AI技術による胸部領域の新たな画像診断 
岩澤 多恵(神奈川県立循環器呼吸器病センター放射線科)
Session 2 次世代CTの可能性と今後

2023-12-25


岩澤 多恵(神奈川県立循環器呼吸器病センター放射線科)

当センターでは,高精細CTとArea Detector CT(ADCT)の2台が稼働している。PIQEは,高精細CTのノイズの少ない高画質な画像データを教師画像に用いて,従来のADCTの画像を高空間分解能かつノイズを低減する再構成技術である。当センターで撮影した画像を示す(図1)。肺の画像診断では,肺野の細い血管や末梢の気管支を見るために,肺野条件と縦隔条件を使って観察するが,FBPや「Adaptive Iterative Dose Reduction 3D(AIDR 3D)」を適用した肺野条件の画像では輪郭はシャープに描出されるもののノイズが増え(図1 a,b),縦隔条件の画像ではノイズは低減されるが輪郭はぼやけてしまう(図1 c)。一方,PIQE Lungではノイズが抑制されており輪郭もシャープに描出されている(図1 d)。
ノイズ低減の効果は,肺の定量解析で大きな効果が期待できる。肺気腫の定量評価に用いられる%LAAの算出において,PIQE Lungを適用したノイズの少ないデータを用いることで,より精度の高い解析結果を得ることが可能となる1)

図1 ADCTによる胸部CT画像の比較(スライス厚:0.5mm)

図1 ADCTによる胸部CT画像の比較(スライス厚:0.5mm)

 

■肺がん

肺がんの診断では,結節内部の性状を把握することが重要だが,PIQE Lungでは結節内の不整な気腔の拡張が明瞭に描出されている(図2)。また,気管支の自動抽出では,PIQE Lungで処理することで,ADCTの画像でもより末梢まで描出が可能となる(図3)。このような画像を用いることで,肺がん症例に対する気管支鏡検査のナビゲーションの精度が向上することが期待できる。

図2 肺がん症例における不整な気腔の拡張の描出

図2 肺がん症例における不整な気腔の拡張の描出

 

図3 PIQEによる気管支の自動抽出の精度向上

図3 PIQEによる気管支の自動抽出の精度向上

 

■慢性閉塞性肺疾患(COPD)

COPDの評価では,CTデータから抽出した気管支を基にした定量評価が行われている。肺の体積に対する気管支内腔の体積の割合を求めるAWV%,画像上で見えている気管支数を計測するTAC(total airway counts)などである2),3)。これらの定量評価についても,PIQE Lungによって解析の基準値が変わってくる可能性がある。2023年に,COPDに関するガイドラインなどを作成する世界的な組織であるGOLD(Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease)から『GOLD Executive Summary』が発表され,「preCOPD」という用語が新たに定義された4)。COPDの診断基準(呼吸機能検査で1秒率70%未満)を満たさないが,CTで肺気腫が見られる症例の中には,経過観察中に1秒率が低下し,COPDになる症例があることがわかってきた。今回のGOLD Executive Summaryでは,COPDの診断基準を満たさなくても,症状がありCTなどで検出可能な構造的・機能的異常を示す症例をpreCOPDと位置づけ,患者として介入するべきとされた。同様の内容は日本のガイドラインでも示されており5),PIQE Lungを用いた画像診断はこうしたpreCOPDの抽出に役立つ可能性があると考えられる。

■びまん性肺疾患

PIQE Lungは,びまん性肺疾患の鑑別にも有用であると考えられる。従来の肺野条件(FC52)では,CT値の低い肺野と胸壁などのCT値の高い領域が接する部分や,肺野内の血管壁などにアンダーシュートアーチファクトが発生していた。PIQE Lungでは,それがほとんど見られなくなり,肺野内の末梢気管支の拡張も拾い上げられるようになった。

○間質性肺炎の気管支拡張
牽引性気管支拡張は,画像で,その病変が線維化を伴っているかを判断する上で重要な所見である。2022年に発表された特発性肺線維症(IPF)の国際ガイドライン6)では,CTパターンの分類で,蜂巣肺のあるUIP(usual interstitial pneumonia)だけでなく,蜂巣肺はないが牽引性気管支拡張は見られるProbable UIPでも,臨床的にIPFが強く疑われる場合には,呼吸器内科医や放射線科医,病理医による集学的検討(MDD)を行い,臨床的な所見と画像のみでIPFと診断できるようになった。そのため,胸部CTにおいて,末梢気管支をきちんと評価できることは重要である。
図4は間質性肺炎の症例である。従来の肺野条件では太い血管の周囲や胸膜直下に低吸収のバンド状の構造が見られるが,PIQE Lungではこれらの構造は確認できず,アンダーシュートアーチファクトと考えられた(図4)。また,背側の気管支拡張様に見えた構造も,PIQE Lungでは気腔内に構造が確認でき(図4),気管支拡張ではないことがわかる。

図4 間質性肺炎:気管支拡張の描出

図4 間質性肺炎:気管支拡張の描出

 

○間質性肺炎の小葉内病変分布
小葉内の病変分布もびまん性肺疾患の鑑別には重要になる。UIPでは,小葉の容積の縮小,内部の肺胞管や細気管支の拡張,胸膜直下の囊胞が胸膜側に突出する蜂巣肺の特徴を示す。このUIPパターンは,IPFだけでなく膠原病肺,過敏性肺炎など他の疾患においても予後が悪いことがわかってきており7),すべてのびまん性肺疾患で所見をしっかりと描出することが求められている。

○症例提示
図5は間質性肺炎の症例だが,PIQE Lungでは末梢の牽引性気管支拡張がより明瞭に描出されており,胸膜直下の蜂巣肺を含めてより診断がしやすい画像になっている。1年前に撮影した高精細CT〔Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE) Lung〕の画像と比較しても同等の画質が得られている。
また,別の間質性肺炎(IPF)の症例では,PIQE Lungを適用することで小葉辺縁構造が明瞭となり,小葉内網状影も認識可能であった。
図6は,70歳代,女性,間質性肺炎の急性増悪の症例である。従来の肺野条件では,肺野に広がるすりガラス影の内部構造まで認識することは難しいが,PIQE Lungでは内部の二次小葉1つ1つの縮みや歪みを認識できる。二次小葉の縮小や構造の歪みが大きいほど予後が悪いことが考えられる。

図5 間質性肺炎:ADCTと高精細CTの比較

図5 間質性肺炎:ADCTと高精細CTの比較

 

図6 間質性肺炎:急性増悪

図6 間質性肺炎:急性増悪

 

■まとめ

PIQEでは,肺野領域においてノイズを低減しながら,解像度を向上することが可能になる。PIQE Lungを適用することで,末梢気管支の描出が可能になり,間質性肺炎をはじめとするびまん性肺疾患の鑑別に有用だと考える。また,定性評価だけでなく,%LAAなど定量評価においても有用性が期待できる。

*記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。

*AiCE,PIQEは画像再構成処理の設計段階でAI技術を用いており,本システム自体に自己学習機能は有しておりません。

●参考文献
1)Iwasawa, T., et al., Diagnostics (Basel), 13(18) : 2988, 2023.
2)Tanabe, N., et al., Respir. Res., 20(1):77, 2019.
3)Kirby, M., et al., Am. J. Respir. Crit. Care Med., 197(1): 56-65, 2018.
4)Agustí, A., et al., Am. J. Respir. Crit. Care Med., 207(7): 819-837, 2023.
5)日本呼吸器学会:COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン 第6版. 2022.
6)Raghu, G., et al., Am. J. Respir. Crit. Care Med., 205(9):e18-e47, 2022.
7)Raghu, G., Lancet Respir. Med., 7(11):926-929, 2019.

 

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