Case 12 札幌白石脳神経外科病院 
脳ドックから地域医療連携システム“DASCH Pro”までFileMakerを駆使してシステム構築
副院長 高橋 明氏  放射線科科長 田村 豊氏

2013-2-15


放射線科では検査履歴管理などをFileMakerで運用する。

放射線科では検査履歴管理などをFileMakerで運用する。

札幌白石脳神経外科病院は,脳神経外科の専門病院として1982年に開院,2011年9月に現在地に新築移転した。病床数は103床,6名の脳神経外科医を中心に,脳卒中や脳腫瘍など脳神経外科の年間の手術数は約400件,2次救急から回復期リハビリテーションまで専門的な医療を提供する。また,画像診断機器では3T MRI2台などMRI3台,64列CT,SPECT,脳血管撮影装置などがそろう。同院では,放射線科の田村豊科長が中心となってFileMakerによる院内のユーザーメードのシステム構築を行っているほか,北海道広域医療連携研究会の中心施設としてDASCH Proの運用を積極的に行っている。同院でのFileMakerの活用について,高橋明副院長と田村科長に取材した。

●ベンダー製基幹システムを補完するシステムをFileMakerで構築

高橋 明副院長

高橋 明副院長

田村 豊科長

田村 豊科長

同院では,2007年にオーダリングシステムを導入,2009年には電子カルテに移行し,外来,病棟で電子カルテによる診療を行ってきた。高橋副院長は,「病院の基幹システムは,オーダリングから始まって電子カルテシステムへとベンダー製のシステムを導入してきました。移転時にも,そのまま継続して利用しています」と説明する。
FileMakerのシステム構築に関しては,放射線科の田村科長を中心に進められてきた。同院では,現在,手術台帳管理,退院サマリー作成システム,脳ドック受診管理,放射線検査管理,市販後調査システムなどがFileMakerによるユーザーメードシステムとして稼働している。FileMakerによる病院情報システムの構築について高橋副院長は次のように語る。
「基幹システムとは別に,各部署や病棟などで必要となる台帳やデータベースの構築,文書作成などのために,FileMakerを使ってシステムを構築しています。私自身も医師になった頃からデータベースをFileMakerで自作して使ってきましたので,この病院に赴任してFileMakerでのシステム構築に熟練したスタッフがいたことは心強かったですね。電子カルテではカバーできない部分を,FileMakerで作っています」。

●退院サマリーや脳ドックの受診管理などをユーザーメードで構築

田村科長は,放射線科の検査台帳の管理からFileMakerによるシステム構築を手掛け,独学でスキルを向上してきた。その後,院内からも依頼を受けるようになり,院内のFileMakerシステムについては,ほぼすべてをひとりで構築,管理を行っている。
「2000年ごろに放射線科にPCとFileMakerが導入されて何かに活用できないかと考えて,放射線検査の管理のシステムを参考書を片手に作り始めました。そのシステムは現在も放射線科で改良しながら動いています。FileMakerの利点は,ユーザー自身が使いやすいように自分でシステムを作り込んでいけることです。最初はサンプルとなるファイルを先生方からもらってそれを基にベースとなるシステムを作り,そこから要望を聞いて作成し,使ってもらった上でまだ修正するという形で完成度を上げていくことができます」
FileMakerによるシステム構築のメリットについて高橋副院長は,「医師にとって実験のデータの整理や管理のためのデータベースとしては,FileMakerが唯一の選択肢でした。自分の研究にあった項目を設定し,データを入力し,それを集計したり,新たな項目を追加したりということが自由に,しかも簡単にできるのはFileMakerしかありませんでした。ただ,現状での課題は,田村科長が本来の業務の傍ら,ほぼひとりでFileMakerでのシステム構築に当たっていることで,マンパワーの関係から電子カルテなどとの連携などまで展開できていないことです。今後FileMakerの扱えるスタッフの確保なども検討しているところです」

脳ドック受診管理システム。結果入力画面 a:血液・生化学,b:画像

脳ドック受診管理システム。結果入力画面
a:血液・生化学,b:画像

 

●脳卒中の医療連携をネットワークで可能にした“DASCH Pro”

高橋副院長は,2005年頃から砂川市立病院で脳卒中の急性期から慢性期への医療連携と情報共有の必要性を感じ,連携パスを作成して紙ベースでの運用を行っていた。地域の医療機関との研究会の活動の中で,時計台記念病院の戸島雅彦院長,赤澤孝司課長と知り合い,この連携パスをFileMakerで構築することになり生まれたのが,最初のDASCHである。
「連携パスのIT化の要望は多く受けていたのですが,病院間の情報のやりとりをネットワークで行うまでの技術はありませんでした。戸島院長から,われわれの連携パスをFileMakerで共有するシステムの提案があって,システムの構築と同時に脳卒中の医療連携についても協力することになり,スタートしたのが北海道広域医療連携研究会 です。そこで生まれたDASCHによって,多施設,多職種による患者さんの情報共有が可能になり,脳卒中診療の連携レベルが大きく向上しました」(高橋副院長)
DASCHでは,連携パスを搭載し患者情報の入力と参照,掲示板による双方向の連携機能などを利用できる。実際に,オンラインによる情報共有でソーシャルワーカーの面談回数が減るなど業務の効率化や,情報のタイムラグが少なくなり,患者を中心としたきめの細かい診療やケアが提供できるようになった(DASCH/DASCH Proについてはコラム参照 )。

頸動脈エコー検査システム a:入力,b:レポート

頸動脈エコー検査システム
a:入力,b:レポート

 

●臨床現場の経験を蓄積しさらに進化するシステムの構築が可能

同院では,2013年春に循環器内科が新設されるが,診療科の増設を機に外来の患者待ち時間をFileMakerによるシステムとiPadなどのモバイルデバイスを利用して短縮できないか,検討を行っている。高橋副院長は,「以前から患者さんの待ち時間が長いことが気になっていました。現在,院内での患者さんの動線をスタッフが調査しており,この結果を元に解決の方法を探っていきます。現場のニーズやアイデアを生かして少しずつシステムを組んでいけるのが,ユーザーメードの良いところです」とFileMakerによるシステム構築に期待する。
DASCH Proは,iPadを利用した運用や遠隔画像診断の機能の追加など次のバージョンに向けた開発が進められている。
「DASCH ProのようにFileMakerの開発ベンダーと協力したシステムでは,既製品とオーダメードの良いところをあわせた導入が可能です。ここで開発されたシステムは,ユーザーメードのノウハウが注入されると同時にひとつの製品として結実します。次に導入するユーザーはわれわれと同じ苦労をすることなく,次のレベルからスタートできます。そこで新たな経験値や改善点を反映して,また次のユーザーに渡すことができます。それができるのもFileMakerで作られたシステムならではだと思います」(高橋副院長)
さらに,高橋副院長は東日本大震災を受けて,今後,地域の医療情報ネットワークが災害時のバックアップとなる情報管理の重要性を強調する。「個々の病院ではなく,地域として患者情報を管理し,そのデータを遠隔地にバックアップすれば,災害時にも継続した診療を行うことができます。DASCH Proがそのひとつのきっかけになればと考えています」と,さらなる発展に期待している。

 

 
In-side Column

北海道における地域医療連携をサポートするDASCH Pro

DASCH Pro(http://www.dasch-pro.jp/ )は,脳卒中の多施設での医療連携において,FileMakerを利用して情報共有を行うことを目的として開発された地域医療連携システムであり,医療や介護,医師や看護師,ソーシャルワーカー,行政などさまざまな職種の人たちが,北海道という地域間の距離が長く日常的な交流が難しいという地域性をITを使ってカバーする仕組みとしてバージョンアップを重ねてきた。そのスタートは,北海道広域医療連携研究会において構築されたFileMakerベースの患者情報共有ツールであるDASCH(DAtabank of Seamless Care in Hokkaido)である。DASCHは,VPNを利用したFileMakerによる共有を行うバージョン1から,連携先の負担軽減のためインスタントWeb公開(IWP)によるバージョン2と発展してきたが,さらなる機能強化のため,北海道に拠点を置きFileMakerでの開発を行っているDBPowers(代表取締役:有賀啓之氏)に開発を委託し,2012年10月にDASCH(DAtabank as Solution for your Care and Health) Pro ver1.0がリリースされた。DASCH Proでは,Webアプリケーション機能,権限設定,日常生活機能評価,モバイル端末での使用を考慮したタッチ操作などが強化され,健康関連情報を含めた広域での情報共有・連携のツールとして発展している。

北海道広域医療連携研究会

北海道全体での医療連携を推進することを目的に,時計台記念病院の戸島雅彦院長,札幌白石脳神経外科病院の高橋明副院長らを 中心に2008年に発足。医療・介護に携わる医師,看護師,メディカルソーシャルワーカー,セラピストや行政などの幅広い職種が参加し,これまで14回の 研究講演会を開催している。対象疾患として脳卒中だけでなく,認知症,糖尿病,高血圧不整脈などを対象とし,ITを活用した連携を進めることを方針として FileMakerを使った情報連携システム「DASCH Pro」の開発,運用を行っている。

 

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札幌白石脳神経外科病院

札幌白石脳神経外科病院
札幌市白石区本通8丁目南1-10
TEL 011-863-5151
FileMaker Pro:63,
FileMaker Server:1,
FileMaker Server Advanced:1


(インナービジョン2013年2月号 別冊付録 ITvision No.27より転載)
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