高精細CTによる中枢神経領域の実力と臨床的エビデンス 
茅野 伸吾(東北大学病院診療技術部放射線部門)
Session 1 高精細イメージング・超解像ADCT

2023-12-25


茅野 伸吾(東北大学病院診療技術部放射線部門)

キヤノンメディカルシステムズの「Aquilion Precision」は0.25mmスライス厚の撮影が可能な高精細CTである。われわれは,「臨床で求められるのは0.25mm厚で撮れるCT装置ではなく,手に取るようにわかるリアルかつ正確な人体やデバイス構造の情報である」という意識の下,Aquilion Precisionをとおして臨床における課題の解決が可能であるか,臨床や研究を進めてきた。本講演では,これまでに報告してきた論文の内容を紹介する。

■頸動脈ステント術後評価における有用性1)

頸動脈ステント術後評価における高精細CTの有用性について,CTで評価しにくいコバルトベースのステントを対象に検討を行った。「Aquilion ONE / ViSION Edition」(従来CT)で撮影された画像でステント内腔を評価するには,ウインドウ条件をWW/WL=3000/1500のような極端な条件にする必要があるが,Aquilion Precision(図1)では極端な条件にすることなくステント内腔の評価が可能であった(b)。また,「Forward projected model-based Iterative Reconstruction SoluTion(FIRST)」(図1 c)を用いることで,アーチファクト(▼)を良好に低減できた。
経時的変化の評価においては,エコーで描出される内膜の肥厚をAquilion Precisionでも同様に評価することが可能であった。また,ステント内再狭窄の症例についても,Aquilion PrecisionではDSAと同様に再狭窄の状態を評価することができた。
このように,高精細CTは頸動脈ステント術後評価に有用であると考えられる。

図1 Aquilion Precisionによる頸動脈ステント術後評価 (参考文献1)より引用転載)

図1 Aquilion Precisionによる頸動脈ステント術後評価
(参考文献1)より引用転載)

 

■クリッピング術後の血管描出における有用性2)

当院ではクリッピング術後の評価をAquilion ONE / ViSION Editionで行ってきた。チタンクリップは金属アーチファクトの影響が少ないが,それでも中大脳動脈(MCA)領域など,アーチファクトによって狭窄病変のように見えてしまう症例を経験してきた。しかし,Aquilion Precisionでの評価を開始してからは,そのようなケースが少なくなったと感じられることから,高精細CTはクリップ周囲の血管描出に優れる可能性があると考えて検証を行った。
症例は44歳,女性,左MCAに未破裂脳動脈瘤が認められ,2つのチタンクリップを掛けるクリッピング術を施行した。
経過観察では従来CTでクリッピングを評価していたが,クリップ周囲の血管はアーチファクトによる描出不良で詳細に評価できていなかった(図2 a)。4年後にAquilion Precisionで撮影したところ微小な残存動脈瘤が指摘されたことから(図2 b↑),DSAを撮影した。DSAでは残存動脈瘤らしき陰影が確認され,3D-DSAでも残存動脈瘤の描出が示唆された(図2 c↑)。高精細CTがクリッピング術後の血管描出に優れていることを示した症例である。

図2 クリッピング術後の血管描出 (参考文献2)より引用転載)

図2 クリッピング術後の血管描出
(参考文献2)より引用転載)

 

■Subcallosal arteryの描出3)

subcallosal artery4)〜7)は,前交通動脈の最大の穿通枝で,1本存在し,両側の前脳基底部を灌流している。径は0.5±0.1mmで,剖検例による検討では79%にsubcallosal arteryが存在すると報告されている。
われわれは,Aquilion Precisionを用いてsubcallosal arteryの描出が可能かについて検討を行った。対象は,従来CTで撮影した49名とAquilion Precisionで撮影した77名の計126名の患者で,患者背景に有意差はない。検討では,2名の評価者がsubcallosal arteryの描出の有無について視覚評価を行った。その結果,描出ありと評価されたのは,従来CTで16.5例(33.7%),Aquilion Precisionで44例(57.1%)であり,Aquilion Precisionでは約6割の患者でsubcallosal arteryが描出された。
図3は,クモ膜下出血でクリッピング術が施行された患者(73歳,女性)の術前後の画像であるが,術前3D-DSA(a)で描出されたsubcallosal artery(←)が,術後にAquilion Precisionで撮影したCTA(b)でも描出されており,温存できていることが確認できる。
われわれは術前3D画像にsubcallosal arteryを融合させた画像を提供しており,脳神経外科から術前シミュレーション画像として高い評価を得ている。このように,高精細CTはsubcallosal arteryの描出能が高いと言える。

図3 Subcallosal arteryの描出 (参考文献3)より引用転載)

図3 Subcallosal arteryの描出
(参考文献3)より引用転載)

 

■高精細CTによる細血管描出能についての検討

CTAにおける細血管の描出要素は,分解能,ノイズ,CT値である。細血管において高精細CTが高い描出能を有する理由を明らかにするため,従来CTとAquilion Precisionについてファントムおよび臨床画像による定量的比較検証を行った8)。なお,当院の頭部3D-CTAにおける両装置の撮影プロトコールの主な違いは,焦点サイズ(従来CT/Aquilion Precision=0.9×0.8mm/0.4×0.5mm),スライス厚(0.5mm/0.25mm),スキャン時間(1.5s/7.25s),マトリックスサイズ(512/1024)などである。

1.画質評価
画質評価として,分解能(TTF),ノイズ(NPS),信号応答特性(system performance function:SPF)を比較した。その結果,Aquilion Precisionは従来CTよりもノイズ(NPS)が多いものの,分解能(TTF)が高く,信号応答特性(SPF)が優れていた。

2.臨床画像によるCT値の計測
臨床画像によるCT値の計測では,両装置ともに110例を対象とし,中大脳動脈のM1セグメントと,M2-M3セグメントのCT値を比較した。CT値は,M1セグメントでは従来CTの方が高く(480.6HU vs. 421.1HU),M2-M3セグメントではAquilion Precisionの方が高い(356.5HU vs. 382.5HU)という逆転現象が生じた。Aquilion Precisionは細い血管であるM2-M3でCT値が高くなったが,これが撮影方法の違いにより生じるものかを検証するため,ファントムによる評価を行った。

3.ファントムによるCT値および半値幅の計測
ファントムによる計測では,櫛形ファントムを用いて径ごとのCT値および半値幅を比較した。その結果,Aquilion Precisionは従来CTと比較し,太径で低いCT値を示す一方で,細径では高いCT値を維持していた(図4)。従来CTが太径で高いCT値を有しているのは,実効エネルギーの低さが影響していると考えられる9)
半値幅については,従来CTでは細径でパーシャルボリューム効果によりボクセル内の信号値が平均化されるためCT値が低下し,半値幅の劣化傾向が強まることが確認された。それに対して,Aquilion Precisionでは細径でもパーシャルボリューム効果の影響が少なく,半値幅の劣化は抑制されていたことから,CT値の再現性に優れていると言える。
以上の検討から,細径では分解能の高さがCT値にも大きく影響することが考えられ,高精細CTは細血管のCT値の再現性を高めていると考察される。

図4 櫛形ファントムの各径におけるCT値の比較

図4 櫛形ファントムの各径におけるCT値の比較

 

■まとめ

われわれは,Aquilion Precisionを用いて細血管の描出についての検討を進めており,従来は画像化できなかったlong insular arteryやlong medullary arteryの評価を行った報告もしている10)
Aquilion Precisionは,従来CTに比べて微小血管やデバイスの構造をより高い画質で評価できることが示唆されている。これまで観察することができなかった微小血管の構造や変化を,簡便かつ非侵襲的に評価できるツールであると確信している。

*記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。

●参考文献
1)Kayano, S., et al., Radiol. Case Rep., 16(12): 3721-3728, 2021.
2)Kayano, S., et al., Surg. Neurol. Int., 13 : 85, 2022.
3)Sato, Y., et al., Surg. Neurol. Int., 12 : 528, 2021.
4)Marinković, S., et al., Acta Neurochir., 106 : 78-85, 1990.
5)Serizawa, T., et al., Neurosurgery, 40 : 1211-1216, 1997.
6)Chenin, L., et al., Surg. Radiol. Anat., 41 : 1037-1044, 2019.
7)Najera, E., et al., Oper. Neurosurg.(Hagerstown), 17 : 79-87, 2019.
8)鹿野隼杜:頭部CT angiographyにおける超高精細CTと従来型CTの血管描出能. 日本CT技術学会第11回学術大会, 2023.
9)松村 駿, 他., 日本CT技術学会誌, 8 : 1-6, 2020.
10)Osada, Y., et al., Acta. Neurochir., 2023.
https://doi.org/10.1007/s00701-023-05794-1

一般的名称:全身用X線CT診断装置
販売名:CTスキャナ Aquilion Precision TSX-304A
認証番号:228ACBZX00019000

 

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