セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

第54回日本消化器がん検診学会総会が2015年6月5日(金),6日(土)の2日間,大阪国際交流センター(大阪市)にて開催された。5日に行われた東芝メディカルシステムズ株式会社共催のランチョンセミナー1「大腸CT検診の標準化を探る─撮影線量と画像解析法の精度を検証する」では,医療法人山下病院放射線部部長の山﨑通尋氏を座長に,亀田メディカルセンター幕張診療放射線部の藤原正則氏と済生会熊本病院予防医療センターの松田勝彦氏が講演を行った。

2015年10月号

第54回日本消化器がん検診学会総会ランチョンセミナー1 大腸CT検診の標準化を探る─撮影線量と画像解析法の精度を検証する

CTコロノグラフィーの撮影線量 ─逐次近似応用再構成(AIDR 3D)の診断精度─

藤原 正則(亀田メディカルセンター幕張診療放射線部)

CTコロノグラフィー(CTC)の基本的因子には,前処置,腸管拡張,撮影,読影の4つが挙げられる。本講演では撮影に焦点を当て,特に東芝メディカルシステムズ社の被ばく低減技術である“AIDR 3D”のCTCにおける診断精度について述べる。

画像技術

CTCの画像技術において,キーワードとなるのがFiltered Back Projection(FBP)法,Auto Exposure Control(AEC:自動露出機構,東芝メディカルシステムズ社ではVolume EC),逐次近似応用画像再構成法(AIDR 3D)の3つである。
検診施設である当施設では,2010年5月にCTCを開始し,2015年5月までに検診では3800名,外来などそのほかの検査として1147名のCTCを実施してきた。CTC開始当初から,できるかぎりの被ばく低減をめざして撮影条件設定に努め,2011年10月頃からはAEC(Volume EC)を積極的に使用し,2012年6月頃からはAIDR 3Dを導入して,さらなる被ばく低減を図った。当施設におけるCTCの診断精度を見ると,内視鏡検査をゴールドスタンダードとした場合の陽性適中率は,内視鏡で治療適応となる6mm以上の病変で90.1%,5mm以上で86.1%と良好な結果が得られている。なお,CTCでは計測誤差が20%程度認められることから,当施設では5mm以上をCTC所見としている。

撮影条件

撮影条件の設定に当たり,当施設では,CTC開始当初は固定電流+FBP法としていたが,その後,AEC+FBP法とし,現在AEC+AIDR 3Dとしている。
固定電流とは,体格に応じて管電流を固定して検査を行う方法で,患者によっては線量過多もしくは過少となるというデメリットがある。実際に,100mAs固定,75mAs固定,50mAs固定,SD20(5mmスライス厚)にて患者のBMIと被ばく線量との関係を検討した結果,いずれの管電流においてもBMIが大きいと線量過多となるため(BMI 30以上の場合,100mAs固定では約22mSv),撮影条件の見直しが必要となる。ただし,SD20では,BMI 30以上の患者でも被ばく線量は約12mSvであり,条件を若干見直すことで欧米のガイドラインで推奨されている10mSv以下を担保できると思われた。
また,AECでは,患者のスキャノグラムを基に実際の体格や体厚に合わせて電流を可変させて撮影するため,線量が適正となり,被ばく低減が可能となる。
さらに,AIDR 3Dでは,まずrawデータベースにてスキャナモデルと統計学的ノイズモデルを用いてノイズを低減し,その上で,得られた画像データ上で各部位に最適化した解剖学的モデルなどを用いてノイズ成分のみを選択的に抽出し,繰り返し除去して画像を作成するため,低線量撮影でも診断に十分な画質が得られ,結果として大幅な被ばく低減が可能となる。なお,現在はAIDR 3Dのrawデータベースの処理にNPSモデルを導入し,さらなる画質の改善が可能な“AIDR 3D Enhanced”という新しい技術も登場している。
当施設におけるAIDR 3D未使用時と使用時のCTC撮影条件を図1に示す。AIDR 3Dの設定はWeak,Mild,Standard,Strongの4段階あり,FBP法と比較して,それぞれ25%,50%,75%,75%の被ばく低減が可能である。CTCでは2体位の撮影を行うため,2体位目は1体位目よりも線量を下げる必要がある。そこで,まずAECの導入に当たり,1体位目は120kV,SD20に設定し,2体位目はそこから50%の被ばく低減をめざした。SD値はmAs値の1/2乗に反比例することから,2体位目はSD28に設定した。これを基準として,AIDR 3D導入時は1体位目をSD28のMild,2体位目をSD35のStandardとした。現在は,この条件を用いてCTC撮影を行っている。ただし,条件設定に当たっては,読影医によるAIDR 3Dの画質の視覚評価が必要となる。また,StandardとStrongの設定の場合は,腸管外病変を対象としないことが設定の条件となる。
実際に,CTCと内視鏡検査の両方を実施して検出された6mm以上の238病変に対するCTCの陽性適中率は89.9%であった。また,AIDR 3D導入前の平均被ばく線量・陽性適中率は8.6mSv・92.2%であるのに対し,AIDR 3D導入後では2.3mSv・88.8%と,被ばく線量を約75%低減しているにもかかわらず,陽性適中率に統計学的な有意差は認められなかった。

図1 当施設におけるAIDR 3D未使用時と使用時のCTC撮影条件

図1 当施設におけるAIDR 3D未使用時と使用時のCTC撮影条件

 

症例提示

症例1は,BMI 30.9の体格の大きい被検者であるが,仮想注腸画像(図2),2Dアキシャル画像(図3),fly through(仮想内視鏡)画像(図4)のいずれも,AIDR 3Dありでは被ばく線量を75%低減(2mSv)しているにもかかわらず,画質が大幅に改善していることがわかる。

図2 症例1:仮想注腸画像(BMI 30.9の体格の大きい被検者)

図2 症例1:仮想注腸画像
(BMI 30.9の体格の大きい被検者)

 

図3 症例1:2Dアキシャル画像

図3 症例1:2Dアキシャル画像

 

図4 症例1:fly through画像

図4 症例1:fly through画像

 

症例2は,5mmのⅠs型(隆起型・無茎性)の大腸ポリープである。被ばく線量を75%低減(0.9mSv)しているため,AIDR 3Dなしの場合,病変を正面にとらえたfly through画像(図5 a)では,ほかにも病変のような隆起が認められ,内視鏡と同じ視点(図5 b)で見ても全体にギザギザと荒れた画像となっている。しかし,AIDR 3Dありではノイズが除去され,病変がはっきりと指摘できた(図5 c)。2Dサジタル画像(図6)でも同様であり,内視鏡写真との比較(図7)でも十分な画質が得られている。

図5 症例2:fly through画像(5mmのⅠs型の大腸ポリープ)

図5 症例2:fly through画像
(5mmのⅠs型の大腸ポリープ)

 

図6 症例2:2Dサジタル画像

図6 症例2:2Dサジタル画像

 

図7 症例2:内視鏡写真(a)とAIDR 3Dを適用したfly through画像(b)の比較

図7 症例2:内視鏡写真(a)とAIDR 3Dを適用したfly through画像(b)の比較

 

まとめ

腸管外病変を対象としないという条件付きではあるが,75%の被ばく低減を達成しつつ,視覚的にも統計学的にも高い診断精度を維持できるAIDR 3Dは,検診施設にとっても受診者にとっても,きわめて有用な技術であると思われる。

*本稿のSD値はすべて5mmスライス厚の場合

 

藤原 正則

藤原 正則(Fujiwara Masanori)
1994年 千葉大学医学部附属診療放射線技師学校卒業。同年亀田総合病院(亀田メディカルセンター)入職。96年から亀田総合病院附属幕張クリニック(亀田メディカルセンター幕張)。消化管先進画像診断研究会(GAIA)世話人。首都圏消化器画像技術研究会(M☆GIT)代表世話人。

 

 

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