inNavi IT最前線リポート
青梅市立総合病院 大阪市立大学医学部附属病院
青梅市立総合病院
東京都青梅市東青梅4-16-5
TEL 0428-22-3191
http://www.mghp.ome.tokyo.jp/

将来のリプレースや地域連携を見据えIHE実装システムを導入
仕様書作成の簡略化や導入作業の負担軽減にもメリット

青梅市立総合病院は,2009年2月,院内の情報共有を目的に電子カルテシステムとPACSを導入し,フィルムレス運用へと移行した。
導入システムは,カスタマイズすることなくマルチベンダーで連携でき,将来にわたって安定して稼働できる点などを評価してIHEを実装した製品を採用した。これにより,スムーズなシステム連携を実現。また,IHEの統合プロファイルの各機能により,さまざまな場面でIT化のメリットを享受できている。

(インナービジョン2010年2月号 別冊付録 ITvision No20より転載)

●院内の情報共有促進のため電子カルテとPACS導入を決定

 1957年に開院した青梅市立総合病院は,病床数562床を有する地域の中核病院である。同院のある西多摩医療圏には,療養型病床や福祉施設が多いのに対して,急性期病院が少ない。そのため同院は,全診療科に専門医を配置したり,先進医療機器を設置するなどして急性期および高度医療の提供に努めている。また,地域の中核病院の責務として,地域連携にも取り組んでいる。西多摩地域全域の診療所と病診連携を行っており,そのうち85の診療所の医師は同院の登録医となっている。
 同院では,2002年からオーダリングシステムが稼働し,2004年には,CTとMRI画像を保存するPACSを導入。そして2006年に,次のステップとして電子カルテシステムとフィルムレス運用を前提としたPACSの導入を決定した。その理由を原義人病院長は次のように説明する。
 「一番のねらいは情報の共有化だった。チーム医療の必要性が高まる中,さまざまな場所にいる職員が,迅速に患者さんのカルテや画像の情報を共有することは,紙カルテやフィルムの運用では不可能だろう」

  原義人病院長
原義人病院長。
地域の医療機関と患者さんの情報を共有するためには,標準化されたシステムが必要だと述べている。そのためには,国やベンダーがさらに積極的に標準化に取り組んでいくように期待していると話す。

●コネクタソンの結果などを参考に採用ベンダーの候補を選択

 電子カルテシステムおよびPACSを導入することが決まると,システム導入に向けた検討を行う委員会として,2007年6月,院内の各職種からなる電算システム委員会が立ち上げられた。さらに,同委員会を5つに分け画像部会も組織し,委員会,部会をそれぞれ月1回程度開催して,稼働に向けた準備が進められた。
  システム選定では,放射線科の石北正則主任が,IHEの実装を希望した。IHEとは,医療情報の相互接続性を推進するプロジェクトであり,医療情報システムの標準規格の使い方である「ガイドライン」を定めている。このガイドラインを利用することで,細かな設定やカスタマイズを行わずにマルチベンダーでのシステム構築が可能となるため,低コストでシステムのリプレースが可能で,将来性や経済性に優れている。「以前,埼玉医科大学総合医療センターで,IHEを採用したシステムを見学して,非常に利便性に優れた仕組みであることから,ぜひ当院でも取り入れたいと考えていた」と,石北主任は振り返る。しかし,院内でIHEを知る職員がほとんどいなかったため,電算システム委員会や画像部会で資料を配るなどして,IHEの周知に努めたという。
  大島永久副院長は,「はじめはIHEについてほとんど知らなかったが,資料に目を通して,標準化されたシステムを導入することで,例えば,将来別のベンダーに乗り換えたとしても安定して稼働するメリットがあると思った」と話す。また,放射線科の梅村潔科長は,「医療情報システムの専門家がいなくても良いシステムが容易に導入できること,マルチベンダーによるシステム構築が問題なく行えることや仕様書作成の簡便化など,IHEの導入によりさまざまなメリットが期待できること,将来ITを活用した地域連携が必要となった場合にも標準化されたシステムであれば安心であること,などを評価した」と述べている。こうして,同院では,IHEを実装したシステムを導入する方針が決まった。
  電子カルテシステムとPACSのベンダーの選定は,2007年9月から開始した。ベンダー選定ではまず仕様書の作成が必要となるが,IHEでは,多くの医療機関で利用できる共通の業務フローモデルが統合プロファイルとして示されているため,仕様書に統合プロファイル名を記載するだけで,希望する仕様を容易に伝えることができる。そのため,仕様書作成の手間を軽減することが可能である。ベンダーについては,コネクタソンの結果表などから,IHEを採用している数社を選択し,資料やベンダーからの説明を参考にして絞り込みを行った。また,PACSについては,システムのデモンストレーションを行い,各診療科の医師にアンケートをとった結果も選定に反映した。こうした経緯を経て,2008年5月,富士通の電子カルテシステムHOPE/EGMAIN-GXと横河電機の画像情報統合システム(PACS)ShadeQuestの導入が決まった。また合わせて,横河電機の放射線部門業務システム(RIS)RadiQuest/RIS,所見レポート作成システムShadeQuest/Report,診療情報統合システムCuoreQuest/NEXTASを採用した。

梅村潔放射線科科長
梅村潔放射線科科長。
各科の医師に高精細モニタや汎用モニタの画質を確認してもらい,その科に必要なモニタを設置したことが,多くの医師からフィルムレス環境に対して良い評価を得ている理由だろうと述べている。
  石北正則放射線科主任
石北正則放射線科主任。
IHEの採用には,システム導入の最終決定権を持つ院長などの理解が必要であり,そのためには,IHEに詳しい放射線科医や診療放射線技師が中心となってメリットを周知するよう働きかける必要があると話す。

 

 

大島永久副院長
大島永久副院長。
フィルムレス運用のメリットについて,情報の共有が容易になったことはもちろん,フィルムを探したり搬送する作業が不要となり,必要な情報が即座に得られるようになったことを挙げる。

佐藤史郎放射線科部長
佐藤史郎放射線科部長。
現在は,例えば,電子カルテシステムとPACSそれぞれにIDを入力しなければならないなどの問題があるが,今後EUAとPSAが実装されれば,さらに読影環境が良くなると期待している。

 


●円滑なシステム構築にはIHEに精通したSEの存在がカギ

 システムの構築作業は,2008年9月から開始された。同院が採用した統合プロファイルは,(1) 患者情報の登録から画像表示やレポート作成まで,画像診断部門の一般的なワークフローを示したSWF(Scheduled Workflow),(2) 患者情報の修正法を定めたPIR(Patient Information Reconciliation),(3) モノクロ画像の表現と表現状態情報の一貫性を確保するCPI(Consistent Presentation of Images),(4) 可搬型媒体によるデータ交換を規定したPDI(Portable Data for Imaging),(5) ローカル・タイムとタイム・サーバが保守する時間とを同期させるCT(Consistent Time)で,(5) 読影レポートに関係する業務の流れを記述したRWF(Reporting Workflow)も一部実装した。システムの構築作業は,統合プロファイルに沿ってベンダー主導で進められたため,マルチベンダー接続であっても病院側でベンダー間の調整作業はほとんどなかったという。そのため,スムーズな導入作業を行うためには,IHEに精通したSEの存在がカギとなると石北主任は話している。
  一方で,電子カルテシステムで使用する富士通独自のマスターコードと放射線部門でIHEが使用するJJ1017コードの2種類のコードを作成しなければならなかったことや,その2種類のコードのひも付けに起因するトラブルの修正など,IHEを採用したために発生した作業もあったという。こうした作業とリハーサルを経て,2009年2月からの本格稼働を開始し,同時にフィルムレス運用をスタートした。
  同院の撮影オーダから画像参照までのシステムの運用は次のとおりである。電子カルテシステムから出された撮影オーダはRISに送信され,放射線科医が確認した後,RISのプレチェック画面から撮影の指示を出す。その画面を診療放射線技師がRISの業務詳細画面で確認してから撮影が行われる。撮影後,すぐに電子カルテシステム端末や院内のPACSビューワで画像を参照することができる。

放射線科読影室
放射線科読影室。右から,3Mカラーモニタ2面,レポート作成端末,電子カルテシステムとRISの併用端末。放射線科読影室には同じ構成のモニタが3セット設置されている。放射線科の高精細モニタはこのほかに,PET・RI読影室に,3Mモノクロモニタ2面,放射線治療部門の診察室に2Mカラーモニタ1面,治療計画室に2Mカラーモニタ2面がある。
  画像管理室
画像管理室。左から,検像端末2面,電子カルテシステム端末,RIS端末,レポート作成端末,2Mカラーモニタ2面。
放射線科受付
放射線科受付。RISと電子カルテシステムの端末が設置されている。

●さまざまな場面で診療を支援するIHEの統合プロファイル

 IHEを採用したシステムの稼働から間もなく1年を迎える中,石北主任はIHEの統合プロファイルを実装したシステムを次のように評価する。
  「SWFにより,患者登録からレポート作成まで,放射線部門で必要な一連のシステムの運用がスムーズに連携できている。複数のシステムで患者情報を一括して変更することが可能なPIRは,例えば,救急で搬送された氏名不詳の患者さんでも,仮の名前で登録しておき,氏名がわかった時点で患者情報登録システム(ADT)の患者情報を変更するだけですむので非常に便利である。画像表示の一貫性を確保するCPIは,院内の高精細モニタ間で画質に差異がないため,精度が保てていると評価している。また,読影者が確認したウインドウレベルを保存して,同じ表示状態で診療科の医師も参照できるため,他科の医師にとっての有用性も高い。CTは,時刻同期の統合プロファイルで,正確な通信のやり取りがわかる。PDIは,医療機関の環境によらず,表示できる形で画像データを渡せるため,連携先の施設にとってのメリットが大きいだろう」
  一方,IHEによって実現したフィルムレス環境についてもメリットが表れている。放射線科の佐藤史郎部長は,「外来から,画像を見てほしいという依頼がくることがあるが,そうしたときに,外来では電子カルテシステムの端末で,こちらでは,読影用の高精細モニタで同じ画像を見ながらディスカッションすることができる。また,カンファレンスでも,必要な画像をすぐにモニタに表示することができるようになり,フィルムのときと比べて無駄な時間が随分節約できている」と情報共有ができるメリットを説明する。大島副院長は,「患者さんが撮影後フィルムを持って外来に来る必要がなくなった。フィルムができ上がるのを待つ時間もなく,撮影後すぐに診察室に戻り説明を受けられるようになった」と話すように,患者サービスの向上にも成果があるようだ。また,撮影後にフィルムを袋に入れて患者さんに渡す作業がなくなり,診療放射線技師の業務軽減にもつながっている。
  さらに,ほかの診療科の医師からもフィルムレス運用に対して,画質,画像の表示スピード,比較読影のしやすさなどの点で良い評価が得られているという。

呼吸器内科病棟のナースステーション
呼吸器内科病棟のナースステーション。3Mモノクロモニタ2面を2セット設置。各病棟のナースステーションのほとんどに,高精細モニタを配置している。
  内科外来診察室
内科外来診察室。2Mカラーモニタ2面を設置している。呼吸器内科と整形外科の外来診察室には3Mモノクロモニタ2面を設置している。ただし,外来診察室に高精細モニタを設置しているのは,各科に1部屋ずつ程度で,基本は電子カルテシステム端末を汎用の1Mカラーモニタ2面で構成し,1面ずつ電子カルテと画像参照用として用いている。

●IHEを活用し,地域の医療機関と患者情報を共有することが目標

 順調にフィルムレス運用を行う中で,まだ課題も残されている。現在は,電子カルテシステムとPACSで,患者IDをそれぞれに入力しなければならないほか,同一患者を開いていて,一方の画面を閉じても,もう一方の画面が閉じるといった連動ができていない。同院では,これらを解消するためには,1つのシステムにログインするとほかのシステムも連動してログインできるEUA(Enterprise User Authentication)や,例えば,PACSで患者選択を行うと,電子カルテシステムなど,ほかのシステムが連動して同じ患者を選択した状態になるPSA(Patient Synchronized Applications)の実装が必要だと考えている。
  一方原院長は,同院のシステムが地域連携に役立つことを期待して次のように話す。
  「将来的には,連携する医療機関との間で,患者さんの情報を共有できる環境が理想である。いずれネットワークを介した地域連携が必要となった場合にも,IHEにより標準化された規格を採用しているシステムであれば対応しやすいだろう」
  今後さらに重要性が高まる地域連携において,地域の中核病院である青梅市立病院が担う役割は大きい。IHEを活用した地域連携の実現が期待される。

●青梅市立総合病院の放射線部門システム構成図

青梅市立総合病院の放射線部門システム構成図
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