セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

日本超音波医学会第86回学術集会が2013年5月24日(金)~26日(日)の3日間にわたって,大阪国際会議場で開催された。24日に行われた東芝メディカルシステムズ株式会社共催のランチョンセミナー7では,「見えないものをみる」をテーマに,川崎医科大学検査診断学の畠 二郎氏による「形態をみる」,兵庫医科大学超音波センター・内科 肝胆膵科の飯島尋子氏による「機能をみる」の2つの講演が行われた。

2014年1月号

日本超音波医学会第86回学術集会 ランチョンセミナー7  見えないものをみる

形態をみる

畠 二郎(川崎医科大学検査診断学)

古来から人は,見えないものを見るために努力してきた。非常に遠いものを見るために天体望遠鏡を,非常に小さいものを見るために顕微鏡を発明した。医療においては,“見えないものを見る技術”は診断精度の向上に確実に貢献している。X線,ラジオ波,光といった電磁波を用いた診断機器が活躍する一方で,ユニークなのが音を使った診断機器,つまり超音波装置である。非常にエコで侵襲もない超音波装置は,診断精度の向上に大きく貢献している。
本講演では,「見えないものをみる」というテーマの中で“形態をみる”と題し,東芝メディカルシステムズ社製超音波診断装置「Aplio500」で開発中の診断に役立つ2つの眼,1つは非常に優れた視力,分解能を誇る“鷹の眼”,もう1つは人の100倍の感度を持つという“ふくろうの眼”を紹介する。

■鷹の眼:Boost
高分解能・高ペネトレーションな画像

まずは“鷹の眼”,つまり,遠くまでくっきりと見る技術について説明する。空間分解能は周波数によって決まり,深部感度(ペネトレーション)とのトレードオフであることは言うまでもない。これを打破するために視点を変えて,時間分解能と深部感度をトレードオフして開発された新しい機能が“Boost”である。つまり,現在は時間分解能(リアルタイム性)を変えずに周波数を切り替えて深部感度と空間分解能をトレードオフしているが,時間分解能を犠牲にして深部感度を上げるのがBoostの概念である。

【症例1】直腸(図1)
消化管の超音波検査で,診断に苦慮するのは直腸である。直腸は,胃と食道接合部に匹敵するほど非常に深いところにある。図1aは通常の7MHz(リニア型プローブ)のBモード画像だが,高周波では層構造が消失したように見えるため,がんが疑えなくもない。しかし,同一プローブの試作のBoost(図1b)では,層構造がはっきり見えるため正常と判断できる。描出が難しい部位を高分解能な画像で見たい時に,Boostが非常に役に立つ。

図1 症例1:直腸

図1 症例1:直腸
a:7MHz(リニア)Bモード画像
b:同一プローブのBoost

 

【症例2】胃がん(図2)
膵体部の一部でfat padが消失したように見えるが,通常の7MHz(リニア型プローブ)のBモード画像(図2a)では判断が難しい。これをBoost(図2b)で見ると,明らかにfat padが消失して胃がんの浸潤があることが明瞭に判定できる。
基本的には,スクリーニング後や日常診療時にもう少し分解能を上げたいが深部感度が厳しいという場合に,ねらった部位をより明瞭に見るためにBoostを用いることが望ましい。Boostには複数の段階があるため,時間分解能を少しずつ犠牲にしながら,分解能を維持しつつ深部感度を上げるという使い方が可能である。

図2 症例2:胃がん

図2 症例2:胃がん
a:7MHz(リニア)Bモード画像
b:Boost

 

■ふくろうの眼:DMI
非造影で微細な血流を可視化する

(注)DMIは開発当初の名前であり,正式名称はSMI(Superb Micro vascular Imaging)となりました。

次に,ふくろうの眼,つまり,あっても見えないものを見る技術について説明する。図3は,上段が正常な右腎臓,下段が正常な肝臓の画像で,一見造影画像に見えるが,実は造影剤を一滴も使っていない非造影画像である。これは,フレームレートと低流速感度が向上し,モーションアーチファクトが低減した,究極の非造影フローイメージングである。現在,「Dynamic Microvascular Imaging:DMI」と呼んでいるが,非造影画像でありながら非常に微細な血管が描出できる。

図3 究極の非造影フローイメージング“DMI”

図3 究極の非造影フローイメージング“DMI”

 

●DMIを用いた腫瘍の評価

【症例3】肝細胞がん(図4)
肝硬変のBモード画像(図4a)で腫瘍が疑われる場合,カラードプラを施行する。Advanced Dynamic Flow(ADF)モードを用いて速度レンジ9cmで見ると,拍動によるクラッタによってわずかしか見えない(図4b)。速度レンジを3cmに下げると,全体がクラッタに埋没してまったく見えない(図4c)。そこで,DMIを用いると,バスケット状の血管が非常にクリアに描出され,肝細胞がんであるとほぼ確信できる所見を非造影で得ることができる(図4d)。

図4 症例3:肝細胞がん

図4 症例3:肝細胞がん
a:Bモード画像 b,c:カラードプラ(ADF)
d:DMI

 

【症例4】膀胱がん(図5)
Bモード画像(図5a)で,大小の腫瘍が確認できる。USによる3D表示(図5b)でも明瞭に描出されている。これに対して,7MHz(リニア型プローブ)でDMIクラッタ抑制表示(図5c)にすると,余計なクラッタを表示せず,豊富な血流が見えてくる。12MHz(リニア型プローブ)のDMI血流強調表示(図5d)でも,樹枝状に広がる血管網がきれいに見えている。

図5 症例4:膀胱がん

図5 症例4:膀胱がん
a:3.75MHz(コンベックス)Bモード画像
b:USによる3D表示
c:7MHz(リニア)DMIクラッタ抑制表示
d:12MHz(リニア)DMI血流強調表示

 

●DMIを用いた血流の評価

【症例5】乳腺硬癌(図6)
DMIは血流感度が向上するため,乏血性,多血性という判断は逆に難しくなる傾向がある。Bモード画像(図6a)でも典型的な硬癌が確認できるが,7MHz(リニア型プローブ)の造影画像(図6b)では,ソナゾイドは高周波帯域では共振しにくいため,理論的に感度はさほど高くない。そこで,造影下DMIクラッタ抑制表示(図6c)で見ると,見えていない血管があったことがわかる。さらにpersistenceを上げると,腫瘍からカニの足のように血管が伸びていることが確認された。このような癌を画像上乏血性と呼ぶのかは疑問の余地があり,今まで見えなかったものが見えるようになればなるほど,判定基準などの考え方も変わってくる可能性があると思われる。

図6 症例5:乳腺硬癌

図6 症例5:乳腺硬癌
a:Bモード画像
b:ソナゾイド造影画像
c:造影下DMIクラッタ抑制表示
d:造影下DMIクラッタ抑制表示(High persistence画像)

 

【症例6】進行胃がん(図7)
ライブに変化する血流も造影下DMIを用いるとよく確認できる。進行胃がんの症例では,通常のADF(図7a)でちらちらと血流が見えている。これを7MHz(リニア型プローブ)造影下で見ると,血管構築はわずかに表示される(図7b)。そこで,造影下DMI(12MHz)を用いると,胃が収縮すると血流が途絶し,弛緩に向かうと血流が復活する様子がうかがえる(図7c)。消化管の血流はライブに変化しているものであり,手法が鋭敏になってくるほど,正確に血流を評価しているか否かの判断が複雑になってくる可能性がある。

図7 症例6:進行胃がん

図7 症例6:進行胃がん
a:ADF(7MHz)
b:Time arrival parametric image‌(7MHzリニア)
c:造影下DMI(12MHz)

 

【症例7】‌大腸がん(炎症性リンパ節腫大)(図8)
例えば,他の症例で潰瘍性大腸がんの炎症性リンパ節腫大をDMIで見ると,リンパ節腫大から分岐するきれいな血管網が見える(図8b)。ところが,症例7のリンパ節腫大は正常な血管構築が消失し,複数の箇所から血管を引っ張ってきていることがわかる(図8c)。非造影で転移と判断し,病理所見でも♯252のリンパ節の1つに転移を認めた。これまでは非常に小さなリンパ節に対して,血管構築を正確に把握することは困難であったが,DMIによってそれが可能になってきた。

図8 症例7:大腸がん

図8 症例7:大腸がん
a:CT画像
b:炎症性リンパ節腫大のDMI(12MHzリニア)
c:大腸がんのリンパ節転移のDMI(7MHzリニア)

 

●DMIを用いた壊死の評価

【症例8】壊死性リンパ節炎疑い(図9)
大き目のリンパ節では,DMIで血流のない壊死領域を確実に確認できる(図9a)。一方,同じ症例のより小さいリンパ節をDMIクラッタ抑制表示(図9b)で見ると,一部,血流がないように見えるが,DMIの血流強調表示(図9c)で確認すると,やはり欠損が見られる。したがって,非常に小さなリンパ節の段階から局所的な壊死が始まっているという評価が可能になった。3,4mmと非常に小さなリンパ節の血流が評価可能な夢のような画像である。

図9 症例8:壊死性リンパ節炎疑い

図9 症例8:壊死性リンパ節炎疑い
a:大きめ目リンパ節のDMIクラッタ抑制表示
b:小さいリンパ節のDMIクラッタ抑制表示
c:DMI血流強調表示

 

●DMIを用いた炎症の評価

【症例9】‌慢性関節リウマチ,右橈骨手根関節(図10)
DMIで見えなかったものが見えるようになると,腫瘍だけではなく,炎症の評価も変わる可能性がある。通常,パワードプラ(図10a)でグレーディングされているところをDMIクラッタ抑制表示(図10b)で見ると,同じ症例とは思えないほどたくさんの血流があることがわかる。さらに,DMI血流強調表示,すなわち動くものをすべて表示すると,非常に細かな血管がより密に新生していることがわかる(図10c)。つまり,パワードプラでは血管が増えることで血流量が増える状態を間接的に見ているわけだが,DMIでは炎症性に造成された血流を直接的に見ていることになる。DMIによって,炎症の評価が現行のパワードプラよりも鋭敏になる可能性がある。

図10 症例9:慢性関節リウマチ,PIP関節

図10 症例9:慢性関節リウマチ,PIP関節
a:パワードプラ
b:DMIクラッタ抑制表示
c:DMI血流強調表示

 

【症例10】潰瘍性大腸炎(図11)
炎症のあるところに血流ありと考えると,DMIは消化管にも応用可能である。例えば,潰瘍性大腸炎の横行結腸とS状結腸ではどちらの活動性が高いか,Bモードでの粘膜層の肥厚ではほぼ同じで判断が難しい(図11a,b)。しかし,DMIを用いると一目瞭然である(図11c,d)。横行結腸では粘膜下層で血流が拾えるが,粘膜層はさほどではない。一方,炎症の強いS状結腸では,粘膜層内の第二層でも豊富な血流が描出され,明らかにより活動性が高いことがわかる。実際に内視鏡検査を行うと,横行結腸はほぼ正常だがS状結腸はびらんや出血等が見られ,活動性が高いことがわかる。

図11 症例10:潰瘍性大腸炎

図11 症例10:潰瘍性大腸炎
a:横行結腸のBモード画像
b:S状結腸のBモード画像
c:横行結腸のDMI(12MHz,非造影)
d:S状結腸のDMI(12MHz,非造影)

 

【症例11】クローン病(図12)
DMIはクローン病の診断でも有用である。図12aの回腸の横断像では,FDサインと呼ぶ深い縦走潰瘍と強い炎症を反映し,血流が非常に増えていることがわかる。DMIでは,ほぼ全周性の炎症として,粘膜層に至るまで血流が亢進していることが一目で見て取れる(図12c)。このような炎症が非造影で確認できるということは非常に有用性が高い。

図12 症例11:クローン病

図12 症例11:クローン病
a:ソナゾイド造影画像(12MHzリニア)
b:内視鏡像
c:DMI(12MHzリニア,非造影)

 

■まとめ

今回,BoostとDMIという2つの眼を紹介した。Boostは,時間分解能とのトレードオフによって,空間分解能を保ったまま深部感度を改善する手法であり,DMIは,非造影下で非常に微細な血流を可視化できる,従来のドプラ法の限界を超える血流表示法である。腫瘍や炎症はもちろん,虚血の判定にも有用と言える。この2つの手法は,日常診療における超音波診断精度の向上に間違いなく役立つものと確信している。

 

畠  二郎

畠  二郎
1985年 自治医科大学医学部卒。現在,川崎医科大学検査診断学(内視鏡・超音波部門)教授。
専門領域:消化器病学,超音波診断学,特に消化管と急性腹症の超音波診断。

 

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