Canon Clinical Report(キヤノンメディカルシステムズ)

2023年9月号

限られた医療資源で質の高い医療を提供するため、PACS/RISをベースに診療情報の活用に取り組む 〜2病院一体運営のための名寄せ機能やレポート既読管理システムを活用して医療安全や情報共有を最適化〜

北見赤十字病院

左から長島正直 技師長、上林 実 副院長、中島 勲 課長

左から長島正直 技師長、上林 実 副院長、中島 勲 課長

 

北海道北見市の北見赤十字病院(荒川穣二院長、病床数532床)は、オホーツク三次医療圏の中核を担う医療機関である。隣接する北海道立北見病院の指定管理者として2病院の一体運営を行っているのも特徴だ。同院では、2021年12月にキヤノンメディカルシステムズのPACS「RapideyeCore」、RIS「RapideyeAgent」が稼働した。2病院間の情報連携のみならず、PACS/RISを中心に医療安全や業務の効率化などへのシステムの活用を進めている。限られた医療資源の中で、人の力を最大限に生かすためのシステム構築について、上林 実副院長、診療放射線科の長島正直技師長、中島 勲課長に取材した。

広大なオホーツク医療圏をカバーする急性期病院

オホーツク医療圏は、「北網」「遠紋」の二次医療圏からなる三次医療圏で、人口約27万人、面積は新潟県と同程度である。北見赤十字病院(以下、北見日赤)は、同医療圏の地方センター病院であり、3次救命救急センターを有し、地域がん診療連携拠点病院として高度医療を提供する。放射線診療については、CT2台、MRI2台(3T、1.5T)、血管撮影装置2台、PET-CT、放射線治療装置などをそろえ、放射線科の医師は丁子 清部長以下常勤診断医3名、治療医2名、診療放射線技師は33名となっている。
同院の課題は、少子高齢化による医師や医療スタッフなどの働き手不足だ。厚生労働省の二次医療圏の医師偏在指標では、北網135、遠紋115と全国平均(238.3)を大きく下回る。一方で、高齢化や人口減少は進むものの、2035年までは入院患者が増加すると見込まれており、限られた医療資源を活用して効率的で質の高い医療を提供するための体制づくりが求められている。同院では、2018年から隣接する北海道立北見病院(以下、道立北見)の指定管理者として2病院の一体運営を行っている。道立北見は、循環器・呼吸器領域の専門的診療を提供し、心臓血管外科がある圏域唯一の医療機関である。上林副院長は、「当院の役割は、オホーツク三次医療圏の最後の砦として、2病院が一体となって高度な急性期医療を提供していくことです」と述べる。

3名の放射線診断医が読影を担当

3名の放射線診断医が読影を担当

 

既読管理システムとLINE WORKSを連携して確認メッセージを送信

既読管理システムとLINE WORKSを
連携して確認メッセージを送信

 

患者IDの異なる2病院を統合的に管理するPACSを導入

PACS/RISの更新に当たっても、2病院の一体運営が効率的に行えるシステムが前提となった。PACSの更新について中島課長は、「2病院の電子カルテシステムや画像情報システムは、ベンダーの異なる別々のシステムが稼働していました。2024年には電子カルテシステムの更新に併せて、両病院の電子カルテと患者IDを統合する予定ですが、それまで患者IDの異なる2病院の画像情報を統合的に運用できるシステムが前提となりました」と述べる。両病院の建物は渡り廊下で連結されているが、医療法上は別施設となり紹介扱いとなって手続きが煩雑となっていた。また、心臓血管外科など道立北見にしかない診療科もあり、2病院での診療について上林副院長は、「救急は北見日赤で受け入れるので、検査の結果、道立北見で緊急手術が必要になった場合に、患者は渡り廊下で搬送しますが、検査データはDVDなどの媒体に保存してやりとりする必要がありました。ID統合までの期間を含めて、2つの病院の画像情報の迅速でシームレスな参照や共有が可能な方法を提案してくれたのがキヤノンメディカルシステムズでした」と説明する(図1)。
PACS/RISの更新は、最初に北見日赤のシステムを更新し、順次、道立北見のPACS/RISを他社製からRapideyeCore/RapideyeAgentに入れ替え、動画サーバも更新した。両病院の画像データの連携はゲートウェイサーバを介することで、他社製のPACSの画像情報の参照も可能にした。RapideyeCoreでは、患者IDの異なる施設間の検査データをIDを紐付けて同一患者として管理する「名寄せ機能」を提供している。名寄せアプリで名前や生年月日などから検索し、対象患者をピックアップして名寄せ登録することで、同一患者として管理を可能にする仕組みだ。これによって、違う施設での画像でも参照時には1つのビューワ上で比較読影が可能になる(図2)。

図1 RapideyeCoreによる2病院の画像連携システム概要図

図1 RapideyeCoreによる2病院の画像連携システム概要図

 

図2 RapideyeCoreのビューワでの2病院の画像情報の参照

図2 RapideyeCoreのビューワでの2病院の画像情報の参照

 

システムをベースにインシデントを防ぐ機能を開発

PACSの更新に当たって、同院が重視したのが、システム化による医療安全の向上や業務の効率化の機能だ。長島技師長は、「医療スタッフの充足率が低い中で、いかに効率良く業務を行い、良質な結果を得られるかを考えて運用してきました」と説明する。上林副院長は、「職種間のタスクシフトは進められていますが、働き手が不足している以上、人から人へのタスクシフトには限界があります。今後はいかにシステム化して、医療スタッフの判断や行動をサポートしていくかが重要です」と言う。
同院では、キヤノンメディカルシステムズのPACSの機能をベースに、全病院的な医療安全のためのシステム構築を進めている。そのきっかけとなったのが、RapideyeAgentの「インシデントチェッカー」だ。インシデントチェッカーは、画像検査の対象となる患者について、同意書の有無、アレルギーや禁忌薬などの情報を電子カルテなど院内の情報システムから収集し一覧表示することで、インシデントを抑制し安全な検査を支援する。長島技師長は、「画像検査前に必要な確認項目を集約し表示するシステムで、医療安全のためにも、また、業務効率化にも役立つ機能だと評価しました」と述べる。現在は、対象を病院全体に広げ同社の医療情報統合ビューワである「Abierto Cockpit」での開発を進めている。Abierto Cockpitは、患者の検査や治療の情報を時系列で統合し、職種や診療シーンによって最適な情報を表示する統合ビューワだ。長島技師長は、「これを利用して放射線検査だけでなく診療科や職種ごとに必要な情報を抽出し、情報共有やインシデントの防止に利用できるシステムを検討しています」と述べる。上林副院長は、「電子カルテ内にはさまざまな情報が記録されてはいますが、それを人が収集するには時間がかかります。これをシステムを使って、必要な時に、手間なく、見やすく提供できるようにすることで、より安全で質の高い診療が可能になることを期待しています」と述べる。

既読管理システムとLINE WORKSを連携

同院では、また、RapideyeCoreの「既読管理システム」とビジネスチャットアプリである「LINE WORKS」を連携した医療安全の取り組みも進めている(図3)。RapideyeCoreのレポートシステムでは、放射線科で作成した読影レポートを依頼医が確認したかどうか(未読・既読)について、ステータスを管理して所見の見落としを防止する。放射線科医がレポートを確定させる際に所見内容に応じて「通常」「注意」「至急」を選択するが、同院では注意と至急のレポートについては、確定と同時に依頼医と診療部長宛にLINE WORKSのメッセージが自動で送信されるようになっている。上林副院長は、「レポートの未読アラートを電子カルテに出す仕組みはありますが、一歩進めて依頼した医師に直接メッセージで確認を促す運用にしました」と説明する。LINE WORKSは、医師や医療スタッフの連絡や情報共有のツールとして活用している。上林副院長は、「地域連携でもLINE WORKSを活用していますが、スタッフ間の連絡や医師のスケジュール(予定)の共有や患者さんの情報共有がスムーズになり、フラットなやりとりでタスクシェアが可能になっています」と述べる。

図3 レポート既読管理システムのフロー

図3 レポート既読管理システムのフロー

 

地域の課題に共に取り組む“パートナーシップ”が重要

上林副院長は、PACSから始まったキヤノンメディカルシステムズとの連携について、「キャノンメディカルシステムズからは、当院の事情や地域の課題に向き合った提案をいただけるので大変助かっています。最新の機能が提供されることはもちろん重要ですが、今後のシステム開発では病院と企業の“パートナーシップ”が重要になると感じています」と語る。その上で上林副院長は、「当院が直面する広域の医療連携の必要性や少子高齢化による人材不足といった課題は、近未来の日本全国の医療の姿だと思います。今回のPACS/RISの更新で取り組んだ病院間の画像情報の統合参照や、人の判断や行動をサポートするデータの利活用の仕組みが、全国の病院や医療圏の参考となるようにさらに整備を進めていきたいです」と述べる。
デジタルツールを最大限に活用した同院のさまざまな取り組みが、これからの日本の医療の課題解決の見本となるに違いない。

(2023年7月4日取材)

* 記事内容はご経験や知見による、ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。

一般的名称:汎用画像診断装置ワークステーション用プログラム
販売名:汎用画像診断ワークステーション用プログラム RapideyeCore SVIW-DVR01
認証番号:227ADBZX00053000

 

北見赤十字病院

北見赤十字病院
北海道北見市北6条東2丁目1番地
TEL 0157-24-3115
https://www.kitami.jrc.or.jp

 

  ヘルスケアIT展

 

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