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取材報告

2011
日本放射線技術学会
市民公開講座「放射線・放射能による影響と対策」を開催

江島光弘氏(日本放射線技術学会)
江島光弘氏
(日本放射線技術学会)

福士政広氏(首都大学東京)
福士政広氏
(首都大学東京)

田上恵子氏(放射線医学総合研究所)
田上恵子氏
(放射線医学総合研究所)

島田義也氏(放射線医学総合研究所)
島田義也氏
(放射線医学総合研究所)

浅田恭生氏(藤田保健衛生大学)
浅田恭生氏
(藤田保健衛生大学)

宮嵜 治氏(国立成育医療研究センター)
宮嵜 治氏
(国立成育医療研究センター)

平野浩志氏(日本放射線技術学会)
平野浩志氏
(日本放射線技術学会)

会場風景
会場風景

  公益社団法人日本放射線技術学会は6月4日(土),一橋記念講堂(東京都千代田区)を会場に,市民公開講座「放射線・放射能による影響と対策ー福島原子力発電所事故による影響の理解のためにー」を開催し,3題の講演と指定発言が行われた。後援は,東京都,東京都医師会,千代田区医師会,日本核医学技術学会,日本医学物理学会,放射線医学総合研究所。
  総合司会を総合病院国保旭中央病院の五十嵐隆元氏,司会を千葉大学医学部附属病院の加藤英幸氏と横浜労災病院の渡辺 浩氏が務めた。

  開会にあたり,日本放射線技術学会東京部会長の江島光弘氏が挨拶に立った。震災被災者へのお見舞いの言葉を述べた上で,福島第一原発事故で放出された放射線が,いろいろな情報とともに,市民に不安を与えているとし,今回の市民公開講座で,放射線・放射能影響への理解を深めてほしいと開催主旨を説明した。

  1題目に,首都大学東京健康福祉学部放射線学科の福士政広氏が「放射線の単位を理解する Bq(ベクレル)ってなに?,Sv(シーベルト)ってなに?」をテーマに講演した。最初に放射線・放射能の基本として,放射線の種類や放射線が出る物理現象,単位についてわかりやすく解説した上で,吸収線量と等価線量・実効線量について説明した。加えて,個人の被ばくの管理計算に必要な預託実効線量についても述べ,これらをもとに,文部科学省が提示している年間20mSvの算出方法を解説した。

  2題目に,放射線医学総合研究所放射線防護研究センターの田上恵子氏が登壇し,「暫定規制値を理解しよう 水は飲めるの? 野菜は食べられるの? 魚は……?」を講演した。まずはじめに,「暫定規制値」と「暫定基準値」という言葉が混同されていることを指摘し,厚生労働省が示しているのは科学的根拠に基づいた「暫定規制値」であること,そして,市場に出回っている食品は暫定規制値を下回っているものだけなので食べても問題がないことが強調された。一方で,原子炉がメルトダウンしたことを考えると,海洋に多くの放射性核種が放出された可能性があることにも触れた。そして,事故から80日以上が経過し,今後気にしなければならないのは,半減期が長い放射性セシウムであるとした。
  続いて,規制値について日本と国際データとの比較や,食品ごとの具体的な除染方法などを示した。食品の除染にあたっては,無理に除染しようとするあまり,栄養価も失って健康を損ねることのないようにとのアドバイスがなされた。
  田上氏はおわりに,放射線には正しい知識で対処すれば過度に心配する必要がなくなること,放射線の人体影響は深く研究されているので専門家の言葉や測定結果を過度に疑問視せずに事実としてとらえてほしいことを述べ,食品はいろいろな産地のものを食べることで放射線のリスクは分散されるため,バランスの取れた食生活を送ってほしいと締めくくった。

  3題目に,放射線医学総合研究所発達期被ばく影響研究グループの島田義也氏が「放射線の健康影響について 大人と子どもと胎児の違いは?」を講演した。
  放医研では,事故後に放射線被ばくに関する電話相談窓口を設置しており,先週までで相談が1万件を超えたという。島田氏は,放射線影響を正しく理解しないと悲劇が起こるとし,参加者へ正しい理解を促した。
  島田氏はまず,放射線を人体に受ける経路や,影響の分類,閾値について解説した上で,チェルノブイリ原発事故,原爆被爆者の疫学調査をもとに,被ばくとがんリスクの関係について説明した。100mSvの放射線被ばくで,がん死亡率は0.5%増加するが,そもそもの日本人のがんの死亡率が30%なので,リスクの増加はわずかであるとし,100mSv未満ではリスクが小さくて有意な増加が観察されないとした。続いて,原爆被爆者の年齢別相対リスクやオックスフォード調査(胎児期被ばくによる小児がんの調査),放射線治療を受けた小児がん患者の遺伝影響に関する研究などを紹介し,放射線の子どもへの健康影響について説明した。
  現在,市民に放射能への不安や混乱をもたらしている原因の1つは,放射線レベルや対応などについて合意形成が成されていないことであると指摘した。そして,妊婦・授乳婦の生活上の注意点を具体的に挙げ,今後はいかに子どもを被ばくのリスクにさらさないかを考え,対応していくことが重要であるとした。
  また,被ばくのリスクを感覚的にとらえるものとして,放射線とほかの発がん要因の比較として,野菜不足,受動喫煙は放射線100〜200mSv,肥満(BMI>30)は200〜500mSvと同レベルのがんリスクであると説明。がんは予防できる病気であるとし,放射線の線量の蓄積とともに,ほかの発がん要因の蓄積を少なくすることが大切であると述べた。

  休憩を挟み,質疑応答の前に急遽,日本放射線技術学会計測分科会長を務める藤田保健衛生大学医療科学部放射線学科の浅田恭生氏が指定発言を行い,市販されている放射線測定器の種類の説明や,使用にあたっての注意点を述べた。
 放射線測定器については事故後,日本放射線技術学会放射線防護分科会のホームページ上に,「簡易型放射線測定器を個人でお持ちの一般の方へ」との案内を掲載し,情報発信を行っている。
 浅田氏は市販の測定器を使用するにあたっては,測定器は万能でないこと,計測する目的によって測定器の種類が異なること,精度などの測定器の特性を知ること,国家標準と校正をとることなどの留意点を挙げた。
 続いての質疑応答では,講演者に加え,コメンテータとして国立成育医療研究センターの宮嵜 治氏も登壇。参加者から多くの質問が寄せられ,原発事故への一般市民の関心の高さがうかがえた。
 終わりに日本放射線技術学会関東部会長の平野浩志氏が挨拶に立ち,同学会として市民に正確な情報を少しでも発信し,役に立つことができれば幸いであると,市民公開講座に込めた思いを述べた。
 なお同学会では,7月10日(日)に,コラッセふくしま(福島市)でも市民公開講座を予定している。


●問い合わせ先
公益社団法人日本放射線技術学会
TEL 075-354-8989
http://www.jsrt.or.jp/web_data/


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