次チェックツール」
参加者に配布された
「PDI一次チェックツール」

  一般社団法人日本医療情報学会(JAMI)は2011年1月29日(土),(社)日本放射線技師会講義室(東京都港区)において,ワークショップ「可搬型媒体を用いた画像情報連携」を開催した。このワークショップは,地域医療再生計画が本格的に始まったほか,政府の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)が昨年まとめた「新たな情報通信技術戦略」において「『どこでもMY病院』構想の実現」「シームレスな地域連携医療の実現」の取り組みが掲げられ,医療機関の地域連携がますます広まっていくことを受け,画像データの施設間連携のあり方を考える場として設けられた。「可搬型媒体(CD-R)を用いた画像情報連携の現状と問題解決を考察する」をテーマに,一般研究発表とワークショップの2部構成で進められた。なお,JAMIの木村通男学会長(浜松医科大学医療情報部)は,医療情報学の重要なテーマについては,学術大会だけでなく,タイムリーにワークショップやシンポジウムなどの議論をする場を設けるとしており,今回は1月22日に行われたワークショップ「ID等に関する政策研究」に続いて開催された。

  冒頭,ワークショップの大会長を務める奥田保男氏(岡崎市民病院情報管理室)が挨拶した。奥田氏は,地域連携が進む中,CD-Rなどの可搬型媒体で提供された画像データが読めないといった問題が全国的に数多く起きており,現場が混乱していると現状を説明。ワークショップを通じ,ベンダーとユーザーが問題を共有し,ベクトルを同じにして,解決に向けて取り組んでいくようにしたいと述べた。

  先に行われた一般研究発表では,医療現場で可搬型媒体による画像情報連携を行っている施設から6題の報告があった。座長は,東北大学病院診療技術部の坂本 博氏が務めた。

  まず,山形県立中央病院,山形県放射線技師会医療情報研究会代表世話人の武田幸司氏が,「山形県における『可搬型媒体(CD-R)による医用画像データの受け渡しに関するアンケート』の結果と今後の課題」と題し発表した。武田氏は,山形県内の医療機関に対して行ったPACSの導入状況や画像情報連携の現状について説明。PACSの導入率が48%であり,そのうち可搬型媒体での画像提供が可能な施設でも,現実では7割しか実施していないと指摘し,IHEの統合プロファイルPDI(Portable Data for Imaging)への理解も不足しているといった問題点を述べた。その上で,医療情報研究会でまとめた提供側・受け入れ側それぞれの留意事項について説明した。続く2番目の発表では,「画像CD作成時の問題点における解決方法の一例」と題し,豊橋市民病院医療情報課の原瀬正敏氏が登壇した。原瀬氏はCD作成時間や業務負担の増大という可搬型媒体作成の問題点を,医師がCDを作成するなどワークフローを見直したことで解決し,CD作成量の増加にも対応できるようになった経緯を報告した。次いで,熊本大学医学部附属病院医療技術部,熊本画像情報システム懇談会の栃原秀一氏が,「熊本県内における画像情報連携の現状と問題点」をテーマに発表した。栃原氏は熊本県内の地域連携の状況を図示した上で,熊本大学医学部附属病院における画像データの取り扱い数について,診療科別などを状況を示した。さらに,地域連携が広まるとともに可搬型媒体の取り扱い数が増えたほか,モダリティの高機能化による画像データ量の増大といった運用面の問題点,DICOM Tagなどの技術面の問題点を指摘。「患者に渡す医用画像媒体についての合意事項」の周知など,情報共有の必要性について言及した。

  4番目の発表では,放射線医学総合研究所重粒子医科学センター病院の谷川琢海氏が,「放医研における画像連携の現状と問題点」をテーマに登壇した。谷川氏は,同院が役割上,国外も含め他院との連携が進んでいる一方で,他院から来る画像データ量が多すぎる,提供したデータが再度持ち込まれる,多様な形式・媒体でデータが渡されるなどの問題が起きていると指摘。その上で,今後,海外の医療機関との連携も含め,より効率的,かつ安全な画像情報連携の方法を検討する必要があると述べた。続いて,熊本大学医学部附属病院医療技術部の池田龍二氏が,「当院における可搬媒体運用の問題点と解決策」と題して発表した。池田氏は,2008年では1日平均15件だった画像情報連携関係の業務が,2010年は37.4件まで増えており,紹介画像のサーバ占有率も高くなっていると説明した。その上で,システムの更新により可搬型媒体作成の時間を短縮化させるなど,業務の見直しに取り組んだ経緯を報告。今後の課題として,紹介先施設に適した対応の必要性や,標準化の推進などを挙げた。この後,一般研究発表の最後の演題として,大阪府立成人病センターの川眞田 実氏が「当院における画像情報連携システムについて」をテーマに登壇した。川眞田氏は,電子カルテの導入,PACSとRISの更新に合わせ,院外からの画像を取り込む運用に移行するため,ワークフローを分析。人,モノ,データの流れを可視化し,診察前に画像を取り込む運用にして,診察の待ち時間の短縮と医師のストレス軽減につなげたと説明した。

  休憩を挟んで,埼玉医科大学総合医療センター中央放射線部の松田恵雄氏を司会にして,ワークショップが行われた。

  まず,坂本氏が,「可搬型媒体(CD-R)による画像情報連携の現状と問題点(報告1)」として,東北大学病院におけるCD-Rによるデータの受け入れ状況と院内のPACSへの取り込み方法などを紹介した。同院では,院内の画像の取り込みについて,PMIと呼ばれるシステムを開発し,一次保存サーバにDICOMデータを取り込むとともに患者情報(PDQ)を取得している。医師は,HISのPMIビューワからこの画像を参照する。一方で,紹介先への画像提供の際も,このビューワからオーダする。坂本氏は,こうした運用の中での問題点を指摘し,PDIやDICOMの規格の順守の重要性を訴えた。

  続く発表では,東京大学医学部附属病院企画運営情報部の渡辺宏樹氏が,「可搬型媒体(CD-R)による画像情報連携の現状と問題点(報告2)」をテーマに登壇した。渡辺氏は,同院における可搬型媒体による画像の提供状況について報告。DICOM以外のファイルが保存されていたり,DICOMのディレクトリやタグのエラーがあるなどの分析結果を説明した。その上で,CDやDVDからデータを取り込むシステムや,DICOMデータをPACS,非DICOMデータを汎用画像システムへ保存するといった院内での運用方法について解説した。

  この後,(社)日本画像医療システム工業会(JIRA)DICOM委員会の鈴木真人氏が,「IHE統合プロファイル『可搬型医用画像』およびその運用指針について」と題し,PDIの規格や運用指針などを説明した。鈴木氏は,現在のPDIの規格や運用指針は現場の実態に合っていないとして,個別のガイドラインやチェックツールが必要と言及。また,互換性などの問題もあることから,システム導入の際にはIHEのコネクタソンの結果などを参考にした方がよいと述べた。

  ワークショップ4番目の発表では,奥田氏が「患者に渡す医用画像媒体についての合意事項(改訂案)」について報告した。この合意事項は,(社)日本医学放射線学会やJAMIなど学会,業界団体がまとめたもので,改訂作業が進められている。改訂版では,合意事項の対象に,「患者が希望した場合でも,受け取り側医療施設等と事前の合意が無い場合は,本合意を適用する」が加えられる。また,内容については,ビューワのオートスタートの禁止などが変更となる。奥田氏はこれらの変更項目について,順を追って説明した。

  続いて,木村学会長が「CDによる画像連携のポイント」と題し講演した。木村氏は,2010年3月に厚生労働省が通知したPDIなどの標準規格を説明。さらに,PDIに対応しているベンダーを提示した。また,実際に医療現場で起こっている可搬型媒体でのデータ提供時のトラブルについて例を挙げて,JAMIが開発した「PDI一次チェックツール」を紹介した。このチェックツールは,ワークショップ参加者全員に記念品として配布された。

  ワークショップの最後の演題では,厚生労働省政策統括官付社会保障担当参事官室の中安一幸氏が,「標準化と情報連携の今後について」をテーマに登壇した。中安氏は,厚生労働省電子的診療情報交換推進事業(SS-MIX)など,厚生労働省の標準化への取り組みについて説明した上で,データ交換のための標準化ストレージのコンセプトや,データの仕組みについて取り上げた。また,政府が医療分野のIT化を進める理由について,医療の効率化や地域連携の推進などを挙げ,今後の政策について紹介。講演のまとめとして,データ提供をする際には,先方施設に対する配慮が重要だと述べた。

  このワークショップは,参加申し込み開始の翌日には,70名の定員に達するなど,関心の高さがうかがえた。当日の会場は満席で,それぞれの発表のたびに,発表者と参加者との質疑応答が繰り広げられた。今後地域連携が広まっていく中で,可搬型媒体でのデータ提供が確実に行われるように,このような議論の場を通し,医療関係者やベンダーが協力して課題に取り組んでいくことが期待される。


●問い合わせ先
一般社団法人日本医療情報学会 事務局
TEL 03-3812-1702
E-mail office@jami.jp


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