AlluraClarity FD20 × 京都府立医科大学附属病院
「AlluraClarity FD20」を中心にしたハイブリッドORが可能にした低侵襲で高度なインターベンション─充実したアプリケーションを活用し,「世界トップレベルの医療を地域へ」提供

2016-5-1

フィリップス・ジャパン

X線装置

ハイブリッド手術室


AlluraClarity FD20が導入されたハイブリッドOR

AlluraClarity FD20が導入されたハイブリッドOR

京都府立医科大学附属病院は,「世界トップレベルの医療を地域へ」という理念の下,研究・教育機関,地域中核病院としての使命を担ってきた。心臓血管外科でも最先端の治療法に取り組み,腹部・胸部の大動脈ステントグラフト挿入術は500例以上の実績を有している。さらに,2015年4月には,近年ニーズが高まっている心構造疾患(structural heart disease:SHD)のインターベンションを行うため,ハイブリッドORを設置した。中心となる血管撮影装置には,フィリップスエレクトロニクスジャパン(以下,フィリップス)の「AlluraClarity FD20」を採用。ハイブリッドOR向けのアプリケーションを活用して,1年間で約60例の手技を行ってきた。
その使用経験について心臓血管低侵襲治療学講座の岡 克彦学内講師に取材した。

世界トップレベルの医療を地域へ提供する大学病院

岡 克彦 学内講師

岡 克彦 学内講師

京都府立医科大学附属病院の歴史は,1872(明治5)年に,京都市東山区粟田口にある天台宗の寺院,青蓮院内に設置された京都療病院にまで遡る。京都府民のための医療機関として生まれた同院は,京都初の近代病院であり,ドイツやオランダから医師を招へいして,当時最先端の西洋医学を取り入れてきた。1879(明治12)年には医学校が併設され,翌年には上京区の現在地に移転。医学校は,1921(大正10)年に京都府立医科大学となった。さらに,京都療病院は,1951(昭和26)年に現在の京都府立医科大学附属病院とへ改称し,病床数1065床,診療科目36科を有する特定機能病院として今日に至っている。
京都療病院設立時から,最先端の西洋医学を取り入れてきたDNAは,140年以上経った現代にも受け継がれている。大学病院となった今も,「世界トップレベルの医療を地域へ」を理念に掲げ,研究・教育機関の役割を担いつつ,地域中核病院として京都府民に高度医療を提供している。
心臓血管外科においても,高度かつ最新の治療方法を取り入れた診療を提供している。京都府立医科大学の心臓血管・小児心臓血管外科学部門は,成人心臓血管外科と小児心臓血管外科で構成され,大学病院の心臓血管外科では成人の心疾患を対象とし,附属小児疾患研究施設(京都府こども病院)では,小児の先天性心疾患の外科治療を行っている。さらに,成人心臓血管外科は,外科治療を行う成人心臓グループと,血管内治療などを行う血管グループで構成されている。成人心臓グループでは,人工心肺による体外循環を行わない心拍動下冠動脈バイパス術をほかの医療機関に先駆けて施行し,現在では2000例を超える国内有数の実績を誇っている。さらに,血管グループは,2001年から腹部や胸部の大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術を手がけ,これまでに500例に及ぶ実績を上げており,低侵襲で患者QOLの向上に結びつく治療法を積極的に導入してきた。
他施設での経験も含め,これまで約1700例のステントグラフト内挿術を行ってきた岡学内講師は,「2001年当時は,まだ保険適用されておらず,ステントグラフトを自作するなどしながら症例を積み重ねてきました。その後,2007年に腹部大動脈瘤ステントグラフト内挿術(endovascular aortic repair:EVAR),2008年に胸部大動脈瘤ステントグラフト内挿術(thoracic endovascular aortic repair:TEVAR)が保険適用となったことで企業製のデバイスが普及していき,当院でも症例数を伸ばしています」と述べる。岡学内講師自身も長年の経験の中で,安全かつ高い精度の手技を確立した。このようにして治療実績を伸ばしてきた同院では,新たな治療法にも取り組んでいくために,血管撮影装置にフィリップスの「AlluraClarity FD20」を採用したハイブリッドORを,2015年4月から稼働させた。

ハイブリッドORに適したAlluraClarity FD20

京都府立医科大学附属病院の心臓血管外科では外科用モバイルCアーム装置を導入し,EVARやTEVARにおいても,長年にわたり使用してきた。しかし,近年,心臓領域における治療技術は高度化しており,SHDに対するインターベンションのニーズが高まっている。2013年10月に経カテーテル大動脈弁留置術(transcatheter aortic valve implantation:TAVI)/経カテーテル大動脈弁置換術(transcatheter aortic valve replacement:TAVR)が保険適用となり,インターベンションによる低侵襲な大動脈弁狭窄症の治療が可能となった。このような難易度の高い手技では,外科用モバイルCアーム装置だと十分な対応ができない。特に,TAVI,TAVRは施設基準が厳格化されており,手技中にすぐに外科治療に移行できるように,ハイブリッドORで施行することが条件とされている。こうした背景から,同院でもハイブリッドORを設置することにしたと,岡学内講師は説明する。
「大動脈弁は加齢により硬化していくため,超高齢社会のわが国では,大動脈弁狭窄症の患者さんが増加しています。しかし,外科治療での大動脈弁置換術は高齢者にとってはリスクが高く,適応とならないケースがあり,低侵襲な治療法であるTAVI,TAVRのニーズは高くなっています。大学病院である当院としても,この新しい治療に取り組んでいくことが重要と考えました」
同院では,ハイブリッドORの構築に当たり,中心となる設備である血管撮影装置の選定を進めた。岡学内講師は,TAVI,TAVRなどの高度な治療を行うために血管撮影装置に求められる性能として,「最も重視するのは,『見たいものが見える』という画質です。加えて,手技中に角度を変えながら透視を行うので,Cアームやテーブルの機能,操作性もこだわりました。さらに,搭載しているアプリケーションも,選定時には大きな要素となりました」と話す。
選定に当たっては,複数のメーカーの装置が対象になったが,最終的には,画質に加え,ハイブリッドOR専用に設計されたCアームソリューション“FlexMove”を搭載し,テーブルにはマッケ・ジャパン(以下,マッケ)社製の「Magnus」を選択できるAlluraClarity FD20の採用が決まった。岡学内講師は,「画質,Cアームとテーブルなどのハードウエアに加え,TAVI,TAVRを支援する“HeartNavigator”をはじめ,“VesselNavigator”や“EchoNavigator”といったハイブリッドOR向けのアプリケーションが充実していることも,AlluraClarity FD20を採用した理由の一つです」と述べている。

テーブルの左右に配置されたFlexVision XL(右)と大型液晶モニタ(左)

テーブルの左右に配置されたFlexVision XL(右)と大型液晶モニタ(左)

 

テーブル前後の壁面にも大型液晶モニタを設置

テーブル前後の壁面にも大型液晶モニタを設置

 

マッケの手術室画像映像統合システム「TEGRIS」

マッケの手術室画像映像統合システム「TEGRIS」

 

ハイブリッドOR向けのアプリケーションが充実

2012年4月に国内展開を開始したAlluraClarity FD20は,フィリップスのハイエンドクラス血管撮影装置である。画質と被ばく低減を両立する革新的な技術である“ClarityIQ technology”を搭載。独自の画像処理技術と高性能プロセッサの採用により,動きによるノイズやアーチファクトを抑えて強調・シャープ処理を行い,視認性に優れた高画質の透視画像を得ることができる。また,体動やテーブルの移動にも追従して自動的に補正を行うことで,術者の手技を妨げることなく,リアルタイムで残像の少ない透視画像を提供する。加えて,“MRC X線管”により低被ばくでの撮影を実現する。
このAlluraClarity FD20をハイブリッドORで使用するためのソリューションがFlexMoveである。FlexMoveは,天井走行式のCアームにより床に支柱を設けないので,カートや麻酔装置,生体情報システムなど手術用の各種装置,ケーブルやチューブをテーブル周りに配置するのが容易であり,室内のスペースを有効に利用できる。また,天井走行式のCアームはケーブル類が内蔵されており可動域が広く,横手方向が260cm,長手方向が435.6cmまたは535.6cmとなっている。これにより手技に応じて,フレキシブルにCアームの位置を変更できるほか,外科治療時においてはアームを待避させて,手技の妨げにならない。さらに,ハイブリッドORで重要となる清潔な室内を保つための空調設備も,天井レール内側に最大320cm×320cmまでのユニットを設置できるようにした。
また,ハイブリッドORのインターベンションでは,大型のデバイスを使用するため,長さが300cm以上のテーブルが必要になるが,AlluraClarity FD20では,フィリップスの“Xper Table”に加えて,マッケのMagnusが選択できる。Magnusは手技に応じてマルチタイプに載せ替え可能で,AlluraClarity FD20とスムーズに連動して,安全かつ正確な手技を行える。
岡学内講師が選定理由に挙げたように,ハイブリッドOR向けのアプリケーションが充実しているのもAlluraClarity FD20のアドバンテージである。その一つVesselNavigatorは,EVARやTEVARにおいてCT・MR画像とのフュージョン画像による3Dロードマップを高精度で自動処理するアプリケーションである。従来の3Dロードマップは,術前の撮影においてターゲットになる血管を抽出して背景骨などを調整していたほか,手技中にも3D情報を得るために3D撮影を行っていた。VesselNavigatorを用いれば,手間のかかる画像処理や3D撮影が不要となり,2方向からの透視撮影だけで手技中の透視画像にCT・MR画像を重ね合わせて表示できる。ナビゲーション中,CT・MR画像はCアームやテーブルの動作,視野サイズの切り替えにも速やかに追従する。
EchoNavigatorは,手技中にリアルタイムで3D経食道超音波画像と透視画像を同期させて表示するフュージョン機能である。「EPIQ」シリーズや「CX50 xMatrix」といったフィリップスの超音波診断装置に対応しており,AlluraClarity FD20の透視画像上で経食道プローブを自動認識して位置を合わせ,フュージョンできる。モニタ上には,Cアームの角度(透視方向),経食道プローブ方向,任意の角度の超音波画像に加え,透視画像と超音波画像の重ね合わせの表示も可能。超音波画像上にマークしたポイントを透視画像に反映させられる。また,超音波診断装置に触れずにテーブルサイドで超音波画像の拡大などを操作できるので,手技を妨げることなく有用な情報が得られる。
TAVIやTAVRを支援するアプリケーションであるHeartNavigatorは,術前のCT画像から自動的に大動脈弁などの手技に必要となる3D解剖情報をセグメンテーションし透視画像にフュージョンして,デバイス留置のシミュレーションを行える。また,手技における最適なアングルを決めることができるほか,ロードマップ作成のための3D撮影が不要で,スムーズにフュージョン画像が得られる。
ハイブリッドORで行われるSHDインターベンションなどのインターベンションには難易度が高いものが多いだけに,このような手技支援アプリケーションが充実していることは,フィリップスの血管撮影装置の大きな強みだと言えるだろう。

低侵襲な治療を支援するVesselNavigator

心臓血管外科では,2015年4月にハイブリッドORが稼働してから1年間の間に約60症例の治療を行い,良好な治療成績を残している。TAVI,TAVRについては,一般社団法人日本循環器学会などが構成する経カテーテル的大動脈弁置換術関連学会協議会の施設認定を受けており,2016年度から実施する予定である。
通常の手技では,心臓血管外科医が3名,循環器内科医が2名,麻酔科医が1名,看護師2名,AlluraClarity FD20など装置の操作を行う臨床工学技士が2,3名の体制で行われる。多数のスタッフによるチーム医療で取り組む治療が良好な成績を収めているのは,ハイブリッドOR内での情報共有ができているためである。情報共有のためにフィリップスの天吊り式8メガピクセル58インチ高精細液晶モニタ「FlexVision XL」1台とそれに類する大型液晶モニタ1台をAlluraClarity FD20のテーブル両サイドに配置したほか,テーブル前後の壁面に大型液晶モニタを2台設置。透視画像やVesselNavigatorのフュージョン画像,CT・MR画像,生体情報,術野カメラ映像,室内映像などを表示できるようにした。これらのモニタへの画像配信は,手術室画像映像統合システムによって行われる。岡学内講師は「室内にいるすべてのスタッフが,すべての情報を見られるハイブリッドORにしたいと考えました。手技中は,それぞれのスタッフが異なった位置に立っています。モニタの透視画像などが見にくければ,操作に支障を来し,安全を確保できません。そのため,できるかぎり多くのモニタを配置する設計にしました」と,理由を説明する。このように,ハイブリッドOR内のあらゆる場所からスタッフが情報共有できるようにしたことで,意思の疎通が円滑になるとともに,医師,看護師,臨床工学技士それぞれの技術の向上,治療の安全性の確保に結びついている。
さらに,AlluraClarity FD20のアプリケーションも治療成績に貢献している。現在,岡学内講師らが主に使用しているのはVesselNavigatorで,ほぼ全例でフュージョン画像を参照しているという。
「実際の手技では,血管撮影装置の透視画像だけでは情報が不足しており,術前のCT画像などの情報が必要となります。特に,私たちにとって重要なのは,リアルタイムに透視画像とフュージョンすることです。VesselNavigatorでは,術前のCT画像やその画像を基に作成した輪郭だけのデータを透視画像に自動的に重ね合わせ,Cアームの動きに同期して展開するので,複雑な血管の分枝も容易に把握でき,手技を進める上で役立っています。そのため,何度も造影する必要がなくなりました。造影剤の使用量は以前メインで使用していた外科用モバイルCアーム装置と比較して,1/3程度にまで抑えられています。AlluraClarity FD20は,被ばく量を抑えても高画質が得られるので,造影剤量と被ばくの両方を低減した手技ができており,患者さんにとっても大きなメリットになっていると思います」
VesselNavigatorにより,高精度かつ低侵襲での治療が可能なことから,今後はSHDインターベンションの中で,EchoNavigatorを利用することも検討している。もともと岡学内講師自身が,透視画像と超音波画像とのフュージョンについてアイデアを持っており,フィリップスに相談するなどしてきた。そのため,EchoNavigatorには大きな期待を寄せている。岡学内講師は,「3D経食道超音波画像は手技中に撮像しており,リアルタイムで最新の状況を把握できるので,透視画像とフュージョンすれば非常に良いと思います。手技中,透視画像では見えない血管などがありますが,超音波画像でその情報を補うことができれば,さらに治療精度を上げることができます」と述べている。特にTAVI,TAVRでは,経食道超音波から得られる情報が多く,手技には欠かせないため,EchoNavigatorを積極的に使用することになると思われる。同様に,HeartNavigatorについても,TAVI,TAVRを行う上で,どのように利用していくか検討していく予定である。

症例1:VesselNavigatorによるステントグラフト内挿術のナビゲーション

症例1:VesselNavigatorによるステントグラフト内挿術のナビゲーション

 

EchoNavigatorの画像例(フィリップス提供)

EchoNavigatorの画像例(フィリップス提供)

 

SHDインターベンションの拡充を図る

京都府立医科大学附属病院心臓血管外科では,2016年度から本格的にTAVI,TAVRを行うこととしている。さらに,今後の展望としてSHDインターベンションを拡充していく予定であり,僧帽弁などへの施行も検討している。
心臓血管外科では,今後も最新の画像診断装置や医療機器,デバイスを取り入れながら,ハイブリッドORにおいて,「世界トップレベルの医療を地域へ」提供していく。

(2016年3月14日取材)

 

京都府立医科大学附属病院

京都府立医科大学附属病院
住 所:〒602-8566
京都市上京区河原町通広小路上る梶井町465
TEL:075-251-5111
病床数:1065床
診療科目:36科目
URL:http://www.h.kpu-m.ac.jp

フィリップス・ジャパン

X線装置

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