セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

日本超音波医学会第91回学術集会が,2018年6月8日(金)〜10日(日)の3日間,神戸国際会議場,神戸ポートピアホテル(兵庫県神戸市)を会場に開催された。9日に行われたキヤノンメディカルシステムズ株式会社共催ランチョンセミナー9では,兵庫県立医科大学超音波センター/内科・肝胆膵科の飯島尋子氏が座長を務め,虎の門病院肝臓内科の斎藤 聡氏と川崎医科大学検査診断学内視鏡超音波部門の畠 二郎氏が,「キヤノンメディカルシステムズが提供する腹部エコーの新たな展開2018」をテーマに講演を行った。

2018年9月号

日本超音波医学会第91回学術集会ランチョンセミナー9 キヤノンメディカルシステムズが提供する腹部エコーの新たな展開2018

Aplio i800を用いた肝臓の硬さと脂肪の評価法について

斎藤  聡(虎の門病院肝臓内科)

キヤノンメディカルシステムズでは,超音波診断装置のさまざまな解析アプリケーションを用いて,脂肪肝から肝がんに至る肝臓疾患の各ステージの病態を把握する“Liver Package”を提供している(図1)。本講演では,Liver Packageの中から“Attenuation Imaging”,“Shear Wave Elastography”,“Shear Wave Dispersion”,“Multi Parametric Report”による肝臓病態把握の新しいアプローチについて述べる。

図1 Liver Package

図1 Liver Package

 

Attenuation Imaging(ATI)

ATIは,生体内部に放射された超音波パルスが生体組織を通過する時に吸収・拡散などにより減衰する原理を利用し,その減衰係数を推定するアプリケーションである。算出方法としては,Bモードの信号から探触子に依存した送信音場特性を補正し,生体組織の吸収による減衰を反映した信号強度に変換する。さらに,脈管など測定値に影響を与える構造物をフィルタによって除外し,生体組織の性質に起因する減衰係数を推定する。この減衰係数を断層像上にカラーマップとして表示して定量評価を行う。
Aplio i800のATIでは,計測ROIの位置による減衰係数の信頼度が,画面上に表示される計測値の文字の色で表される(信頼度の高い順に白→黄色→赤)。計測の際には,Bモード画像を基本として,2cm×4cm程度のROIを,肝表皮下厚の2倍程度を目安に置き,多重反射,モーションアーチファクト,脈管などの構造物はできるだけ避けることがポイントである。図2に良好計測例を示す。多重反射も少なくBモードがきれいに描出されており,大きな構造物を避けて肝臓がはっきりととらえられている。
ATIの計測結果について,CAP(フィブロスキャン)の624例と比較した。ATIはdB/cm/MHz,CAPはdB/mと単位は異なるが,r=0.676と良好な相関を示した。フィブロスキャンには周波数が異なるMとXLの2つのプローブがあるが,両プローブでの肝硬度測定良好例(n=230)のCAP値の相関はr=0.8749で,周波数が異なっていても同じ数値が得られる。正常肝(n=104)では,medianはATIが0.52,CAPが186,95% tileはATIが0.64,CAPが230となった。脂肪肝での相関(n=144)は,CAPにM(n=90)とXL(n=54)のプローブによる計測値が混在していても,r=0.6501と良好な相関関係があり,脂肪肝の測定にATIが有効だと考えられた(図3)。

図2 ATIの良好計測例

図2 ATIの良好計測例

 

図3 ATIとCAPの関係

図3 ATIとCAPの関係

 

Shear Wave Elastography(SWE)

1.SWEの原理
肝臓の線維化の評価は,肝疾患の進行度を把握する重要な指標である。非侵襲的に線維化を評価する方法として,超音波エラストグラフィが用いられてきた。超音波エラストグラフィの手法の一つであるSWEには,transient elastography(フィブロスキャン),point SWE(VTQなど)があるが,Aplioの2D-SWEは硬度あるいは速度をカラーマップで確認できることが特徴である。
SWEの原理は,Push Pulseで発生させた剪断波(shear wave)の速度(shear speed)を計測するものである。キヤノンメディカルシステムズのPropagation mapは,ある時間間隔ごとの剪断波の位置を示す表示モードであり,軟らかい物体は線の間隔が狭く(速度が遅い),硬い物体は間隔が広く(速度が速い)なることを画像化したものである(図4)。図5は肝硬変のSWEで,Propagation mapを基にROIを設定し,弾性率とshear speedを計測した。フィブロスキャンとVTQの測定値を比べても高い相関が得られている。

図4 SWEの原理(Propagation map)

図4 SWEの原理(Propagation map)

 

図5 肝硬変のSWE

図5 肝硬変のSWE

 

2.Aplio i800のSWE
キヤノンメディカルシステムズのSWEは着実に進化しており,Aplio i800ではプローブが単結晶となるなどハードウエアが大幅に改善され,アプリケーションについても機能が向上している。
Aplio i800でのSWE計測のポイントとしては,まずElasto. mapレンジを20kPa程度まで狭くすることで,カラーの色ムラが強調され,ホットスポットを避け安定した領域で計測が可能になる。また,良好なBモード画像で構造物などがないこと,Propagation mapの乱れが少ない領域で,かつElasto. mapとDispersion mapで均一なカラー表示が得られている領域に計測ROIを配置することが重要である。
Aplio i800では,非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)で,皮下厚が20mmを超える症例でも安定したSWEが得られる。図6は皮下厚24mmのNAFLDだが,BモードもPropagation mapもしっかりと取得でき,Elasto. mapもDispersion mapも良好に描出されている。
Aplio i800のSWEとフィブロスキャンの肝硬度測定値の比較(n=642)では,r=0.9299(p<0.001)と非常に高い相関が得られた。皮下厚別に比較したところ,皮下厚20mm超(n=114)でもr=0.8689と,フィブロスキャンで計測可能な厚さであれば,Aplio i800のSWEは十分計測可能であると思われる。また,肝疾患の成因別の比較でもHCV(n=190)0.9246,HBV(n=137)0.8963,NAFLD(n=87)0.8270,その他(n=111)0.9385と,どの成因でもフィブロスキャンと高い相関があり同等であると考えられる。
SWEの肝硬度値については,さまざまな手法による数値が取得されるが,それらは“相関すれど一致せず”との考えを基本とすべきである。SWEは生体内の検査であり,体動や多重反射などのアーチファクトの影響を理解して,数値のみで判断せず,ほかの臨床データと組み合わせて考えることが必要である。

図6 Aplio i800による皮下厚が20mmを超えるNAFLD症例

図6 Aplio i800による皮下厚が20mmを超えるNAFLD症例

 

Shear Wave Dispersion(SWD),Dispersion Slope(DS)

肝硬度に影響する要因として,線維化以外に炎症,うっ血,胆道内圧上昇,アミロイドーシスなどが挙げられる。これらは粘性に影響されていると考えられ,粘性に関係する指標となるのがSWDである。
図7のCase1とCase2は,shear speedは同じだが,Case2は変位外形に変化が起こっている。この外形の変化を解析することで,周波数ごとのshear speedが算出できる。周波数,速度の分布に対して傾きに着目することで,剪断波のある一定の周波数変化によって速度がどの程度変化したのかという,“周波数依存性(Dispersion Slope:DS)”を求めることができる。Voigt モデルを仮定したshear speedに任意のずり弾性係数,ずり粘性係数を入れてグラフの変化を見ると,粘性がない場合にはグラフは平らに,粘性がある場合には傾きが生じ,粘性がない場合にはDSは0となり,粘性が大きいほど傾きが大きいため,粘性が大きくなればなるほどDSの値は大きくなると考えられる(図8)。
そこで,この理論が正しいかどうかを検証した。脂肪濃度が0%,5%,10%,15%,20%の5種類の脂肪ファントムでSWE(弾性率)とSWD(DS)を計測したところ,弾性率はほぼ同じだったが,DSは濃度が上がるに従って数値が増加し,脂肪濃度との相関があることをうかがわせた。一方で,生体のNAFLD(n=87)の検討では,脂肪化度(S1→S3)の進行によってCAPとATIでは有意差が認められたが,SWD(DS)では有意差がなかった。ファントムと生体では傾向が異なり,生体では脂肪の粘性の影響を明確に区別することはできなかった。
SWD(DS)の症例別の分布を見たところ,正常肝,脂肪肝,B型肝炎,C型肝炎では数値は上がらないが,急性肝炎と肝硬変では高値を示した。そこでC型慢性肝炎でSWEとSWD(DS)を比較すると,高い相関関係(r=0.8422)が認められた。ある程度線維化が進行し内部が不均一になるとDSの値が向上すると考えられ,必ずしも粘性を反映しているとは言えないと考えられた。
そこで,線維化のない症例に限ってSWD(DS)を比較した(図9)。正常肝と線維化のない脂肪肝では同程度のDSだが,急性肝炎とうっ血肝では明らかにDSが上昇している。線維化のない急性肝炎やうっ血肝では,SWEの値に比べてDSが大きく上昇することから,炎症やうっ血を反映していることが示唆された。
SWD(DS)では,線維化のない急性肝炎やうっ血肝では炎症やうっ血の影響を指摘できる可能性があるが,線維化のある症例については今後の検討が必要だと考えられる。また,SWEとSWD(DS)では単位が異なるため,混同せずに扱うことが必要である。

図7 SWDの原理1

図7 SWDの原理1

 

図8 SWDの原理2

図8 SWDの原理2

 

図9 線維化のない症例のSWD(DS)の比較

図9 線維化のない症例のSWD(DS)の比較

 

Multi Parametric Report

Multi Parametric Reportは,SWE,SWD,ATI,NLV(Normalized Local Variance,W.I.P.),肝表皮下厚などの5つのパラメータを五角形のトレンドグラフで表示するアプリケーションである。正常肝,脂肪肝,B型肝炎とC型肝炎,急性肝炎,肝硬変では違うグラフの形を示し,ある程度の疾患の鑑別が可能になると考えられる。
図10の症例は,肝臓がやや肥大し,肝表面は凹凸がほとんど認められない。内部のスペックルパターンは粗くなく,血流異常も見られず,肝硬変とは考えられない。Multi Parametric Reportでは肝硬度(SWE)とDSが突出して高くなっており,SWE 106,DS 16.7,ATI 0.36で脂肪化,線維化はなく,アミロイドーシスと考えられた。各種の指標を組み合わせてチャート化することで,傾向が把握しやすくなり肝疾患の診断をサポートする可能性が感じられる。このトレンドグラフを基に人工知能(AI)技術などを組み合わせることで,さらに有用な指標を提供できる可能性がある。しかし,各パラメータの数値はまったく別の指標であり,それを組み合わせることは,誤差を拡大する危険性があることは指摘しておきたい。

図10 Multi Parametric Report

図10 Multi Parametric Report

 

まとめ

Liver Packageでは,肝疾患の進行に合わせてATI,SWD(DS),SWE,CHI(造影表示)などを組み合わせて病態の把握が可能になることが期待される。

 

斎藤  聡

斎藤  聡(Saito Satoshi)
1984年 宮崎医科大学医学部卒業。同年 虎の門病院内科レジデント,89年 同消化器科。2006年 総合南東北病院消化器内科 2007年 虎の門病院肝臓センター・分院放射線科兼任。

 

 

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