セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

第77回日本医学放射線学会総会が2018年4月12日(木)〜15日(日)の4日間,パシフィコ横浜(神奈川県横浜市)で開催された。13日(金)に行われたキヤノンメディカルシステムズ株式会社共催ランチョンセミナー2では,名古屋大学大学院医学系研究科総合医学専攻高次医用科学講座量子医学分野教授の長縄慎二氏が司会を務め,自治医科大学附属さいたま医療センター放射線科講師の濱本耕平氏と熊本大学医学部附属病院中央放射線部准教授の北島美香氏が,「キヤノンMRIの新しい幕開け」をテーマに講演を行った。

2018年7月号

第77回日本医学放射線学会総会ランチョンセミナー2 キヤノンMRIの新しい幕開け

Clinical Application of New High Resolution 3D Imaging 〜Additional Value for Accurate Diagnosis〜

濱本 耕平(自治医科大学附属さいたま医療センター放射線科)

近年,病変の微細構造や詳細な解剖学的位置関係の描出が可能な3D撮像の需要が高まっているが,2D撮像と比較した3D撮像の一般的な問題点として,息止め不良や体動による画質の劣化,および長い撮像時間などが挙げられる。キヤノンメディカルシステムズ社が提供する高分解能3Dイメージングアプリケーション“Quick Star”および“Fast 3Dモード(Fast 3D)”は,この問題点を解決し有用である。本講演では,Quick StarとFast 3Dの臨床的有用性を中心に,Ultra-short TE(UTE)の有用性と非造影MRAの新展開についても述べる。

Quick Starの有用性

Quick Starはラジアルサンプリング法の一種で,k-spaceの中心付近のデータを繰り返し収集することで動きの影響を受けにくいという特長があり,自由呼吸下の高分解能3D撮像を可能にする。腹部領域はもとより,全身のさまざまな領域に適応可能なほか,小児の画像診断においても非常に有用である。
症例1は,肝細胞がん(HCC)治療後の経過観察の症例である。3D-FFE脂肪抑制T1強調画像では,息止め不良のため脈管構造や過形成結節が不明瞭であるが,Quick Starでは自由呼吸下でも肝実質が均一に描出されており,結節や脈管も明瞭である(図1)。また,別の症例では,後腹膜臓器の副腎や腎臓,膵臓などが3D-FFEよりもシャープかつ高コントラストに描出されていた。

図1 症例1:肝細胞がん(HCC)治療後の経過観察(70歳代,女性)

図1 症例1:肝細胞がん(HCC)治療後の経過観察(70歳代,女性)

 

症例2は,肺動静脈奇形症例である。造影後の自由呼吸下でのQuick Starにて,主病変である左肺下葉の動静脈奇形と,動脈と静脈との連続性が明瞭に描出されており(図2),術前の治療計画においてもきわめて有用である。
このほか,頭頸部がんおよび後腹膜腫瘍の浸潤度診断や乳がん胸壁転移の診断における有用性,肺がん術後症例におけるモーションアーチファクトの低減効果,造影MRIにおける描出能の向上なども確認している。
また,小児の画像診断は,被ばくへの配慮が求められるほか,鎮静剤を使用するため息止めが困難であること,撮像時間の制限,対象臓器が小さいため微細構造の描出が求められることなどにより,検査のハードルが高い。そのため,息止めなしで良好な画像が得られるQuick Starは非常に有用である。

図2 症例2:肺動静脈奇形(50歳代,女性)

図2 症例2:肺動静脈奇形(50歳代,女性)

 

症例3は,小児の神経芽腫疑いの症例である。鎮静が必要な小児検査において,2D-FSEでは,呼吸同期を行ってもアーチファクトが生じることも多い。一方,Quick Starでは,同期なしの自由呼吸下で全身を撮像でき,脈管構造や副腎などの微細構造もしっかりと検出可能なため,CTによるスクリーニングよりも有用と考える。本症例は,Quick StarのMPR再構成画像にて右肺尖部の腫瘤(→)がはっきりと描出されており(図3),スクリーニング検査としてきわめて有用である。

図3 症例3:神経芽腫疑い(1歳6か月,男児)

図3 症例3:神経芽腫疑い(1歳6か月,男児)

 

Fast 3Dの有用性

Fast 3Dはthin sliceの高速3Dイメージングで,k-spaceの充填方法を工夫して効率化することで高速化が図られており,従来の同社の3D撮像である“FASE3D_MPV”と比べて撮像時間は約1/2に短縮している。主な特長として,高速3D撮像によるワークフローの改善,3D画像による詳細な解剖学的評価,脈管近傍病変の検出能の向上,磁場が不均一な部位の病変描出能の向上,などが挙げられる。
症例4は,乳児の頭蓋内病変スクリーニングである。2DのT1強調画像3方向の撮像には約7分かかるが,Fast 3DのT1強調画像は3分7秒で撮像でき,ワークフローの改善に大きく貢献する。また,MPR画像再構成によって,脳の微細な構造を多方向から観察可能である。2D-FSEと比較したところ,Fast 3Dでも髄鞘化の程度や皮髄境界が同様に観察できた(図4)。

図4 症例4:頭蓋内病変スクリーニング(修正週数34週,男児)

図4 症例4:頭蓋内病変スクリーニング(修正週数34週,男児)

 

また,近年行われるようになった前立腺がんのロボット手術の新たな術式である後方アプローチにおいて,がんの詳細な位置関係の把握にFast 3Dが有用性を発揮すると思われる。症例5は前立腺がん症例であるが,Fast 3Dでは尖部の病変が境界明瞭で,被膜の構造もしっかりと描出されている(図5)。撮像時間も2D 3方向の撮像に比べて約1分短縮している。

図5 症例5:前立腺がん(70歳代,男性)

図5 症例5:前立腺がん(70歳代,男性)

 

このほか,Fast 3Dは,脳神経領域,脊椎・脊髄領域,婦人科領域,骨軟部領域にも応用可能で,それぞれ有用性を確認している。さらに,造影MRIにおいてもいくつかの有用性がある。Fast 3DはFSE系シーケンスのため脈管があまり造影されず,脈管構造と見間違うような転移巣の検出に有用である。また,gradient echo系シーケンスよりも磁場の不均一性に強く,眼窩内腫瘍や副鼻腔,乳突蜂巣近傍の腫瘍なども明瞭に描出可能である。

UTEの有用性

UTEは,Quick Starと同様にラジアルサンプリング法の一種であるが,平面ではなく球状に信号を収集する。非常に短いTEを用いるため,血流などのアーチファクトに強く,肺野や腱,骨軟部などの描出に有用である。
例えば肺野では,肺動静脈奇形をUTEにて単純CTと同等の解像度で評価できるほか,Quick Starと組み合わせることで小児の全身を無被ばくで検査可能である。さらに,UTEは金属アーチファクトに強く,例えば肺動静脈奇形のコイル塞栓術後の評価では,CTで確認できない動脈と静脈の連続性をUTEではっきりと描出でき,再開通していることが確認できた例を経験している(図6)。

図6 UTEによる肺動静脈奇形のコイル塞栓術後評価

図6 UTEによる肺動静脈奇形のコイル塞栓術後評価

 

非造影MRAの新展開

同社の非造影MRAに,新たに“mASTAR”と“mUTE 4D-MRA”が登場した。

1.mASTARの有用性
通常,非造影MRAで複数フェーズを得るためには,複数回の撮像が必要であるが,mASTARでは複数フェーズを1回の撮像で得ることができる。当院では,このmASTARを脳神経領域に応用しており,体幹部領域での検討も進めている。

2.mUTE 4D-MRAの有用性
mUTE 4D-MRAは,UTEにASLを組み合わせることで血行動態評価を可能にしたシーケンスである。連続的に傾斜磁場を変化させることで,短いTEと静音化を実現しており,現在は主に頭部で使用されている。mASTARと比べた特長として,金属アーチファクトに強いことが挙げられる。

まとめ

高画質3D撮像法であるQuick StarおよびFast 3Dは,ルーチン検査に導入可能であり,診断精度の向上に寄与しうると考える。また,血行動態評価が可能なmASTARやmUTE 4D-MRAは,体幹部領域においても今後,有用性が期待される。

 

濱本 耕平

濱本 耕平(Hamamoto Kouhei)
2001年 北海道大学獣医学部卒業。2009年 群馬大学医学部医学科卒業。同年 自治医科大学附属さいたま医療センター研修医。2011年 同センター放射線科入局。2014年 同助教。2017年より同講師。放射線科専門医。

 

 

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