セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

日本超音波医学会第91回学術集会が,2018年6月8日(金)〜10日(日)の3日間,神戸国際会議場,神戸ポートピアホテル(兵庫県神戸市)を会場に開催された。9日に行われたキヤノンメディカルシステムズ株式会社共催ランチョンセミナー7では,御幸病院の西上和宏氏が座長を務め,北播磨総合医療センター脳神経内科の濵口浩敏氏が,「Aplio i-Seriesの挑戦! 下肢血管エコーへの誘い」をテーマに講演を行った。

2018年10月号

日本超音波医学会第91回学術集会ランチョンセミナー7

Aplio i-Seriesの挑戦! 下肢血管エコーへの誘い

濵口 浩敏(北播磨総合医療センター脳神経内科)

下肢血管エコーが2018(平成30)年度診療報酬改定で新設され,450点が算定できるようになった。これは,下肢血管エコーへのニーズが高まっていることと,高度な検査技術を要することが評価されたと考えられる。本講演では,このような状況を踏まえて,下肢静脈エコーにおける標準的評価法の改定ポイント,下肢動脈エコーのコツ,そして,キヤノンメディカルシステムズの超音波診断装置「Aplio i-series」に搭載されている機能を症例画像とともに解説する。

下肢静脈エコー標準的評価法の改定ポイント

2018年3月に「下肢深部静脈血栓症の標準的超音波診断法」が改定され,「超音波による深部静脈血栓症・下肢静脈瘤の標準的評価法」(日本超音波医学会,日本静脈学会,日本脈管学会からなる静脈エコー検討小委員会作成)が公示された。2008年の第1版では下肢深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:DVT)が中心であったが,改訂版は静脈瘤の標準的評価法も加わった。以下,改定のポイントについて解説する。

1.解剖名称の統一
今回の改定では,解剖名称の統一が図られた。骨盤・下肢静脈系の解剖生理は,腸骨静脈系,大腿静脈系,下腿静脈系に分けられ,このうちの大伏在静脈・小伏在静脈と皮静脈が表在静脈とされ,それ以外は深部静脈である。深部静脈の中で,従来,浅大腿静脈(superficial femoral vein)と呼称されていたものが,今回の改定で大腿静脈(femoral vein)に変更された。これは,深部にあるにもかかわらず,“浅”という文字が含まれていたことと,国際的に大腿静脈という呼称になっていることを踏まえたものである。これとともに大腿深静脈は,“大腿深静脈”と“深大腿静脈”のいずれの呼称でも問わないこととなった。

2.2 point(3 point)法
今回の改定でインパクトがあったものの一つに2 point(3 point)法が挙げられる。
従来,下肢静脈エコーは,一度に近位側から遠位側まで全下肢静脈を検索する全下肢エコーが中心であった。改定された標準的評価法において,新たにproximal compression ultrasonography(proximal CUS)という方法が記載された。proximal CUSは,鼠径部の総大腿静脈と膝窩部の膝窩静脈の2か所に限定して評価を行う検査法である。全下肢エコーは従来どおり通常の検査室で施行するが,proximal CUSは救急診療や在宅診療の現場で行うことが想定されている。特に,救急診療では時間を短縮できるproximal CUSは有用である。ただし,proximal CUSで陰性だった場合でも,検索していない下腿限局型DVTの近位部進展を見逃さないようにするためには,1週間後に再検査をする必要がある。これについては,2回検査を行う負担を考慮し,施設ごとに適応を判断することになると思われる。ただし,2 point CUS法にDダイマーを組み合わせてDVTの除外診断をすることで,再検査症例を減らすことが可能である。
proximal CUSには,鼠径部の総大腿静脈と膝窩部の膝窩静脈の2か所の検索を行う2 point CUS法と,これに大腿静脈を加えた3 point CUS法がある。下腿を含めない理由は,下腿はバリエーションが豊富で,検索に時間がかかるためである。

3.圧迫法
改定された標準的評価法の中で強調されている項目が,圧迫法(comprssion ultrasonography:CUS)である。前回の標準的評価法では,「プローブで静脈を圧迫し,静脈の圧縮性を判定する」との記載しかなかったが,今回大幅に追記され,「短軸での操作が基本である」ことや「最も信頼性が高いのは圧迫法」であると明記されている。
CUSによる静脈血栓評価法では,正常例の場合,プローブで軽く用手圧迫することにより内腔が消失する。急性期の場合は内腔が拡大しており,強い圧迫は禁止となる。さらに,慢性期(壁在血栓残存)では,用手圧迫を行っても内腔は残存している。つまり,エコー像では,用手圧迫で静脈がつぶれれば血栓がなく,静脈がつぶれなければ血栓があると診断できる。また,CUSの手技のポイントとしては,長軸では血管を全体的に圧迫するのが困難であるため,短軸で完全に静脈をつぶすように行うのがポイントである。加えて,CUSでは画像上に骨を描出させておくことで,どの方向から圧迫しているかを把握できる。さらに,1方向だけだと見逃しのリスクがあるため,多方向から観察することも重要である。
DVTの診断においては,CUSがゴールドスタンダードとされており,血流誘発法はCUSよりも感度・特異度共に低下しているが,両者を組み合わせることでより高精度の診断が可能となる。改訂版においても,圧迫法による静脈エコーは,診断精度が高く有用であると記載されている。

4.DVT再発を疑ったときのフォロー
DVTの再発については,過去のエコー所見と比較し,新たな血栓形成があるか,圧迫時の血管内腔が残存しているかを確認する。改訂版では,圧迫時の血管内腔が4mm以上増加している場合は再発となる。なお,2mm前後は検者間の誤差が考えられる。

5.静脈瘤エコー
改訂版で新たに追加されたのが静脈瘤エコーである。静脈瘤は,伏在静脈瘤,側枝静脈瘤,分枝静脈瘤,網目状静脈瘤,クモの巣状静脈瘤などがあり,エコーでは,伏在静脈瘤と,側枝静脈瘤または分枝静脈瘤の評価が中心となる。改訂版には,CEAP分類も記載されており,臨床分類(Clinical sign),病因分類(Etiological classification),解剖学的分類(Anatomical distribution),病態分類(Pathophysiologic dysfunction)の4つを評価することが明記されている。
また,静脈瘤エコーでは,逆流時間の計測が治療方針の決定に有用である。改訂版では,明らかに優位な逆行性血流が検出される場合,パルスドプラでの計測を省略してよいとしている。さらに,表在静脈では500ms,深部静脈では1000msを超えると有意逆流であると規定された。
改訂版では,不全穿通枝の判定における径の計測と逆流の判定についても記載されている。新たに,穿通枝の径が3〜3.5mm以上のもので,負荷にて500ms以上外側への血流を有している場合を不全交通枝とすることが明記された。
このほか,下肢静脈瘤治療後の静脈エコー法に関して,治療の内容の把握,検査の時期,術後の検査のポイントについて記載された。

6.標準的評価法の今後の課題
今回の改定を踏まえた今後の課題として,2 point(3 point)法と全下肢エコーの使い分けが挙げられる。全下肢エコーは検査室,2 point(3 point)法は救急診療や在宅診療との考えがあるものの,1週間後の再検査は,患者の負担になる。また,急性期から慢性期になる際に,血栓がどのように変化するか現時点では不明であることも課題と言える。さらに,下肢静脈エコーでDVTを検出しても治療方針決定の判断材料となりうるのか,どのタイミングでフォローが必要となるかを,今後検討していかなければならない。このほか,超音波診断装置の性能向上や,新たな評価方法に対応した内容にしていくことも重要である。

下肢動脈エコーのコツ

下肢動脈エコーでは,末梢動脈疾患(peripheral artery disease:PAD)の評価が重要である。
PADに対してエコーを行う場合,スクリーニングとして,外腸骨・総大腿動脈,膝窩動脈,前脛骨動脈,後脛骨動脈の4点のパルス波形を見ることで,病変の有無や,病変部位の特定が可能である。基本的な体位は仰臥位で,鼠径部,膝窩部,前脛骨,後脛骨,足背動脈にプローブを当てて検索する。得られる画像としては,閉塞やプラークがあると等〜高輝度に描出される。また,骨盤内の外腸骨,内腸骨,総腸骨,腹部大動脈を断層法でスキャンし,腹部大動脈瘤,腸骨動脈瘤など拡張性病変の検索も行う。
急性動脈閉塞の場合は,可動性の血栓を検索することが重要である。可動性血栓があれば,心房細動の有無や,中枢側の狭窄,動脈瘤の有無などを確認しなければならない。また,下肢動脈の各所で同様の動きを伴う血栓や閉塞を確認することも必要である。さらに,エコーでは,カラーで血流を表示できることも閉塞部位の確認には大事なポイントである。
下肢動脈エコーでは,断層法とカラードプラだけでは不十分であり,血流パターンを理解しておく必要がある。波形を見る上で重要となるのは,収縮期最大流速(PSV)と収縮期立ち上がり時間(AcT)の2点である。また,加速血流の評価としては,総大腿動脈,膝窩動脈,後脛骨動脈,足背動脈で最大流速が異なり,狭窄率はおおむね50%を超えるのがPSV200cm/sであることを理解しておく必要がある。さらに,狭窄の評価には,peak systolic velocity ratio(PSVR)を用いる。PSVRは狭窄部よりも近位部で測定するのが原則であるが,複数箇所に狭窄がある場合,治療対象部位として明記できるのは,中枢側に何もないところとなる。
下肢動脈エコーでは,カラードプラを併用することで,狭窄や閉塞を検索しやすくなる。特に狭窄では,モザイクエコーは乱流を疑う。閉塞についても,カラードプラ像で血流を確認することで閉塞の有無を確認できる。
下腿動脈の評価としては,(1) 後脛骨動脈,前脛骨動脈,腓骨動脈は血管径が細いこと,(2) 血管が完全閉塞している場合でも,良好な側副血行路があると末梢側では正常な波形を示すこと,(3) 側副血行路が存在していたり,石灰化が著明な場合は,ABIでは評価困難な場合も多いこと,が挙げられる。
なお,ABIの評価が困難な場合の評価法として,Transit time of Vessel Flow(TVF)法がある。TVF法は,波形パターンを見るのではなく,心電図のRから波形のピークまでを計測するもので,下腿血流通過時間が30ms以下を基準値として狭窄・閉塞病変を予想した場合,基準値よりも短ければ病変のある可能性は低く,延長している場合は病変が疑われるという評価法である。

Aplio i-seriesの挑戦!

Aplio i-seriesに搭載されている技術としては,“Superb Micro-vascular Imaging(SMI)”,マトリックスリニアプローブ(PLI-705BX),24MHz超高周波リニアプローブ(PLI-2004BX),ホッケースティック型22MHz高周波リニアプローブ(PLI-2002BT)がある。当施設では,従来のプローブに加え,上記の3種類のプローブを導入しており,実際の検査では,これらのリニアプローブの使い分けを行っている。
SMIは低流速部位の確認に有用で,“Advanced Dynamic Flow(ADF)”と比較して微細な血流も描出できる。
図1は,指先の画像であるが,SMIはADFよりも側副血行路,分枝の血管など微細な血流評価が可能となった。
図2は,Aplio i-seriesを用いたレイノー現象の評価である。レイノー現象では,指先の血流の減少や,途絶,側副血行路の発達,cork screw signが描出される。cork screw signはバージャー病で高頻度に観察されるが,特異的な所見ではなく,慢性炎症による所見である。Aplio i-seriesで観察すると,SMIを用いることで微細な側副血行路を描出することが可能である(図2)。また,7MHzマトリックスリニアプローブPLI-705BXによる足背動脈でのカラードプラ,ADF,SMIの比較では,SMIの方が明瞭に血流が描出されている(図3)。さらに,プローブによっても見え方が大きく変わる。図4 aはPLI-705BXで,図4 bはPLI-2004BXであるが,PLI-2004BXの方が血流がなめらかで,SMIの描出能も向上している。
一方,ホッケースティック型22MHzリニアプローブのPLI-2002BTは,足背動脈のIMTまで明瞭に描出可能である。超高周波になればなるほど,0.5cm,1cmといった浅部までも高画質化し,カラーやパルスも良好である。図5は,前脛骨動脈と足背動脈の断層像であるが,PLI-2002BTではホッケースティック型プローブの形状を生かして圧迫法を用いることができ,使い勝手も良いと言える。また,図6のようにPLI-2004 BX(図6 a)では足の指に当てたプローブを動かすことができないが,PLI-2002BT(図6 b)は,足の指の間にも入れることができ,画質も良好である。

図1 SMIとADFによる描出能の違い a:ADF b:SMI SMIを用いることにより微細な血流評価が可能となった。

図1 SMIとADFによる描出能の違い
a:ADF b:SMI
SMIを用いることにより微細な血流評価が可能となった。

 

図2 Aplio i-seriesでのレイノー現象の評価 a:患指 b:健指 SMIを用いることで側副血行路を描出できる。

図2 Aplio i-seriesでのレイノー現象の評価
a:患指 b:健指
SMIを用いることで側副血行路を描出できる。

 

図3 PLI-705BXによるSMIとカラードプラ,ADFでの足背動脈の評価 a:カラードプラ b:ADF c:cSMI(color-coded SMI) d:SMI

図3 PLI-705BXによるSMIとカラードプラ,ADFでの足背動脈の評価
a:カラードプラ b:ADF
c:cSMI(color-coded SMI) d:SMI

 

図4 プローブの描出能の違い a:PLI-705BX b:PLI-2004BX

図4 プローブの描出能の違い
a:PLI-705BX b:PLI-2004BX

 

図5 ホッケースティック型22MHzリニアプローブ PLI-2002BTの画質 a:前脛骨動脈 b:足背動脈 プローブの形状を生かした圧迫法が可能である。

図5 ホッケースティック型22MHzリニアプローブ PLI-2002BTの画質
a:前脛骨動脈 b:足背動脈
プローブの形状を生かした圧迫法が可能である。

 

図6 ホッケースティック型22MHzリニアプローブ PLI-2002BTの利点 a:PLI-2004BX b:PLI-2002BT

図6 ホッケースティック型22MHzリニアプローブ PLI-2002BTの利点
a:PLI-2004BX b:PLI-2002BT

 

まとめ

Aplio i-seriesの登場により,今まで以上に下肢血管の詳細な病態評価が可能となった。今後は,診療報酬改定の影響により,下肢血管エコーの需要がさらに高まることが期待される。特に「超音波による深部静脈血栓症・下肢静脈瘤の標準的評価法」は,今後ゴールドスタンダードになると思われるので,ご一読いただきたい1)

●参考文献
1)http://www.jsum.or.jp/committee/diagnostic/pdf/deep_vein_thrombosis.pdf

 

濵口 浩敏

濵口 浩敏(Hamaguchi Hirotoshi)
1996年 神戸大学医学部卒業。三木市民病院,横浜労災病院,神戸大学医学部附属病院などを経て,現在,北播磨総合医療センター脳神経内科部長,脳卒中・神経センター副センター長。

 

 

●そのほかのセミナーレポートはこちら(インナビ・アーカイブへ)

【関連コンテンツ】
TOP