Canon Clinical Report(キヤノンメディカルシステムズ)

2018年2月号

24時間365日、地域の高度急性期医療を支える自治体病院に導入された救急専用の80列CT 〜高速・高精細でワイドボアの利点を生かし脳卒中や救急外傷を迅速診断〜

荒尾市民病院

荒尾市民病院

 

熊本県北部、福岡県との県境に位置する荒尾市の荒尾市民病院は、急性期医療を担う自治体病院として24時間365日断らない救急医療の実践などで地域に貢献している。同院では、2017年12月、救急部門に設置していた16列CTをリプレイスして新たにキヤノンメディカルシステムズ(旧・東芝メディカルシステムズ)の80列CT「Aquilion Lightning/Helios Edition」を導入した。救急専従医師を配置し、高度で迅速な救急医療を展開する同院での80列CTの活用を取材した。

最新かつ最良の医療体制で地域完結型医療の提供をめざす

荒尾市民病院は、病床数274床(一般270、感染症4)、診療科25科で、1949年の開設以来、荒尾市唯一の急性期自治体病院として、また有明保健医療圏(荒尾市、玉名市など2市4町)の中核病院として診療を提供している。同院は「地域がん診療連携拠点病院(国指定)」であり、熊本県からは「脳卒中急性期拠点病院」「急性心筋梗塞急性期拠点病院」の指定を受け、「ハイケアユニット入院医療管理料」などの施設基準を満たしている。勝守高士院長は同院の診療について、「荒尾市の人口は5万3000人ですが、人口密度が高く病院と住民の距離が近いことが特徴です。診療では九州地区で初めてデルタ吻合を用いた腹腔鏡手術を導入するなど、最先端の医療環境を整えて地域完結型の医療を提供しています」と説明する。
中でも救急医療には力を入れており、2009年には熊本市以外では県内唯一の救急専従医師による救急部門を開設するなど体制の充実を図ってきた。救急科の専従医は2名で24時間365日の受け入れ体制を整えている。交通外傷、脳卒中、心筋梗塞などで年間の救急患者数は1万902人、救急車受入台数は2358台となっている(2016年度実績)。救急科の松園幸雅部長は同院での救急医療の展開について、「救急専従医師を中心に高度かつ迅速な救急医療を提供する体制をとっています。救急科を中心に各科と連携しつつ専門的かつ高度な診療を提供することが目的です」と述べる。

勝守高士 院長

勝守高士 院長

救急科:松園幸雅 部長

救急科:松園幸雅 部長

脳神経外科:水野隆正 部長

脳神経外科:水野隆正 部長

     
放射線技術科:堺 峰崇 技師長

放射線技術科:
堺 峰崇 技師長

同:中川愛美 技師

同:中川愛美 技師

 

 

救急専従医師、専用CTで24時間、365日の救急医療を提供

同院では、救急科を開設した2009年から16列CTを導入し、救急の初期診療に活用してきた。松園部長は救急でのCT検査について、「高度な救急医療の提供には、初期診療でのCTは必須の検査です。患者の状態を素早く把握できるというCTの利点を生かすには救急専用のCTが必要と考え、処置室と廊下を挟んだ場所に設置しました」と述べる。救急部門では、同じブロックに集中治療室(HCU)10 床を設け、救急や重症患者への高度で迅速な処置が可能な体制をとっている。
勝守院長は救急部門でのCTの運用について、「生活習慣病による血管系疾患の増加に伴って、救急医療も時間との勝負になっています。いかに早く診断をつけ根拠を持って治療に移行できるかが重要です。そのためには高精細で高速なCTが必須であり、今回のリプレイスにつながりました」と述べる。松園部長は80列CT導入のねらいを、「高精細で高速な撮影が可能になることで、救急医療のさらなる質の向上を期待しています。これまでクモ膜下出血など脳血管系の疾患では、放射線科にある64列CTまで院内を移動する必要がありましたが、80列になったことで血管系の診断を含めて救急部門で完結できるようになりました」と説明する。
リプレイスに当たっては院内に機器選定委員会を設け、CTメーカー5社からプレゼンテーションなどを含めて選定を行った。その中でAquilion Lightning/Helios Edition導入に至った経緯について放射線技術科の堺 峰崇技師長は、「救急用のCTということで交通外傷や脳疾患などへの臨床的優位性と、初期導入コストやランニングコストを含めてトータルに検討しました。他社からは高機能のハイエンド機種の提案もありましたが、キヤノンメディカルシステムズはCTのラインアップが豊富であり、80列でありながらランニングコストに優れる装置として、過剰投資にならず導入の目的に合った最適な選択ができました」と評価する。

80列CTの導入で血管系疾患への迅速なアプローチを実現

脳神経外科では、脳卒中急性期拠点病院として脳梗塞やクモ膜下出血などの疾患に対して、t-PAや外科的治療を迅速に提供できる体制をとっている。水野隆正部長は今回のリプレイスについて、「80列CTが救急部門に導入されたことで、脳動脈瘤や大動脈解離といった疾患の患者さんを移動させることなく迅速に検査することが可能になりました。脳動脈瘤など急性血管疾患では、移動するだけでリスクが高まりますので、その場ですぐにCTを撮影でき、状態を評価できるメリットは大きいです」と述べる。脳動脈瘤手術の際には3D画像による術前シミュレーションを行い、患部の位置、性状や周囲血管走行を確認しているが、Aquilion Lightning/Helios Editionでは、PUREViSION Opticsを採用し0.5mmの高速スキャンでより広い範囲を短時間に高精細な画像が取得できる。水野部長は、「画像の精度が上がり、より末梢まで血管が描出されるようになって、血腫や脳出血、腫瘍の位置を多面的に確認してアプローチできるようになりました」と評価する。
救急科では交通外傷などの撮影も数多く行っている。80列になったことで、1回のスキャンで広範囲を短時間でカバーすることが可能になった。松園部長は、「Aquilion Lightning/Helios Editionはガントリがコンパクトであると同時に、開口径が大きく挿管チューブを装着して呼吸管理している場合や人工呼吸など救命処置を行いながらの撮影といった場合でも安全に検査を進めることができるようになりました」と評価する。さらに、再構成処理によってFOVを通常の500mmから700mmに拡張できるオプションを搭載している。放射線技術科の中川愛美技師は、「挙上不可で撮影を行い後から上肢の画像が必要になった場合などに、再撮影することなく再構成で情報が得られることはメリットが大きいですね」と述べる。
そのほか、同院では警察依頼のAi(オートプシー・イメージング)も月3〜4件行っているが、この撮影についても「16列では骨盤部までの撮影でしたが、Aquilion Lightning/Helios Editionでは頭から足先までカバーでき、下肢の骨折部位が判断できるなどより多くの情報を提供できています」(堺技師長)とのことだ。

■Aquilion Lightning / Helios Editionによる臨床画像

図1 脳動脈瘤の頭部CTA(3D画像)

図1 脳動脈瘤の頭部CTA(3D画像)

 

図2 左股関節インプラント留置症例 a:SEMAR適用なし b:SEMAR適用あり

図2 左股関節インプラント留置症例
a:SEMAR適用なし b:SEMAR適用あり

 

図3 オートプシー・イメージング(Ai)での3D画像 80列によって下肢まで全身撮影が可能になった。

図3 オートプシー・イメージング(Ai)での3D画像
80列によって下肢まで全身撮影が可能になった。

 

操作性やSEMARなどの豊富な機能で救急検査をサポート

放射線技術科には、診療放射線技師14名が在籍する。救急の当直にはローテーションで対応している。CTのリプレイスについても、救急では当直で全員がCT検査を行うため、操作性の簡便さが求められた。堺技師長は、「メーカーが変わって操作性が異なることから、スタッフの操作トレーニングが間に合うか心配しましたが、日本語表記の使いやすいインターフェイスにより、ほぼ1日のトレーニングで基本的な検査については習得できました」と述べる。中川技師は、「操作性の良さだけでなく、再構成時間も短くなって高精細な画像が迅速に提供できています」と現状を説明する。また、16列CTからの変化として寝台の高さが低くなった点を評価する。「以前の機種は寝台が高く、ストレッチャーからの移乗に気をつかったり、小柄な方や高齢者は腰掛けるだけでも大変なところがありました。更新前の他社16列CTより寝台が20cmほど低いので負担やリスクが減ったとスタッフからも好評です」(中川技師)と述べる。
Aquilion Lightning/Helios Editionでは、金属アーチファクト低減技術の“SEMAR”が標準搭載されている。堺技師長はSEMARの適用について、「整形外科で人工関節が留置された症例では、インプラントによるアーチファクトがきれいに除去されています。他社製64列CTには同様の機能がないので、今後は整形外科領域で人工関節がある症例では機種指定でのオーダも増えてくると考えています」と述べる。また、被ばく低減については、逐次近似応用画像再構成技術である“AIDR 3D Enhanced”を適用しており、胸腹部領域では従来機種に比べて1/3〜1/2程度の線量で撮影が可能になっている。堺技師長は、「線量を落としても画質は従来と変わっていません。今後、さらなる線量の最適化をめざして各部位で検討を続けていく予定です」と述べる。CTの検査件数は2台で月800件、うち救急のCTは300件、1日では10件前後となっている。

2022年の新病院開院に向け診療内容のさらなる充実を図る

同院は、2017年に病院の建て替えが決定し、2022年6月の開院をめざして新病院建設のプロジェクトがスタートした。勝守院長は新病院について、「病院のリニューアルは長年の懸案でしたが、移転することなくこれまでと同様に住民の皆様に医療を提供することが決まりました。新病院では今後10年、20年先の変化に対応できる病院をめざします。当院は常に最新の技術を取り入れ最良の医療を提供することを心掛けてきました。この精神を忘れず今後も取り組んでいきたいですね」と抱負を述べる。
高度な医療に取り組み、地域になくてはならない病院として発展を続ける同院で80列CTのさらなる活用が期待される。

(2017年12月26日取材)

 

荒尾市民病院

荒尾市民病院
熊本県荒尾市荒尾2600
TEL 0968-63-1115

 

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