インナビネット特集 CHANGE the World
数多くの医療機器メーカーから信頼を集めるヒューレット・パッカードのワークステーション

医療機関の取材時に,CT・MRIのコンソールまわりや読影室などで,ヒューレット・パッカード(HP)のロゴのついたワークステーションやPCを目にする機会が増えている。また,毎年4月に開催される国際医用画像総合展(ITEM in JRC)などでも,出展企業が展示製品とともにHPのプレートを掲げている光景も多く目にするようになった。こうした中,日本HPでは2010年4月7日に日本市場に最適な製品として,省スペース型の「HP Z200 SFF Workstation」を発表した。ヘルスケア分野では,モダリティや画像処理ソフトウエアが話題になっても,ワークステーションのハードウエアが主役として取り上げられる機会がこれまであまりなかった。しかし,検査画像をはじめとする診療情報という重要なデータを扱う点では,ワークステーションの存在は大きい。そこで,「CHANGE the World〜世界を変えるモノづくり魂〜」では,米国HPのワークステーション部門ワールドワイド・マーケティング・ディレクターのジェフ・ウッド氏と日本HPのワークステーションビジネス本部本部長である小島 順氏にインタビューした。

ジェフ・ウッド 氏
ジェフ・ウッド 氏
小島 順 氏
小島 順 氏

ヘルスケア分野で高いシェアを持つワークステーション

●HPのワークステーション事業におけるヘルスケア分野への取り組みについて,お聞かせください。

4月7日に行われたHP Z200 SFF Workstationの記者発表会でのウッド氏と日本HP取締役副社長執行役員パーソナルシステムズ事業統括の岡 隆史氏。
4月7日に行われたHP Z200 SFF Workstationの記者発表会でのウッド氏と日本HP取締役副社長執行役員パーソナルシステムズ事業統括の岡 隆史氏。

ウッド氏:ヘルスケア分野はわれわれにとって非常に大きな市場です。この分野におけるわれわれの主な顧客としては,例えばGEヘルスケア,東芝,フィリップスがあり,CT,MRI,X線装置の画像処理のためのワークステーションとして採用されています。特にGEヘルスケアは,すべてのモダリティをわれわれの製品がカバーしているほか,最近ではシーメンスにもワークステーションの供給を開始しています。このようにヘルスケア分野におけるわれわれのシェアはとても高いと思います。
ヘルスケア分野においては,質の高いソリューションを提供することが大変重要だと考えています。医療機器の承認には時間もコストもかかる上に,長期間にわたりハードウエアを交換せずに使用し続けられることが求められています。こうした点からも,われわれが製品のライフサイクルをすべてサポートしていくことが大事です。
また,われわれは医療機器メーカーと一緒になって,医療機関などに対してソリューションを提供していますが,この4月に発表したsmall form factor(SFF)と呼ばれる省スペース型ワークステーションHP Z200 SFF Workstationは,ヘルスケア分野にも大きなチャンスをもたらすと思います。コンパクトながら高いパフォーマンスを発揮し,医療機関のベッドサイドや,読影室での読影業務など,検査画像をレビューする場面で活用していただけるでしょう。

医療機器メーカーの厳しい要求に応える製品を提供

●多くの医療機器メーカーがHPのワークステーションを採用していますが,その理由は何でしょうか。

ウッド氏:例えばGEヘルスケアの場合,シックスシグマという品質管理を行っていますが,競合他社のいずれもがその厳しい基準を満たすことができませんでした。また,長期間のサイクルで製品を提供し続けるということも競合他社にはできません。ワークステーションの製品サイクルは,医療機器のサイクルに比べて短く,インテルが新しいプロセッサを発表するサイクルは18か月です。ですからヘルスケア分野では,インテルのプロセッサの改訂版が出るサイクルよりもサポート年数を長くしなければいけません。競合他社はそのようなサポートをしないのですが,われわれは喜んでやらせていただいています。

●ヘルスケア分野は,ほかの産業に比べて製品に対するハードルが高いのでしょうか。

ウッド氏:そのとおりです。ヘルスケア分野では,長期にわたって質の良い製品を提供していくだけでなく,製品の認証プロセスが長いという大きな課題もあります。われわれは1年前にハイエンドモデルの「HP Z800 Workstation」を発表しましたが,ヘルスケア分野のあるお客様ではやっと導入が開始されました。

●医療機器メーカーからは高い評価を受けていますが,医療機関のエンドユーザーからはどのように評価されていますか。

ウッド氏:HPにとって,ヘルスケア分野は大きなビジネスであり,これまでもPCやモバイルデバイスを数多く採用していただきました。今後,フィルムレス化がさらに進み,加えて遠隔医療が広がっていけば,ワークステーションのパフォーマンスや品質が重視される場面がますます増えてくると思います。その中で,HP Z200 SFF Workstationのような製品は,エンドユーザーのニーズに十分応えることができると思っています。

HPにとって重要な日本市場でさらなるシェア拡大をめざす

●HPのワークステーション事業における日本市場の位置づけについてお聞かせください。

世界初の半導体技術を採用した探触子「Mappie」と日本超音波医学会(5月22日〜24日)での展示。「HI VISION Preirus」の本格的デビューの舞台となった。
設置スペースの限られた日本の医療機関に最適なHP Z200 SFF Workstation。PACSや電子カルテシステムの端末用としての需要も期待できる。

ウッド氏:アジア・太平洋地域の中で,日本市場は50%のボリュームを占めています。それだけにわれわれにとっては大きな取引先です。ですから,日本市場のニーズに応えるHP Z200 SFF Workstationを発表させていただきました。今後,日本市場においてもデスクトップワークステーションのカテゴリの中でナンバーワンをめざしていきます。それがアジア・太平洋地域での牽引力となって,成長につながると思います。同時に,新しいセグメントの顧客を獲得することにもつながると思います。これからは米国と比べても,日本をはじめとしたアジア・太平洋地域の市場が拡大していくでしょう。

●日本市場におけるワークステーション事業の実績はいかがでしょうか。

小島氏:国内市場はワールドワイドの動きと同じく,新製品が出るとともにシェアが伸びています。2000年代前半は競合他社のシェアが高かったのですが,現在ではHPが逆転しています。2009年は経済状況が悪かったことから,国内市場も縮小しましたが,その中でもSFFタイプの製品については,数字が落ち込みませんでした。今回,SFFタイプのワークステーションを出したことで,幅広くマーケットをカバーすることができます。また,2009年にはヘルスケア分野は大きく伸びたように,景気変動によって受ける影響は産業によって異なります。今後は製造業だけでなく,幅広い産業のポートフォリオを持つことで,より強い体質にしていきたいと思います。

●診療報酬で電子画像管理加算が設けられたことが,ヘルスケア分野の成長の要因になっていますか。

小島氏:一番大きな影響があったのはPCですが,ワークステーションもある程度波及効果があったと思います。ワークステーションはこれまで,三次元画像処理などを行うハイエンドのものが中心でしたが,PACSや電子カルテシステムの端末にも使われるようになってきています。

日本のニーズに応えて開発したHP Z200 SFF Workstation

HP Z200 SFF Workstationのプレゼンテーションを行うウッド氏。大型のワークステーションの筐体から,HP Z200 SFF Workstationを取り出すというパフォーマンスを行い,従来モデルの1/3のサイズであることをアピールした。
HP Z200 SFF Workstationのプレゼンテーションを行うウッド氏。大型のワークステーションの筐体から,HP Z200 SFF Workstationを取り出すというパフォーマンスを行い,従来モデルの1/3のサイズであることをアピールした。

●CTやMRIの高性能化に伴い,ワークステーションの性能への要求も高まってくると思いますが,どのようにお考えでしょうか。

ウッド氏:インテルの6コアのプロセッサが登場していますが,これを搭載したワークステーションを使えば,これまでCTやMRIの画像データを別室にあるサーバに集めてから画像処理を行ってきたものを,検査室のワークステーション上でレンダリング処理ができるようになります。さらに,データ収集と分析がローカル上のワークステーションで容易にできるようになり,より速く画像処理が行えるようになります。

●HP Z200 SFF Workstationは日本からの要望を取り入れて開発したとのことですが,苦労した点などありましたか。

ウッド氏:開発にあたっては,デスクトップのグループからヒントを得たり,シャシーにもデスクトップのデザインを用いたりしています。開発に際し,われわれが最優先で考えたことは,品質を保つということです。例えば,グラフィックスカードには,パフォーマンスの良いものを搭載することを重視したので,小さな筐体にマザーボードを収めることに苦労しました。高いパフォーマンスのグラフィックスカードはサイズが大きく,HP Z200 SFF Workstationのような省スペース型のデザインに収めることが難しいのですが,チップセットやGPUのベンダーであるATI(AMD)やNVIDIAとの協業により,妥協のない,何も犠牲にしないワークステーションをつくることができました。

HP Z200 SFF Workstation内部。小さな筐体に収まるようマザーボードの設計には苦労したという。
HP Z200 SFF Workstation内部。小さな筐体に収まるようマザーボードの設計には苦労したという。

ヘルスケア分野の使用環境に合わせて高い信頼性を実現

●ヘルスケア分野へ製品を供給するには,信頼性の高さが重要だと思いますが,どのような取り組みをしていますか。

ウッド氏:信頼性の高いワークステーションをつくることは,われわれにとって大きなチャンスでもありました。われわれはワークステーションにとって一番の課題となる高熱への対策として,ヒートチェンバーにワークステーションを入れて試験を行っています。また,ワークステーションをCTのキャビネットの中に設置したり,MRIと一緒に置くといった状況でも試験しています。さらには空気の流れのない密閉された状態や,振動させたり高いところから落下させたりして耐衝撃試験も行い,導入後も最高の品質を保ち続けられるように検証しています。これらの試験を行うにあたっては,パートナーを組む医療機器メーカーとともに,どのような試験を行うかを考えています。

小島氏:このような信頼性向上への取り組みに加え,日本では,土・日・祝日にも対応するワークステーション専用サポートセンターを設けています。また,ヘルスケア分野では,診療が行われている休日,祝日にサポートすることが必要と考え,今年の4月から新しく標準保証内で土・日・祝日の修理に対応でくるよう保証内容を改定しました。

東京生産や専任スタッフ配置など信頼性向上への取り組み

●信頼性に対する評価が高い理由の1つに「東京生産」が挙げられると思います。

小島氏:ワークステーションの東京生産を始める以前は,シンガポールで生産していたものを輸入していました。しかし,輸送が長距離になると初期不良が出たり,故障が発生する確率が高くなります。そのような観点から,日本国内での生産を行っています。日本の場合,道路の舗装状態も良いですから,輸送時に不良品が発生しにくいというメリットがあります。また,作業スタッフの技術が高いというのも,国内生産の良い点です。

●国内生産では,コストがかかるのではないですか。

小島氏:不良品の発生率が低いために,逆にコストを低く抑えることができています。場合によっては,海外から輸送してくるよりも低くなることもあります。

●信頼性について,医療機器メーカーからはどのような評価を得ていますか。

小島氏:ワークステーション事業では,営業,マーケティング,サポートそれぞれの職種で専任スタッフが担当しているので,そのことを知っている各メーカーさんには,安心感を持っていただいています。ただし,私たちのこうした体制がまだ知れ渡っていないので,より多くのメーカーに知ってもらうことが今後の課題だと思います。

●製品やサポート体制だけでなく,人材という点でも信頼性が評価されているのですね。

小島氏:そのとおりです。特にサポート,営業も,ユーザーのところで何かトラブルがあったときにすぐに対応できるという点が非常に高く評価されています。

信頼性が高く質の良い製品を長期間にわたり提供していく

●今後の製品開発や事業展開の方向性について,お聞かせください。

HPの主なワークステーションが記者発表会では展示された。幅広いラインナップにより,さらに日本でのシェア拡大をめざす。
HPの主なワークステーションが記者発表会では展示された。幅広いラインナップにより,さらに日本でのシェア拡大をめざす。

ウッド氏:HP Z200 SFF Workstationを発表したことで,われわれのワークステーションのポートフォリオがそろいました。ヘルスケア分野では,医療機器メーカーと協力して,画像処理などがより速く容易にできるようにしていきたいと考えています。そのためにもATIやNVIDIAとも協力して,コストを下げて製品を提供できるようにしていきたいと思います。

小島氏:日本のヘルスケア分野において,ハイエンドのカテゴリはHP製品の占有率が高いので,今後は電子カルテシステムなどのローエンドのカテゴリでシェアを伸ばしていきたいと思います。そのためには,電子カルテシステムベンダーとのアライアンスが必要になるので,その取り組みを強化していきたいです。

●日本の医療関係者に向けてメッセージをお願いします。

ウッド氏:HPは長年にわたりヘルスケア分野に投資をしてきました。それだけにわれわれはヘルスケア分野のことを熟知しています。ヘルスケア分野では,信頼性が高く質の良い製品を長期間にわたり提供していくことが重要であるということをわれわれはよく理解しています。そして,これまでもこの観点からワークステーションを提供してきました。そして新たに,HP Z200 SFF Workstationのような省スペース型の製品を出すことができたことで,さらに質の良い,高いパフォーマンスのソリューションを提供できると思っています。

◎略歴
ジェフ・ウッド 氏(Jeff Wood)
コロラド州立大学でコンピュータサイエンス学士と数学を専攻。1989年HP入社。IC製造ソフトウエア開発・システム管理チームのマネージャー。92年にワークステーショングラフィックスソフトウエア研究所とワークステーショングラフィックスマーケティング担当。99年ワークステーションマーケティングマネージャー。現在,ワークステーション事業所のワールドワイドマーケティング取締役とHPパーソナルシステムグループのワールドワイドマーケティング会議のメンバー。

小島  順 氏(こじま じゅん)
1981年慶応大学工学部機械工学科卒業。同年三菱自動車工業株式会社入社。89年に横河ヒューレット・パッカード株式会社に入社し,99年よりワークステーション製品マーケティングを担当。2006年より現職
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(2010年4月7日(水)取材:文責inNavi.NET)
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