TOPICS 診療放射線技師からのアプローチ 
若年者腰痛における画像診断の意義 
坂井上之(東千葉メディカルセンター放射線部)
Webセミナー「腰痛」について考える

2023年3月10日(金)に富士フイルムヘルスケア主催のWebセミナー「『腰痛』について考える」が開催された。今回のセミナーは,「患者の抱える症状」をテーマに設け,症状の要因である「疾患」について掘り下げることをめざし,疾患へのアプローチや考え方などを各分野の専門家が講演する形で企画された。
一般社団法人日本腰痛学会のWebサイトでは,「腰痛の診断と治療は必ずしも容易ではない」と述べられている。国民病とも言える腰痛にはさまざまな原因があると言われているが,今回のセミナーでは,特に成長期にある若年者の腰痛を取り上げ,腰痛の原因の一つである「腰椎分離症」に焦点が当てられた。腰痛に対して,「どのような疾患が隠れているのか」「どのように画像診断をしているのか」「疾患がある場合に,どのような治療・回復アプローチをしているのか」という視点で,腰痛症の診療にかかわる整形外科医,理学療法士,診療放射線技師が解説を行った。
Webセミナーには,医師,理学療法士,診療放射線技師以外にも,看護師や作業療法士など,700名を超える医療関係者が参加した。質疑応答では多くの質問や意見が寄せられ,若年性腰痛症に対する参加者の関心の高さがうかがえた。今回講演した3名の演者は,国内外の学会や研究会に共に参加するなど,普段からコミュニケーションを取って情報交換を行っており,セミナーでも互いにリスペクトし意見交換をする様子は,臨床現場における「チーム医療」の姿を感じさせるものであった。

2023-5-25


坂井上之(東千葉メディカルセンター放射線部)

画像診断の意義

若年者の腰痛は,脊椎分離症,分離すべり症,椎間板ヘルニア,変性側彎症などに代表される。スポーツを熱心に行う小・中学生に多く,若年者の腰痛は少なくない。
腰痛の診断は,注意深い問診と身体検査に始まり,画像診断,血液検査,心因性要素の評価などが行われる。つまり「画像診断」は腰痛診断における補助診断の一つであり,考えうる疾患の病態や特性に合わせて補助診断法を組み合わせて診断精度を向上させる。『腰痛診療ガイドライン』では,腰痛診断の画像検査にはX線検査およびMRI検査を組み合わせることが推奨されている。臨床においては,これらに加えてCT検査も行う。このように多くの補助診断法を駆使すれば診断率は向上するが,被ばく・コスト・時間浪費を考慮した上で診療に当たる必要がある1)

脊椎分離症の画像診断

若年者腰痛の画像診断として,脊椎分離症に絞って解説する。脊椎分離症の画像診断に求められていることは,椎弓根部に発生する疲労骨折および骨髄浮腫の病態を的確にとらえることである。
単純X線検査は低コストで利便性が高いため,最初に行われる画像診断である。腰痛の原因検索として荷重位である立位の正面像・側面像が基本となる。側面像では終板軟骨の骨化の状態を観察することが重要で,一部の骨形成が見られるapophyseal stage(A期)は若年者腰痛の発生が最も多い時期である2)。脊椎分離症を疑う場合には,斜位像を追加すると,椎弓根部の骨折がスコッチテリア犬の首輪サインとして描出される。しかし,単純X線検査で確認できる骨折は,脊椎分離症の進行期後期か終末期であることがほとんどであり,脊椎分離症の初期にはMRI検査やCT検査を併用することが必要となる。また,分離すべりを疑う場合には,側面像の前・後屈位を追加し動態観察することで,椎体のすべりの程度を評価できる。
CT検査は高コストだが利便性が高く,高空間分解能のボリュームデータを高速に取得できるのが最大の利点である。骨条件の画像では,分離による骨折線の有無,骨折部の離開の程度,骨癒合の評価判定,硬化像の有無を評価できる。そのため,脊椎分離症の病期分類は空間分解能が高いCT画像を用いるのが一般的である。さまざまな病期分類法が提案されているが,骨条件の椎弓根部の横断像か矢状断像において,透亮像・亀裂像を初期,完全分離を進行期,偽関節を終末期と定義する。それぞれの病期の骨癒合率は,94%,64%(STIR高信号あり)〜27%(STIR高信号なし),0%とされ,初期に治療を開始することが重要であることは明らかである。このようにCT検査は有用であるが,少なからず被ばくを伴う。成長期は放射線感受性が高く,生殖腺が撮影範囲の近くにあるため,可能なかぎり被ばく量を低減するよう検査の頻度や撮影範囲を限定すべきである。
MRI検査は,高コストかつ検査予約が入りにくく利便性が低い。ただし組織コントラストが高く,放射線被ばくがないことから,若年者にとって有用な検査である。STIR画像では骨内の脂肪成分を抑制するため,疲労骨折に伴う骨髄浮腫を高信号に描出できる。STIR画像による骨髄浮腫は,CT検査で骨折線を見つけることができない超初期の分離の状態をとらえられること3)や,CTで進行期と診断された脊椎分離症もSTIR画像の骨髄浮腫の有無によって骨癒合率に違いがあること4)などが報告されており,診断だけでなく予後評価にも活用されている。そのため脊椎分離症では,STIR画像で椎弓根部を正確に観察することが求められる。その対策として,多方向からの撮像や撮像後に任意断面で再構成が可能な3D STIRが有用である。また近年,3D multi-echo T2*強調画像を加算処理後に白黒反転表示するFRACTUREというMR bone imagingが注目されている5)図1に,L5 両側分離症の症例を提示する。FRACTUREではCT画像の空間分解能には劣るが,椎弓根部の亀裂・離開は十分に観察できる。3D画像のため再構成が可能であり,放射線被ばくがないため保存治療後の骨癒合の経過観察にCT検査の代用として活用される可能性を秘めている。
以上のように,脊椎分離症を対象に若年者腰痛に対する画像診断のポイントについて解説した。画像診断法により分離所見が観察できる時期が異なるため,画像検査ごとの特徴を把握することで治療の判断や予後評価に活用可能である。

図1 L5 両側分離症(18歳,男性)

図1 L5 両側分離症(18歳,男性)

 

●参考文献
1)Ramirez, N., et al., J. Pediatr. Orthop., 35(1): 28-32, 2015.
2)森本雅俊, 他, MB Orthop., 34(4): 66-74, 2021.
3)Sakai, T., et al., Spine, 35(14): E641-645, 2010.
4)Sairyo, K., et al., Spine, 31(2):206-211, 2006.
5)Johnson, B., et al., Skeletal Radiol., 50(8): 1705-1713, 2021.

 

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