次世代の画像解析ソフトウェア(AZE)

2017年4月号

No. 180 ワークステーション搭載型ノイズ低減処理の物理評価

渡邊 翔太*1/河野 雄輝*2/小坂 浩之*2/山田 浩司*2/村上 卓道*1,2,3

はじめに

AZE社の開発したワークステーション搭載型ノイズ低減処理“iNoir”は,CTやMRIのDICOM画像を基にノイズマップを作成し,ノイズ低減処理に利用する方法を用いている。従来,filtered back projection(FBP)はCTにおける標準的な画像再構成方法として使用され,ノイズ低減処理としては量子フィルタなどのフィルタ処理が利用されてきた1)。一方,近年のCT装置には逐次近似再構成(iterative reconstruction:IR)法や逐次近似応用画像再構成(Hybrid IR)法が搭載され,被ばく低減や画質向上といった有用性が報告されている。しかし,これらの画像再構成方法は非線形な画像処理であり,空間分解能は画像ノイズ量や対象物のコントラストに依存する。また,contrast-to-noise ratio(CNR)と視覚評価は必ずしも一致しない。
AZE社の開発したiNoirは,IR法,Hybrid IR法と同様にノイズ低減を目的としているが,CT装置ではなく,ワークステーション搭載型である点,投影データは使用せず,DICOM画像を使用する点などを踏まえると,そのノイズ低減処理による影響はIR法やHybrid IR法と異なることが予想できる。そこで,本稿では,当院で使用しているHybrid IR法の一つとiNoirを比較しつつ物理評価を行ったので報告する。評価用ファントムには「マルチスライスCT評価用ファントムMHT型」(京都科学社製)の低コントラストファントムを使用し,画像計測にはCT画像計測プログラム「CTmeasure ver. 0.97b」2)を使用した。

CT値,standard deviation(SD)

Hybrid IR法,iNoir共に計測対象のCT値に変化は認めなかった。図1に,ノイズ低減処理強度(設定%)によるSDの変化を示す。iNoir,Hybrid IR法共に設定%が高くなるにつれSDは低下した。同一の設定%ではHybrid IR法がより低いSDを示した。また,撮影線量を変えてもSDの低減率は一定の値を示した。

図1 ノイズ低減処理によるSDへの影響

図1 ノイズ低減処理によるSDへの影響

 

noise power spectrum(NPS)

図2に,FBP画像に対してノイズ低減処理を加えた画像のNPS変化を示す。iNoirはHybrid IR 法と比較して低空間周波数領域でのノイズ低減効果を認めた。また,同等のSDとなるようにノイズ低減処理強度を調整した場合,低空間周波数領域ではiNoirのノイズ低減効果が大きく,高空間周波数領域ではHybrid IR法のノイズ低減効果がより大きいことがわかる(図3)。

図2 ノイズ低減処理によるNPS変化

図2 ノイズ低減処理によるNPS変化

 

図3 同等SDにおけるiNoirとHybrid IR法のNPS比較

図3 同等SDにおけるiNoirとHybrid IR法のNPS比較

 

CNR,low-contrast object specific CNR(CNRLO

低コントラスト検出能の評価指標としてCNRがよく使用されるが,ノイズの空間周波数成分が含まれていないため,IR画像においては必ずしも視覚評価と一致しない。そこで,IR画像の視覚評価に対してCNRよりも良い相関を示したと瓜倉ら3)が報告しているCNRLOを用いて,Hybrid IR法とiNoirを比較した。CNRLOは,低空間周波数領域のmodulation transfer function(MTF)がほぼ変化しないというIR法の特徴を利用した指標であるが,事前の検討によりiNoir,Hybrid IR法共にIR法と同様の特徴を確認できた。CNRLOの測定対象コントラストは,バックグラウンドとのCT値差15HU,直径5.0mmのものを対象とした。
図4に,ノイズ低減処理強度(設定%)によるCNR,CNRLOを示す。iNoirではノイズ低減処理強度が高まるにつれCNR,CNRLO共に高い値を示した。一方,Hybrid IR法ではノイズ低減処理強度が高まるにつれCNRは高くなるが,CNRLOはほぼ変化しなかった。また,視覚的にもHybrid IR法に比べ,iNoirでは5mm径の低コントラスト分解能が向上していることがわかる(図5上段)。さらに,CNRLOの値が等しい画像を比較すると,撮影線量を高めて撮影したFBPの画像と同等の画像をiNoirで取得できることがわかる(図5下段)。

図4 ノイズ低減処理強度によるCNR,CNRLOへの影響

図4 ノイズ低減処理強度によるCNR,CNRLOへの影響

 

図5 iNoir,Hybrid IR法による低コントラスト検出能への影響

図5 iNoir,Hybrid IR法による低コントラスト検出能への影響

 

iNoirは,Hybrid IR法では認められない低空間周波数領域におけるノイズ低減が可能であり,低コントラスト検出能の評価指標であるCNRLOの向上が確認できた。よって,低コントラスト検出能の向上や撮影線量低減が可能と考える。

●参考文献
1)塚越伸介 : 量子ノイズ低減化フィルタ(量子フィルタ)による低被ばく時の画質向上(ワークショップ─よりよい撮影技術を求めて(その73)─「腹部 CT 検査のエビデンスガイドライン」)(テーマB : CT「腹部 CT 検査のエビデンスガイドライン」). 放射線撮影分科会誌, 43, 42〜43, 2004.
2)Ichikawa, K. : CTmeasure. 2012〜2014.
http://www.jsct-tech.org/
3)Urikura, A., et al. : Objective assessment of low-contrast computed tomography images with iterative reconstruction. Phy. Med., 32・8, 992〜998, 2016.

【使用CT装置】
Discovery CT750 HD(GE社製)
【使用ワークステーション】
AZE VirtualPlace iNoir(AZE社製)

 

*1 近畿大学高度先端総合医療センターPET分子イメージング部
*2 近畿大学医学部附属病院中央放射線部
*3 近畿大学医学部放射線医学教室放射線診断学部門

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