セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

日本超音波医学会第90回学術集会が,2017年5月26日(金)〜28日(日)の3日間,栃木県総合文化センター(栃木県宇都宮市)などを会場に開催された。26日に行われた東芝メディカルシステムズ株式会社共催ランチョンセミナー1では,国際医療福祉大学病院教授/山王病院がん局所療法センター センター長の森安史典氏が座長を務め,東京医科大学消化器内科講師の杉本勝俊氏と兵庫県立医科大学超音波センター センター長/内科・肝胆膵科教授の飯島尋子氏が,「肝疾患を粘性と減衰で診る」をテーマに講演を行った。

2017年8月号

日本超音波医学会第90回学術集会ランチョンセミナー1 肝疾患を粘性と減衰で診る

肝疾患におけるSWEとAttenuation Imaging

飯島 尋子(兵庫医科大学 超音波センター/内科・肝胆膵科)

肝疾患の世界的な動向は,現在,C型肝炎が直接作用型抗ウイルス剤(direct-acting antiviral agents:DAAs)で治癒できるようになった一方で,メタボリック症候群の増加に伴う脂肪肝,アルコール性脂肪肝が増加している。また,C型肝炎患者などの高齢化による発がんも重要な問題である。
こうした背景を踏まえ,本講演では,肝線維化および脂肪化の非侵襲的な診断をテーマに,東芝メディカルシステムズ社製の超音波診断装置「Aplio iシリーズ」を用いた“Shear Wave Elastography(SWE)”と“Attenuation Imaging(ATI)”の有用性を報告する。

SWEによる肝硬度検査の有用性

Masuzakiら1)は,FibroScanが高値な肝臓は発がんリスクが高いと報告しており,肝臓の硬さの評価がきわめて重要である。当院で撮像したSWEによる肝硬度検査結果を見ると,F0〜F4へと線維化が進むにつれて剪断波速度(Vs)の値(m/s)も増加していき,各ステージで有意差が認められた。また,近年問題となっている炎症については,慢性肝炎で線維化が高度な症例は炎症も高度となるが,有意差があるのはA0〜A3のうち,A1,A2間のみである。SWEは肝硬変の診断能もきわめて高く,Vs値のカットオフを2.0とした場合,AUROCは0.967と,非常に高い診断能を有している。
一方,日本では肝生検を行うのに数日入院し,入院費も高額となる。しかも,結節の大きな肝硬変では,サンプリングエラーが約20%あると報告されている2)。そこで,EASL-ALEH Clinical Practice Guidelinesでは,Elastography,pSWE,2D-SWE,MR Elastographyのガイドラインが示されており,肝硬変の原因がわかっている場合は侵襲的な検査を行わず,SWEで診断することが推奨されている。
なお,Aplio iシリーズでは,SWE,Dispersion表示(SWD),Propagation表示に加え,バックグラウンドの断層像を4画面表示で同時に観察可能なほか(図1),集積したデータを数値で一覧表示することができ,非常に便利な機能となっている。

図1 Aplio iシリーズの4画面表示 (70歳代,女性,F3,NASH症例)

図1 Aplio iシリーズの4画面表示
(70歳代,女性,F3,NASH症例)

 

日本の肝疾患の現状

日本における4大肝疾患は,B型肝炎,C型肝炎,アルコール性肝障害,非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)であるが,近年,脂肪性肝疾患(脂肪肝)がきわめて多くなっているのが現状である。肥満,糖尿病,高脂血症,高血圧に高率に合併すると言われており,1500万〜2000万人,つまり8人に1人は脂肪肝という計算となる。この中には単純性脂肪肝(NAFL)と,非アルコール性脂肪肝炎(NASH)があるが,NASHの患者は300万〜400万人と多く,さらなる増加が予想される。
また,日本糖尿病学会から,糖尿病患者は肝がんの発症が通常の2〜3倍に増加することが報告され,問題となっている。当院の症例を解析したところ,糖尿病を有する肝線維化進展例は,発がんリスクがきわめて高いという結果が出ている。特にC型肝がんでは,肝線維化と糖尿病を有することが発がんリスクに寄与しており,糖尿病を有する肝線維化進展例については,厳重なフォローアップが必要と考えている3)。当院における2007〜2016年までの肝細胞がん(初発肝がん)1343症例を見ると,2010年までは20%台だったnonB,nonCの症例が,2016年までの集計では32%にまで増加しており,世界的な動向と一致している。

ATIによる肝脂肪化評価の有用性

OECD Health at a Glance 2016の国際比較統計などから推測した,わが国における人口100万人あたりの画像診断装置の台数を見ると,CTやMRIと比較し超音波診断装置が圧倒的に普及している。高齢のためCTやMRIでの撮像が困難な患者も増加しており,超音波でのスクリーニングによって肝疾患の早期発見に努めることが求められている。
Aplio iシリーズでは,SWEのほか,ATIやDispersion Imagingなど肝診断に必要なアプリケーションが“LIVER Package”として搭載可能であり,病態の解明に迫りうる非常にすばらしいパッケージとなっている(図2)。

図2 LIVER Packageによる肝臓へのアプローチ

図2 LIVER Packageによる肝臓へのアプローチ

 

1.ATIの原理
脂肪肝では,肝深部のエコー信号強度が減衰し描出不良となることが知られており,肝実質の組織構造や音響特性により減衰量が変化する。ATIでは,フォーカス依存によるビームプロファイルと,ゲイン補正によるビームプロファイルから抽出した信号強度の傾きをとることで減衰係数を算出し,得られた減衰係数を断層像にカラーマッピングして表示する(図3)。

図3 ATIの原理

図3 ATIの原理

 

図4は実際のATIの計測画面であるが,血管や構造物はマップと計測領域から除外し,必要な部分のみを計測することができる。また,画面下に計測値が表示されるが,減衰係数の信頼性の高さが色で確認でき,非常にわかりやすい。

図4 ATIの計測画面

図4 ATIの計測画面

 

2.ATIとその他の計測値との相関
実際の症例について,FibroScanのControlled Attenuation Parameter(CAP)とATIの計測値を比較した。
図5は正常肝で,CAPは165dB/m(0.47dB/cm/MHz),ATIは0.43dB/cm/MHzとほぼ一致している。なお,計測に当たっては,多重反射が起こる領域や,信号強度の弱いところ,大きな構造物付近は避ける必要がある。

図5 正常肝におけるATIとCAPの計測結果の比較

図5 正常肝におけるATIとCAPの計測結果の比較

 

図6は,軽度(a),中等度(b),高度(c)な脂肪肝症例におけるCAP,ATI,CT値の比較である。一般的に肝脾CT値比(L/S)が1あるいは1.1以下で30%以上の脂肪肝と定義されており,CAP,ATIと非常に良く相関している。

図6 ATIによる肝脂肪化の診断

図6 ATIによる肝脂肪化の診断

 

当院の118症例についてATIとCAPの相関を見ると,r=0.69と良好な相関を示していた(図7)。さらに,年齢やBMI,血液生化学データを用いてATIと相関する患者の背景因子を検討したところ,単変量・多変量解析の結果,肝の脂肪化程度,肝表までの距離,BMIが有意差を持って相関していた。

図7 ATIとCAPの相関

図7 ATIとCAPの相関

 

なお,当院では,Bモードによる脂肪肝の診断基準を一定にするためにdB,ダイナミックレンジ(DR)を固定して,自動補正やγ補正は行わず,コンパウンドも切って,すべて同じ条件で肋間から患者のデータを取得している。その上で,肝腎コントラストが陽性で脈管・横隔膜の正常描出を軽度,軽度描出不良(約75%)を中等度,著明描出不良(50%以下)を高度としているが,この診断基準とATIも比較的良好な相関が得られていた。
さらに,組織学的検査を行った症例におけるCAPとATIの関係を見ると,CAPは高度な脂肪肝で計測値にバラツキが見られた。一方,ATIは比較的バラツキが少ないほか,10%未満の非常に軽度な脂肪肝も診断できていた。「NASH/NAFLDの診療ガイド 2015」では,5〜10%程度の脂肪肝を診断することが求められており,これは非常に重要なポイントであると思われる。
次に,肝脾CT値比(L/S)との相関を検討した。CTにて肝臓と脾臓に2cmのROIを3か所ずつ置いてそれぞれの平均値を算出し,L/Sを求め,1.0未満を脂肪肝とした。そして,CAP,ATIと比較すると良好な相関が得られ,特にATIの方がバラツキが少なかった。さらに,L/Sが1.0以上の症例で検討したところ,CTでは脂肪肝と診断できていない症例があったことから,CTでは脂肪肝を見落とす可能性があると考えられる。そこで,L/Sが1.0以上の57症例をBモードで評価したところ,10症例(約18%)が脂肪肝であった。
組織の脂肪化と画像との関係をまとめると,CAP,ATI,CT値(L/S)は相関を示していた。また,組織学的検査を行った症例におけるCTとATIの相関を見ると,CTでは軽度脂肪肝の診断が困難であるものの,高度な脂肪肝については良い結果が得られていた。一方,ATIでは10%未満および10〜30%未満の脂肪肝の診断が可能であり,軽度脂肪肝については超音波の方が有用性が高いと言える。

3.NASH診断への応用
近年,NASHの診断基準が変わりつつあり,グレードとステージを合わせたBruntのグレード分類で診断するようになった。また,「NASH/NAFLDの診療ガイド 2015」では,5%,20%,40%,60%,80%という段階で脂肪化を評価する必要があると示されている。
さらに,単純性の脂肪肝では,脂肪化の強さと生命予後に相関はないが,線維化が進行すると,進行していない脂肪肝に比べて圧倒的に予後が悪いことが報告されている4)。つまり,線維化がある程度進行してきた場合は,厳重にフォローする必要があるというのが,この論文の趣旨であると考えられる。
実際の症例を提示する。
症例1は,20歳代前半の男性,潰瘍性大腸炎を有するNASH症例である(図8)。CTにて脂肪肝は明らかであり,肝腎コントラストが認められる。肝実質のスペックルパターンはそれほど悪くないが,肝機能ALTは100%と上昇している。血小板は約29万/μLあり,ALTも101 IU/Lと高く,病理画像を見るとすでに線維化が出始めている。肝臓の硬度も,SWEが1.56m/s,FibroScanが1.98m/s(11.8kPa)と高値である。本症例はまだ20歳代前半であり,早めに生活療法などで介入しないと,おそらく40歳までには肝硬変になると予測する。こうした症例を早期に拾い上げる必要があると考えている。

図8 症例1:潰瘍性大腸炎を有するNASH症例(20歳代前半,男性)

図8 症例1:潰瘍性大腸炎を有するNASH症例(20歳代前半,男性)

 

また,肝硬変が進行すると,脂肪化が低下していく。症例2は,60歳代,女性,NASHから肝硬変にまで至ったBurn out NASH症例であるが,明らかに肝線維が増生しており,F4と診断できる(図9)。しかし,脂肪化は8%である。このように病態を把握するためには,線維化と脂肪化の両方を診断すべき症例と考えられる。

図9 症例2:Burn out NASH症例(60歳代,女性)

図9 症例2:Burn out NASH症例(60歳代,女性)

 

4.ATIとSWEによる総合診断への可能性
そこで,われわれがめざす診断は,SWEで肝臓の硬度を計測し,ATIで脂肪の減衰にて脂肪化を定量し,仮にSWEではF2,ATIでは脂肪化30%をそれぞれ境界として総合的に評価することで,正常肝,脂肪肝,Burn out NASH,NAFLDを鑑別できる可能性を探っている。

まとめ

Aplio iシリーズに搭載されたATIは,FibroScanのCAPと非常に良く相関している。ATIは,Bモードのグレードごとに有意差があり,また,CT値とCAP,ATIにも良好な負の相関がある。一方,CT値では比較的重度の脂肪化は鑑別可能であるが軽度脂肪肝の診断が困難であるのに対し,ATIとCAPは30%未満の鑑別も可能である。超音波を使用して軽度脂肪肝を拾い上げることが重要である。
以上から,Aplio iシリーズのSWEとATIによる検査法は,脂肪肝の診断のみならず,形態・組織学的脂肪化診断に迫る可能性がある。

●参考文献
1)Masuzaki, R., et al. : Prospective risk assessment for hepatocellular carcinoma development in patients with chronic hepatitis C by transient elastography. Hepatology, 49・6, 1954〜1961, 2009.
2)Bedossa, P., et al. : Sampling variability of liver fibrosis in chronic hepatitis C. Hepatology, 38・6,1449〜1457,2003.
3)Aoki, T., et al. : Prediction of development of hepatocellular carcinoma using a new scoring system involving virtual touch quantification in patients with chronic liver diseases. J. Gastroenterol., 52・1, 104〜112, 2017.
4)Angulo, P., et al. : Liver Fibrosis, but No Other Histologic Features, Is Associated With Long-term Outcomes of Patients With Nonalcoholic Fatty Liver Disease. Gastroenterology, 149・2, 389〜397, 2015.

 

飯島 尋子

飯島 尋子(Iijima Hiroko)
1983年 兵庫医科大学卒業。同年同大学病院第三内科教室臨床研修医。1996年 同第三内科助手。2000年 東京医科大学第四内科講師。2003年 トロント大学トロント総合病院放射線科客員臨床教授,トロント大学サニーブルック校舎医学生物物理学教室客員教授。2005年 兵庫医科大学中央医療画像部門助教授,内科肝胆膵科助教授(兼任)。2008年〜兵庫医科大学超音波センター長,内科・肝胆膵科教授(兼任)。

 

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