骨軟部領域におけるDeep Learningを用いた高分解能イメージングの新たな展開 
柿木 崇秀(京都大学医学部附属病院 放射線診断科)
Session(2) : MRI

2023-6-26


柿木 崇秀(京都大学医学部附属病院 放射線診断科)

骨軟部領域の診断においては,Deep Learningを用いた高分解能2D thin slice画像が有用である。本講演では,京都大学におけるこれまでの取り組みとして,肩関節2D thin slice imagingにおける「Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)」の臨床的有用性などについて述べた上で,さらなる高分解能化や短時間化を可能とする超解像技術「Precise IQ Engine(PIQE)」(共にキヤノンメディカルシステムズ)の有用性を述べる。また,肩関節2D thin slice imagingの新たな展開にも言及する。

肩関節2D thin slice imagingにおけるAiCEの有用性

AiCEは,Deep Learningを用いて低SNR画像から高SNR画像を出力する技術である。ノイズの多い入力画像を,高品質な教師画像に近づけるための学習をさせたDeep Convolutional Neural Network(DCNN)を構築し,MRI装置に搭載することで,新たに撮像した低SNR画像のノイズが除去され,高SNR画像として出力される。AiCEでは,高周波成分のみを学習しているため,さまざまなシーケンスに適用することができる。
京都大学ではAiCEを用いて,面内分解能が高く,薄いスライス厚の画像(2D thin slice画像)の撮像に取り組んできた。1mmスライス厚の2D脂肪抑制プロトン密度強調画像(1mm・2D FS-PDWI)について,AiCE適用の有無で比較したところ(図1),面内の高分解能化やスライスを薄くすることで生じるノイズが(a),AiCEを適用した画像では除去され,高SNR画像が得られていた(b)。
また,AiCEを適用した2D thin slice画像であればMPR画像の作成が可能と考え,検討を行ったところ,再構成画像のSNRを上げるためにはgapをマイナスにすることが重要なポイントとなることがわかった。実際の画像では,2Dの優れた分解能によって微小な構造物が明瞭となり,3D-MPR画像と比較して水–組織間コントラストも良好であった。
一方,AiCEの適用においては,いくつかの課題もある。1mmスライス厚でのMPR作成を想定したgap−0.3mmの撮像では,撮像時間が若干延長する。また,比較的FOVの小さい手関節や肘関節などの領域では,肩関節と同等の面内分解能を得ようとするとAiCEを使用してもSNRが不足するケースがあった。さらに, SPEEDERやCompressed SPEEDER(CS),ハーフフーリエ法(AFI)などを使用し,高速化率を上げすぎると,SNR低下や画質劣化が生じるほか,TRごとのエコー数を増やすとボケが増大するなど,条件設定にジレンマが生じていた。しかし,これらの課題はPIQEによって解決することができる。

図1 1mm・2D FS-PDWI画像におけるAiCEの有用性

図1 1mm・2D FS-PDWI画像におけるAiCEの有用性

 

PIQEの臨床的有用性

1.PIQEによる高分解能化のメリット
PIQEは,denoiseとup-samplingの2つのDeep Learning Reconstruction(DLR)技術を用いることで,低SNR・低分解能の画像から高SNR・高分解能の画像を出力する技術である。PIQEでは,AiCEと同様に高分解能化によるSNR低下を補うことが可能であることに加え,(1) マトリックスを3倍まで上げられ,分解能を向上できる,(2) オリジナル画像の分解能を下げられるため,コントラストを保てる,(3) (分解能を下げて収集するため)過度な高分解能化によるコントラストの低下を抑制し,組織コントラストを改善できる,といったAiCEにはない特長を有する。
図2は,手関節の1mm・2D FS-PDWI画像である。AiCE(a)ではsmall FOVによるSNR低下の影響が見られるが,PIQE(b)ではSNRが十分担保された状態で,元画像の320×320マトリックスから960×960マトリックスへと高分解能化し,撮像時間も短縮している。三角線維軟骨複合体(TFCC)のコントラストも,PIQEの方が明瞭である。
図3は月状骨骨折とTFCC損傷症例における,PIQEを適用した1mm・2D FS-PDWI画像である。月状骨に骨髄浮腫があり,矢状断像(a)にて月状骨の背側に遊離骨片()を認めた。冠状断像(b),矢状断像(c)では,TFCCの関節円板に液体貯留()を認め,損傷が確認できる。このように,1mm・2D画像では多方向から病変の観察が可能である。
図4は,頸椎の椎間板膨隆とヘルニアの症例のT2強調画像(T2WI)で,オリジナル画像(a)と比較しPIQE(b)では,構造物がシャープに描出されている。頸髄もより明瞭であり,頸髄浮腫や脊髄軟化症などの異常所見もより拾い上げやすくなると思われる。

図2 PIQEによるsmall FOV画像の高分解能化

図2 PIQEによるsmall FOV画像の高分解能化

 

図3 月状骨骨折とTFCC損傷の症例におけるPIQE適用1mm・2D FS-PDWI画像

図3 月状骨骨折とTFCC損傷の症例におけるPIQE適用1mm・2D FS-PDWI画像

 

図4 頸椎椎間板膨隆とヘルニアの描出におけるPIQEの有無での画像比較

図4 頸椎椎間板膨隆とヘルニアの描出におけるPIQEの有無での画像比較

 

2.短時間撮像におけるPIQEの活用
撮像時間の短縮に当たり,AiCEではSPEEDERやCSなどの高速化率の上昇や,加算回数の減少によって低下したSNRをDLRでdenoiseし補っていた。一方,PIQEでは画像再構成における高分解能化が可能なため,phase encodeのマトリックス収集を下げることで短時間化が可能となる。また,その分,SPEEDERやCSなどの高速化率を抑制できるため,画質の安定性向上につながっていると思われる。
図5は手関節に多発する骨折や骨挫傷の症例で,スライス厚2mm,撮像時間3分13秒のSTIR画像(a)と,短時間撮像(55秒)のPIQE適用FS-PDWI画像(b)の比較である。舟状骨の骨挫傷による偽関節()と骨髄浮腫(),月状骨の骨髄浮腫(),有頭骨の骨挫傷による骨髄浮腫(),示指と中手骨基部の骨折に伴う骨髄浮腫()が,PIQEの画像でもSTIR画像と同様に明瞭に描出されている。短時間撮像のPIQEの画像は,骨折や骨挫傷のスクリーニングに用いることができると考える。
図6は,変形性頸椎症および椎間板ヘルニアの症例のT2WIである。撮像時間59秒のPIQEの画像(b)は,2分59秒のconventional画像(a)と遜色のない画質が得られているが,57秒のCSの画像(c)はやや画質の劣化が目立つ。PIQEは,救急などの緊急を要する検査で有用であり,高速化率を抑えて画質の安定性向上に貢献する。
このほか,腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症の症例などにおいても,短時間撮像のPIQEは通常のT2WIと遜色のない画像が得られていた。

図5 短時間撮像のPIQEによる骨折や骨挫傷の描出

図5 短時間撮像のPIQEによる骨折や骨挫傷の描出

 

図6 短時間撮像におけるPIQEとCSの画像比較 (頸椎症,椎間板ヘルニア症例)

図6 短時間撮像におけるPIQEとCSの画像比較 (頸椎症,椎間板ヘルニア症例)

 

肩関節2D thin slice imagingにおける新たな展開─高分解能化と短時間化の両立

肩関節の1mm・2D FS-PDWI画像において,京都大学では従来,AiCEを適用することで完成度の高い画像が得られるものの,撮像時間は6分15秒かかっていた。それが,PIQEを適用することで,撮像時間を4分47秒まで短縮でき,さらなる短時間化と高分解能化が両立可能となったことは,大きなインパクトであった。
図7は,肩甲上腕関節の軟骨損傷疑いの症例における,高分解能化と短時間化を両立したPIQEの画像(FS-PDWI)である。冠状断像(a)はもとより横断像(b)においても,肩甲骨側と上腕骨側の軟骨損傷()が明瞭である。

図7 PIQEによる高分解能化と短時間化の両立 (肩甲上腕関節の軟骨損傷疑い症例)

図7 PIQEによる高分解能化と短時間化の両立 (肩甲上腕関節の軟骨損傷疑い症例)

 

まとめ

AiCEの活用により,1mm・2D画像とMPR画像で臨床的に有用な情報が得られるようになったが,さらにPIQEを活用することで,これまで課題であった小さなFOVでの高分解能化や撮像時間の短縮が可能となった。また,PIQEの活用により,従来は難しかった高分解能,高コントラスト,短時間撮像の両立が可能となったことで,骨軟部領域における高分解能イメージングがさらに使いやすくなり,今後の発展が期待できる。

*記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれます。
*AiCE,PIQEは画像再構成処理の設計段階でDeep Learning技術を用いており,本システム自体に自己学習機能は有しておりません。

 

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