ShadeQuest/Unlimited × 長崎みなとメディカルセンター 市民病院
自治体病院としてBCPや地域連携など公益性の高いPACSをクラウドを利用して構築─高い安全性と信頼性のクラウドサービスで地域における新病院の診療をサポート

2014-9-1

横河医療ソリューションズ

クラウド


クラウドを含めた画像情報システムを横河医療ソリューションズで構築。 読影室にてShadeQuest PACSで読影する福田俊夫主任診療部長。

クラウドを含めた画像情報システムを
横河医療ソリューションズで構築。
読影室にてShadeQuest PACSで読影する
福田俊夫主任診療部長。

横河医療ソリューションズ
http://www.yokogawa.com/jp-mis/

1948年の開院から長崎市の公的病院として地域医療の中核を担ってきた長崎市立市民病院は,2014年2月,名称を長崎みなとメディカルセンター 市民病院と改めて,新たなスタートを切った。2016年には,もう1つの市立病院である成人病センターを統合し,513床でグランドオープンの予定だ。新病院では,横河医療ソリューションズとNTT西日本グループの協業によるクラウドサービスである「ShadeQuest/Unlimited」を利用して,PACSデータの外部保存とBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)を見据えたネットワークの構築を行っている。世界を視野に入れた病院運営をめざす同院でのPACSとクラウドの現況を取材した。

国際都市・長崎の新しい市民病院として機能を強化してオープン

長崎市では,旧長崎市立市民病院の老朽化に伴う病院機能の再編にあたって,地域のニーズと高度化かつ多様化する医療技術の進歩に適切に対応するため,従来の病院事業の運営形態を見直し,より迅速で柔軟な対応が可能な地方独立行政法人に移行,2012年に長崎市立病院機構を設立した。これまで市が運営してきた市民病院と成人病センターを統合して,旧市民病院をリニューアルする形で次世代の医療を担う中核施設とすべく建設を進めてきた。新病院では,救命救急医療,高度先進医療,周産期医療,結核,感染症などの政策医療への取り組みを病院の重点医療と位置づけ,救命救急医療ではER型救命救急センターやヘリポートの整備,高度先進医療ではがん,心疾患,脳血管疾患への対応として心臓血管外科,脳神経外科の新設など,診療機能の充実を図っている。2014年2月に第Ⅰ期病棟がオープン。すべての工事が終了し成人病センターを統合したグランドオープンは,2016年を予定している。
病院機構の理事長で,同院院長の兼松隆之氏は開院の挨拶で,“7つの階段を登ろう!”というキャッチフレーズを掲げ,1段目の“揺るぎない土台作り”からスタートして,九州を代表する病院,日本のトップクラス,最終的には“世界に通用する病院”をめざし,国際観光都市・長崎市の中核病院として,地域のみならず世界を視野に入れた病院運営に取り組むと述べている。同院企画運営部の西田伸二部長は,長崎市の医療環境と新病院の方向性について,次のように説明する。
「長崎市を中心とする長崎圏域は病床数が多い一方で,地形的な制約から診療圏の広がりがあまりありません。限られた地域の中で,それぞれの医療機関が役割を分担して,いかに地域医療を支えていくかが重要です。新しい“市民病院”では,救急や高度医療に対する最新のハードウエアがそろいましたが,同時に独法化によって人員増が可能になり,看護師や診療放射線技師などスタッフの数を増やすことができました。病院がしっかりとした医療を提供するためには,“多数精鋭”であることが必要ですが,ソフトについても充実することができ,ハードとソフトを一新して新しい体制でスタートを切ることができました」

福田俊夫 主任診療部長

福田俊夫 主任診療部長

南 和徳 診療部長

南 和徳 診療部長

西田伸二 企画運営部長

西田伸二 企画運営部長

 

より高度な診療をめざしサイバーナイフなどの機器を導入し病院機能を充実

放射線科では,Dual Source CTなどCT2台,3Tを含めたMRI2台をはじめ,IVR-CT,治療計画用CTなど,新病院での脳神経・循環器領域などの診療を支える体制を整えたほか,放射線治療についても九州では第1号機となるサイバーナイフを導入し,リニアックによるIMRT治療と併せて,がん医療などに高いレベルで対応できるように設備を充実させた。放射線診断専門医4名,放射線治療専門医1名が常勤し,CT50〜70件/日,MRI 20〜30件/日の画像診断,放射線治療30〜35件/日を行っている。
福田俊夫主任診療部長は,放射線科の診療について,「CT,MRIについては,すべての検査について読影を行っています。新病院ではER型の救急部門や診療科も増え,CTやMRIの検査も増えつつあります」と診療の現況を説明する。診療放射線技師は20名だが,放射線部の運用について水野了亮副技師長は,「新病院になって単に機器の台数が増えただけでなく,Dual Source CTや3T MRIなど最新技術を搭載した機器が導入されましたので,サイバーナイフなど放射線治療と併せて患者さんにやさしい,質の高い医療の提供を行っていきます」と述べる。

水野了亮 副技師長

水野了亮 副技師長

時田善博 技師

時田善博 技師

富田浩司 情報グループリーダー

富田浩司 情報グループリーダー

 

災害時のBCP対策としてクラウドPACSを導入

同院では,PACSのデータ管理について,横河医療ソリューションズがNTT西日本グループとの協業によって提供するクラウドサービスである「ShadeQuest/Unlimited」を導入し,院外のデータセンターを利用した運用をスタートした。クラウド導入のねらいを放射線科の南 和徳診療部長は,「市民の診療データを預かる医療機関として,災害時のBCP対策,今後の病院の発展に合わせた柔軟なシステム設計が可能なこと,将来的な仮想化などを見据えた経済性などを期待して導入を進めました」と説明する。
同院は災害拠点病院に指定されており,災害時の医療救護活動で中心的な役割を担うが,東日本大震災以降,医療機関には災害時においても診療を継続するための対策(BCP)が求められている。診療に欠かせない患者情報が電子化されている現在,電子カルテをはじめとする病院情報システムについても,災害時を想定した対応が求められる。南診療部長は,BCP対策を含めた診療データのバックアップについて,「災害時において,電子カルテの診療情報が参照できることは当然ですが,より高度な診療を行うためには,画像など部門システムの情報についても参照できることが必要です。そのためのソリューションとして,PACSサーバのバックアップのためのクラウド化を図りました。クラウドには,単に災害時のバックアップというだけではなく,日常診療で利用可能なスピードと高いセキュリティが求められますので,それが可能な技術とサービスを検討しました」と,クラウド採用の方向性を述べている。
また,放射線部の時田善博技師は,PACSのクラウド導入の経緯を次のように説明する。
「PACSでのクラウドの導入を検討した理由は,新しい病院で必要とされる画像サーバ容量の予測が難しかったこともあります。新病院では,CTやMRIなどモダリティの台数が増えること,脳神経外科などが新設され,病床数もグランドオープンまで段階的に増えます。これにオンプレミス(院内)のサーバだけで対応した場合に,容量が不足した場合には追加の設備が必要になります。クラウドを利用することで,バックアップと同時に画像容量の急激な増加にも対応できる柔軟なサーバ構成を可能にすることをめざしました」

■長崎みなとメディカルセンター 市民病院のクラウドサービスを含めた画像情報システム概要図

長崎みなとメディカルセンター 市民病院のクラウドサービスを含めた画像情報システム概要図

 

信頼性の高いネットワークで個人情報保護条例の審査をクリア

病院情報システムの導入にあたっては,南診療部長を長として,病院の情報システムを管理する企画運営部情報グループや院内各部署の責任者から構成されるシステム委員会が中心となり,仕様の検討などを行った。クラウドについては,事前にデータセンターの堅牢性やセキュリティなどの信頼性,ガイドラインなどに準拠したシステム構築の実績などを考慮し,条件をクリアした4社が入札に参加,オンプレミスのサーバ構築とクラウドの5年間の使用料を想定した費用を算出した金額を含めて検討し,横河医療ソリューションズの選定に至った。時田技師は,「データセンターの堅牢性やセキュリティなど安全性と同時に,初期投資やランニングコストを含めて検討を行いました。ShadeQuest/Unlimitedは,院内のPACSを含めたトータルの運用性と,データセンターがNTT西日本という安心感がありました」と選定経過を述べている。
同院は市の管轄する機関として,診療情報の管理は長崎市の定める個人情報保護法に従うが,同法では診療情報の外部保存が想定されていなかったため,クラウドの導入にあたっては,市が設置する個人情報保護審議会の審査をクリアする必要があった。審査前には3か月前から資料作成を行い,あらかじめ院内でのシステム委員長による疑問出しを行って不明点をクリアにして,審議会に臨んだ。審議会では,データセンターの設置地域や費用,情報漏洩事例の有無などの質問が出たという。企画運営部で医療情報システムの運用・管理を担当する情報グループの富田浩司リーダーは,「審議会では,診療情報をクラウド化することの公益性とセキュリティがポイントになり,公益性については,クラウドによるバックアップが災害時のBCP対策に有用であると判断されました。セキュリティについては,データセンターとは専用線による暗号化をかけた1対1通信を行っていることを説明しました。最終的には,福井県済生会病院や神戸大学でクラウドを利用したシステムを構築し,3省4ガイドラインに則り運用されている事例があることなどを含めて評価されて審議をクリアすることができました」と経緯を説明する。

将来のスケールアップを見据えクラウドサーバによる可用性の高い運用を実現

院内には30TBの画像サーバを設置。クラウド利用による柔軟な構成とBCP対策を含めた運用を行う。

院内には30TBの画像サーバを設置。クラウド利用による柔軟な構成とBCP対策を含めた運用を行う。

同院では院内のPACSサーバ(30TB)に加えてクラウドに20TBの容量を持ち,データのバックアップを中心に運用している。現時点ではクラウド側のデータは,オンプレミスに保存されたデータのバックアップであり,読影の際にはクラウド側のサーバを参照するケースはなく,日常診療の中では運用に大きな変化はない。将来的には院内のサーバの容量が不足する場合には古いデータからクラウドのサーバに移行されるが,その場合でも表示スピードは変わらないという。さらに,同院ではER型の救急医療に取り組むなど,24時間365日のシステム運用が求められるが,クラウドを利用することで院内のサーバのトラブルやメンテナンスなどの場合にも99.9999%の稼働率を実現している。時田技師は,「災害時だけでなくクラウドを有効に利用することで,院内の運用性を高められることもクラウド化のメリットの1つです」と説明する。
クラウドのコストについて西田部長は,「電子カルテを含めたクラウド化によって,リスク管理と同時にできるだけコストを抑えたいというのが病院側の希望です。ランニングコストを含めて,ソフトウエアにかかるコストが大きいのが悩みの種であり,今後クラウドの普及や仮想化など技術の発展で価格が下がることを期待しています」と述べる。南診療部長は,「電子カルテシステムの更新が2019年の予定ですが,その時にはサーバを含めた仮想化が進み,もっとスリムでコストを抑えたシステムの構成が可能になるのではと期待しています。クラウドに関しても医療分野での導入事例が増えることで利用コストが下がり,高度な技術を安価に利用できるような環境が整ってくると考えています」と,今後の技術の進歩と普及によるコストダウンに期待する。

PACS,RIS,レポートの統合で運用性と使い勝手を向上

放射線科では,以前から横河医療ソリューションズのレポートシステム,放射線情報システム(RIS),治療RISを利用していたが,新病院ではPACSについても「ShadeQuest」にリプレイス。クラウドを含めてすべて横河医療ソリューションズ製となり,統合された環境での画像診断が可能になった。新病院でのPACSの運用について,南診療部長は,「PACSとRISが統合されたことによって,細かな連携を含めて使い勝手が向上しました。従来は,ベンダーが異なっていたため,要望通りいかないケースがありました。横河医療ソリューションズのレポートシステムは15年以上の稼働実績があり,開発やサポート体制などでも安心感があります」と述べる。
また,読影ではShadeQuestの機能の1つであるマトリックスビューを利用している。マトリックスビューでは,内視鏡画像,病理画像とレポート,心電図,汎用(非DICOM)画像,生理検査など院内の他の部門システムを,患者ごとの時系列表示されたサムネイルから直接参照することが可能だ。福田主任診療部長は,「例えば,放射線科では読影レポートの結果が正しかったかどうか病理検査の結果を参照したり,注腸造影や胃透視撮影などを行う前に内視鏡検査の画像を確認するというケースがありますが,以前は電子カルテから部門システムを参照する必要があり手間がかかっていました。マトリックスビューであれば,患者の検査一覧のサムネイルをクリックして直接参照することが可能で,素早く簡単に必要な情報にアクセスできます」と使い勝手を評価する。

クラウドの画像情報をベースにして地域医療連携へ展開

放射線科受付

放射線科受付

西田部長は,これからの地域連携の方向性と同院の役割について次のように語る。
「今後の新しい地域医療計画の中では,都道府県主導で“地域医療ビジョン”の策定が求められますが,長崎地区においては,大学病院や当院も含めて医療機関の地域での役割分担を改めて見直すことが必要です。これからの介護や福祉も包括した医療サービスの提供には,地域において基幹病院から開業医まで診療情報を共有できる地域医療連携ネットワークの役割が大きくなってきます。当院としても,そういった連携ネットワークとの連携を中核にして,公的病院としての医療提供のあり方を考えていくことが必要でしょう」
長崎地域においても,開業医と基幹病院でカルテ情報を共有する地域医療ネットワークが運用されており,同院も情報提供側の基幹病院として参加しているが,南診療部長は,クラウドを利用した画像情報システムの発展は,地域医療連携の中で画像情報のさらなる活用につながると言う。
「地域医療連携が進めば,カルテの情報だけではなく,より詳細な診療データが必要とされてきます。地域のネットワークと連携しながら,クラウドのメリットを生かした画像情報システムを構築していけば,双方のシステムの良さを生かした相乗効果が期待できます。長崎地区においてモデルケースとなるように,今後検討を進めたいと考えています」
そのほか,南診療部長はクラウドを利用した発展の可能性として,救急医療での情報共有,病理画像の遠隔医療システムなどを挙げ,「院内のデータを外部に保存するだけでは病院としてのメリットは限定的です。クラウドという環境を利用して,病院としていかに付加価値のあるサービスを提供できるかが今後の課題になると考えます。当院としても,地域の中核自治体病院として,今後,さまざまなサービスを提供できるように進められるといいですね」とビジョンを述べている。
世界を視野に新たなスタートを切った長崎みなとメディカルセンター 市民病院。地域の中で大きな役割を担う同院の診療を支えるライフラインとしてクラウドPACSへの期待は大きい。

(2014年7月18日取材)

 

長崎みなとメディカルセンター 市民病院

長崎みなとメディカルセンター 市民病院
住 所:〒850-8555  長崎市新地町6-39
TEL:095-822-3251
URL: http://shibyo.nmh.jp/
病床数:364床(2016年グランドオープン時には513床)
診療科目:内科,呼吸器内科,心臓血管内科,消化器内科,糖尿病代謝内科,脳神経内科,心療内科,精神科,緩和ケア外科,産科・婦人科,新生児小児科,小児科,小児外科,外科,消化器外科,心臓血管外科,呼吸器外科,乳腺・内分泌外科,肛門外科,整形外科,形成外科,脳神経外科,麻酔科,放射線科,皮膚科,泌尿器科,眼科,耳鼻咽喉科, リハビリテーション科,臨床腫瘍科,病理診断科,救急科

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