セミナーレポート(富士フイルム)

富士フイルムメディカル株式会社は,2016年8月20日(土)に「FUJIFILM MEDICAL SEMINAR 2016 in 九州」をホテルレオパレス博多(福岡市博多区)で開催した。富士フイルムメディカルのセミナーでは,自社の製品情報紹介だけでなく,参加者にとって広く有益な内容のセミナーを企画している。今回は要望の多かったCTとMRIに関する基礎講座を実施し,3D画像作成に役立つCTの画像特性と臨床応用について,富田博信氏(埼玉県済生会川口総合病院放射線技術科)が講演した。

2016年10月号

FUJIFILM MEDICAL SEMINAR 2016 in九州【3Dセミナー】呼吸器関連 専門医による画像 チーム医療

3D画像を1ランクアップ 〜CT装置の特性と臨床応用〜

富田博信(埼玉県済生会川口総合病院放射線技術科)

富田博信(埼玉県済生会川口総合病院放射線技術科)

3D画像の作成などいわゆるポストプロセスにおいて精度の高い画像を作成するためには,元画像が重要になる。元画像を得るためには,CT装置の特性を理解し,最適な撮影プロトコールを設定した上で丁寧な検査を行うことが大切になる。本講演では,3D画像作成のために必要となるCTの画像特性と当院でのSYNAPSE VINCENTの囊胞腎解析の使用経験を含めて述べる。

体軸方向分解能とピッチファクター

現在のマルチスライスCTでは,Flying Focal Spot機構によるオーバーサンプリングで体軸方向の分解能が向上している。当院では,シーメンス社製のCTを導入しているが,0.6mm幅の検出器の0.5mmと0.6mmで再構成した実効スライス厚は,section sensitivity profile on Z-axis(SSPz)もFWHMもほぼtrueに近い高精細な体軸方向の分解能を備えている。ピッチファクターが大きくなるとFWFHも大きくなるが(図1),1mm再構成の実効スライス厚では問題ないレベルと言える。ピッチファクターは体軸方向の分解能に影響するが,ピッチを上げると体軸方向の分解能は落ちるため,細かい解像度が要求される検査では小さいビームピッチで撮影することが効果的となる。

図1 ピッチと再構成スライス厚の変化

図1 ピッチと再構成スライス厚の変化

 

ヘリカルアーチファクト

ピッチファクターは,ヘリカルアーチファクトに影響する。これは,サンプリング定理によって,ピッチ間隔が大きくなることで収集する信号の間隔が大きくなり元の信号を再現できなくなることで,データが欠損しアーチファクトにつながる。CT画像では,図2のようにウィンドミルアーチファクトとして出現し,ピッチファクターが大きくなるにつれ球形が崩れることがわかる(図2 下)。これは3D画像作成の際にも影響することから,使用装置によってどのピッチファクターであればアーチファクトが出現しないかを把握して撮影プロトコールを組むことが重要である。

図2 ピッチとウィンドミルアーチファクト

図2 ピッチとウィンドミルアーチファクト

 

空間分解能

空間分解能,特に面内空間分解能を決める要素に再構成関数がある。CTメーカーごとにさまざまな再構成関数があるが,骨や軟部組織など部位に合わせた最適な関数を選択することが重要となる。適切な再構成関数の選択は,空間分解能だけでなく臨床画像における病変の描出にも影響する。図3は小児の耳下腺囊胞性腫瘍で,aが小児用関数(C30),bが成人の頭部用関数(H30)を適用した画像である。bでは,頭骨に沿った外側の脂肪組織が強調され偽像が現れている。再構成関数によるビームハードニング補正の強弱の違いによって発生するもので,小児の頭骨は薄いため成人の頭部用関数では頭骨近傍の脂肪組織のCT値が高く描出されている。診断に適した3D画像を作成するためにも,再構成関数の違いによるCT値の変化を把握する必要がある。
ガントリ回転速度による画像解像度の変化は,回転速度が上がるほどボケを生じるが,これはview数の違いによるものである。さらに,回転速度が上がってもFOVのセンターでは空間分解能に変化はないが,オフセンターでは低下する。基本的なことではあるが,心臓CTなどではFOVのセンターに被写体を置くことが重要となる。クリアな3D画像の作成や正確な対象物の抽出のためにも,センターからの距離と回転速度による面内解像度の違いを把握して検査を行うことが求められる。
また,マルチスライスCTではスライス厚が薄いほど単位面積あたりのフォトン数は減少しSDは低下する。撮影する部位や疾患によって診断に必要な画質を考慮して,スライス厚や線量を決定することが必要である。

図3 再構成関数の違いによる画像の違い

図3 再構成関数の違いによる画像の違い

 

時間分解能

マルチスライスCTでの時間分解能は,ガウス加速器による金属球打ち出し1)によって面内時間MTFを測定することで計測することができる。これを用いてピッチファクターを変えて測定すると,ヘリカルの場合には高ピッチのほうが面内の時間分解能は向上する。静止と動態で撮影したクシファントムのMRP画像(図4)では,静止状態ではピッチを変えても画像に変化はないが,動態ではピッチを上げることで時間分解能が向上している。動きの強い対象やより細かく観察したい場合には,高ピッチを選択することをお勧めする。

図4 動態クシファントム画像

図4 動態クシファントム画像

 

造影剤感度

造影剤の感度については,CTメーカーによって異なるので注意が必要である。120kVでの各社のCTによる造影剤のCT値を測定すると,図5のようにメーカーによって150HU以上の差があることがわかる。一般的に東芝メディカルシステムズ,GE社製CTは同じ造影剤量での感度が高く,シーメンス,フィリップス社製CTは同mAsでの被ばく線量が低くなる線質となっている。CTAなどで十分な画像が得られない場合には,自施設のCTの造影剤感度を確認することも必要である。
メーカー間の造影剤感度が違うことから,造影注入時の時間濃度曲線(time density curve:TDC)のCT値も異なり,検査ではこれをどちらかの装置に合わせる必要がある。例えば,Aquilion(東芝)の120kVp-450mgI/kgとSensation 64(シーメンス)の120kVp-450mgI/kgではTDCに差があるが,Sensation 64の造影剤濃度を540mgI/kgにすることで東芝に近づけることができる。また,造影剤濃度を上げたくない場合には,管電圧を100kVpとすることで近い曲線とすることができる。シーメンス社製のCT装置でのCTAでは,これらの調整を行うことで造影効果の強調が期待できる。

図5 120kVpにおけるCT値の変化

図5 120kVpにおけるCT値の変化

 

SYNAPSE VINCENT囊胞腎解析

最後に,当院に導入された「SYNAPSE VINCENT」の囊胞腎解析機能について述べる。
囊胞腎の容積測定は,常染色体優性多発性囊胞腎(ADPKD)の治療薬処方の条件となったことから増加しており,3Dワークステーション(WS)を使った計測が行われる。しかし,各社のWSでは,腎臓の自動認識が不十分だったり,手動で腎臓の領域を選択する必要があるなど手間がかかる。年5%の腎容積増大速度を求めるための計測に,手動選択では操作者による誤差が10%以上出ることもあり,不正確な計測になりかねない。
SYNAPSE VINCENTの囊胞腎解析では,MPR上で長径を指定するだけで左右の腎を自動抽出して容積の計測が可能で,計測結果はレポートとして出力される(図6)。さらに,囊胞腎解析では,過去画像との非剛体位置合わせによって前回計測結果から自動的に計算されることから,計測時間は従来の1/3程度に短縮された。SYNAPSE VINCENTの囊胞腎解析による腎容積の計測は,誰が測定してもデータが一定であり,非剛体位置合わせによる計測精度も高く増大率も一目で把握可能で,レポートも見やすい形式で自動生成され,計測時間も大幅に短縮されることは大きなメリットだと考える。

図6 SYNAPSE VINCENT 囊胞腎解析のレポート出力

図6 SYNAPSE VINCENT 囊胞腎解析のレポート出力

 

まとめ

診断に役立つ3D画像作成のためのCTデータの物理特性や検査での留意点と,SYNAPSE VINCENTの囊胞腎解析について概説した。3D画像作成のためには,まず自施設で使用されているCT装置でさまざまな測定を行って特性を理解し,それをエビデンスとして最良の画像を提供するためにプロファイルの調整や改良を行っていくことが重要だと考える。

●参考文献
1) 市川勝弘,高田忠徳,原孝則・他:CTにおける時間分解能の新しい測定法.日本放射線技術学会雑誌,64・9,1172〜1176,2008.

 

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