セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

2023年10月号

第105回日本消化器内視鏡学会総会ランチョンセミナー9 胆膵内視鏡up to date ~CアームX線TVシステムの有効活用法~

CアームX線TVシステムを用いた胆道癌診断

川嶋 啓揮(名古屋大学大学院医学系研究科 消化器内科学)

川嶋 啓揮(名古屋大学大学院医学系研究科 消化器内科学)

1999年4月に開設された当院の光学医療診療部は、2018年1月に現在の診療棟に移転した。超音波内視鏡室と透視室を各2室、超音波室5室を備え、内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)などを行っている。本講演では、キヤノンメディカルシステムズ社製CアームX線TVシステム「Ultimax-i」を用いた当院の胆道がん診療の実際を、症例を踏まえて紹介する。

CアームX線TVシステムの特徴

Ultimax-iは、Cアームを左右/尾頭に回転させることで、通常の体位変換では対応できない角度からでもX線照射が可能となる。また、Cアームの回転によって、X線照射を上から行うオーバーチューブと下から行うアンダーチューブが可能であり、アンダーチューブでは散乱線が足元方向に発生するため、医療従事者の被ばく低減につながる(図1)。
金沢大学病院でCアームX線TVシステムを用いて室内の散乱線量分布を測定した検討では、オーバーチューブは高さ150cm以上での散乱線量が5.7mSv/hであったのに対し、アンダーチューブは0.11mSv/hでオーバーチューブの1.9%であった1)。また、X線防護垂れの使用により、散乱線量がさらに低下することが示された。

図1 キヤノンメディカルシステムズ社製CアームX線TVシステムUltimax-i

図1 キヤノンメディカルシステムズ社製CアームX線TVシステムUltimax-i

 

当院の胆道がん診療の流れ

当院の胆道がん診療の流れは、まず、胆道がん疑い例に対してダイナミックCT撮影を行い、転移の有無を判断する。転移がなく手術可能と思われる場合は、外科医と相談しながらERCPや管腔内超音波検査法(IDUS)、まれに経口的胆道鏡検査(POCS)を行う。
胆管生検の感度は通常、約50%とされているが、当院の症例について検討したところ、患者ごとの検討では63.6%(278/437例)、組織検体ごとでは59.6%(472/792例)であった2)。肉眼型による検討では、乳頭型と結節型では68.4%と比較的高く、平坦型では47.7%であった。
また、従来の報告では、内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)施行例やステント留置例は炎症の所見が強く、病理検査の感度が低下するという指摘があった。しかし、当院の検討では、EST施行の有無ではほぼ差がなく、ステント留置例ではやや感度が高い傾向があるという結果であった。病変の部位別では、遠位部が肝門部領域より感度が高かった。さらに、黄疸がある症例が高感度である点は従来の報告と同様であったが、胆管炎の有無による感度の差は生じないことを確認している3)

肉眼型による胆道がんの分類と診断

胆道がんのうち、乳頭型や結節型は表層進展が多く、腫瘍自体の進展は緩やかである。乳頭型・結節型の良性腫瘍は胆管領域ではほぼ見られないため、診断は容易である。表層進展が少ない平坦型は悪性度が高いケースが多く、浸潤速度が速い。また、IgG4関連硬化性胆管炎(IgG4-SC)や良性胆管炎は、平坦型の胆道がんと類似した所見となるため、悪性度が高い上に質的診断が難しい。そのため、われわれ内視鏡医は質的診断に重きを置く必要がある。
当院では、肉眼型が乳頭型・結節型の場合はマッピングバイオプシーに重点を置き、狭窄部の検体採取は1、2検体で十分と考えている。一方、平坦型の場合は悪性のエビデンスを得ることを重視し、狭窄部で3検体以上を採取する。さらに、生検で診断がつかない場合は、ステロイド治療をしたり、超音波内視鏡下穿刺吸引術(EUS-FNA)を施行して診断することもある。

症例提示

●症例1:IgG4-SC(70歳代、男性)(図2)
本症例は、IgG4値は37.1mg/dLの正常値であり、IDUSでは表面に若干凹凸が見られ、良悪性の鑑別は困難であった。生検の結果、病理学的な悪性所見はなく、IgG4の免疫染色も陰性であった。しかし、狭窄が強いにもかかわらず黄疸がほとんど見られなかったため、ステロイド治療を行った結果、1か月後に改善した。

図2 症例1:IgG4-SC(70歳代、男性)

図2 症例1:IgG4-SC(70歳代、男性)

 

●症例2:肝門部領域胆道がん(40歳代、男性)(図3)
本症例は、狭窄が強いにもかかわらずビリルビン値は0.8g/dLと低く、一方でIgG4値は159mg/dLとやや高値であった。また、IDUSでは上皮性の所見は乏しく、上皮性腫瘍ではないと思われた。本症例はカニュレーションが難しく、生検鉗子を挿入すると膵炎が生じる懸念があり、また、リンパ腫が疑われたため、経乳頭的生検を行わずEUS-FNAを施行した。その結果、リンパ球浸潤はあったものの悪性所見は見られず、黄疸症状もなかったことから経過観察とした。しかし、1か月後に黄疸症状が現れ、ERCPを行ったところ、狭窄の悪化が確認された。生検では2検体採取し、いずれも悪性所見は見られなかったが、画像所見からIgG4-SCとは考えられなかったため、外科手術を行ったところ、低分化腺癌で病期はpT2a(SS)であり、胆道がんの診断の難しさが実感される症例であると言える。
なお、EUS-FNAはERCPを用いた経乳頭的胆管生検より感度が高いとする報告があり、『胆道癌診療ガイドライン』(日本肝胆膵外科学会)の旧版にも引用されている。しかし、その報告には膵腫瘍症例が多く含まれており、それらの症例ではERCPとEUS-FNAの間に有意差が見られるが、胆管がん症例における感度は同等であった。そのような点を考慮し、当院では手術前症例でのEUS-FNAは避け、胆管外病変が大きい症例ではEUS-FNAを施行するのが有用ではないかと考えている。

図3 症例2:肝門部領域胆道がん(40歳代、男性)

図3 症例2:肝門部領域胆道がん(40歳代、男性)

 

Cアームを用いたERCPの実際

以下に、Ultimax-iのCアームを用いたERCPの症例を供覧する。
胆管生検は、右葉(R2)+尾状葉(S1)切除予定症例ではB4の合流部と膵上縁、左葉(L2)+尾状葉(S1)切除予定症例では膵上縁で組織を採取する(図4)。前区域の合流部と左右の合流部を透視下で確認し、生検を行う。

図4 胆管生検を行う部位

図4 胆管生検を行う部位

 

●症例3:遠位胆道がん(70歳代、男性)
本症例は結節型腫瘍があり、上流側の拡張が見られた(図5)。膵頭十二指腸切除術は必要であると考えられ、上流側の進展範囲診断目的にERCPを施行した。
通常、左右の胆管は約30°〜40°傾いているため、Cアームを回転させることで正面視できる(図6 a)。一方、背骨に対して正面視した場合は、左右の合流部と背骨の間には距離があるが(図6 b)、Cアームを斜めに傾けると距離が短くなる(c)。特にCアームを回転させ、左右胆管の分岐を明瞭に描出しようとすると、左胆管は背骨と重なる部分が多くなる。そのため、Cアームの角度は症例に応じて判断する必要がある。
また、本症例のMR胆管膵管撮影(MRCP)の画像を用いて、ERCPにおけるCアームの角度について検討した。B4を正面視する角度ではB2+3と重なるが(図7 b)、斜めから見る角度にMRCP画像を回転させるとB4が分離して見えることがわかる(c)。この結果により、Cアームを足側に回転させたことでB4合流部の形態が明確に描出されたことが理解できる(図8)。

図5 症例3:遠位胆道がん(70歳代、男性)

図5 症例3:遠位胆道がん(70歳代、男性)

 

図6 症例3:左右胆管の位置とCアームの角度

図6 症例3:左右胆管の位置とCアームの角度

 

図7 症例3:MRCP画像を用いたCアームの角度の検討

図7 症例3:MRCP画像を用いたCアームの角度の検討

 

図8 症例3:最適なCアーム角度でのB4の描出

図8 症例3:最適なCアーム角度でのB4の描出

 

当院のマッピングバイオプシーの成績

当院におけるマッピングバイオプシーの結果を示す。肝門部では、200例中162例に対して生検を行い、成功率は66%であった。下部胆管は96.4%、右胆管は60.9%とやや低く、左胆管が72%であった。右胆管の成功率が低いのは、左三区域切除例など、後枝の頂部を採取する必要がある症例が多いという当院の特性によるものと思われる。なお、感度は44.1%、正確性(accuracy)は81.3%であった。

●症例4:肝門部領域胆道がん(70歳代、女性)(図9)
本症例は、右葉尾状葉切除予定の症例である。左胆管の造影を行い、Cアームを足側に回転させることで、当初確認できなかったB4合流部が明瞭に確認できた。体位変換ではこのような動きは不可能であり、Cアームの有用性を示す一例である。
また、本症例は左胆管の屈曲が強く、シースを用いて生検を行ったが、シース使用時はガイドワイヤをいったん抜去する必要があるため、2本のガイドワイヤを使用するケースが多い。当院でのマッピングバイオプシーの成功率は、従来の生検鉗子を用いた場合は58%であったのに対し、シースを用いた場合は95%であった。検討に当たり、生検鉗子では困難であった場合にシースを用いることを条件としたため、生検鉗子での成功率は以前より低下している。なお、膵炎などの有害事象の発現率はいずれも変わらず、胆管炎や出血などはほとんど生じなかった。

図9 症例4:肝門部領域胆道がん(70歳代、女性)

図9 症例4:肝門部領域胆道がん(70歳代、女性)

 

●症例5:肝門部領域胆道がん(60歳代、男性)
本症例は、正面視では確認できる左右分岐部が(図10 a)、Cアームを左方向に20°回転させると見えなくなり(b)、右方向に10°回転させることで明瞭に視認可能となった(c)。CT画像を確認したところ、この患者の腹腔内脂肪が多く、腹臥位で肝臓が腹腔内脂肪で圧迫されることにより角度が変わっていることが判明した(図11)。このように肥満の強い症例では注意が必要である。

図10 症例5:肝門部領域胆道がん(60歳代、男性)

図10 症例5:肝門部領域胆道がん(60歳代、男性)

 

図11 症例5:CT画像を用いた胆管枝角度の推定

図11 症例5:CT画像を用いた胆管枝角度の推定

 

まとめ

CアームX線TVシステムUltimax-iは、体位変換では最適な角度にすることが困難な症例にも対応可能なほか、アンダーチューブとすることで医療従事者の被ばくも低減する。また、胆道がん診断における生検は肉眼型に応じて適宜行うべきである。左右合流部やB4合流部の確認などに当たっては、Cアームを左右方向(LAO/RAO)40°以上だけではなく、尾頭方向(CRA/CAU)にも回転させることが適切である。

*記事内容はご経験や知見による、ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。

●参考文献
1)松原孝祐:ERCP時の被ばく低減をめざして─内視鏡医が知って得するX線防護─〜放射線防護の専門家の立場から〜. JDDW2019 KOBE.
2)Kawashima, H, et al.:Endoscopic management of perihilar cholangiocarcinoma. Dig. Endosc., 34(6):1147-1156, 2022.
3)Aoki, T., et al.:Endoscopic sphincterotomy and endoscopic biliary stenting do not affect the sensitivity of transpapillary forceps biopsy for the diagnosis of bile duct adenocarcinoma. BMC Gastroenterol., 22(1):329, 2022.

一般的名称:据置型デジタル式汎用X線透視診断装置
販売名:多目的デジタルX線TVシステム Ultimax-i DREX-UI80
認証番号:221ACBZX00010000

 

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