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食料だけではない,輸入頼みのテクネチウム-99m(モリブデン-99)の供給問題 国産化も含め,安定供給に向けた大きな視点での議論と体制作りが急務    井上登美夫氏 一般社団法人 日本核医学会庶務担当理事 横浜市立大学 大学院医学研究科放射線医学教授 先端医科学研究センター長  中村吉秀氏 社団法人 日本アイソトープ協会 医薬品・アイソトープ部長

核医学検査に最も多く使用されているテクネチウム(Tc-99m)の供給が,危機的状況にあることをご存じですか? テクネチウムの親核種であるモリブデン(Mo-99)は100%海外からの輸入に依存していますが,その最大の供給元であるカナダの原子炉が停止し,現在通常の40%程度の供給量となっています。オランダなどほかの原子炉の緊急増産によってなんとか供給が保たれていますが,根本的な解決には至っていません。
in vivo核医学検査は年間約142万件行われていますが,その70%以上を占めるテクネチウム検査の危機的状況をどうやって解決すればいいのか。「まずは関係者の利害や立場を越えてフラットに議論できる場を作ってほしい」と訴えるのは,(社)日本核医学会の理事を務める井上登美夫氏です。テクネチウム製品供給問題の現状と解決に向けたこれからの方向性をインタビューしました。
また,日本における放射性同位元素の供給から廃棄物処理までを行っている(社)日本アイソトープ協会の中村吉秀事業本部長に,日本におけるテクネチウムの製品供給の現状と今後の見通しについておうかがいしました。

1 テクネチウム製品供給問題の現状と解決に向けた方向性について:井上登美夫氏

2 テクネチウムの供給問題への日本アイソトープ協会としての対応:中村吉秀氏

1 テクネチウム製品供給問題の現状と解決に向けた方向性について:井上登美夫氏

●最近,核医学検査で広く使われているテクネチウム(Tc-99m)の供給不足が深刻な問題になっていますが,意外に知られていない状況です。

井上:恥ずかしながらわれわれも数年前まで,供給の実態について知らなかったのは事実です。今回のような緊急事態が起こって初めて,日本のテクネチウム検査が実は,海外からの放射性同位元素(モリブデン:Mo-99)の供給に頼った危うい状況にあることを認識したわけです。
テクネチウム検査が乳がん・前立腺がんなどの骨転移の診断,心筋SPECTやアルツハイマー病の診断のための脳血流SPECTなど,年間90万件以上行われているにもかかわらず,この供給不足の問題が一般の方はもちろん,医療関係者にすら,理解されていないことは大きな問題です。
日本核医学会としても,テクネチウム検査の危機的状況の打開に向けて,対応を検討し始めたところです。

●基本的なことになりますが,テクネチウム製剤はどのように製造されているのか教えてください。

井上:テクネチウムの製造は,親核種となるモリブデン(Mo-99)から「ジェネレータ」を使って,娘核種であるテクネチウムを生理食塩水に抽出して取り出します。親と娘の放射能の比率が常に一定の割合で存在する“放射平衡”という現象により,その後もテクネチウムが作り出されていきます。この操作を,乳牛から乳を搾るのと似ているので,「ミルキング(milking)」と言います。また,アメリカでは,ジェネレータをスペルは違うのですが,「kaw(雌牛:cow)」と呼んでいます。
モリブデンの半減期は66時間ですので,ジェネレータでは1回の購入でほぼ1週間テクネチウムを取り出すことができます。核医学検査を行う施設では,このジェネレータを製薬会社(日本メジフィジックス富士フイルムRIファーマ)から購入して施設内でテクネチウムを製造し,必要な薬剤に標識して放射性医薬品を調製する方法と,製薬会社で標識したシリンジタイプの製剤を購入する方法の2通りあります。どちらの場合も,テクネチウムの製造には親核種のモリブデンが必要です。

●なぜテクネチウムの供給不足の問題が起こったのでしょうか。

井上:日本は国内にはテクネチウム製品の原料である医療用のモリブデンを製造する施設(原子炉)がなく,すべて海外から輸入しています。現在,世界でモリブデンを製造している原子炉は,カナダ,オランダ,ベルギー,フランス,南アフリカと,最近稼働を開始したオーストラリアの6つの国しかありません(表1)。日本は従来,輸入の70%をカナダの原子炉で製造されるモリブデンに頼ってきました。

表1 モリブデン(Mo-99)原料を製造している主な原子炉
表1 モリブデン(Mo-99)原料を製造している主な原子炉

2007年に主な輸入先であるカナダの原子力公社(AECL)の原子炉(NRU炉)がトラブルから3週間稼働を停止し,国際的にモリブデンの供給がストップする事態が発生しました。この時は一時的な入荷量の不足ですんだのですが,われわれもこの時初めて,テクネチウムの供給を巡る問題について認識させられました。
このカナダの原子炉が再び今年(2009年)5月に緊急停止して,原料のモリブデンの供給がストップしました。現在も稼働を停止しており,復旧の見通しは2010年の2月ないしは3月と言われています。
世界的にもモリブデンの供給不足は問題になっており,経済協力開発機構(OECD)を中心に話し合いが行われています。ひとつの課題は,この5つの原子炉がすべて,稼働開始から40年以上経過して老朽化していることです。もともと原子炉は定期的な点検が必要ですが,老朽化で安定的な稼働が厳しくなってくることが考えられます。
実は,世界のモリブデンの最大の供給元であるカナダは,現在のNRU炉の後継として,医療専用のMAPLE(Multi-purpose Applied Physics Lattice Experiment Reactor)炉を建設する計画を立てていました。これが完成すれば,世界のほとんどの医療用RI原料を製造でき,供給問題は解決すると言われていました。前回(2007年)の供給危機の際も,この計画があるから大丈夫だと安心していたわけです。ところが,カナダ政府は2008年5月,「技術的問題と資金不足」からこの計画を中止してしまいました。これによって,世界のテクネチウム供給の先行きが一気に不透明になりました。

●日本ではどのような対策をとっているのでしょうか。また,実際の検査に影響は出ているのですか。

井上:現在は,緊急措置として,オランダの原子炉の増産や南アフリカからの輸入でカナダの分をカバーしているのですが,日本はカナダへの依存度が高く,通常の30〜40%しか確保されていません。今は製薬メーカーの努力により24時間体制で精製作業を行っており,検査に大きな影響は出ていないと見ています。日本アイソトープ協会では供給に関する情報を定期的に発信していて,各医療機関ではそれに合わせて検査を調整していることも考えられますので,本当の影響は外からわからないだけかもしれません。
ただ,オランダの原子炉も2010年3月頃までにメンテナンスに入るのは確実で,カナダの復旧が遅れた場合には大変な事態になる可能性があります。また,日本がどこから輸入するにしても,長距離輸送が必要です(図1)。まして放射性核種には半減期がありますので,週数回の輸送が必要です。輸送には法的な手続きが必要な上,その認可を持っている航空会社は少なく,輸送手段の確保も問題です。実際に9.11の同時多発テロの際には,航空機の運航が全面的にストップして供給が止まりました。世界的にも,半減期のある核種の長距離輸送については異論も多く,さまざまな難題が山積しています。

図1 世界のモリブデン製造国と日本への輸送状況
図1 世界のモリブデン製造国と日本への輸送状況

●年間90万件もの検査の原料を輸入にだけ頼っている状況は確かに不安です。

井上登美夫氏

井上:こういった状況を考えても,テクネチウム検査の原料がすべて輸入に頼っているという状況は問題です。素直に考えて一番確実な方法は,国内に医療用の原子炉を新しく建設して核種の製造を国産にすることです。医療用の原子炉ができれば安定供給が可能になり,自給率100%が実現できます。しかし,それには莫大な建設費用と維持費がかかり,民間の事業として運営するのは困難かと思われます。医療用でも,建設コストは概算で500億円と言われていますので,イニシャルコストだけでも核医学検査の規模で回収するのは不可能です。
次に考えられるのが既存の原子炉を利用することです。茨城県にある日本原子力研究開発機構照射試験炉(Japan Materials Testing Reactor:JMTR)が2011年度の再稼働を目指して準備中ですが,その中に「モリブデン99国産化計画」があります。これが実現した場合には,国内使用量の20%程度の供給が可能で,完全国産化は無理ですが,輸入トラブル時には対応できます。運営に関しても,国からのある程度の予算的援助があれば,民間で運営できる可能性があります。デメリットは医療専用ではないので,今の輸入中心の枠組みを大きく変えることはできないことです。

●モリブデンの国産化はハードルが高そうです。

井上:放射性核種の国産化には,予算や体制のほかにも多くの課題があります。現在のモリブデン製造は高濃縮ウランを使ったFission法で行われているのですが,高濃縮ウランは核拡散防止条約によって国際的な輸出入が厳しく制限されています。国際原子力機関(IAEA)では,今後新たに稼働を予定する原子炉では,低濃縮ウランを使用した製造しか認めていません。低濃縮ウランでは,放射性廃棄物の量を抑えてモリブデンを効率良く取り出す製造技術の確立が必要で,加えて核燃料処理など廃棄物の問題について,制度や枠組みをしっかり整理して構築することが求められます。
技術的には,中性子放射化法〔n,γ(エヌガンマ)法〕の可能性が期待されていますが,これもまだ,照射方法や抽出などの実験や検証が必要で,すぐに実用化は難しそうです。
さらに,もう少し先の技術開発としては,原子炉を使わずリニアックやサイクロトロンのような加速器を使ってモリブデンを製造する方法が研究されています。実現すれば今のFDGデリバリーのように,低コストで手軽に供給できるようになるかもしれません。

●日本だけでなく,国際的な供給体制の動向も気になります。

井上:核種の製造,運用の問題は学会や業界レベルではなく,やはり国としてどう考えていくかという視点が必要です。アジアでも,韓国と中国が医療用の原子炉の建設に名乗りを上げています。特に韓国は,国策として医療専用の原子炉を立ち上げる計画を発表しており,来年政府の決定がおりれば正式に動き出すと言われています。カナダの例を見ても,ある程度の規模の原子炉が医療専用として稼働すれば,それだけで全世界の供給をカバーでき,産業として成り立ちます。中国も計画はありますが,中国国内での検査件数が伸びていくことを考えると,国際的な展開は考えていないかもしれません。オーストラリアを含めて,従来製造していなかった拠点が出てくれば,アジア・オセアニア地域での供給ネットワーク体制などが展開できるかもしれません。
いずれにしても輸入を中心にしている限りは,国際情勢の変化に影響を受けます。医療用核種の自給問題について,国として何らかの方向性を検討すべきではないでしょうか。日本は,原子力発電で高い技術を持ち,世界的に事業を展開している企業があります。こういった技術を医療用の原子炉に応用すれば,日本独自の原子炉を作れるはずです。

●日本の核医学検査の将来のために,これからどういった行動をとっていかれるのでしょうか。

井上:核医学検査の現場をあずかる立場として要望したいのは,国レベルの視点でこの問題を考える仕組みを作ってほしいということです。核種の供給をめぐる問題は,規制に縛られている上,関係する省庁や団体も多く複雑です。さらに,原料の生産と供給はすでに市場化しており,企業側の思惑も絡んできます。その中では,どうしてもフラットで筋道の通った議論が尽くせないことを懸念しています。
医療現場の人間として,患者さんのためには国産が一番です。しかし,それが難しいのであれば,次善の策を考える必要があります。われわれとしては,何が何でも100%国産でと言っているのではありません。たとえ結論は,「既存施設利用で20%生産」となったとしても,そこに至るまでの問題点を整理して,しっかりと議論する仕組みを作ってほしいと思っています。最終的に患者さんが不利益を被ることがないような枠組みを作るのがわれわれの責任です。そのためには,もはや政治の力が必要で,今後,日本核医学会としての対応を含めて,アピールの方法を検討しているところです。

●この問題は核医学検査の医療の中での役割を問われているとも言えますね。

井上:テクネチウム検査の問題を医学的に突き詰めて考えると,多くの検査に関してはMRIやPETなどで代替できるのではないかという指摘が当然専門家の意見として出てくるでしょう。しかし,例えばMRIで全身の骨転移の検査がルーチンでできるかといえば,すでに中枢神経領域・整形外科領域・骨盤領域など多くの診療科から非常に多くの検査依頼があり,MRI検査の待ち時間が長い病院が多い状況を考えますと,MRIで全身骨転移検索をすべて肩代わりするのは,非現実的と思われます。また,PETについても限られた導入施設数の状況やFDGとO-15ガスしか保険適用されていない現状では,今の日常診療の中ではテクネチウム検査をすべて代用するのは現実的に不可能です。
これまで核医学が患者さんのために積み上げてきた貴重な症例の蓄積がなくなってしまうことは,医療の質を確実に下げることになります。核医学が今の医療の中で担っている重要な役割を損なわないように,テクネチウムの供給問題に全力で取り組んでいきたいと考えています。

(2009年11月9日(月)取材:文責inNavi.NET)

◎略歴
井上登美夫氏 井上登美夫氏
横浜市立大学大学院医学研究科放射線医学教授/先端医科学研究センター長
1977年群馬大学医学部卒業。同年医学部放射線医学講座入局。81年関東逓信病院放射線科。85年群馬大学医学部核医学講座。2001 年横浜市立大学医学部放射線医学講座教授および同附属病院放射線部教授を経て,2003年から現職。一般社団法人 日本核医学学会庶務担当理事。

2 テクネチウムの供給問題への日本アイソトープ協会としての対応:中村吉秀氏

●はじめに,(社)日本アイソトープ協会の事業概要と放射性医薬品の供給体制について教えてください。

日本アイソトープ協会(JRIA)は,戦後の日本における放射性同位元素(RI:アイソトープ)の平和利用の再開に伴い,アイソトープの輸入と頒布業務,安全な取扱いのための技術訓練,相互連携など,利用者の便宜を図るための組織として,1951年に設立されました。その後,放射性廃棄物の回収・処理も行うことになり,供給から処理までを一貫して手がけています(図2)。
医療用の放射性医薬品(in vivo)の取り扱いは,医療機関からの注文は協会を通して行われ,製品は放射性医薬品メーカーから直接納品されます。半減期があるため,一般の薬と異なり在庫販売はできません。放射性医薬品は専売ではありませんが,安全に流通,頒布したいという製薬メーカーの意向で協会が一括して扱い,流通・販売に関するデータはすべて把握しています。テクネチウム製品は,原料のモリブデンは100%輸入で,製品(ジェネレータ,シリンジ製剤)の製造は国内で行っています。

図2 アイソトープの供給から廃棄物処理までの流れ
図2 アイソトープの供給から廃棄物処理までの流れ

●テクネチウム製品の供給の現状はどうなっていますか。

中村:今年(2009年)の5月14日に,日本の最大の輸入先であるカナダの原子炉(NRU炉)で原子炉容器の腐食による重水漏れという重大な事故が発生し,シャットダウンしました。日本のテクネチウムは,カナダから約70%,残りをオランダと南アフリカから輸入していますが,実はこのとき,オランダの原子炉も2008年の事故からの改修が終わったばかりで,モリブデンの供給をストップしている状態でした。このため,6月はモリブデンの供給元を南アフリカのみに頼らざるを得ない状況になり,原料の確保が非常に厳しい状況に陥りました。急遽,オランダの原子炉が緊急増産をして対応し,7月には供給量が多少改善して8月からは通常時の40%まで確保することができています。
当初のパニック的な状況からは現在は落ち着いていますが,緊急増産に対応しているオランダは,2010年の2月までには,もう一度運転を止めて大改修に入ることを発表しています。一方のカナダのNRU炉の修理には相当な時間がかかると言われていて,現在の発表では2010年の3月を目標に復帰すると見込まれています。もし,このタイミングがずれると,再び今年の夏のような供給危機になる可能性があり,テクネチウムの供給問題はいま現在も継続しています。

●日本アイソトープ協会としてはどのような対応をとっていますか。

中村:カナダの原子炉がストップしてから,すべての検査に必要な量のモリブデンの確保が難しくなりましたので,協会として製薬2社(日本メジフィジックス富士フイルムRIファーマ)と協力して,5月の終わりからテクネチウム製品の供給について「緊急連絡」を出しています。日本核医学会,日本核医学技術学会の協力で,全国約1300の医療機関にメールとFAXで供給可能な製品の状況を速報しています。医療機関は予約で検査を行っていますので,少なくとも2週間前までには何を供給できるかをお知らせする必要があります。当初は,原料の供給元もどの程度出荷できるのかわからないような状態でしたので,3か月で25回以上情報を出しました。9月からは月ごとの供給予定を提供しています。協会としては,供給可能な製品については,予約があったものはすべて提供できるようにして,原料の確保に医療機関側の負担がかからないように責任を持って対応しています。
さらに,中期的な対応としては,供給体制の強化を進めるため,モリブデンの製造を開始したオーストラリアとの交渉や,国内で検討が進められている日本原子力研究開発機構(JAEA)照射試験炉(JMTR)でのモリブデン国産化の方向性についても委員会を設けて活動を行っています。

●テクネチウムの国産化という可能性はあるのでしょうか。

中村:われわれとしては,輸送手段の確保や半減期の問題などから,海外からの輸送には苦労してきましたので,以前から国産化の方向性を訴えてきました。すべてを国産にするのは現実的ではないかもしれませんが,現状のように100%輸入に頼っている状況はリスクが大きく,国内でモリブデンを製造できる可能性を探っていくべきだと考えています。しかし,現在検討されている〔n,γ(エヌガンマ)法〕にしても低濃縮ウランを使ったfission法にしても技術的にクリアすべき点はまだまだ多く,時間もかかります。
いずれにせよ,医療用の放射性核種の問題は,世界の動向がどうなるか,さらにその中で国としてどう考えていくかという視点で検討することが必要です。アメリカでは,医療用の放射性核種の製造について,自国での生産を行う方針を打ち出して国内数か所での製造に向けて予算を計上しました。アジアでは,韓国がこれに産業として取り組む方針を明らかにしていますし,中国も国内需要への対応が主ですが原子炉建設の計画があります。テクネチウム検査を数多く行っている国で,方針を明確にしていないのは日本だけです。

●今後,テクネチウムの供給問題に,協会としてはどのような活動を行っていきますか。

中村:この問題が難しいのは,われわれが具体的に国に何を要求するか? を明確にしがたいことです。国内に新しい原子炉をつくるのか,従来の原子炉を利用する方法を確立するのか。例えば,国産の医療専用原子炉をつくっても,一足先に韓国の原子炉が稼働したり,オーストラリアが大量生産に入っていたら,数百億円かけた意味がなくなってしまう可能性があります。とはいえ,国への要求には具体的な案件が必要で,そこが絞りきれないのが一番の問題です。もう一つは,放射性核種の製造・販売がすでに民間事業者によるビジネスになっているということです。そこに再び国が関与するのはどうか,という意見もあります。そういった問題を含めて,学会や業界といった立場を超えて,フラットに話し合える会議やコミッティのような場を持つべきだと考えています。

●協会,学会,業界が協力して対策を訴えていかなければならないですね。

中村:少なくとも,この問題は国レベルで議論する場が必要です。協会が中心になるわけではありませんが,学会,企業,医療機関の間に立つ中間的な立場として,行政側を含めて今後の方向性について検討できる体制づくりに協力をお願いしていきます。
日本核医学会とは,今年の10月に旭川で行われた第49回学術総会で緊急ワークショップ「Tc-99m製剤を用いる核医学診療―クライシスから学ぶ教訓と今後」を実施して,この問題について臨床現場からの声を含めて報告を行いました。国に対しても,原子力委員会などの場で,世界の状況やJMTRなどの可能性などを説明しています。
日本では,まだまだ供給問題の現状や供給不足から起こる問題に対する理解,認識が十分ではありません。関係者はもちろん,医療従事者や一般国民に対して,テクネチウムの供給不足の問題があること,将来的に核医学検査の安全で確実な実施のためにクリアすべき課題があることをアピールをしていくことが必要です。

(2009年11月12日(木)取材:文責inNavi.NET)

◎略歴
中村吉秀氏 中村吉秀氏
社団法人 日本アイソトープ協会
事業本部長
医薬品・アイソトープ部長
1973年立教大学理学部物理学科卒業。同年(社)日本アイソトープ協会入社。1999年アイソトープ部長、2005医薬品部長を経て、2009年から現職。
テクネチウム(モリブデン)供給問題は2009年12月7日のNHK「おはよう日本:おはようコラム」でも取り上げられました。
詳細は下記へ。
 NHK「解説委員室ブログ おはようコラム 放射性医薬検査がピンチ」のページ
  http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/300/31334.html
 NHKトップページ http://www.nhk.or.jp/
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