セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

第77回日本医学放射線学会総会が2018年4月12日(木)〜15日(日)の4日間,パシフィコ横浜(神奈川県横浜市)で開催された。14日(土)に行われたキヤノンメディカルシステムズ株式会社共催ランチョンセミナー11では,国際医療福祉大学学長の大友 邦氏が司会を務め,大阪大学大学院医学系研究科放射線医学教授の富山憲幸氏,広島大学大学院医歯薬保健学研究科放射線診断学研究室教授の粟井和夫氏,慶應義塾大学医学部放射線科学教室教授の陣崎雅弘氏が,「次世代CT / 技術による臨床最前線」をテーマに講演を行った。

2018年7月号

第77回日本医学放射線学会総会ランチョンセミナー11 次世代CT / 技術による臨床最前線

320列検出器を用いた立位型CTの開発 ─重力下の人体の可視化を目指して─

陣崎 雅弘(慶應義塾大学医学部放射線科学教室)

本講演では,われわれとキヤノンメディカルシステムズ社を中心とする産学連携,医工連携,他科との連携による320列面検出器を用いた立位型CTの開発と,現在進行中の臨床研究について報告する。

立位型CT開発の背景

1998年に世界初の4列マルチスライスCTが登場して,2000年代には急速な多列化が進み,2004年には64列CTが登場した。この頃には2〜3mmの薄いスライス厚の画像をルーチンで撮影することができるようになり,再構成することで評価可能な三次元画像が得られるようになった。三次元画像を活用することで,それまで血管造影,排泄性尿路造影,胆道造影,注腸造影といった造影X線検査で得られていた情報を,CTでも得られるようになった。その結果,造影X線検査はCTで置換され,患者は多くの検査を受ける必要がなくなり,各疾患の診断アルゴリズムが効率化された(図1)。
2007年には320列面検出器CT「Aquilion ONE」が登場し,16cm幅で同じ部位を連続で撮影できるようになり,いわゆる四次元の画像を得ることができるようになった。また,同じ頃に逐次近似法を用いた被ばく低減技術が登場し,その後の進歩で,例えば胸部CTは,胸部単純X線検査と同等の線量で撮影可能となった(図2)。このような被ばく低減が進んだことで,四次元画像を活用した機能診断が普及する下地ができた。特に,高齢化社会を迎えて,健康長寿が求められるようになった現在においては,さまざまな四次元機能診断の重要性は高い。ただ,機能情報の多くは立位でしか得られない。
また,造影X線検査はすでに置換されたが,より古くからある胸部,腹部,膝関節などの単純X線検査は依然として広く活用されている。投影像ではなく横断像で診断できるようになれば,より正確な診断を行うことができるようになるが,これらの単純X線像のほとんどは立位で撮影されている。
以上のことから,立位型CTがあれば,単純X線検査も置換することが可能になり,健康長寿の時代に対応可能な多くの機能情報を四次元で得ることができる。

図1 三次元CT画像による造影X線検査の置換

図1 三次元CT画像による造影X線検査の置換

 

図2 逐次近似法による画質の向上

図2 逐次近似法による画質の向上

 

立位型CTの開発と導入

立位型CTがこれまで登場しなかった大きな要因の一つは,全身の撮影時間が長かったことであろう。単純X線写真の撮影は一瞬の曝射であるのに対し,CTは撮影時間が長く,2005年頃までは全身の撮影に30秒以上かかっていた。この程度の撮影時間では,患者の揺動性が生じてアーチファクトが発生する。その後,特に面検出器CTの登場により,撮影時間の短縮が図られたことで立位型CTが現実味を帯びたと考えた。
そこで,2012年に,当時の東芝メディカルシステムズ社に立位型CTの必要性を提案し,2年後の2014年にプロジェクトが始動。2016年に第1号機が完成し,2017年に当院に導入された(図3)。本装置では,軀幹部を約10秒で撮影可能である。
立位型CTを導入後,すぐに物理評価を行った。Aquilion ONEと比較した結果,空間分解能もノイズ特性もほとんど変わらないことを確認した(図4)。

図3 立位型CTのガントリが上下した状態

図3 立位型CTのガントリが上下した状態

 

図4 物理評価:NPS(120kV,SD3/SD10)

図4 物理評価:NPS(120kV,SD3/SD10)

 

立位型CTの臨床研究

われわれは,約1年間をめどに,ボランティアを対象として立位における人体の標準解剖学を構築するための臨床研究を行っている。立位(座位)での各世代の人体の解剖学的構造の三次元的な定量化や,立位(座位)と臥位を比較して人体への重力の影響を定量化することを目標としている。こうしたデータは,これまでまったく検討されていないため,まずは立位での標準解剖を構築した上で,さまざまな病態において何が異常なのかということを検討していく予定である。
MRIによる脳に関する研究1)から,従来,脳は非常にロバストな構造であり立位でも動かないと考えられてきたが,われわれが立位型CTで39例を撮影した結果,ほぼ全例で脳のさまざまな構造がわずかに下垂していた。これはCTとMRIの空間分解能の差による違いと思われるが,脳が動くというのはパラダイムシフトであり,例えば脳脊髄液減少症への対応や,術後に立位にしてよいかどうかに関する考え方が変わってくる可能性がある。
肺についても臥位,立位,座位で容量に差があるほか,立位時の容量は肺呼吸機能検査の容量とほぼ一致しており,下葉が特に動いていることが明らかとなった2)
また,骨盤底の動きはこれまで不明であったが,立位型CTで見ると男女共に動いており,しかも高齢の女性ほどよく動くことがわかってきた。高齢者の尿失禁などの病態を解明する上での基盤データになると考えられる。
次に,整形領域では,いまだ解明されていない歩行機能について明らかにすることが目標である。
実際の疾患については,これから検討を行っていくが,脊椎すべり症の症例では,立位にて椎間孔が狭くなっており,単純X線検査では得ることのできない横断像で,狭窄の存在を指摘できている。また,立位でしか指摘できないヘルニアも多く経験している。
なお,立位型CTでは,従来のCT装置と比較して患者の入室から撮影までの時間が大幅に短縮し,検査のワークフローが向上する。足の状態が悪い患者も,車椅子でガントリの真下まで運び入れ,そのまま立ち上がってすぐに撮影可能である(図5)。

図5 車椅子の利用

図5 車椅子の利用

 

まとめ

CTの進歩により,現在では四次元での機能的画像診断が可能となった。器質的疾患の診断においては超高精細CTが本流になると思われるが,健康長寿が求められる時代においては機能性疾患の診断の重要性が高くなる。従来の臥位の診断学に立位の診断学が加われば,機能性疾患の診断という新しい扉が開くと考える。

●参考文献
1)Nakada, T., Tasaka, N. : Human brain imaging in the upright position. Neurology, 57・9, 1720〜1722,2001.
2)山田祥岳:320列縦型CTと通常型CTを用いた,臥位・座位・立位での肺容積の比較;呼吸機能検査との関連. 第78回日本医学放射線学会総会,C028,2018.

 

陣崎 雅弘

陣崎 雅弘(Jinzaki Masahiro)
1987年慶應義塾大学医学部卒業。同年,放射線診断科入局。日本鋼管病院放射線科,ハーバード大学ブリガム・アンド・ウィメンズ病院留学,慶應義塾大学医学部放射線科学教室准教授などを経て,2014年より同教授。

 

 

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