Philips Allura Xper FD20 × 医療法人沖縄徳洲会 湘南鎌倉総合病院
血管撮影装置を設置したHybrid手術室を構築しステントグラフト治療を展開—手術とIVRを融合した高度な治療を支援

2010-12-1

フィリップス・ジャパン

X線装置

ハイブリッド手術室


Allura Xper FD20

湘南鎌倉総合病院 は,鎌倉市山崎から岡本に新築移転し,2010年9月1日に診療を開始した。新病院は,「生命だけは平等だ」という徳洲会の理念を実現すべく,屋上ヘリポート,規模を5倍に拡大し手術室と直結した救急診療部,3T MRIなど高度医療機器の整備をはじめ,吹き抜けの外来や快適な療養環境など,アメニティの向上も図っている。また,心臓センター,脳卒中センター,日帰り手術センター,オンコロジーセンターなどのセンター化を図り,チーム医療の充実と疾患への迅速な対応をめざしている。
今回の移転を機に,同院の外科(血管外科)では,手術室に血管撮影装置「Allura Xper FD20」(オランダ・フィリップス社製)を導入した“Hybrid手術室”の構築を行い,大動脈疾患や閉塞性動脈硬化症などに対して,血管内治療と従来の手術を融合したHybrid手術を行っている。大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術を積極的に行う外科の荻野秀光部長と放射線科の関根 聡技師長に,Hybrid手術室の運用とステントグラフト治療を支援するAllura Xper FD20の有用性を中心に取材した。

●ステントグラフト治療

大動脈瘤に対して2007年から本格的な臨床応用が拡大

荻野秀光 外科部長

荻野秀光 外科部長

大動脈瘤に対するステントグラフト治療は,日本では2007年4月にCook社,2008年1月にGore社のステントグラフトが保険適用となり,本格的な臨床応用がスタートした。従来の開腹による人工血管置換術に替わりステントグラフトの実施数は年々増え,現在では大動脈瘤治療の約半数がステントグラフト内挿術で行われている。ステントグラフト内挿術は,大腿動脈から経血管的に動脈瘤にアプローチして治療を行う。開腹による人工血管置換術に比べて侵襲が低く,患者の社会復帰が早いというメリットが高く評価されているが,その手技には高い技術と安全性への配慮が求められる。
日本におけるステントグラフト治療は,関連10学会で構成された「日本ステントグラフト実施基準管理委員会 」が実施施設や医師の審査を行っている。手術室や血管撮影室へのDSA装置の設置や,大動脈瘤10例を含む年間30例以上の手術実績,経験のある外科医との協力体制など厳しい実施基準が設けられ,治療成績の公開,報告が義務づけられるなど,ステントグラフト治療の安全で確実な実施を行う環境を整備している。同委員会の発表では,2010年8月現在の全国の実施施設は,腹部が99,胸部が34となっている。
湘南鎌倉総合病院のステントグラフト治療は,荻野秀光・外科部長を中心に行われ,神奈川県でトップの症例数を誇っている。荻野部長は,世界のステントグラフト治療のパイオニアである東京慈恵会医科大学血管外科の大木隆生教授に指導を受け,2007年5月から治療を開始した。
「ニューヨークにいた大木教授のもとにステントグラフト治療の見学に行ったのが始まりです。2007年当時は,日本では自作のステントで治療を行う施設はありましたが,一般の病院で認定を受けてスタートしたのは当院がかなり早かったといっていいでしょう」と,荻野部長は語る。以来,これまでに,胸部,腹部あわせて150例以上の手技を行い,実績を上げてきた。

Hybrid手術室を支援するAllura Xper FD20

 

●Hybrid手術室

手術室と血管撮影装置を組み合わせて,高度な治療環境を構築

同院では,新病院で11ある手術室の1つに,“Hybrid手術室”を構築した。Hybrid手術室は,手術室の高レベルの清潔度や高度な治療に対応する各種設備と,血管内治療に対応する血管撮影装置の機能を融合し,ハイリスクの疾患に柔軟に対応する。同院では,血管撮影装置としてフィリップス社の「Allura Xper FD20(以下,FD20)」を導入し,胸部・腹部大動脈瘤のステントグラフト内挿術や閉塞性動脈硬化症など末梢血管疾患に対するHybrid手術を行う体制を整えた。
ステントグラフト治療は従来,通常の血管撮影室に麻酔器具を持ち込むか,手術室でモバイルの外科用CアームX線撮影装置を使って行われることが多いが,どちらも十分な環境とは言えなかった。荻野部長は,Hybrid手術室の構築を「ステンドグラフト治療のためのベストの環境体制を整えるため」と説明する。
ステントグラフト治療では,血管の切開に対する清潔性と全身麻酔を行う設備への対応が必要となる。Hybrid手術室では,手術に対応できる高度な環境の中で高精度で操作性に優れた血管撮影装置を使って手技を行うことができる。さらに,血管内治療に伴う緊急の術式変更にも柔軟に対応可能だ。また,末梢血管の治療などでも,腸骨動脈にステントを留置後,鼠径部から下にバイパスを加えるようなケースにも一度に対応できる。
「救急の外傷の場合にも,骨盤骨折の止血や脾臓破裂の血管内治療を行った後に,そのまま整形外科医にバトンタッチして,創外固定など外傷の治療を連続して行うことができます」と,荻野部長は述べる。

●Allura Xper FD20

Hybrid手術室での血管内治療に対応する画質と高い操作性を実現

手術室内には術前のCT画像などを表示する大画面モニタを設置

手術室内には術前のCT画像などを表示する大画面モニタを設置

Hybrid手術室は,ステントグラフトの施設基準の項目の中に,「手術室あるいは清潔と緊急外科手術対応が確保された血管内治療室にDSA装置が常設され」て「大血管手術が可能な体制」があることが明記されていることから,そのニーズが高まっている。
同院でのFD20の選定のポイントを,荻野部長は次のように語る。
「Hybrid手術室に必要な条件を考えたときに,麻酔器や点滴など術場の器具の邪魔にならない天井走行タイプであることと,インターベンションに必要な画質と操作性を総合的に判断して選択しました」
FD20は,30cm×38cmの大口径フラットディテクタを搭載し,2000×2000マトリックスの高精細画像を提供する。荻野部長は,「ステント治療では,血管内に留置したステントグラフトと血管の隙間から血液が漏れるエンドリークが発生することがあります。術中に,エンドリークの有無を素早く確実に認識して対応することが重要で,FD20では画像の解像度が高く,微細なエンドリークを確認することができます」と評価する。
FD20では,天井走行式のCアームが正確で素早い動きを実現しており,患者への接触を防止するボディガード安全機能と合わせて,安全で迅速なアプローチを可能にしている。荻野部長は,「専用の血管撮影装置を使うことで,画質の面でも,Cアームのポジショニングや患者テーブルの移動などでも,治療の際のストレスはほとんどなくなりました」と操作性を高く評価する。
放射線科の関根技師長は,血管内治療では画質だけの評価ではなく,操作性を含めたトータルな評価が重要だと語る。
「インターベンションで使用する血管撮影装置の画質の評価は,操作性と密接に関係します。血管内治療の際には,アームの位置を関心領域の最適な角度に素早く移動し,必要なタイミングで治療に役立つ画像を出すことが求められます。ハイリスクな症例や救急などで迅速な対応が必要なHybrid手術室には,術者の要求にストレスなく応えて,高精細の画像を提供することが求められます」
同院の血管内治療には,手術を担当する医師3名,麻酔科医1名,看護師2名,診療放射線技師1名がチームを組んであたる。技師は主に,装置や造影剤の自動注入器のセットアップ,キー画像の準備などを担当し,アームの操作や透視,撮影は術者が自ら行い,必要に応じて技師がサポートする。
荻野部長は「スタッフには,チームとして手技をサポートしてもらいますが,装置の操作は自分で行いたいというのが,外科医としての本音です。その点で,FD20はベッドサイドでコントロールできるので非常に便利です」と語る。
FD20では,テーブルサイドに設置して術中の撮影やアーム移動などの操作を行える“Xperモジュール”を搭載している。Xperモジュールは,タッチパネル式の小型液晶操作卓で,テーブル(寝台)サイドに取り付けて術者が手技を行いながら操作できる。さらに,診療科や医師個人に合わせて基本設定やプロトコルをカスタマイズして登録でき,ワンボタンで直感的に操作することが可能だ。
「例えば,よく使うDSAのフレーム数や透視条件を設定しておくことで,ワンタッチで操作が可能です。操作室までいかずに手元でコントロールできることで,テンポ良く手技を進められます。操作性の良さは,治療時間の短縮にも繋がっていると実感しています」と荻野部長は説明する。
ステントグラフト治療では,術前の大動脈瘤のサイジングとプラニングが重要で,術前のCTで血管の直径や治療範囲,病変部までの血管の状況や走行を把握して,使用するデバイスや術式を決定する。動脈瘤の全体像の把握には,術前CTからの3D再構成画像を使用し,計測や確認にはワークステーションを活用している。同院のFD20では,6面のモニタ構成のうち現在3面を使ってライブ画像,透視像のほか,3D画像,IVUSなどを表示するほか,手術室内には術前のCT画像などを表示する大画面モニタを設置している。

 

Allura Xper FD20による症例画像

 

●今後の方向性

破裂した大動脈瘤に対するステントグラフト治療に取り組む

ステントグラフト(ジャパンゴアテックス社製)

ステントグラフト
(ジャパンゴアテックス社製)

FD20では,インターベンションを支援するさまざまなツールやアプリケーションを提供している。回転撮影機能により収集されたデータからCTライク画像を再構成する“XperCT”,血管走行をリアルタイムにガイドするダイナミック3Dロードマップなどが利用できる。荻野部長は3D画像に大きな可能性を感じていたが,造影剤の使用量の増加,撮影のために人工呼吸器や麻酔の装置を移動する必要があることなどから,現在,ステントグラフト治療ではルーチンでの使用を行っていない。荻野部長は,「腎動脈瘤のコイル塞栓術で,蛇行した血管の瘤の位置を確認する際には,3DのCTライク画像が臨床応用できるのではと考えています。今後,部位や症例を選んでトライしていきたい」と今後への期待を語る。
荻野部長は,Hybrid手術室での今後の取り組みとして「大動脈瘤の破裂に対するステントグラフト手術」を挙げる。
「欧米では,ステントグラフトは破裂した動脈瘤にも有用であるという論文があり,実際に手術できれば成績は良好です。ただ,治療まで一刻を争う対応が必要で,装置だけではなく,病院全体の救急診療体制が整っていることが重要です。当院では,1階のERから手術室まで直結したエレベータが設置されていて,破裂と判断したらすぐにHybrid手術室に搬送して,開腹かステントグラフトかを判断することができます。大動脈瘤の場合,破裂すると開腹しても半分は救命が困難で治療できたとしても合併症の心配がありますが,ステントグラフトで治療できれば合併症が少なくなり,救命率が上がると期待しています。幸い当院では,それが可能な体制と設備が整っていますので,積極的に行っていきたいと考えています」。
ステントグラフト治療の普及とともに,血管撮影装置を設置したHybrid手術室の必要性は大きく広がりつつある。高度な手技をサポートするFD20をはじめとする血管撮影装置を活用した今後の展開が期待される。

 

放射線科
関根 聡技師長に聞く

いつでも最善の検査が行える機器と体制を整備する

関根 聡技師長

関根 聡技師長

●新病院での放射線科の運用について

新病院では,心臓や脳など疾患や領域ごとに,外来,検査,入院の施設をワンフロアに集めたセンターが充実し,それに伴い画像診断機器が院内に分散しました。それぞれのセンターで専門的な診療が提供できるように設備を整えており,手術室に血管撮影装置「Allura Xper FD20」を設置したHybrid手術室を構築したのもその一環です。
放射線科のスタッフは,診療放射線技師38名,クラーク4名ですが,各センターでの検査業務を滞りなく進められる人員配置を心掛けています。検査は,土日も含めて24時間365日対応する体制をとして,いつでも最善の治療が行える検査体制をめざしています。
1つのモダリティについて,専門性を持った技師を育てることを目標にして,CT,MR,血管造影(心臓,オペ・脳)のグループをつくっています。また,専門技師の認定も積極的に取得するように進めています。

●Hybrid手術室のFD20の運用について

血管内治療の術者をサポートするわれわれは,常に治療のリズムを乱さないようにアシストすることを心がけています。その点で,FD20は術者の要求に応える操作性に優れた装置です。また,フィリップスの血管撮影装置には被ばく低減機構が搭載されています。線量については,患者さんの体格や部位を確認して,画質とのバランスを考えて判断しています。今後は,術前に撮影したCTデータと連携して,あらかじめ撮影する方向を決めることができれば,さらに造影剤量を低減できると期待しています。

医療法人沖縄徳洲会 湘南鎌倉総合病院

医療法人沖縄徳洲会 湘南鎌倉総合病院
住所:〒247-8533 鎌倉市岡本1370番1
TEL:0467-46-1717
病床数:542床(ICU10,NICU1,GCU2,LDR3,無菌個室5,HCU44)
診療科:46
http://shonankamakura.or.jp/

フィリップス・ジャパン

X線装置

ハイブリッド手術室


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