セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

第52回日本消化器がん検診学会総会が2013年6月7日(金),8日(土)の2日間,仙台国際センター(仙台市)にて開催された。7日に行われた東芝メディカルシステムズ(株)共催のランチョンセミナー1では,神保消化器内科医院院長の神保勝一氏を座長に,長崎県上五島病院放射線科の安田貴明氏と,東京都がん検診センター消化器内科部長の入口陽介氏が,大腸CTと胃がんX線検査におけるデジタル検診の最前線をテーマに講演した。

2013年9月号

第52回日本消化器がん検診学会総会 ランチョンセミナー 1 デジタル検診の最前線─最新消化管デジタル画像

離島へき地における大腸CTの取り組み─超高速型80列CTを用いて

安田 貴明(長崎県上五島病院 放射線科)

新上五島町は,九州の西端,長崎県五島列島の北部に位置する,人口2万1千人の島である。高齢化率は34%を超え,大腸がんの罹患率の増加も予想されるなか,医師不足などの問題を抱えている。上五島病院では,2013年3月に超高速型80列CT「Aquilion PRIME /Beyond Edition」(東芝メディカルシステムズ社製)を導入,大腸CT検査を積極的に実施している。本講演では,大腸CT(CTC)の有用性や課題,そして,超高速型80列CTを活用した離島へき地の大腸がんスクリーニングについて展望する。

■大腸CTの概要─前処置,タギング,撮影法

当院では大腸CTの前処置として,内視鏡検査と同様,2Lの下剤(PEG溶液:ニフレック)を使用している。まず1620mLの下剤を飲用後, 380mLの下剤に水溶性造影剤20mLを加えたPEG-C溶液を内服する。PEG-C溶液によるタギング前処置法は,残渣や残液を白く描出させ,腫瘍との区別を容易にし,偽陽性が減少する。
腸管拡張には自動炭酸ガス送気装置を用い,左側臥位で送気を開始。仰臥位にして一体位目を撮影し,腹臥位にして二体位目を撮影する。当院では過度の体位変換は行わず,また,寝台左右動を使用してFOV中心を調整する。撮影時間は約10分,入室から退室まで15~20分程度で終了する。

■大腸CTの受容性と精度

当院で同日に内視鏡と大腸CTを行った患者を対象に,VAS(Visual Analogue Scale)を用いて腹満感を比較したところ,内視鏡に比べて,大腸CTの方が有意に腹満感が少なかった。また,50%の人が次の検査に大腸CTを選択しており,内視鏡の19%を大きく上回っていた。これらの結果から,大腸CTの受容性の高さが示唆される。
大腸CTの精度については,1つ1つの病変に対する“病変ベース”と,1人の患者が病変を持っているかどうか
という“症例ベース”の解析がある。大腸CTは,大腸内視鏡につなげるためのスクリーニング検査と位置づけられるため,症例ベースの成績がより重要と考える。
当院も参加した,大腸CTの精度を検証する日本初の多施設共同試験JANCT(Japanese National CT Colonography Trial)の結果では,6mm以上の癌,腺腫における病変ベースの感度は82%,陽性的中率は84%,症例ベースの感度は87%,特異度は92%であり,10mm以上の病変では感度91%,特異度98%であった。欧米の臨床試験においても,JANCTと同様の成績が示されている。

■表面型病変に対する大腸CTの精度

当院で大腸CTを施行した表面型病変の症例を示す。 

●症例1:46歳,女性。便潜血陽性で内視鏡検査を施行したが,異常所見はなかった。同日行った大腸CTにおいて,肝彎曲部位に30mm程度の表面型病変が指摘され(図1),後日再度内視鏡を施行した結果,ようやく病変を認め,後日ESDを施行した(図2)。
当院において2008年11月から2013年1月までに,大腸CTの施行後に全大腸内視鏡検査を行った484症例のうち,内視鏡的に10mm以上の表面型病変が確認され,病理組織学的に癌または腺腫と診断された27症例32病変を対象に,大腸CTの精度を検討した。その結果,32病変の感度は63%であり,十分とは言えなかったが,病理所見別に見た病変ベースの解析では,感度は癌が71%と,腺腫に比べて高いことがわかった。また,深達度では,粘膜層の感度56%に対し,全体の16%を占める粘膜下層(SM)以深の感度は100%と,十分に高いことがわかった。
この結果から,大腸CTの表面型病変に対する感度は十分とは言えないものの,癌や粘膜下層以深の癌については,比較的高い感度を示すことがわかった。大腸CTは大腸がんの早期発見に寄与するものと考えている。

図1 ‌症例1の大腸CT画像 肝彎曲部位に表面型病変(Ⅱa + Ⅰs,Adenocarcinoma)を認める。

図1 ‌症例1の大腸CT画像
肝彎曲部位に表面型病変(Ⅱa + Ⅰs,Adenocarcinoma)を認める。

 

図2 ‌症例1の内視鏡検査所見

図2 ‌症例1の内視鏡検査所見

 

■これからの大腸CTの展望

●Aquilion PRIME/Beyond Editionの特長

当院では,2013年3月にAquilion 16から超高速型80列CT「Aquilion PRIME/Beyond Edition」に更新した。16列CTよりコンパクトで,ガントリの開口径が広くなっているため,撮影時の圧迫感がなく,長寝台でも狭い検査室にそのまま導入することができた(図3)。
Aquilion PRIME/Beyond Editionの最大の特長である高速撮影は,大腸CT検査で息止めが難しい患者にも有用である。サンプリング精度の向上により,0.35秒のヘリカルスキャンを全身で使用でき,ヘリカルピッチを111に設定できるため,従来10秒程度かかっていた撮影も,3秒程度で行えるようになった。
また,InstaVIEWを用いると,撮影後すぐに画像を確認することができる。

図3 ‌Aquilion PRIME/Beyond Editionを導入 コンパクトでガントリ開口径も780mmと広い。

図3 ‌Aquilion PRIME/Beyond Editionを導入
コンパクトでガントリ開口径も780mmと広い。

 

●低線量化の取り組み

Aquilion PRIME/Beyond Editionは,逐次近似再構成を応用した被ばく低減機能“AIDR 3D”を標準搭載している。AIDR 3Dを使用し,120kV,SD値30で撮影したところ,SD値20の画像と比較しても,遜色のない画質を得ることができた(図4,5)。10mm以上を対象病変とし,腸管外病変を除くことにすれば,さらなる低線量化が図れると考える。

図4 ‌AIDR 3Dによる低線量化 120kV/SD30/DLP=38.5mGy 0.58mSv

図4 ‌AIDR 3Dによる低線量化
120kV/SD30/DLP=38.5mGy 0.58mSv

 

図5 ‌AIDR 3Dによる低線量化 120kV/SD30/DLP=38.5mGy 0.58mSv

図5 ‌AIDR 3Dによる低線量化
120kV/SD30/DLP=38.5mGy 0.58mSv

 

●前処置の負担軽減の取り組み

前処置の軽減による大腸CTの精度検証を目的に,当院も参加した多施設共同試験(UMIN6665 JANCT2)が行われている。低用量PEG-CM法(PEG-C溶液800mLを2回に分けて飲用)を用いて大腸CTを行った結果,病変ベースの解析では,6mm以上で感度82%,陽性的中率85%,症例ベースの解析では,6mm以上で感度,特異度とも90%以上,10mm以上では感度93%,特異度98%と,きわめて良好な成績であった。

■離島へき地における大腸CTの活用

高齢者の大腸がん罹患率は増加しており,高齢化が進む上五島地区では今後,大腸がんの増加が予想されることから,島内における大腸がんスクリーニングの重要性も高まっていくと考えられる。ここで大きな課題となるのが,医師のマンパワー不足であり,特に大腸内視鏡医のマンパワーは限界にきている。
大腸CTは,医師不足の問題の解決に役立つと期待される。島内には16列以上のCTが3台あり,これを大腸CTに有効活用すれば,3施設,5人のマンパワーが確保できる。
また新上五島町では,島内3病院を統一患者IDで運用する医療情報システムを構築している。患者は1つの診察券で,島内のどの医療施設に行っても同じ環境で診察を受けることができ,医師も,同じ環境で診察を行うことができる。現在,このネットワークを用いて,大腸CTの遠隔読影を行うことを検討している。大腸CT検査や,その他のさまざまな検査について,医療情報ネットワークを活用することで,高齢者医療の充実につなげたいと考えている。

 

安田 貴明
2000年 近畿医療技術専門学校卒業。同年4月 長崎県離島医療圏組合 上五島病院(現・長崎県上五島病院)に入社,現・放射線科主任技師。
〔主な業務:一般撮影(マンモ含む:認定取得済),CT,MRI,特殊検査(血管造影,透視),超音波検査(心エコー除く),RIS・PACSの管理および電子カルテとの連携業務(地域病院含む)など〕 

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