技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)

2015年4月号

Cardiac Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

心臓MRI新技術─Another step forward

竹本 周平(MRI営業部)

“Human Smart Community”は,東芝がめざしている,人を第一に考えた「安心・安全・快適な社会」を表す。この実現に向け,一つの技術や商品だけでなく複数の技術やサービスを掛け合わせた“lifenology”を提案している。
われわれは「世界中のあらゆる人が笑顔・健康で,いきいき生活できる社会」を目標とし,東芝の持つ幅広い技術を結集して,ヘルスケア事業をグローバルに展開している。前述の「暮らしや生命に喜びをもたらすtechnology」,すなわちlifenologyを,当社のMRI装置においても積極的に採用しており,本稿では,心臓MRI検査のワークフロー最適化と画質向上のための技術について紹介する。

■心臓MRIワークフローの新時代“CardioLine”

本邦における心臓MRI検査実績は近年増加しつつあり,年間約3万件1)が実施されるまでになった。しかし,CTによる冠動脈造影検査と比較すると,MRIの利用頻度は依然として少ない。一方,MRI検査は冠動脈の形態診断以外に,遅延造影による心筋ダメージ(バイアビリティ)の評価,T2強調画像による心筋浮腫領域の検出,さらにはシネMRIにおける心機能評価や虚血評価を行うことができるため,虚血性心疾患だけでなく,非虚血性心疾患においても心臓MRIは用いられている。これらの点から,今後も心臓MRIの活用は増えると考えている。
では,なぜ心臓MRIの利用頻度は依然として少ないのであろうか? 当社調査によると,心臓MRI検査の検査時間の長さや操作性を指摘するユーザーの声が多い。そこで,特に被検者の個体差による心臓基本断面を取得するまでの時間短縮が,検査時間全体のワークフロー改善に寄与すると考えている。
当社の“CardioLine”は心臓断面取得をアシストする技術であり,lifenologyの先駆けとなる技術として実用化されている(図1)。左室心筋の診断で用いられる長軸断面や短軸断面がわずか1.5秒でプランニング可能であり,検査時間を軽減できるアシスト技術である2),3)。体格差や心筋の大きさの違い,症例による心筋形状などが,すでに“事例”として学習されているため,断面取得にかかる時間を軽減できる。
細川らの報告4)によると,CardioLineを用いた単純心臓MRI検査は平均約23分,負荷パーフュージョンを含む造影MRI検査では平均約47分で検査可能であり,検査時間の短縮により検査ワークフローを改善している。

図1 CardioLineの操作画面

図1 CardioLineの操作画面
左室の基本6断面が自動的にプランニングされる。折り返し方向や画像回転の指示も同時に行えるため,素早くほしい断面を取得できる。

 

■ユーザーコラボレーションによる広範囲“MRCA-Ao”の実現

当社装置における冠動脈MRA(以下,MRCA)の臨床実用施設および検査数は増加している。数多くの検査からの臨床ニーズを組み込み新しく開発された“MRCA-Ao(Aorta)”は,MRCAの再現性を改善し,上行大動脈を含む広い撮像範囲のMRCAが取得できる。冠動脈造影CT検査においては,すでにヘリカル技術や検出器の大幅な改良により広範囲化され,検査時間の短縮,さらには検査精度が改善されてきた。MRIにおいても,X線を用いることなく,非造影での大動脈を含む広範囲のMRCAが取得できることは,メリットをもたらすと考えている5)
新手法のMRCAは,脂肪抑制法にSPAIR(spectral attenuated inversion recovery:スペア)法を採用した。SPAIR法は磁場不均一の影響を受けにくいため,脂肪抑制範囲が広く,脂肪抑制ムラの軽減効果が高い。一方,デメリットとして,脂肪信号のNullingまでの待ち時間がSPAIR法では延長する。そのため,取得スライス枚数の制約を受けることから一般的にSPAIR法は整形領域などの撮像に用いられてきたが,当社では冠動脈を目的とするMRCAシーケンスに採用した。従来通りのプリパルス印加法でSPAIR法を用いると,心時相の拡張期の収集に制約が生じるため,高心拍スタディや心拍の変動の多いスタディに対応困難であった。また,MRCA取得には約10分を要する。そのため,データ取得時の心拍変動の影響を受けにくい収縮期にデータを取得することは,MRCA検査の安定化につながると考えている。
撮像シーケンスは3D法のSSFPシーケンスであり,SSFPシーケンスのプリパルスは,脂肪抑制パルス(SPAIR法),T2 prepパルス,動き補償(リアルタイムモーションコレクション,以下,RMC),ダミーパルスを印加している。
SPAIR法は,磁場不均一の影響を受けやすいSSFP法において肺野における磁場不均一の影響を軽減し,冠動脈周囲の脂肪信号の抑制効果が高い。T2 prepパルスは心筋信号と血液信号のコントラスト差を反映させ,良好な画像コントラストを取得する。RMCは横隔膜ナビゲーションとも呼ばれる技術で,自然呼吸下でデータサンプリングのために検出プローブを印加している。ダミーパルスはSSFP法の場合,水信号と脂肪信号の定常状態をコントロールする目的で印加する。
さらに,これらプリパルスの最適化とともにスライス特性の改善を目的としたRF波形の見直しを実施し,取得スラブ厚に対し有効視野の拡大が可能になった。これらを掛け合わせ,収縮期においても取得できるSPAIR法併用MRCAが使用可能になり,広範囲における矢状断面(サジタル)を用いることで大動脈情報を同時に取得するMRCA-Aoが取得可能になった(図2〜5)。

図2 新しいSPAIR法併用MRCA画像

図2 新しいSPAIR法併用MRCA画像
a:CPR処理における左前下行枝(LAD)
b:三次元処理におけるMRCA-Ao
(画像ご提供:医療法人社団 CVIC 心臓画像クリニック飯田橋様)

 

図3 血液信号の安定化と脂肪抑制改善の効果

図3 血液信号の安定化と脂肪抑制改善の効果
a:従来法
b:新法
同被検者における比較。は,右冠動脈周囲の脂肪信号,は心腔内の血液信号を示す。新法(b)において血液信号の安定化,脂肪信号の抑制において改善効果が得られた。

 

図4 スライス特性改善

図4 スライス特性改善
a:従来法
b:新法
均一な硫酸銅ファントム(500mm)から得られたプロファイルから半値幅(FWHM)を測定した。従来型RF波形(a)よりも新開発RF波形(b)は半値幅を改善し,有効視野を拡大しうる。

 

図5 臨床例における画質改善例

図5 臨床例における画質改善例
a:従来法
b:新法
スライス特性の改善例。従来法(a)よりも新法(b)では,上行大動脈や左前下行枝(LAD)の信号低下の影響を軽減しうる。
(画像ご提供:医療法人社団 CVIC 心臓画像クリニック飯田橋様)

 

当社独自のCardioLineは,心臓MRI検査のワークフローを改善するlifenologyである。ユーザーコラボレーションによる新しいSPAIR法併用MRCAは,心臓MRI検査の“Another step forward”として期待いただきたい。

●参考文献
1)2013年循環器疾患診療実態調査(2014年度実施・公表)調査結果報告書 〔3万1613件(1535施設)〕. 日本循環器学会, 2015.
http://jroadinfo.ncvc.go.jp/cms/wp-content/uploads/2015/02/report14_140115.pdf
2)横山健一・他 : 心臓MRIにおけるKnowledge-based Automatic Slice Alignment Method の臨床例での検討. 第39回日本磁気共鳴医学会大会, 2011.
3)Nitta, S., et al : Improvement of Knowledge-
Based Automatic Slice‐Alignment Method for Cardiac Magnetic Resonance Imaging. J. Cardiovasc. Magn. Reson., 14(Suppl. 1), 272, 2012.
4) 細川良介・他 : 当院におけるTOSHIBA製1.5T MRI装置 Vantage Titanの使用経験. 第22回日本心血管インターベンション治療学会学術集会(CVIT2013), 2013.
5)田中茂子・他 : WHCA(Whole-heart Coronary MRA)矢状断撮像の有用性.日本放射線技術学会雑誌, 63・6, 638〜643, 2007.

 

●問い合わせ先
キヤノンメディカルシステムズ(株)
広報室
TEL 0287-26-5100
https://jp.medical.canon/

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