インナビネット特集 インタビュー
加藤 久豊 氏 社団法人日本画像医療システム工業会会長

インナビ・インタビューの2011年最初のゲストは,社団法人 日本画像医療システム工業会(JIRA)の加藤久豊会長。2009年7月の会長就任以来,民主党への政権交代や医療 IT の進展といった時代の変化に対応すべく,JIRA産業戦略室の創設などの組織改革を進め,新たな施策に取り組んでいます。その加藤会長に,画像医療システムの市場動向や診療報酬,薬事法などの課題,今後のJIRAの活動について,インタビューしました。


● 医療機器産業における現在の市場動向についてお聞かせください。

  JIRAでは,会員の協力を得てJIRA市場統計を行っていますが,2006年から3年,国内外の市場は縮小傾向にありました。しかし,2010年の年明けぐらいから徐々に好転してきており,2009年度は調査開始以来初めて,対前年度比でプラスになりました。さらに,2010年度の上半期は,対前年比で113%の伸びを見せています。CT,MRI,X線撮影装置,PACS関連などがいずれも,10%近い伸びを示しています。
  しかしながら,内訳を見てみると,輸出が伸び悩んでいます。これは,円高と先進国が不況から立ち直っていないこと,米国でオバマ政権の医療保険改革による先行きの不透明さから,医療機関でモダリティの買い控えが起きていることなどが影響していると考えられます。一方で,中国などの開発途上国は活性化していますが,まだ市場規模はそれほど大きくありません。このように,輸出が伸びず生産も低下していく状況を国内市場でカバーしているのが現状です。国内市場は,診療報酬がプラス改定となったことが,医療機関の設備投資につながったのだと思いますが,心理的なものだと一過性となることも考えられるので,今後については警戒感を持っています。
  このような状況だけに,市場を活性化するためには努力していかなくてはいけません。そのためには,画像医療IT関連製品を成長軌道に乗せていくこと,そして,国内だけでなく,海外市場を伸ばしていくことが重要だと考えています。

● 海外市場のウエイトが高くなっていると思いますが,これからの見通しはいかがでしょうか。また,日本市場はどうなっていくとお考えですか。

  海外市場は,今後も厳しい状況が続くと考えています。その理由としては,円高や先進国における医療費の高騰が挙げられます。そこで,各メーカーのねらいは開発途上国となりますが,その中でも中国のウエイトが大きいと思います。JIRAでは,会員会社の海外進出のために,国際部会を中心に活発な活動を行っています。例えば,中国市場に対しては,中国衛生部が主催するCHINA-HOSPEQ(中国国際医用機器設備展覧会)に出展したり,今年は,私がその中で行われた「Beijing Medical Imaging Development Forum」で講演をするなどして,中国との距離を縮め,会員会社が進出しやすいような基盤づくりに取り組んでいます。
  また,日本市場については,JIRAとしては,“2けた成長”ができるよう取り組んでいかなければいけないと考えています。しかし,何もしないで2けた成長を実現することは難しく,JIRAとしていろいろと活動していくことが必要です。行政への提言なども行いながら,2けた成長のための施策を展開していきたいと思います。

● 診療報酬改定の影響については,どのように分析していますか。

  2010年度の改定は10年ぶりのプラス改定となりましたが,その中でも,JIRAとしては「デジタルエックス線撮影料」が新設されたことを高く評価しています。医療におけるデジタル化の流れの中で,アナログ撮影と区別して,加算ではなく,基礎点数としてデジタル技術が評価されたことは,これからのX線撮影の技術進歩を考えると,非常に重要なことだと受け止めています。
  一方で,CT,MRI などの断層撮影料は,性能別に階層化が行われていて,2010年度改定でも,高性能な装置の場合は点数が引き上げられ,低い性能の装置では引き下げられています。新たに開発された装置に高い点数がつけられることは良いことだと思いますが,性能が低いからといって点数が下げられてしまうのは違和感があります。同じ検査で同じ結果が出るのに,シングルスライスCTとマルチスライスCT(2列以上〜16列未満,16列以上〜)の違いだけで点数に開きが出てしまうということがあっては,患者さんの視点で見ても,そして,装置の有効活用の観点からも,問題があると思います。
  また,2010年度改定では,「医療機器安全管理料」が1と2ともに増点されており,安全管理に対する評価が医療法や薬事法と整合がとれてきたという点で,評価しています。しかし,画像医療システムに関しては,まだ課題が残されています。JIRAでは毎年,「画像医療システム等の導入状況と安全確保状況に関する調査」を行っていますが,買い替え年数が長くなっているという結果が出ています(図1)。それにもかかわらず,保守点検実施率は決して十分なレベルにはありません(図2)。大型の装置の買い替え年数が延び,10年以上使用される状況で,保守点検はますます重要になってきています。今後は,この課題について,診療報酬でどのように対応するのか,議論していかなければいけないと考えています。
  このほか,放射線治療に対しても,多くの加算がついたことを評価しています。私たちは日本放射線腫瘍学会(JASTRO)などと連携して,ワーキンググループを設けて,放射線治療について行政へ提言してきましたが,それが効果を上げたのだと思います。それだけに私たちとしても,今後もこの分野に力を入れていく必要があります。

図1 主要機器の平均買い替え年数
図1 主要機器の平均買い替え年数
出展:JIRA「画像診断機器関連産業 2010」(2010)
図2 主要機器の平均保守点検実施率 出展:JIRA「画像診断機器関連産業 2010」(2010)
図2 主要機器の平均保守点検実施率
出展:JIRA「画像診断機器関連産業 2010」(2010)

● 2012年度の診療報酬改定に向けたJIRAの取り組みについてお聞かせください。

加藤 久豊 氏 社団法人日本画像医療システム工業会会長   診療報酬については,適正な評価と予見性のある評価を求めています。予見性というのは,例えば,ある技術に対してどれくらいのリターンがあるかを明確にするということです。企業は長い年月をかけて投資し,開発を行います。ですから,たまたま良い装置ができたから点数を高くするといった場当たり的な決め方では困ります。これについては,厚生労働省との定期会合の場で,診療報酬における評価の枠組みとして,安全,精度,運用の3点を保証する画像医療システムを評価するようにしてほしいと要望しています。
  また,2012年度の診療報酬改定に向けては,2010年10月に行った厚生労働省との会合の中で,次の3点について,対応を求めています。
  1つ目は,保守・維持管理コストの明確化・明文化,「医療機器安全管理料1」の拡大です。現状,医療機器の保守・維持管理コストが診療報酬上どこにも明記されていないので,それを明記することが重要だと私たちは考えています。医療機器の保守点検が十分に行われていないのは,診療報酬上でそれが明記されていないために,意識が低くなってしまっているのだと思われます。また,現在の「医療機器安全管理料1」は,ME機器が対象となっていて,画像診断関連の機器は含まれていません。そこで,MRIや造影剤注入装置など6種類の機器については,「医療機器安全管理料1」が算定できるよう,適用の拡大を提言してます。
  2つ目は,精度保証のためのデジタル撮影・検像技術の評価です。現状,医療機関では診療放射線技師を中心に画像の精度管理を行っています。私たちはそれを評価をするための「画像精度管理料」を提言しています。デジタル撮影においては,きちんとした撮影条件の設定や撮影後に3D画像処理を行うことで,診断に有用な情報を提供できます。また,フィルムレス化によるデジタルデータの管理も重要になってきています。これらの業務を基礎点数として評価してほしいと考えています。これは,現在の複雑な診療報酬体系をよりわかりやすくするという意味でも,フィルム診断でもモニタ診断でも患者さんの費用負担に差がないようにするという視点から見ても,重要だと考えています。
  3つ目は,現在のCT,MRIの撮影のように,装置の性能だけで評価するのではなく,診断の目的に対しても評価をするような,運用保証をしてほしいということです。以前は,部位別に点数が設けられていましたが,2008年の改定で性能別に点数が分けられました。しかし,これは先ほど述べたとおり実態にそぐわない不自然なものです。撮影や診断における医師や診療放射線技師の技術を踏まえて,基礎点数と加算を組み合わせた評価体系にしてほしいと主張しています。

● 「画像精度管理料」における検像については,どのようなものが含まれるのでしょうか。

  検像については,診療放射線技師がどのような作業を行っているかということを,日本放射線技術学会や日本放射線技師会などと協力して分析しています。撮影前の条件設定や撮影した画像のチェック,ポスト処理などの業務,データの運用管理など,多くの場合は診療放射線技師が行っていますが,これらをまとめて画像精度管理として定義付けしてほしいというのがわれわれの主張です。
  そうすることにより,チーム医療において,診療放射線技師の力が発揮でき,医師の負担を減らすことにもつながると考えています。と同時に,メーカーとしては,画像精度管理に関するソフトウエアや機器のパフォーマンスの強化に取り組むことができます。これは,われわれの求めている予見性のある診療報酬にもつながると言えます。

● 国際競争力をつけるという意味でも,医療機器の産業を発展させていくという観点からも,薬事承認の迅速化が課題となっていますが,これについてはどのようにお考えですか。

  審査の迅速化については,厚生労働省と医薬品医療機器総合機構(PMDA)でアクションプログラムに基づいて,審査員を増員するなどして取り組んでいますが,まだ大きな効果は出ていません。アクションプログラムのレビュー部会があり,私も参加していますが,産業界からは厳しい意見が多く出ています。JIRA会員会社が取り扱う品目の多くは,改正薬事法でクラスII の管理医療機器に分類され,今後,第三者認証での製造販売認証となる予定です。現在,その認証基準の作成に私たちも取り組んでいますが,これにより大幅に迅速化するものと期待しています。

● 薬事に関しては従来から,ソフトウエアの単独医療機器化も課題になっていますが,この見通しをお聞かせください。

  JIRAでは,2009年に「JIRA将来構想プロジェクト」を立ち上げ,「画像医療システム産業の新ダイナミズムの形成」に向けて議論をしてきましたが,その中で,画像医療ITの及ぼす影響の大きさ,3Dワークステーション,PACS,CADなどのソフトウエアが生む価値を改めて認識しました。こうしたソフトウエアは実際に市場が拡大しており,JIRAでも,178社(2010年12月9日時点)の会員会社のうち,約半数が何らかの形で IT を取り扱っています。こうした中,JIRAでは,重点項目として画像医療ITの成長促進を図っています。
  一方で,現在の薬事法において,画像診断のための医療用アプリケーションソフトウエアは,ハードウエアを組み合わせたものだけが医療機器とされています。そこで,以前から私たちは画像診断のためのソフトウエアを単独で医療機器と認めるべきだと要望してきました。海外においても,米国,欧州,カナダ,豪州,中国,韓国では,ソフトウエア単体で医療機器と認めています。しかし,日本だけが薬事法上,ハードウエアと組み合わせたものだけを医療機器としており,問題が生じる可能性があります。例えば,薬事法の適用外として,ソフトウエアを単独で販売することもできてしまいますが,そのソフトウエアが原因で事故が起きた場合,ユーザーをトレースすることができないといったことが起こりうるのです。薬事法で医療機器と認められれば,製造販売業者への責任が明確になり,事故があってもフォローすることができます。また,IT環境の急速な変化についても対応できないという事態も懸念されます。
  JIRAでは,厚生労働省への要望を行ってきたほか,2008年度から厚生労働科学研究に協力して,ソフトウエアの単独医療機器化について,欧米の状況やそのあり方を考察し,ソフトウエアを医療機器と認めるべきとの報告がまとめられました。そして,2010年度には厚生労働省の定期会合で改めて要望し,行政も交えて,日本医療機器産業連合会(医機連)の中にワーキンググループを設けて,より具体的な検討を開始しています。

● 画像医療ITを強化するねらいはどこにあるのでしょうか。

  先に述べたとおり,画像診断においてソフトウエアなどの画像医療IT は重要な役割を果たしており,今後はその分野への取り組みを強化していかないと画像診断機器関連産業は発展しないと思います。特にJIRA会員会社の画像医療システムは,技術力,国際競争力があります。そこにソフトウエアを組み込んでいけばもっと良くなります。日本の画像処理ソフトウエアは,非常に優れています。これをもっと促進していかなくてはいけません。ですから,ソフトウエアの単独医療機器化は,ソフトウエアの開発を促進するためのとっかかりにもなります。
  今求められているのは,国として画像医療IT にしっかり取り組んでいくことだと思います。そうしなければ,せっかくの技術力,国際競争力がダメになってしまいます。医療機器メーカーの多くはグローバルカンパニーであり,世界中を視野に入れて事業を展開しています。その中で,日本だけソフトウエアの単独医療機器化ができていなければ,世界との整合性がとれず,日本企業の技術開発にも影響するだけでなく,海外企業が日本を避けるようになってしまいます。そういう視点に立って,ソフトウエアの単独医療機器化に取り組み,画像医療IT分野を伸ばしていかなくてはいけません。
  2010年6月に政府が「新成長戦略」をとりまとめましたが,この中では,医療を産業として育成するとしています。私は,これを非常に良いことだと思っています。これによって,医療が進歩し,国民が質の高い医療を受けられるようになるとともに,技術力,国際競争力を強化することで,輸出によって外貨を稼ぐこともできます。その観点からJIRAの会員会社に対して,産業育成につながるよう,国からいろいろとサポートしてもらえるような流れをつくることが大切です。今までも,行政には一生懸命取り組んでいただいていますが,医療を日本の成長産業にするということなので,今後とも私たちと一緒に進んでいただきたいと思います。

● JIRA会長に就任以降,組織改革にも取り組んでいますが,これまでの成果はいかがでしょうか。また,2011年の活動はどのようにお考えですか。

  JIRA産業戦略室を設置して半年が過ぎましたが,2010年12月には会員会社向けに「産業戦略室活動報告(第一報)─画像医療IT ビジョン─」をまとめました。これは画像医療 IT についてのJIRAの戦略マップや,会員会社に対して行った意識調査の結果を報告しています。
  また,2011年1月12日(水)には年頭所感を発表しましたが,2011年は,「JIRA将来構想プロジェクト」の成果を基に,2010年の通常総会で承認された新体制で,しっかり活動していきたいと考えています。画像医療 IT を画像医療システムの中に取り込んで,いかに成長させていくかが今後のカギになります。そのためにも提言力を持って,意思決定を迅速化し,ガバナンスの強化にも取り組みます。

● JIRA会員会社に向けて,メッセージをお願いします。

  178の会員会社が望んでいることを実現するためには,一丸となって力を合わせていかなければなりません。ですから,会員会社の皆さんには意見を出していただき,さらに各委員会や部会の活動に積極的に参加してほしいと思います。それによって,JIRAの活性化も図っていきたいと考えています。

(2010年12月27日(月)取材:文責inNavi.NET)

◎略歴
1969年3月 東京大学大学院 工学系研究科修士課程を卒業。同年4月 富士写真フイルム株式会社に入社。1975年10月 技術開発陣の7名(通称“7人の侍”)の一人として,New Diagnostic X-ray System(NDX=現在のFCR)のプロジェクトに参加,この成果として,世界初の医用画像のデジタル化を実現した。
その後,一貫して製品開発部門を担当し,宮台技術開発センター所長(取締役 常務執行役員),R&D統括事業本部新規事業開発本部長を歴任。
2005年,富士フイルムメディカル株式会社社長に就任し,一般用/マンモ用FCRをはじめ,マンモ用CADシステム,一般用/マンモ用FPDシステム,医用画像情報システム(=PACS)などの日本国内販売を陣頭指揮した。
2009年7月に,富士フイルムメディカル株式会社の会長に就任するとともに,日本画像医療システム工業会(Japan Industries Association of Radiological Systems=JIRA)の会長に就任し,178社の会員企業をリードしている。同時に,日本医療機器産業連合会(The Japan Federation of Medical Devices Associations=JFMDA)副会長にも就任し,大局から医療機器業界を展望して,現在に至る。

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