次世代の画像解析ソフトウェア(AZE)

2013年4月号

No.132 関節軟骨の質的評価のためのT1,T2,T1ρマッピングソフトウェアの開発

渡辺 淳也(帝京大学ちば総合医療センター 先進画像診断センター)

●背景

近年のMRI(magnetic resonance imaging)撮像技術の進歩に伴い,関節軟骨中の分子構造変化を鋭敏にとらえることが可能な新しいMRI評価法が臨床応用されつつある。軟骨のGAG(glycosaminoglycan)濃度を評価可能なdGEMRIC(delayed gadolinium enhanced magnetic resonance imaging for cartilage)1),コラーゲン配列や水分含有量の変化を評価可能なT2マッピング2),およびGAG濃度や水分含有量の評価が可能なT1ρマッピング3)などの質的MRI評価法は,従来困難であった軟骨変性の早期診断や,軟骨変性度の定量的評価に有用な方法として期待される。これらのMRI評価法では,T1,T2,T1ρなどの緩和時間を計測することで軟骨の質的評価を行うが,緩和時間の計測には,適切な撮像条件にて得られた画像データを,画像解析ソフトウェアを用いて処理することが必要となる。
最近の1.5T以上のMRIでは,緩和時間計測に必要な撮像シーケンスが利用できることが多いが,一方で緩和時間計算画像の作成や,結果を視覚化してプレゼンテーションするための簡便で有用な画像解析ソフトウェアがなく,これが質的MRI評価法が臨床検査として広く用いられるに至っていない理由のひとつと考えられる。
本稿では,AZE社と共同開発を行ってきた,画像解析ワークステーション「AZE VirtualPlace」に搭載予定の関節軟骨の質的MRI評価のためのソフトウェアを紹介する。

●画像解析ソフトウェアの機能

1.緩和時間の自動計算(図1)
開発されたソフトウェアは,解析時に自動的に撮像パラメータを取得し,T1,T2,T1ρなどの計算が行われる。また,計算値はオリジナル画像に重ね合わせてカラー表示される。特定のピクセル,またはROIを選択することで,その部分の信号強度の経時変化をグラフ化して確認することも可能である。さらに,緩和時間の計測では,微小な体動などにより,撮像時間の異なる画像間の位置ズレの補正が必要となることがあるが,本ソフトウェアでは画像間の位置ズレを自動的に補正し統合することで,より正確に計測が可能である(W.I.P.)。

図1 画像解析ソフトウェアのコンソール

図1 画像解析ソフトウェアのコンソール
a:T1ρマップ b:T2マップ
コンソール上には,関節軟骨の2D/3D緩和時間計算画像,MPR画像,ROI計測値,ROIヒストグラム,緩和グラフ等が表示される。カラーバーの赤色は緩和時間の長い変性部位を,青色は緩和時間の短い健常部位を示している。

 

2.‌軟骨部分の半自動抽出と軟骨厚の計測
本ソフトウェアは,軟骨の質的評価に必要な緩和時間の計算機能に加え,軟骨部分を半自動抽出し,軟骨の厚みや体積を計測する機能を有している。これにより,軟骨の形態的異常を視覚的に評価でき,また軟骨の体積を経時的に比較することで,摩耗の進行の評価が可能となる。

3.3Dモデルの作成(図2)
外来診療における患者説明では,評価結果の3D表示はきわめて説得力のある有効な手段である。本ソフトウェアでは,MPR機能により表示断面の軸を容易に変更できるため,任意のあらゆる断面で質的評価,形態評価を行い,プレゼンテーションすることが可能である。また,計測した各緩和時間や軟骨厚を,抽出した軟骨の3Dモデルに投影することにより,どの部位にどのような変性,形態異常を有するかを立体的に知ることが容易になる。

図2 軟骨の3Dモデル

図2 軟骨の3Dモデル
a:T1ρマップ b:T2マップ
緩和時間や厚さを表面に投影させた軟骨の3Dモデルは,任意の方向に回転し表示させることが可能であり,どの部位にどのような変性,形態異常を有するかを立体的に知ることが容易となる。カラーバーの赤色は緩和時間の長い変性部位を,青色は緩和時間の短い健常部位を示している。

 

●おわりに

関節軟骨の質的MRI評価法は,通常の一般的なMRI撮像法と組み合わせて用いることにより,軟骨の詳細な情報を非侵襲的に得られる。今後,変形性関節症に対する予防医学の発展や,軟骨損傷に対する再生医療技術の進歩などに伴い,関節軟骨の詳細なMRI診断の重要性は,さらに高まるものと考えられる。今回紹介した関節軟骨の質的MRI評価のためのソフトウェアは,操作が容易で,精度の高い評価を短時間で行うことが可能であり,軟骨評価の臨床的,研究的用途に有用であると考えられる。

●参考文献

1)Bashir, A., et al. : Nondestructive imaging of human cartilage glycosaminoglycan concentration by MRI. Magn. Reson. Med., 41, 857〜865, 1999.
2)Nieminen, M.T., et al. : T2 relaxation reveals spatial collagen architecture in articular cartilage ; A comparative quantitative MRI and polarized light microscopic study. Magn. Reson. Med., 46, 487〜493, 2001.
3)Wheaton, A.J., et al. : Correlation of T1rho with fixed charge density in cartilage. J. Magn. Reson. Imaging, 20, 519〜525, 2004.

【使用MRI装置】Discovery MR750 3.0T(GE社製)
【使用ワークステーション】AZE VirtualPlace(AZE社製)

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