放射線治療データ管理システム「ARIA」× 関西労災病院
放射線治療の患者情報からワークフローの管理までシームレスな情報管理システムを構築 ─ケアパスによる進捗管理で正確で安全な治療を実施し,がんセンターの集学的治療をサポート

2015-4-1

バリアンメディカルシステムズ

放射線治療


放射線治療センターでは放射線治療データ管理システム「ARIA」を導入

放射線治療センターでは放射線治療データ管理システム
「ARIA」を導入

兵庫県尼崎市の関西労災病院は,阪神圏の“勤労者医療”を担うと同時に,地域医療支援病院として高度な医療を提供し,地域での中核的な役割を果たしている。同院は,2014年4月に新たに“がんセンター”を開設し,地域がん診療連携拠点病院としての体制を整えた。その中核となる放射線治療部門では,高精度放射線治療装置(リニアック)にバリアンメディカルシステムズの「TrueBeam」を2台導入。同時に,放射線治療データ管理システムである「ARIA(アリア)」によるシームレスな治療データの共有,連携の環境を構築し,高精度治療の正確,安全かつ効率的な運用を実施している。ARIAを中心とした放射線治療情報管理の現況について,放射線治療部門のスタッフに取材した。

組織を横断した統合的な診療を行うがんセンターを開設

関西労災病院のがんセンターは,がんに対する集学的な治療を提供するための施設として2014年4月にオープンした。1階はリニアック,ガンマナイフなどを備えた放射線治療センターとなっており,2階部分にがん相談支援センターやカンファレンス室などが設けられている。同院では,2007年に地域がん診療連携拠点病院に指定されたことを受けて,放射線治療,化学療法,緩和ケアの専門部門と,組織を横断し臓器別に症例検討を行うキャンサーボードの設置など院内の診療体制を整え,がん治療機能の充実を図ってきた。がんセンターにはがん相談支援センターなども設けられ,手術療法,抗がん剤治療,放射線治療などの高度ながん治療を組み合わせた質の高い集学的な治療の提供と,がん患者の支援を含めたトータルなサポート体制が整った。がんセンターの役割について,放射線治療科の香川一史部長は次のように述べる。
「当院のがんセンターの特徴は,がん診療に特化した専門施設ではなく,一般内科を含めた総合的な診療を提供できる体制がバックグラウンドにあることです。がんセンターは,医師,看護師,薬剤師だけでなく,診療放射線技師や医療クラークなど,がん治療にかかわるさまざまな職種のスタッフが集まり,がん患者さんに対して,診断や治療だけでなくさまざまな面からサポートする“よろず相談所”のような場所,組織として機能することが目標です」
がんセンターでは,キャンサーボードを中心に臓器別のカンファレンスが開かれている。放射線治療科では,食道がん,肺がん,婦人科がん,頭頸部がんについては定期的に出席している。がんセンターにおける放射線治療部門の役割について香川部長は,「がん診療に対して,診療科を横断して関与できるのは放射線治療科だけですので,がんセンターで開かれる各科のカンファレンスにもできるだけ参加して,患者さんにとってより良い治療が提供できるようなアドバイスを行い,各部署との連携を深めています」と述べる。

香川一史 放射線治療科部長

香川一史
放射線治療科部長

鳥巣健二 中央放射線部部長

鳥巣健二
中央放射線部部長

三輪大介 中央放射線部主任

三輪大介
中央放射線部主任

薮田和利 放射線治療品質管理室室長

薮田和利
放射線治療品質管理室室長

 

がん治療の要として高精度で安全な放射線治療を提供

1977年にスタートした同院の放射線治療は年々件数が増加し,近年はガンマナイフを合わせて年間700件以上になっており,患者の増加に対応できる体制が望まれていた。がんセンター1階に新設された放射線治療センターには,リニアック2台とガンマナイフ,治療計画用CTが入り,処置室,診察室を含めてワンフロアにレイアウトされ,安全で効率的な治療が行えるようになっている。スタッフは,放射線治療専門医が常勤2名,大阪大学からの非常勤5名,専属の常勤看護師2名,治療専任の診療放射線技師7名,医学物理士1名,クラーク1名(計18名)で構成されている(放射線品質管理士は兼任で2名配置)。中央放射線部の鳥巣健二部長は,「治療専任の技師の配置など,スタッフは比較的充実した体制になっていますが,当院では安全な放射線治療の提供のため,リニアック1台を必ず技師2名で担当する体制をとっており,まだ十分な人数とは言えません」と述べる。
センターでは,リニアックのTrueBeam2台(1台は2015年7月稼働予定),放射線治療計画システム「Eclipse」,放射線治療データ管理システムARIAを導入し,放射線治療領域でバリアンメディカルシステムズ(以下,バリアン社)と提携するシーメンス社製の治療計画用CT「SOMATOM Definition AS」を含めて,すべてバリアン社が提供するシステムで構築されている。バリアン社の放射線治療装置およびシステムの導入に至った理由について香川部長は,「特定の部位や疾患に限定するのではなく,より広い領域のさまざまながんに対して,標準的な治療を正確に効率良く行える体制をめざしました。現在の放射線治療は,定位放射線治療(SRT),強度変調放射線治療(IMRT),画像誘導放射線治療(IGRT)などが必須となっており,それらの高精度治療を効率的に正確に行えるリニアックとしてTrueBeamを選定しました。2台で違う機種を導入する考え方もありますが,増え続ける治療件数に対応するため,同じ機種にすることでさらに効率や安全性を高めることがねらいです」と述べる。

放射線治療の情報をシームレスに管理するARIA

放射線治療部門のデータ管理システムとして導入されたARIAは,治療患者のデータ管理,治療計画の画像参照,薬剤のオーダ機能など,放射線治療を中心にがん疾患のデータ管理や診療支援の機能を持ち,欧米では“治療部門の電子カルテ”として利用されている。一方で,日本語に未対応だったため,国内では主として放射線治療の実施情報管理の機能を中心に利用されてきた。今回,バリアン社では日本語化と電子カルテシステムとの連携などのローカライズを本格的に進め,関西労災病院が日本での最初の導入病院となった。
ARIAを導入した理由について中央放射線部の三輪大介主任は,「今回の放射線治療部門の構築では,高精度化する放射線治療に将来にわたって対応できる治療装置の導入を優先した部分があり,いわゆる“治療RIS”を単独で構築することができませんでした。その中で,バリアン社のARIAが日本語に対応した治療RISの機能を持つようになったことから,放射線治療部門の情報管理システムとして導入しました」と説明する。
ARIAでは,治療対象の患者情報の管理,患者ごとのスケジュール管理(ケアパス機能),計画CTのオーダ,照射記録の作成と管理などが行える。リニアックから放射線治療計画システム,バリアン社と提携するシーメンス社の治療計画用CTまで,放射線治療に関連するあらゆる情報をARIAによって統合管理することが可能になった。放射線治療品質管理室の薮田和利室長(医学物理士,放射線治療専門技師)は,「治療RISは,メーカーの異なる機器やシステムの情報を,日本の放射線治療に合わせて統合するシステムとして構築されていますが,ARIAでは,バリアン1社のシステムの中での情報のやりとりであり,データベースが二重化されることもないため,誤入力やデータの抜け落ちのない信頼性の高いシステムが構築できています。治療計画から照射情報の管理まで,シームレスに情報の管理が可能になりました」と述べる。
ARIAの端末は,リニアックの操作や治療計画などを行う操作室のほか,診察室,看護指導室,受付,CT操作室などに16台が設置されている(システム概要図参照)。ARIAでは,治療計画システムのEclipseがシステムに統合されており,ネットワーク上の6台の端末で利用できるようになっている。従来のように,治療計画システムとRISなど,システムごとに複数のモニタを並べる必要がなく,シンプルな構成が可能になった。薮田室長は,「ARIAの端末で,治療計画システムからレポート,画像参照までの機能をシームレスに利用できます。治療データや治療計画画像の参照などが可能になり,ペーパーレスの運用が容易になりました」と評価する。
電子カルテシステムとの連携では,今回は富士通の「HOPE EGMAIN-GX」と接続した。薮田室長は,「日本語対応になったことと同時に,病院の電子カルテシステムとの連携が確立されたことで,ARIAへの入力だけでオーダや請求情報などが反映されるようになり,治療RISと同様な環境が構築できています」と,ARIAのメリットを説明する。

関西労災病院放射線治療データ管理システム「ARIA」概要図

関西労災病院放射線治療データ管理システム「ARIA」概要図

 

ARIAでは1台の端末で治療業務に必要なさまざまな情報を参照可能。操作室の60インチモニタではARIAの情報を表示してスタッフが共有できる。

ARIAでは1台の端末で治療業務に必要なさまざまな情報を参照可能。操作室の60インチモニタではARIAの情報を表示してスタッフが共有できる。

操作室での治療計画システムとして利用。左は電子カルテ端末。

操作室での治療計画システムとして利用。左は電子カルテ端末。

   
診察室では毎回の位置決め画像を参照して医師が確認する。

診察室では毎回の位置決め画像を参照して医師が確認する。

 

 

放射線治療のワークフローを管理するケアパスを運用

ARIAのひとつの特徴が“ケアパス”の機能である。ケアパスは,治療目的や部位,疾患ごとに放射線治療のワークフローをあらかじめ作成し,それを治療患者に合わせて適用することで,スケジュールを管理する機能だ。放射線治療の進捗管理に特化した“クリニカルパス”とも言える。同院では,部位,疾患,ステージ,治療目的ごとに,現在,200を超えるテンプレートが作成されている。香川部長はケアパスの運用について,「標準的なパターンを作成しておき,後は患者さんに合わせて修正して使っています。ケアパスを最初に適応しておけば,ARIAの画面に必要なタイミングでタスクが表示されます。1つのタスクをクリアしなければ次に進めないようになっていたり,期限までに終了していなければアラートが出るなど,ミスを防ぎ,必要なプロセスを踏んで治療が行えるようにサポートしてくれます」と説明する。
ケアパスでは,治療の開始から治療計画の作成と検証,照射,レポート作成などのスケジュールを作成できる。診察や照射といった業務だけでなく,医師であれば照射オーダの入力,毎回の位置決め画像の承認,診療放射線技師/医学物理士の固定具の作成,CTセットアップ,治療計画の検証,照合など,看護師/事務の診療予約や患者への説明といった,関連するスタッフのタスクを含めて細かく設定することが可能だ。薮田室長は,「ケアパスの作成では,クリニカルの部分と治療のために必要なさまざまな準備や作業を組み合せて,一連の流れになるように香川部長と協議しながら構築しました」と述べる。ケアパスの有用性について香川部長は,「多くの患者さんの治療を並行して進める中で,適切なタイミングで必要なタスクを確認でき,作業の“見える化”に役立っています。治療にかかわるスタッフが進捗状況やプロセスを共有できることで,安全で効率的な治療を進めることができます」と述べる。
同院では,操作室に60インチの大型モニタを設置し,ARIAのケアパスや当日実施するタスクリストなどの画面を表示して,技師や看護師などのスタッフが進捗状況などの情報を共有できるようにしている。また,治療の受付状況はバーコードを使って患者の到着と本人確認を行い,チェックされた情報はARIAでリアルタイムに更新され,モニタ上で現在の状況を確認できる。中央放射線部の樽谷和雄技師は,「ARIAでは,ケアパスのワークフローや患者の受付状況などの情報を視覚的に表示して,リアルタイムにわかりやすく,スタッフ全員が情報共有できることがメリットです」と述べる。

■ケアパスによる放射線治療のワークフロー管理

ケアパスのフローチャート表示。職種ごとに時系列にタスクが表示され進捗を管理。

ケアパスのフローチャート表示。職種ごとに時系列にタスクが表示され進捗を管理。

タスクを一覧から選んで担当者が実施することでミスを防止

タスクを一覧から選んで担当者が実施することでミスを防止

 

IMRT,VMATなど高精度治療に対応するTrueBeam

同院の1台目のTrueBeamは,2014年8月から治療を開始した。TrueBeamは,現在の放射線治療で要求される,SRTやIMRTなどの高精度治療を,安全かつ効率的に提供できる医療用直線加速器である。TrueBeamによる治療について香川部長は,「TrueBeamでは,治療寝台上でコーンビームCTを撮影する画像誘導の照射によって,手間と時間をかけずに確実にターゲットに合わせた正確な治療が行えます。また,フラットニングフィルターフリー(Flattening Filter Free:FFF)モードの高線量率によって高精度で効率的な照射が可能です」と述べる。TrueBeamのFFFモードでは,6MVで最高1400MU/min,10MVで最高2400MU/minという高線量率の照射が可能だ。
TrueBeamは次世代のハイエンド高精度放射線治療装置として新たに開発されており,薮田室長は,「ハードウエアだけでなく,ソフトウエアとの連携がスムーズで,シンプルな操作性と併せて,安全で精度の高い治療が行える設計になっています」と評価する。
同院では,2015年1月から回転型強度変調放射線治療(Volumetric Modulated Arc Therapy:VMAT)を,前立腺がんに対する照射からスタートした。VMATは,回転しながらIMRTを行うことで,より短時間で効果的な治療が可能になる。治療時間についてはIMRTの半分程度まで短縮できる見込みで,薮田室長は,「照射時間が短くなることで患者さんの負担も少なくなりますし,1日の治療件数も増やすことができます。将来的にはVMATの適応をもっと増やせるように検証を進めています」と説明する。

放射線治療センターに導入されたバリアンメディカルシステムズの高精度放射線治療装置「TrueBeam」

放射線治療センターに導入されたバリアンメディカルシステムズの高精度放射線治療装置「TrueBeam」

次の操作をサジェスチョンするナビゲーションシステムを搭載したTrueBeamのコンソール

次の操作をサジェスチョンするナビゲーションシステムを搭載したTrueBeamのコンソール

 

がんセンターを中心に病院の総合力でがん医療に対応

ARIAへの今後の要望として薮田室長は,「現状は患者名はローマ字表示で運用されていますが,日本語で表示できれば,漢字からのイメージでより直感的に患者さんを把握でき,取り違えなどのリスクを減らせます。そういった意味でも,患者名の日本語への対応を期待しています」と述べる。バリアン社では,ARIAの日本の放射線治療業務のワークフローへのさらなる対応を進めており,近く実現する予定だ。
香川部長は,がんセンターの今後の取り組みを含めて,システムへの期待を次のように述べる。「当センターの特徴は,放射線治療だけでなく,手術から化学療法,必要であれば緩和ケアまで総合的に対応できることです。また,がん関連の診療科だけでなく,循環器科や腎臓内科,糖尿病内科など,通常のがんセンターにはない診療科のサポートを受けながら治療が行えることも大きなアドバンテージです。そのためには,放射線治療の情報に関しても院内の各診療科が利用できるように,オープンにすることが必要です。ARIAでは,Web形式で治療実施情報の配信も可能ですが,院内の診療科が電子カルテ端末などから放射線治療のもう少し詳しい情報にアクセスできるように展開していきたいですね」
阪神圏のがん医療を支える地域がん診療連携拠点病院として,関西労災病院への地域の期待は大きい。がんセンターの中核となる放射線治療部門の高精度放射線治療を最新のデータ管理システムが支えていく。

(2015年1月26日取材)

 

 

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