inNavi IT最前線リポート
埼玉医科大学病院健康管理センター 埼玉医科大学病院健康管理センター
埼玉県入間郡毛呂山町毛呂本郷38
丸木記念館3F
TEL 049-276-1550
http://www.saitama-med.ac.jp/hospital/

健診における読影効率を向上するためのPACSの構築
- フィルムレスと当日判定を実現し,診断精度の向上にも成果

1997年に開設した埼玉医科大学病院健康管理センターは, フィルムレスと検査当日の判定を目的に 当初から健診システムと健診PACSを稼働させてきた。 2007年には,システムの老朽化に伴い更新を実施。 両システム間の連携強化と読影環境の整備を行い, 診断精度と読影効率の向上に加え, 受診者の理解度を深めるために面接時にも有効活用している。

(インナービジョン2008年2月号 別冊付録 ITvision No.15より転載)

●高いレベルでの健診事業を行うために1997年に健康管理センターを開設

 埼玉県西部の地域医療の中核を担う埼玉医科大学病院は,1972年に開院。以後,神経精神科センター,心臓病センターを開設し,1994年には特定機能病院の認可を受け,地域住民に高度先進医療を提供してきた。その同院が1997年に開設したのが健診部門となる健康管理センターである。同センターは,大学病院の施設という位置づけを生かした健診事業を行っており,地域住民からの信頼も厚い。センター長である河津捷二教授は,同センターの特色を次のように説明する。

 「大学病院の専門医と連携しながら,高いレベルでの健診を行っているのが大きな特長の1つである。また,優れた技術を持ったスタッフによる高性能の検査機器を用いた検査が行われているという点も,私たちの施設の良い点である。一方で,施設は大学病院の敷地内にあるものの独立した建物になっており,静かで落ち着いた環境の中で検査を受けられることは,受診者の方々にとっても大変良いと思う」

 このような特色を持つ同センターでは,日帰りドック,1泊ドック,政府管掌健康保険の生活習慣病健診,労働安全衛生法関連の健診に加え,埼玉医科大学とその関連施設の職員,学生などを対象にした健診も行っている。2006年度の同センターでの健診受診者は,日帰りドックが4328人,1泊ドックが187人,政府管掌健康保険の生活習慣病健診が1070人,労働安全衛生法関連のものが434人,大学・関連施設の職員・学生が4387人となっている。また,オプション検査としては,頭部CT,胸腹部CT,乳腺超音波,マンモグラフィなどがあり,2007年7月からは1泊ドックにPET/CTが新たに加えられた。

 日帰りドックの場合,検査は午前中にすべてが終了し,午後には面接が行われるようになっている。面接の際には,すでに胸部X線,胃部X線のほか,オプションのCT検査を受けた場合もすべて読影が完了しており,検査当日の判定を実現している。  こうした検査から判定までの速やかな流れを実現するために,同センターでは,東芝メディカルシステムズの東芝総合健診システムMHC/e-αと医用画像管理システムRapideyeと連携した健診PACSを導入。ITを活用した健診の効率化に取り組んでいる。

  河津捷二教授
河津捷二教授。
健診システムと健診PACSについて,過去の健診データを比較しながら面接ができる点を高く評価している。今後は,医師が操作しやすく,受診者にとってもわかりやすいユーザーインターフェイスの開発が望まれると指摘している。

●フィルムレスと当日判定を目的にセンター開設とともにPACSを導入

 健康管理センターでは,開設時から健診システムとPACSを運用している。足立雅樹准教授は,「計画段階から,フィルムレス運用,検査当日の判定が可能な日帰りドック体制の構築を目標にしていた」と述べている。この目標に基づいて,開設の2年ほど前からセンター内に導入するシステムの検討を始めた。

 採用するシステムの選定に当たっては,個別の部門システムを連携させるマルチベンダー方式ではなく,1社単独で全体を構築できることをまず優先させたという。これについて,足立准教授は,「システムにトラブルが発生した際,マルチベンダー方式だと,その原因が特定できなければ,サポートに連絡しても対応してもらえないことが考えられる。また,当時はDICOM規格への対応も今ほど進んでいなかった。こうしたことから,電話1本ですぐにサポートを受けられるようにすることを最も重視した」と述べている。

 こうした条件に基づいて検討を進めていったが,サポート体制の充実という点で,国内メーカーを中心に選考が行われ,最終的には,東芝メディカルシステムズの健診システムと健診PACSの導入が決定した。足立准教授は,選定の理由を次のように説明する。

 「同社のシステムは規模の大きな施設でも対応可能なシステムであり,総合モダリティメーカーであるという点も評価し,CT,DR,USなどのモダリティをシステムに接続することもスムーズに行えると判断した。また,こちらの要望に可能なかぎり対応する姿勢も良かったと思う。システム構築に際しては,専任の係をつけてもらい,幾度も話し合いを持って開発に当たってもらった」

 開設と同時に稼働し始めた健診PACSにより,同センターではフィルムレス運用と検査当日の判定という目標を実現することができた。足立准教授は,システム導入の評価として,「10年も前から面接時にモニタで画像を見せて説明を行っていたというのは,非常に画期的なシステムだと言える。受診者も非常に満足していたと思う」と当時を振り返る。

 また,北村勉課長は,「検査画像だけでなく,例えば過去3年分の健診データの数値をグラフ化して受診者に説明するといったことができ,視覚に訴えるわかりやすい説明ができていた。受診者に行ったアンケートでもその点については良い回答を得られていた」と述べている。

 こうして10年近くにわたり運用されてきた健診PACSであるが,老朽化が進んだことから,2005年ごろから健診システムとともに本格的に更新の検討を始めた。システム構築にかかわった有田信和検査技師は,「電子カルテシステムを手がけるメーカーも含め数社が候補となったが,過去の検査画像データをコンバートするコストなどを考慮し,再び東芝メディカルシステムズのシステムの採用が決まった。更新に当たっては,さまざまな改良点や面接画面の色,文字サイズを大きくするなどのセンター側から出された要望にも柔軟に対応してもらった」と説明している。

北村勉課長   有田信和検査技師
北村勉課長。
健診システムと健診PACSの更新により,旧システムで行っていた受診者の名前や検査データなどの入力作業が大幅に省力化され,それにより,ミスが発生する可能性も低くなったと説明する。
有田信和検査技師(システム担当)。
東芝メディカルシステムズのサポートについては,システムの改善点などの要望に対し随時対応する体制になっている点や,施設の運用に合ったシステムになるよう個別に対応する点を評価する。

 

  足立雅樹准教授
足立雅樹准教授。
健診の検査はスクリーニングが目的だけに,面接をする医師が受診者に説明しやすいよう,的確かつ簡略化した読影所見を提供することが求められる。健診PACSの読影支援サブシステムは,選択方式で端的に所見を作成できるという。


清水正雄助教
清水正雄助教。
フィルムレス,ペーパーレスをめざして導入した健診システムと健診PACSが,今回の更新でより進化したと述べている。さらにペーパーレス,フィルムレス環境を推進することをこれからの課題として挙げている。

●CT,DR,CRだけでなく超音波,内視鏡の画像も一元管理

 2007年2月に更新された健診PACSは,同じく更新されたMHC/e-αと連携し,従来以上に効率的な健診を実現するシステムである。検査画像データが健診データと連動することで,検査から読影,面接までの一連の流れが円滑になり,受診者のサービスの向上にもつながるというメリットを持つ。また,検査,読影,面接ごとに支援サブシステムが用意されているのも健診PACSの特長である。

 検査支援サブシステムは,検査装置と受診者のID情報を検査装置側に送信し,前回の所見や画像,今回の問診内容などを確認しながら検査を行うことができる。読影支援サブシステムは,過去画像と比較しながら読影でき,所見の入力もスピーディに行うことができるようになっている。面接支援サブシステムは,検査画像やグラフをモニタ上に表示するもので,受診者に対しわかりやすく,効果的な説明を行うことができる。

 健康管理センターでは,これらのうち読影と面接のサブシステムを活用して健診業務に取り組んでいる。

 日帰りドックの場合,次のような流れになっている。まず,8時から受け付けが開始されるが,受診者は事前に送付されてきた問診カードを提出する。そのデータは,MHC/e-αにすぐに取り込まれる。受け付け後,看護師に受診カードと問診データの出力紙が入ったバインダーが渡され,このバインダーが検査時に担当者に届けられる。検査の際には,カードリーダで受診カードが読み取られ,ID情報が確認される。検査画像は,このIDに基づいて管理されており,撮影が終わると読影室にある読影支援サブシステムでは,読影対象者一覧表にあるCTなどのモダリティの項目が空欄から「○」に変わるなど,読影対象画像が一目でわかるようになっており,これを基に読影が行われる。1日の読影件数は200件以上で, 2名の読影医がダブルチェックで判定する。開始時間の早かった受診者は10時ごろにはすべての検査が終了し,10時30分ごろから面接が行われる。面接では,内科医が検査画像やグラフなどを受診者に見せながら説明し,それがすむと終了となる。

 現在,PACSに保存されている画像は,CT(頭部,胸腹部),DR(上部消化管),CR(胸部)のほか,超音波装置と内視鏡もDICOMゲートウェイを介してPACSサーバに保存され,一元的に管理されている。また,超音波検査とDRの透視画像はビデオ撮影も行っており,読影医はPACSに保存された静止画と併せて参照し判定する。なお,マンモグラフィと眼底カメラ,心電図については,現時点ではPACSでの運用にはなっていない。

超音波検査室 上部消化管X線検査室
上部消化管X線検査室
ビデオ装置
ビデオ装置。動画データをPACSで扱う運用にはなっていないが,読影室の読影支援サブシステムの隣りでビデオ再生できるようになっている。
超音波検査室。検査支援サブシステムがないものの画像参照用のノートパソコンで過去画像が参照できる。    
  受付
健康管理センターの受付。日帰りドックの場合,13時30分までには面接を終えることができる。


IDカードとバインダー
健康管理センターの受付で受診者に手渡されるIDカードとバインダー


カードリーダ
検査時にIDカードをカードリーダで読み込むことで,検査画像やデータがIDで紐づけされる

●診断精度と読影効率が向上し受診者の理解度も深まる

 システム更新から1年近くが経とうとしている健康管理センターの健診PACSであるが,診断精度などの面で効果が上がっているという。

 読影を行う清水正雄助教は,「以前のシステムでは,ダブルチェックの状況や判定の変更を画面上では確認できなかったが,それが可能になり,見落としなどのリスクが軽減されている。また,以前は,受診者の既往歴や現病歴などの簡単な情報しか得られなかったが,より詳しい情報を得ることが可能になった。健診システムとの連携が強化され,加えて,胸部X線と胸腹部CTの画像をモニタ上で並べて表示させるといったこともスムーズにできるようになり,読影をする上で非常に役立っている」と述べている。

 一方,読影効率という観点からも,システム更新によるメリットは大きいと,足立准教授は説明する。

 「これまでは,読影端末2台にランダムに画像が転送されてくるため,2名の医師が読影と判定入力を交互に行うという運用だったので,ダブルチェックに非常に時間がかかっていた。システム更新によって,各読影端末から画像サーバへ画像を取り,にいくので同時進行が可能になりダブルチェックが速やかに行えるようになった。また,同一受診者のほかの画像も対比してチェック可能のため,より効果的な手法となった。読影支援サブシステムの読影対象一覧表を見て状況を確認しながら読影できるので,最終チェックまでの流れがスムーズになっている」

 システム更新によって,受診者のメリットも大きい。今回の更新では,面接室のモニタを2面に変更したが,これにより片方に検査の数値データやグラフなどを表示し,もう一方のモニタには検査画像を展開して,説明を行えるようにした。清水助教は,「説得力のある説明ができるようになり,受診者の理解度も増している」と評価している。

  読影室
読影室。読影支援サブシステムの読影対象者一覧表を基にダブルチェック体制で読影を行う。読影用モニタは3Mが2面。健康管理センターでは,診療放射線技師が検査後に画像をチェックした上で読影に回るようになっており,面接まで含めると四重のチェック体制をとっている。

読影支援サブシステムの所見入力画面
読影支援サブシステムの所見入力画面

●操作性などを見直しシステムの機能強化を図る

 開設時から健診PACSを導入し,システム更新によってさらなる健診の効率化を図った健康管理センターであるが,今後は操作性やユーザーインターフェイスなども含めて見直しながら,機能を強化していくことにしている。足立准教授は,当面の課題としては,「マンモグラフィの画像をPACSで扱えるようにすることだ」と指摘している。また,有田検査技師は,「検査支援サブシステムを導入し,より検査の効率化を図ることが重要である」と述べている。

 2008年4月から生活習慣病予防を目的とした保険者による特定健診・保健指導が義務化されることで,今後健診データのマネジメントが健診施設にとっても重要となってくる。同センターとしても,健診システムや健診PACSを有効に活用した,受診者の健康につながるような仕組みづくりに取り組んでいくことにしている。

  面談室
面談室。21インチのカラー液晶モニタを2面設置。画像と検査データのグラフを同時表示するなど,わかりやすい説明が行えるようになっている。

画像表示画面
面接支援サブシステムでの画像表示画面。

●埼玉医科大学病院健康管理センターの健診PACSシステム構成図

埼玉医科大学病院健康管理センターの健診PACSシステム構成図
【画像をクリックすると拡大表示します】

〈問い合わせ先〉
東芝メディカルシステムズ株式会社
TEL 03-5783-1611
http://www.toshiba-medical.co.jp

導入事例トップへ インナビネット トップへ