Aquarius iNtuitionシリーズ × 滋賀医科大学医学部附属病院
ボリュームデータの効率的な運用のために院内の3D画像配信環境を構築し,地域医療や教育・研究機関の使命を果たす─ノイズ低減技術「iGENTLE」などにより診断・治療の質を向上する大規模ネットワーク型3Dサーバーを運用
2013-11-1
Aquarius iNtuition Clientビューアーを使用して,
320列CTでの至適造影タイミングを検討する永谷助教
滋賀医科大学医学部附属病院では,320列CTの導入に伴い,テラリコン・インコーポレイテッドの「AquariusNET Server」を導入。医師自らが3D画像を作成できる環境を構築した。その後,「AquariusNET Server iNtuition Edition」へとバージョンアップし,院内で発生する膨大なボリュームデータを効率的に管理・運用している。このシステム構築により,診療科では医師が術前シミュレーション用の画像を作成するなど,データの有効活用が可能になった。さらに,放射線科では低線量CTのノイズ低減を行う「iGENTLE」の評価を行うなど,新たな取り組みも進んでいる。そこで,ボリュームデータの効率的な管理・運用のノウハウを取材した。
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■県内唯一の大学病院としてIT化やモダリティを充実
1978年10月に開院した滋賀医科大学医学部附属病院は,地域医療の中核病院であるとともに,医療者育成の教育機関,研究機関として,医療機器や情報システムの導入にも力を注いでいる。放射線科・放射線部の放射線部門では,320列CTを筆頭に計3台のマルチスライスCTを導入しているほか,MRIは3T装置が1台と1.5T装置が2台,さらにオープンMRIが1台稼働している。これらのモダリティから発生する画像は,PACSによる完全フィルムレス環境で運用されている。同院放射線科の新田哲久講師は,「当院の放射線科の特色として,CTやMRIはもちろん,核医学,一般X線撮影など,放射線部門で発生する検査画像はすべて読影していることです」と説明する。
放射線部門の検査画像すべてを読影することは,病院全体の診療の質を向上させるためにも重要であり,病院経営にも大きく貢献することにもなる。それがひいては,滋賀県の地域医療への貢献へとつながるのであるが,放射線科医の負担が増えることには間違いない。さらに近年,320列CTや3T MRIをはじめとするモダリティの高度化により,画像データ量は飛躍的に増加した。それだけに,画像診断の現場では,ボリュームデータを効率的,かつ高い精度で読影できる環境が求められている。さらに,病院全体でもボリュームデータをいかに有効活用できるかが,重要なテーマとなっている。
そこで,2009年同院では,320列CTの導入に併せて,テラリコン社の3D PACSであるAquariusNET Serverを導入。放射線部門をはじめ,院内各所への3D画像の配信を開始した。
■ネットワーク型製品で豊富な実績を持つテラリコン社
同院が最初にテラリコン社の製品を導入したのは,2006年。スタンドアローン型ワークステーション「AquariusNet Station」と,小規模用の3D PACS「AquariusNET Light」であった。その後,上記のとおり2009年に,320列CTの導入とともにAquariusNET Serverを導入した。この理由について,放射線部の牛尾哲敏主任技師は,次のように説明する。
「64列,320列CTを導入したことにより,大量のボリュームデータが発生することが予想されました。一方で,画像診断ではMPRなどの三次元データが非常に重要になっています。以前は,診療放射線技師がワークステーションで3D画像を作成し,セカンダリキャプチャ画像にしてからPACSに送信して,診療科の医師が参照するという運用でしたが,医師からは自分自身で3D画像を作成したいというニーズが高くなってきました。そこで,ボリュームデータを効率的,かつ有効に活用するためのワークフローを考え,AquariusNET Serverを導入することとしました。そして,PACSと連携し,院内各所からAquariusNET Serverのクライアントビューアーを使えるようにして,医師が3D画像を作成できる環境を整備しました。また,全件で肺のthin slice撮影と読影が行われているのが特徴です」
一方で,大学病院という性格上,放射線部門は日々多くの検査を実施し,膨大なボリュームデータから3D画像を作成することになる。放射線部では,技師がローテーションでモダリティを担当しており,3D画像の作成は撮影したスタッフが行う運用としていた。そのため,業務が煩雑となってしまい,3D画像の作成に遅延が生じるといったことも起こり,課題となっていた。このような業務運用を改善し,技師の負担を軽減しつつ3D画像を提供できる環境を構築するという点で,AquariusNET Serverの導入は非常に期待された。牛尾主任技師は,「ネットワーク型ワークステーションや3Dサーバーでは,テラリコン社は豊富な実績があったので,迷うことなく導入が決定しました」と,選定の理由について語っている。
■AquariusNET Server iNtuition Editionで3D画像配信環境を構築
2009年から稼働し始めたAquariusNET Serverは,その後バージョンアップを重ねて,テラリコン社最新のサーバー・クライアント型医用画像処理・診断支援ソリューションである「Aquarius iNtuition Server」と同等の性能と機能へと進化している。Aquarius iNtuition Serverは,サーバー上に画像解析を
行うための高速演算処理ボード「VolumePRO2000」を搭載。ネットワーク上にあるクライアントから3D画像を作成することができる。サーバー側で画像処理を行い,その結果だけをクライアントに配信するため,ネットワークの速度やPCの性能に依存せず,リアルタイムでボリュームデータの3D画像を観察することができる。クライアントは,高度な解析処理機能に対応した「Aquarius iNtuition Clientビューアー」と簡易版の「Aquarius NET Clientビューアー」,Webブラウザベースで参照用の「Aquarius WEBビューアー」が用意されており,院内の運用に合わせて導入できる。その操作性は,まさに“intuition=直感”的であり,容易に3D画像の作成や解析処理を行える。
また,撮影から診断までのワークフローを効率化させる機能にも注目すべきである。Aquarius iNtuition Serverでは,撮影された検査データがサーバーに送信されると,検査内容に基づいて自動的に画像処理を開始する。この「自動前処理機能」により,医師や診療放射線技師の作業負担を大幅に軽減でき,画像配信までの時間を短縮する。加えて,診療科や個人などの用途,ニーズに応じて画像処理を容易かつスピーディに行うための「Workflow Template」を採用。テンプレートの作業手順に従って操作するだけで高精度の3D画像が作成できる。
同院のAquariusNET Serverにもこれらの機能が採用されており,AquariusNET Server iNtuition Editionとして運用されている。AquariusNET Server iNtuition Editionはサーバーを2基配置しているほか,thin sliceデータを保存するための「Aquarius DS-1200」(10TB),スタンドアローン型の「AquariusNet Station iNtuition Edition」が導入されている。さらに,CT室にはAquarius iNtuition Clientビューアーがあり,外来や病棟にある約60台のPACSの読影端末には,Aquarius NET Clientビューアーがインストールされていて,クライアントとして使用できる。
通常のデータの流れは次のようになる。CT検査の場合,撮影後,thick sliceデータはPACSに送られ,さらにthin sliceとthick sliceの全データがAquarius DS-1200へ送信される。CT室や各診療科のクライアントで3D画像を作成する際は,Aquarius DS-1200内のデータをAquariusNET Server iNtuition Edition上で処理を行い,クライアントに配信する。なお,MRIのデータはPACSに保存されたものをDICOM Q/Rで取得して画像処理して配信する。Aquarius DS-1200はCTのthin sliceとthick sliceデータのすべてを保存しており,テラリコン社以外のワークステーションのサーバーとしても利用されている。なお,同院は,すべてのデータを残すという方針の下,thin sliceデータも長期保存することにしている。Aquarius DS-1200に保存されたデータは,その後,長期保存用のサーバーに送られることになる。
■3D画像を作成し術前シミュレーションに利用
同院では,AquariusNET Server iNtuition Editionを中心としたシステム構築により,放射線部門はもちろんのこと,診療科もそのメリットを享受している。
●低線量CTのノイズを低減する「iGENTLE」
現在,放射線科で評価を行っているのが,新アプリケーションのiGENTLE(iNtuition General Enhancement and Noise Treatment with Low Exposure)である。これはボリュームフィルターと呼ばれるもので,低線量で撮影されたCTデータを,ワークステーション上で自動的にフィルター処理を行い,ノイズを除去する。近年,医療被ばくへの関心が高まる中,CTメーカー各社は従来のFBP法に替わるIR法(逐次近似画像再構成法)の開発に取り組んでいる。IR法は,rawデータと画像データそれぞれから処理を行う方法があるが,iGENTLEはrawデータを必要とせず,画像データだけでノイズを低減できる。体格の影響や年齢などの条件による低線量撮影により,ノイズの多い画像となっても,iGENTLEで処理することでノイズを抑えた良好な画像を得られる。さらに,メーカーや機種にかかわらずフィルター処理を行えるため,過去データにも適用することが可能である。なお,フィルターは5段階の強度で設定できるので,ノイズに応じて,最適な処理を設定することができる。
このiGENTLEの評価を行っている新田講師は,「当院では,3台のCTのうち1台でしかIR法での撮影ができません。IR法で撮影が可能なCTは,まだハイエンドクラスが中心であり,多くの病院に普及しているとは言えません。このような病院では,iGENTLEを使用することで,線量を抑えた検査が可能になると期待できます。また,PACSなどに蓄積されている過去データをiGENTLEでノイズ除去することで,現在の画像と比較するといったことも容易にできます」と,その特長を説明する。さらに,新田講師は,画質も良好であると評価している。
「現在,胸部領域を中心に画像評価を行っており,CTメーカーのIR法と比較していますが,rawデータで処理するIR法に匹敵する,ノイズの少ない画像を得られています。MPR画像も,通常の線量で撮影した画像と同等の画質です。例えば,胸部領域を低線量で撮影し,肺野の末梢血管がノイズによりはっきり見えない場合も,iGENTLEを適用することで,クリアに見えるようになります」
加えて,IR法を用いた低線量撮影のデータを,iGENTLEで処理することで,さらにノイズを抑えた画像が得られるという。これらの使用経験を通じて,新田講師は,「特に,小児病院や健診施設では,iGENTLEを用いることで,低線量撮影を行えるので,非常に大きなメリットがあると思います」と説明している。
●研究目的にも解析機能を活用
放射線科の永谷幸裕助教は,320列CTでの冠動脈撮影における至適造影タイミングの検討にAquarius iNtuition Clientビューアーを用いている。永谷助教は,「CPR断面を表示して,血管のCT値を連続的に計測し,血管内腔のCT値の変化の程度(傾き)を計測することで,高度石灰化病変などにおいて狭窄の程度の予測に使用できるかどうかを検討しています。CT値を連続してファイルに出力できるのが他社にはない機能であり,非常に役立っています」と述べている。
また,永谷助教は,Aquarius iNtuition Clientビューアーで,リージョングローイング法で腎洞内の脂肪を抽出し,その体積計測を行っている。このことについて永谷助教は,「腎臓の脂肪とプラーク破裂や急性冠症候群(ACS)などの血管病変の相関を見るために,Aquarius iNtuition Clientビューアーを使っています。CT値によるリージョングローイング法により,定量的なデータを得られるので有用です」と説明している。
●見たい3D画像を自分で作成し術前シミュレーションに利用
院内各所で3D画像を作成できる環境は,診療科の医師からも高い評価を得ている。特に,心臓血管外科や呼吸器外科,整形外科は利用率が高く,医師自身が3D画像を作成し,術前のシミュレーションに活用することが多いという。心臓血管外科の乃田浩光助教は,次のように述べている。
「大動脈瘤ステントグラフト内挿術において,病棟のAquarius NET Clientビューアーで3D画像を作成しています。この手術では,瘤の形状を把握することが重要となります。そこで,自分で3D画像を作成して,それを展開しながら手技をイメージすることにしています。以前は放射線部に作成を依頼していましたが,見たいと思った角度と違うことがありました。Aquarius NET Clientビューアーによって,自分で作成できるようになり,とても便利です」
乃田助教は,操作性も高く評価しており,容易に3D画像を作成できているという。多忙な日常診療の中で,手間をかけることなく,自身が必要とする3D画像を作成できることは,大きなメリットと言える。
●診療放射線技師の教育・スキルアップにも効果
診療科の医師が作成した3D画像は放射線部にも送信され,技師も参照するようにしている。放射線部では,カンファレンスなどで得た情報を基に検査後に3D画像を作成し,PACSに保存しているが,こうしたフィードバックを行うことにより,スタッフの技術の向上にもつながっている。牛尾主任技師は,「医師が作成した3D画像を放射線部で参照することにより,私たちも医師が求めている画像のニーズを理解することができ,次の検査に生かすことにつながります。入職してまもない新人を教育,指導する上でも役立っています」と説明する。そして,「今後も各診療科の医師と協力しながら,より有用な画像を得るために取り組んでいきたい」と,力を込めて語った。
■症例1:iGENTLEを適用した症例画像
■症例2:各部位の3D処理・解析画像
■症例3:胸腹部下肢のMIP 画像(石灰化領域外す)
■3D画像を有効活用し地域医療,教育・研究機関の重責を担う
滋賀医科大学医学部附属病院では,AquariusNET Server iNtuition Editionを中心とした3D画像配信環境の構築により,膨大なボリュームデータを効率的に管理,運用できるようになった。同院では,今後も3D画像を有効に活用し,地域中核病院,そして,教育・研究機関としての重責を担っていく。
(2013年9月18日取材)
滋賀医科大学医学部附属病院
住 所:〒520-2192
滋賀県大津市瀬田月輪町
TEL:077-548-2111
病床数:614床
診療科目:循環器内科,呼吸器内科,消化器内科,血液内科,糖尿病内分泌内科,腎臓内科,神経内科,腫瘍内科,小児科,精神科,
皮膚科,消化器外科,乳腺・一般外科,心臓血管外科,呼吸器外科,整形外科,脳神経外科,耳鼻咽喉科,母子診療科,女性診療科,泌尿器科,眼科,麻酔科,ペインクリニック科,放射線科,歯科口腔外科,リハビリテーション科,臨床遺伝相談科
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