GENESISの臨床応用(腹部領域) 
堀  雅敏(大阪大学大学院医学系研究科放射線医学)
Session 1

*最後に講演動画を掲載

2016-12-22


堀  雅敏(大阪大学大学院医学系研究科放射線医学)

本講演では,「Aquilion ONE/GENESIS Edition」(GENESIS)の腹部領域における臨床応用について,低線量と画質向上を中心に報告する。

GENESIS:FIRSTでなくても低線量!?

当院では,2009年に第一世代の「Aquilion ONE」を導入し,2016年4月からはGENESISが加わったため,以前にAquilion ONEで撮影した症例をGENESISで撮影する機会が多い。そこで,この2台で「AIDR 3D」を適用して撮影した同一条件の画像を比較したところ,ほぼ同様の画像が得られており,SD値もそれぞれ11.8,11.5とほぼ同等であった。一方,被ばく線量をCTDIvolで測定すると,Aquilion ONEの20.5mGyに対し,GENESISでは10.7mGyと約半分であった(図1)。
旧Aquilion ONEとGENESISの両方で撮影した上腹部60症例(AIDR 3D連動AEC:設定SD15)で,DLP比を求めたところ,1を超えた症例はなく,多くの症例で0.6前後の値となった(図2)。また,この60症例のDLPとCTDIを調べたところ,Aquilion ONEと比較して,GENESISではDLPが約62%,CTDIが約57%と,被ばく線量が従来の60%程度に低減していた。つまり,GENESISでは以前と同様に撮影しても,Aquilion ONEより低線量となることがわかった。
この理由として,GENESISでは新しいX線光学系技術である“PUREViSION Optics”が採用されたことが挙げられる。PUREViSION Opticsでは,X線の出力,検出器,エネルギー特性など,被ばくと画質を決定するあらゆる要素が一新されており,使用されるX線のうち,体内で吸収されて画像に反映されない低エネルギー側のX線スペクトラムがカットされていることが被ばく低減に特に寄与しているとのことである。

図1 Aquilion ONEとGENESISにおけるSD値とCTDIvolの比較

図1 Aquilion ONEとGENESISにおけるSD値とCTDIvolの比較

 

図2 Aquilion ONEとGENESISの被ばく線量の比較(DLP比)

図2 Aquilion ONEとGENESISの被ばく線量の比較(DLP比)

 

FIRST:さらなる低線量へ

1.FIRSTの特長と被ばく低減効果の検討
当院ではAquilion ONEを導入し,AIDR 3Dをルーチンで使用するようになったことで,被ばく線量はFBPと比較して,同等の画質で約75%になった。加えて,GENESISにはFIRSTが搭載されている。
FIRSTの特長は,(1) 被ばく線量の低減,(2) 光学系モデルの組み込みによる空間分解能の向上,(3) 低コントラスト検出能の向上,(4) 実用的で十分に短い再構成時間,(5) 対象臓器に合わせた最適化パラメータである。このうち,再構成時間は,上腹部CTでは専用演算ユニットにて5分以内のため,ルーチン検査で使用可能である。また,パラメータは部位別に設定されており,腹部ではBodyとBody Sharpを適用できる。さらに,強度がMild,Standard,Strongの3段階あり,計6種類のパラメータで再構成することができる。
FBP,AIDR 3D,FIRSTの上腹部の画質について,ファントムを用いて25mAs,100mAs,200mAsと線量を変えながら撮影し比較したところ,200mAsではいずれも良好な画質が得られたが,25mAsではFBPでノイズが目立っていた(図3)。定量評価の結果,ノイズ,CNRともFBPやAIDR 3Dに比してFIRSTが優れていた。また,骨盤部をファントム撮影してコントラストを測定したところ,CNRはFIRSTの30mAsの画像の方が,FBPの240mAsやAIDR 3Dの60mAsの画像よりも高い値が得られた。

図3 FBP,AIDR 3D,FIRSTの線量の違いによる画質の比較

図3 FBP,AIDR 3D,FIRSTの線量の違いによる画質の比較

 

2.臨床画像
図4は,1歳,劇症肝炎症例におけるFBPとFIRST Body Sharpの比較である。Mild,Standard,Strongのいずれの強度においても,FIRSTではFBPに比べて明らかにノイズが低減している。また,強度が高いほどノイズが少なくなることから,小児など被ばくが問題になる撮影では特に有用と思われる。
図5は,図4と同症例をFIRST Bodyで再構成し,FBPと比較している。やはり,強度が高いほどノイズは低減するが,FIRST BodyのStrongでは画像の鮮鋭度が低下し違和感が強くなる。
FIRSTの臨床応用に当たっては,腹部だけでも6種類の画像が得られるため,症例によってどのパラメータを選択するかが今後の検討課題である。FIRSTの被ばく低減効果について,本講演ではSNRやCNRの評価を示したが,今後は診断能評価を行うことが重要であると考えている。

図4 FBPとFIRST Body Sharpの画質の比較(1歳,劇症肝炎)

図4 FBPとFIRST Body Sharpの画質の比較(1歳,劇症肝炎)

 

図5 FBPとFIRST Bodyの画質の比較(図4と同症例)

図5 FBPとFIRST Bodyの画質の比較(図4と同症例)

 

FIRST:CTAの画質向上

FIRSTでは空間分解能が向上するため,CTAに有用と考えている。実際の症例について,FBPと,AIDR 3D,AIDR 3D Enhanced,FIRST Body,FIRST Body Sharpの異なる強度の画像を再構成し,MIP画像を作成し比較した。さらに,それぞれの再構成法の画像の中から最も良いと思われる画像を選んで比較した(図6)。腹部血管の描出能はFIRST Body Mildが最も良好で,肺血管の描出能も圧倒的に優れており,末梢まで明瞭に描出されている。VR画像でも,肺血管,腹部血管の描出能の違いが一目瞭然である(図7)。また,腹部血管を見ると,胃十二指腸動脈はFIRSTの方が高濃度に描写されている(図8)。
FIRSTでは空間分解能の向上により動脈末梢まで良好に描出できることが確認できた。これにより,きわめて高い臨床的有用性が期待できる。

図6 FIRSTにおけるCTAの画質向上(肺血管・腹部血管):MIP画像

図6 FIRSTにおけるCTAの画質向上(肺血管・腹部血管):MIP画像

 

図7 FIRSTにおけるCTAの画質向上(肺血管・腹部血管):VR画像

図7 FIRSTにおけるCTAの画質向上(肺血管・腹部血管):VR画像

 

図8 FIRSTにおけるCTAの画質向上(腹部血管):アキシャル画像

図8 FIRSTにおけるCTAの画質向上(腹部血管):アキシャル画像

 

まとめ

GENESISでは,FIRSTを使用しなくても被ばく低減が可能なほか,FIRSTを用いることでさらなる被ばく低減が期待できる。また,CTAの画質向上にも明らかに有用であった。これらより,GENESISは被ばく低減,および空間分解能の向上にきわめて有用と考えられる。

 

 

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