Canon Clinical Report(キヤノンメディカルシステムズ)

2024年2月号

最新設備を整えた急性期診療棟に大開口径CTを導入したハイブリッド手術室を構築 〜90cmのワイドボアやAiCE-iを活用して骨盤骨折や肺がんの縮小手術などで術中CTを撮影〜

産業医科大学病院

産業医科大学病院

 

産業医科大学病院(678床)に2023年8月、急性期医療にかかわる最新の設備と機能を集約した急性期診療棟がオープンした。急性期診療棟には、手術室に画像診断機器を設置した2部屋のハイブリッド手術室が構築された。手術と検査を同じ部屋で行うことで、より安全で精度の高い治療の提供を目的としたハイブリッド手術室の術中撮影用CTとして、キヤノンメディカルシステムズの大開口径80列マルチスライスCT「Aquilion Exceed LB」が導入された。骨盤骨折の整復術、肺がんの縮小手術などハイブリッド手術室でのCTの運用について、放射線科の青木隆敏教授、救急・集中治療科の岡田祥明講師、呼吸器・胸部外科の吉松克真助教、放射線部の藤本啓司技師に取材した。

放射線科 青木隆敏 教授

放射線科
青木隆敏 教授

救急・集中治療科 岡田祥明 講師

救急・集中治療科
岡田祥明 講師

   
呼吸器・胸部外科 吉松克真 助教

呼吸器・胸部外科
吉松克真 助教

放射線部 藤本啓司 技師

放射線部
藤本啓司 技師

 

手術室などを集約した急性期診療棟が2023年8月オープン

産業医科大学病院は1979年7月に診療を開始、産業医をめざす学生や卒業生の臨床教育および教育研究の機能を果たすための総合医療機関であると同時に、北九州において高度医療の提供・研修などを行う特定機能病院および地域における基幹病院の役割を担っている。2023年8月に診療を開始した急性期診療棟は、それまでの病院棟に隣接して建てられ、地上5階建、総面積は約2万2000m2。1階には血管撮影室やCTを備えた急性期エントランスセンター、3階には17の手術室と集中治療室を配置した。手術室には、CTと血管撮影装置をそれぞれ設置した2部屋のハイブリッド手術室が構築された。そのほか、NICU(新生児集中治療室)、MFICU(母体・胎児集中治療室)、GCU(新生児回復室)を備えた総合周産期母子医療センター病棟、急性期女性病棟など、高度急性期医療の中核となる施設である。

CTと血管撮影装置の2部屋のハイブリッド手術室を構築

CTを設置したハイブリッド手術室(以下、ハイブリッドCT室)は、ガントリが移動可能な自走式のAquilion Exceed LBと多機能手術台の組み合わせで構成されており、CT撮影が必要な時に待避していたガントリを移動して術中CT撮影が可能になっている。ハイブリッドCT室を担当する藤本技師は、「外科的な手術とCT撮影を同じ部屋で施行可能な高機能な手術室です。術中撮影のメリットは、手術と同じ体位で撮影できることです。術前や術中に撮影した画像を参照しながら、あるいはそのデータをナビゲーションシステムに転送することで、より精度の高い手技が可能です。また、従来は術中の撮影にはCT室への移動が必要でしたが、ハイブリッドCT室ではそのまま撮影でき、より安全に手術を終えることができます」と説明する。ハイブリッドCT室では、8月のオープンから12月上旬までに46件の手術が行われた。診療科は脳神経外科が多く、呼吸器・胸部外科、整形外科が続き、耳鼻咽喉科なども使用している。

90cmの大開口径と高画質で術中撮影をサポート

ハイブリッドCT室に導入されたAquilion Exceed LBは、90cmの大開口径、Deep Learning技術を応用した画像再構成技術である「AiCE-i(Advanced intelligent Clear-IQ Engine-integrated)」、金属アーチファクト低減技術の「SEMAR(Single Energy Metal Artifact Reduction)」などによって高画質画像を提供し、治療や処置を伴う撮影をサポートできる。Aquilion Exceed LBの導入について青木教授は、「術中CTとして十分に高画質であり、AiCE-iの評価はこれからですが、SEMARによる金属アーチファクトの低減など高い効果が得られています。ワイドボアについても、ルートや挿管、固定具などさまざまな器具を着けた状態や手術の体位のままでも撮影が可能です。それだけでなく、開口径が広いことで、撮影時のさまざまな器具の取り回しが容易で手術室のスタッフの負担軽減にもつながっています」と説明する。同院では、診断用CTとして320列の「Aquilion ONE / ViSION Edition」などが稼働しているが、藤本技師は、「スタッフがキヤノンのCTの操作系に慣れているため、その分、ハイブリッドCT室ならではの運用に気を配ることができています」と述べる。同院の診療放射線技師は55名で、そのうち急性期診療棟には13名が配置されており、ハイブリッドCT室は2名が対応している。

術中撮影で血管との位置関係や腫瘍の局在を迅速に把握

〈救急・集中治療科の外傷再建センターでの運用〉
整形外科領域では、救急・集中治療科の外傷再建チームが骨盤骨折の経皮的スクリュー固定術で術中CTを用いている。外傷症例だけでなく高齢化に伴い転倒などによる骨盤骨折の件数が増加しているが、早期の介入が除痛や治療期間の短縮につながることから、できるだけ早い手術が求められる。岡田講師は術中CTを使った手技について、「骨盤骨折に対して、小切開でガイドピンとスクリューで骨折部位を固定します。挿入は透視下で行いますが、骨盤周囲の血管や脊柱管の近くの神経を損傷しないように注意が必要です。ガイドピンを刺入したタイミングでCTを撮影し、スクリューを挿入しても問題ないかを確認して手技を進めます」と述べる。従来は、術前CTで全体を把握して手技中は透視下で行い、スクリュー固定後にCTを撮影して確認していた。岡田講師は術中CTについて、「透視下では血管や神経は確認できないので術中は不安が大きいですし、術後に確認して正しい位置に固定できていないと再手術になることもあるので、術中CTは正確な手技を行うためだけでなく患者さんの負担を軽減する意味でもメリットは大きいです。骨盤骨折は緊急性が高いことが多く、全例をハイブリッドCT室で行うことは難しいですが、できればすべての症例を術中CTで行いたいところです」と言う。固定術ではガイドピンやスクリューなど金属製の器具を使用するが、SEMARの効果について岡田講師は、「スクリューのアーチファクトが除去されて血管や脊椎神経との位置関係を把握することができました」と述べる(図1)。岡田講師は今後の活用については、「外傷疾患に対する造影CTによる遊離皮弁の移植後の確認などにも有用だと期待しています」と言う。

〈呼吸器・胸部外科での運用〉
呼吸器・胸部外科では、主に肺がんの胸腔鏡下の切除術に術中CTを用いている。吉松助教は肺がん手術における術中CTのメリットについて、「腫瘍の局在把握と十分なマージンを取って切除するための確認手段として術中CTを利用しています。肺がんは微小な結節で見つかることが増え、また、早期肺がんに対しては縮小手術として肺葉切除ではなく部分切除や区域切除を行う頻度が増加しており、胸腔鏡下で行われる肺切除術では術中に腫瘍の局在を確認できるメリットは大きいです」と説明する。
術中CTでは、直前に切除したいラインに沿って金属マーカーを留置してCTを撮影し、マーカーと腫瘍の位置を評価して最終的な切除ラインを決定して切除する。胸腔鏡下の肺がん切除術のマーキング法には、気管支鏡下で切除範囲を染色するVAL-MAP法、気管支鏡で腫瘍の近くにICタグを留置して術中に局在を確認する方法(SuReFInD)などさまざまな方法がある。術中CTのアドバンテージについて吉松助教は、「気管支鏡を用いる方法では手術の前にマーキングのための手技が必要で、その時間が取られることや処置に伴う合併症など患者への負担やリスクがあります。その点で術中CTは、当日の手術の中での処置だけで完結できることは大きなメリットです」と説明する(図2)。
術中のCT撮影についても、「ボア径がある程度の大きさがあるので、基本的には手術の体位のまま撮影ができます。撮影のスピードはもちろんですが、画像表示までの時間も問題ありません。金属マーカーを留置しますが、SEMARの効果で腫瘍を含めた位置の確認も容易に可能です」と述べる。画質についても吉松助教は、「微小結節はすりガラス状の淡い陰影となることが多いですが、しっかりと描出されています」と言う。今後の期待について吉松助教は、「術中CTは手術時間の短縮や手術の精度向上などで患者さんにメリットが大きいと思いますので、症例を重ねて精度を上げていきたいですね」と述べる。

■Aquilion Exceed LBによる臨床画像

図1 経皮的スクリュー固定術での術中CT a:SEMARなし b:SEMARあり

図1 経皮的スクリュー固定術での術中CT
a:SEMARなし b:SEMARあり

 

図2 胸腔鏡下肺切除術における術中CT a:術前の通常CTによる撮影 b:術中CT画像

図2 胸腔鏡下肺切除術における術中CT
a:術前の通常CTによる撮影 b:術中CT画像

 

術中CTの有用性を生かして地域に貢献

藤本技師はAquilion Exceed LBについて、「Aquilion Exceed LBは、キヤノンのCT装置で最も広い90cmの開口径でスムーズな術中撮影が可能ですが、あと5cmでも広がるとさらに使い勝手が良くなると感じます。画質や線量増などの問題があるとは思いますが、AIなど最新の技術を用いたさらなる開発に期待しています」と要望する。青木教授は、「今後、術中CTの有用性が周知されれば、そのほかの診療科にも拡大していくと期待しています」と述べる。北九州の急性期医療を担う同院で稼働したハイブリッドCT室の今後の成果が期待される。

(2023年12月5日取材)

※AiCE-iは画像再構成処理の設計段階でDeep Learning技術を用いており、本システム自体に自己学習機能は有しておりません。

*記事内容はご経験や知見による、ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。

一般的名称:全身用X線CT診断装置
販売名:CTスキャナ Aquilion Exceed LB TSX-202A
認証番号:302ACBZX00024000

 

▲病院棟(左)と急性期診療棟(右)

▲病院棟(左)と急性期診療棟(右)

産業医科大学病院
福岡県北九州市八幡西区医生ヶ丘1-1
TEL 093-603-1611(代)
https://www.uoeh-u.ac.jp/hospital.html

 

  モダリティEXPO

 

●そのほかの施設取材報告はこちら(インナビ・アーカイブへ)

【関連コンテンツ】
TOP