CTガイド下骨生検におけるSpectral CTの新たな可能性 
遠藤 和之(東海大学医学部付属八王子病院 診療技術部 放射線技術科)
Session(3) : CT

2023-6-26


遠藤 和之(東海大学医学部付属八王子病院 診療技術部 放射線技術科)

当院では,CTガイド下インターベンションにはキヤノンメディカルシステムズのArea Detector CT(ADCT)「Aquilion ONE / PRISM Edition」を使用している。本講演では,Aquilion ONE / PRISM Editionの特長である「Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)」や「Spectral Imaging System」がCTガイド下骨生検にもたらす新たな可能性について述べる。

CTガイド下骨生検の流れと被ばく低減の取り組み

CTガイド下骨生検では,まずポジショニング用のプランニングCT撮影を行い,穿刺ルートを確認した上で,CT透視(CTF)下に生検を施行し,最後に合併症の確認のためにポストスキャンを行う。
以前使用していた「Aquilion ONE / ViSION FIRST Edition」では,穿刺ルートの詳細な確認のためプランニングCTを2mmスライス厚で撮影しており,Hybrid IRである「Adaptive Iterative Dose Reduction 3D(AIDR 3D)」で再構成しても画質が不十分であった。また,CT透視は120kV・15mAという低線量で行っていたため,ノイズが課題となっていた。
被ばくの観点では,当院の調査ではCTガイド下生検またはドレナージともCT透視の線量は,全撮影工程のうちわずか10%であった。被ばくを低減するためには,プランニングCTとポストスキャンの線量抑制が重要となる。ポストスキャンでは,胸部は気胸などの合併症を見るため広い範囲の撮影が必要となるが,腹部や筋骨格系はターゲットの周囲8cm以内の撮影で十分という判断より,ボリューム撮影をすることで線量低減に努めている。

さらなる被ばく低減を可能にするAquilion ONE / PRISM Edition

こうした状況の中,2020年にCT装置がAquilion ONE / PRISM Editionに更新された。その特長のうち,被ばく低減に寄与するDeep Learning Reconstruction(DLR)のAiCEと,同社独自のX線光学技術である「PUREViSION Optics」について述べる。
AiCEは,モデルベース逐次近似画像再構成法(MBIR)の「Forward projected model-based Iterative Reconstruction SoluTion(FIRST)」にて再構成された高品質な画像を教師画像としてDLRの学習に用いており,空間分解能を保ちながらもノイズをしっかりと抑制した画像を出力することができる。
PUREViSION Opticsでは,X線ビームを平滑化し,被ばくに影響を与える低エネルギー成分を抑制することで,被ばく低減に寄与している。また,PUREViSION Detectorには,電気ノイズを抑制し感度を向上する技術が搭載されており,これらによって,Aquilion ONE / PRISM Editionでは装置の基本性能が向上している。
われわれは,Aquilion ONE / PRISM Editionにてファントムを用いた検討を行い,スキャンプロトコールの見直しを行った。プランニングCTとポストスキャンではAiCEを用いて被ばく線量を低減し,ポストスキャンの16cmのボリュームスキャンとCT透視は100kVで撮影している。管電流についてはポストスキャン(16cmボリュームスキャン)では80mA,CT透視では50mAまで上げることでノイズ低減を図った。結果として,腹部領域においても被ばく線量を低減しつつ,手技の安全性を損なうことのない十分な画像が得られている(図1)。
Aquilion ONE / PRISM Editionを用いたCTガイド下インターベンションの被ばく線量について検討したところ,以前の装置と比較し,特に腹部と筋骨格系における検査全体のDLPが約50%抑制されていた1)図2)。先行研究との比較でも,Aquilion ONE / PRISM Editionは手技的成功率の低下や合併症発生率の上昇を来すことなく,被ばく線量を50%以上低減できていた1)

図1 PUREViSION OpticsとAiCEによる画質向上

図1 PUREViSION OpticsとAiCEによる画質向上

 

図2 CTガイド下インターベンションにおける被ばく線量の比較 (参考文献1)より引用転載)

図2 CTガイド下インターベンションにおける被ばく線量の比較
(参考文献1)より引用転載)

 

CTガイド下骨生検におけるSpectral Imagingの活用

Aquilion ONE / PRISM Editionのもう一つの特長として,dual energy技術であるSpectral Imaging Systemが挙げられる。Spectral Imaging Systemは,Spectral Scan,Spectral Reconstruction,Spectral Analysisで構成されている。Spectral Scanは,高管電圧と低管電圧を高速に切り替えて撮影するRapid kV Switching方式を採用しており,全身のヘリカル撮影が可能なほか,体軸方向にAECを併用できるため腹部領域において線量の最適化を図ることができる。得られたスパースなデータは,Deep Learningを用いた画像処理で欠損部を復元し,さらにdenoiseに最適化されたDLRを用いて画質改善を行った上で(Spectral Reconstruction),医用画像処理ワークステーション「Vitrea」にて種々の解析が可能となる。
dual energy CT解析で得られる画像には,仮想単色X線画像(VMI),基準物質画像(BM),実効原子番号(Effective Z),電子密度(Electron Density)などがあるが,CTガイド下骨生検においてわれわれが最も重要と考えるのは,物質弁別である。物質弁別によって,ヨードマップ(Iodine Map)や仮想単純画像(VNC),カルシウム抑制画像(VNCa)などの作成が可能である。

CTガイド下骨生検へのVNCaの応用

VNCaでは,骨折における受傷初期の髄内血腫の描出が可能であり,骨折部位の判定に有用である(図3)。
VNCaによって,骨の内部の情報を正確にとらえられる可能性があるため,CTガイド下骨生検においても有用であると考えられる。転移性骨腫瘍のうち,特にsingle energy CTでの描出が困難な骨梁間型にVNCaを用いることで,骨生検のサンプリングエラーを減少できたとする報告もあり2),当院でも実臨床で使用している。転移性骨腫瘍のCTガイド下骨生検では,プランニングCTをSpectral Scanに置き換えている。
図4は,PET(a)にて腸骨および仙骨に集積を認めるものの,VMI(b:骨条件の画像)では判別が難しいが,VNCa(c)ではカルシウム以外の成分の残存を認め,腫瘍の存在が疑われる。また,VNCaで黒く抜けている部分はカルシウムが多く,腫瘍成分は少ないと考えられるため,穿刺の深さの決定や,腫瘍の確実な検出が可能となる。

図3 VNCaを用いた骨折部位の判定(腰椎圧迫骨折疑い) VNCa(c)では,髄内血腫(◁)が描出されている。

図3 VNCaを用いた骨折部位の判定(腰椎圧迫骨折疑い)
VNCa(c)では,髄内血腫(◁)が描出されている。

 

図4 VNCaを用いた転移性骨腫瘍の検出

図4 VNCaを用いた転移性骨腫瘍の検出

 

Electron Density Imageの活用の可能性

圧迫骨折疑いの症例などにおいては,VNCaと同じ部位にElectron Density Imageでも信号が認められることから,骨密度や骨の内部に変化が疑われる症例に,Electron Density Imageが有用な可能性がある。そこで,CTガイド下骨生検の組織検体の細胞密度と,Spectral Scanから得られる電子密度との関連性について検討した。
乳がんの既往歴のある症例において,乳がん骨転移もしくは多発性骨髄腫が疑われたため,CTガイド下生検を施行した。図5は実際の画像で,PET(a)陽性の部位についてVMI(b)では腫瘍の範囲の特定が困難であるが,Electron Density Image(c)では腸骨の一部に明らかな高信号を認める()。組織検体においても,Electron Densityが高い領域に一致して,腫瘍細胞密度が高くなっていた。
また,転移性骨腫瘍の症例(N=4)と,脊椎圧迫骨折疑いで骨病変のない正常骨髄の症例(N=20)を対象に,Spectral Scanを行い,Electron Densityと細胞密度の関連を検討した。仙骨と腸骨に左右対称にROIを置いてElectron Densityを測定したところ,正常骨髄の症例ではいずれも左右差を認めなかったが,転移性骨腫瘍の症例では有意差をもって左右差を認めた。今後は症例数を増やし,さらなる検討を進めていきたい。

図5 Electron Density Imageを用いた腫瘍細胞領域と正常骨髄領域の判別

図5 Electron Density Imageを用いた腫瘍細胞領域と正常骨髄領域の判別

 

まとめ

Aquilion ONE / PRISM Editionでは,AiCEやPUREViSION Opticsによって装置の基本性能が向上したことで,線量低減を図りつつ,より高画質が得られるようになった。また,Spectral Imaging Systemを用いることで,さまざまな情報を一度に取得可能であり,CTガイド下骨生検の検査精度や診断精度の向上に寄与すると考える。

*記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれます。
*AiCE,Spectral Imaging Systemは画像再構成処理の設計段階でDeep Learning技術を用いており,本システム自体に自己学習機能は有しておりません。

●参考文献
1)Matsumoto, T., Endo, K., et al., Br. J. Radiol., 95(1136): 20211159, 2022.
2)Burke, M.C., et al., Skeletal Radiol., 48(4): 605-613, 2019.

一般的名称:全身用X線CT診断装置
販売名:CTスキャナ Aquilion ONE TSX-306A
認証番号:301ADBZX00028000

一般的名称:汎用画像診断装置ワークステーション
販売名:医用画像処理ワークステーション Vitrea VWS-001SA
認証番号:224ACBZX00045000

 

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