次世代の画像解析ソフトウェア(AZE)

2016年5月号

No.169 MICS CABG術前における内胸動脈採取から3D計測とフュージョン機能を活用した3D支援画像ついて

金城 一史(社会医療法人友愛会 豊見城中央病院放射線技術科)山内 昭彦(社会医療法人友愛会 豊見城中央病院心臓血管外科)菊地 慶太(武漢アジア心臓病医院心臓外科)

はじめに

当院の心臓血管外科が2011年5月に開設してから2015年10月までに151症例のoff-pump coronary artery bypass grafting(OPCABG)が行われた。このうち1例(0.7%)の症例(LITA-LAD,Ao-SVG-D2)について,血糖管理に難渋し術後11日目に縦隔炎と診断され,開胸・洗浄・持続吸引療法を施行し,術後62日目に退院した経験から,大和成和病院(当時)の菊地慶太先生にご指導をいただきながら低侵襲心臓手術(minimally invasive cardiac surgery:MICS)による低侵襲冠動脈バイパス術(MICS CABG)1)〜3)を2015年1月より開始し,2015年12月までに7例のMICS CABGを施行した。
通常の開胸正中切開では骨を大きく切るため,骨髄からの出血や骨の癒合不全,さらには骨の感染(胸骨骨髄炎)という命にかかわる危険な合併症が生じる場合がまれに存在する。一方,MICS CABGの特徴として,(1) 骨をまったく切らない肋間皮膚切開の開胸術で胸骨骨髄炎の可能性は低い,(2) 入院期間も短く(従来の1/3),退院後に運動制限がない,(3) 上半身の荷重運動も問題ない状態で退院後の社会活動復帰が可能といった大きなメリットがある。

MICS CABG術前3D支援画像構築までの経緯

MICS CABGは,左胸部小切開開胸アプローチにより従来のOPCABGの質を維持しつつ体への負担を少なくして行う手技と,多枝バイパスによる完全血行再建術が可能なCABGであり,良好な長期予後を得ることが可能なCABGであるためMIDCABとは大きく異なる(図1)。
手術は左第4と第5肋間外側から楕円形(約8cm×6cm)の皮膚切開にてアプローチ(図2)するため,MICS CABGにおける内胸動脈剥離には通常の正中切開よりも慎重な操作を要する。開胸器をケント鉤にて必要な方向へ牽引することで視野は確保される。両側内胸動脈の採取にはハーモニックスカルぺル(最大長32cm)が使用され,両鎖骨下動脈分岐部から約2cm末梢部位までスケルトナイズ法にて剥離(動脈外側に残る一層の皮を剥ぐこと)して採取される。逆L字心膜切開および心膜牽引にて心臓を露出,冠動脈の視野展開を行い,OPCABGにて完遂される。
MICS CABGにおいて内胸動脈を安全に採取したいという思いと患者ニーズに応える一手段として,「AZE VirtualPlace雷神」(AZE社製)により3D-CTを用いた術前画像診断の工夫を行っているので報告する。

図1 MICS CABGとMIDCABの剥離限界点

図1 MICS CABGとMIDCABの剥離限界点

 

図2 実際のMICS CABG surgical viewとワークステーションによる3D surgical view

図2 実際のMICS CABG surgical viewとワークステーションによる3D surgical view

 

ワークステーションによる3D機能の活用画像

1.3Dマーキングの活用
内胸動脈単体の3D画像を作成することで血管のみの計測プロットが可能となり,中枢側と末梢側の剥離点を示すことで位置情報が明確化し,視認性に優れた3D支援画像になる4)図3)。MICS CABGの術前画像診断では,左鎖骨下動脈分岐部から剣状突起レベルまでの左内胸動脈(LITA)を抽出する(図4)。

図3 LITA 3Dマーキングと術中画像

図3 LITA 3Dマーキングと術中画像

 

図4 LAD中枢側支援画像と術中画像

図4 LAD中枢側支援画像と術中画像

 

2.フュージョン機能を使用した術前RITA-LADバイパスの3D画像
右内胸動脈(RITA)剥離は左肋間外側からのアプローチになるため,どうしても理想的な中枢側までの剥離が困難となる。そのため,3D画像による術前画像診断では,剥離限界となる中枢側から末梢側までの距離を3D上で計測するのではなく,剥離されるRITAの3D画像とバイパス予定冠動脈を直接フュージョン機能で重ね合わせることで,説得力のある画像を提示することができる(図5 b)。

図5 冠動脈疾患3枝病変に対するMICS CABGのRITA-LAD,I-graft(LITA+free GEA)-LCX#14-#4PD)

図5 冠動脈疾患3枝病変に対するMICS CABGのRITA-LAD,I-graft(LITA+free GEA)-LCX#14-#4PD)
「RITA-LADは可能か?」に対して3D画像で確認している。術後はフュージョン画像とほぼ同じ位置に吻合されていた。

 

まとめ

通常の正中切開にてLITAへアプローチした場合は,横隔神経と交差する辺りまでしか剥離できないが,MICS CABGでは左鎖骨下動脈から分岐する部位まで剥離可能となっている。
また,内胸動脈採取には太い第1肋間動脈の処理が重要とされるが,MICS CABGではLITAのすべての枝を処理することができるため非常に質の高い採取が可能であり,そのためにも3D-CTの血管走行画像は非常に重要と考える。
課題としてはLITA末梢側の剥離とRITA剥離における良好な視野確保がある。また,RITAの採取においては,ワークステーションによる3D surgeon’s viewによりRITA剥離点となる右腕頭静脈と上大静脈の合流点が,RITAと併走する右内胸静脈の分岐個所にもなっていることを把握することも重要であり,内胸静脈の撮影タイミングと3Dによる術前解析を検討している。

最後に

この手術の日本における先駆者である菊地先生が武漢アジア心臓病医院(中国)に手術指導として2016年から勤務していることで,MICS CABGが今後はアジアを含めた世界に広まる可能性がある。安全な内胸動脈剥離を行うには3Dでの走行確認と位置情報が必要不可欠であり,診療放射線技師が最も得意とする領域がこの手術には数多く存在している。今回紹介したようなワークステーションを活用した術前画像診断が,日本発の3D支援画像として世界に広まることを願う。

●参考文献
1)McGinn, J.T. Jr., Usman, S., Lapierre, H., et al. : Minimally invasive coronary artery bypass grafting ; Dual-center experience in 450 consecutive patients. Circulation, 120, S78〜S84, 2009.
2)Ruel, M., Shariff, M.A., Lapierre, H., et al. : Results of the Minimally Invasive Coronary Artery Bypass Grafting Angiographic Patency Study. J. Thorac. Cardiovasc. Surg., 147, 203〜208, 2014.
3)菊池慶太・他 : 左前胸部小切開にてオフポンプ3 枝MICS CABGを施行した1治験例. 日本冠疾患学会雑誌, 21・1, 32〜36, 2015.
4)横山泰孝, 森田照正 : MIDCABの術前3D-CTナビゲーション. INNERVISION, 29・4, 66〜67, 2014.

【使用CT装置】
Aquilion ONE/ViSION Edition(東芝社製)
【使用ワークステーション】
AZE VirtualPlace 雷神(AZE社製)

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