セミナーレポート(富士フイルム)

富士フイルムメディカル株式会社は,2018年11月22日(木)〜25日(日)に福岡国際会議場・福岡サンパレス(福岡県福岡市)で開かれた第38回医療情報学連合大会(第19回日本医療情報学会学術大会)のランチョンセミナー2にて,「統合診療システムを活用した医療の質・安全性の向上と医療情報部の役割」を開催した。

2019年3月号

第38回医療情報学連合大会ランチョンセミナー2

診療データの一元管理がもたらす医療の質と安全性の向上

白鳥 義宗[名古屋大学医学部附属病院 病院長補佐(病院CIO),メディカルITセンター長・病院教授]

白鳥 義宗[名古屋大学医学部附属病院 病院長補佐(病院CIO),メディカルITセンター長・病院教授]

名古屋大学医学部附属病院は,臨床研究中核病院,がんゲノム医療中核拠点病院の指定を受けるなど,日本の臨床・研究の中心的施設として,高度で先進的な医療を提供している。2018年1月に病院情報システムの更新を行い,第7次システムがスタートした。第7次では,大学病院としての高度医療の推進を支える,基盤づくりを主眼にシステム構築を行った。本講演では,第7次システムのコンセプトと,基盤づくりの核となる富士フイルムの統合診療支援プラットフォーム「CITA Clinical Finder」などのシステムの概要について述べる。

第7次システムで高度医療を支える基盤づくりを推進

当院で2018年1月から稼働した第7次システムでは,日本の医療の最先端を担う大学病院としての臨床や研究を支える基盤づくりをめざした。大学病院といえども,増え続けるデータや複雑化する診療プロセスへ対応するには,従来のシステムの改良や変更では限界があり,改めて標準化や効率化,統合化が可能な病院情報システムの基盤を形成することが求められている。
第7次システムの構築のポリシーとして,(1) 中央化の推進,(2) データの集約と利活用,(3) 業務改善を図る,の3つを掲げた。それを実現すべくCITA Clinical Finderを中核として,各部門で発生するデータを一元管理し,そのデータの有効利用が可能なシステムを構築した。
当院では,100を超える部門システムが稼働しているが,従来はデータは各部門システム内だけにある構造となっていた。中央化の推進として,まず,データをすべて中央に集約し,これを原本として統合管理することとした(図1)。レポートは,各部門システムからPDFとXML形式で収集し,最終的にデータウエアハウスで利用できるようにしている。画像情報は,統合アーカイブ「SYNAPSE VNA」を導入し,放射線画像だけでなく内視鏡や心電図,循環器の動画像など院内のあらゆる画像を一元的に集めている(図2)。
データ集約と利活用においては標準化が重要であり,部門システムにBasic Outcome Master(クリニカルパス),看護実践用語標準マスター,JJ1017コード(放射線検査)など標準マスターを積極的に採用している。さらに,業務改善では,電子カルテシステムとCITA などを連携して,蓄積された情報を利活用して転記や重複入力をなくし,効率的に記載できる環境を構築している。

図1 第7次:画像・レポート統合管理システム概念図

図1 第7次:画像・レポート統合管理システム概念図

 

図2 院内画像の統合管理全体構造(VNA)

図2 院内画像の統合管理全体構造(VNA)

 

CITAによる効率的な情報収集と診療支援

問題指向型診療録(Problem Oriented Medical Record:POMR)では,初期の情報(データベース)からリスク分析を行いプロブレムリストを作成し,プロブレムに沿って診療プロセスが実行される。診療プロセスがクリニカルパスとして運用され,クリニカルパスを中心にあらゆるオーダが自動的に発生し,最終的に物流や会計情報と紐づくことが理想のシステムと言えるだろう。
CITAでは,そういったプロセスの実現のため,患者に関するさまざまなデータを集約し,診療場面や職種に合わせた柔軟な表示が可能になっている。病名,プロブレム,SOAP記録,オーダ,検査データ,画像,各種文書といった診療情報を,機能別フレーム(メディカル・ガジェット)として一元的に集約し自由にレイアウトできる(図3)。これらの表示は,例えば褥瘡対策チームなどの診療チームごとにレイアウトしたり,タイムラインガジェットとして必要なデータを時系列表示したりすることができる。また,入力についても自動転記,自動計算,フリーテキストなど豊富な入力部品群が用意されており,自分たちの診療に必要な項目を選択して,自由に配置できる機能も搭載されている。さらに,いつ,誰が,どこを,どのように変更したのかの更新履歴を記録して,真正性が確保されている。
業務改善として,診療の中で迅速かつ必須の作成が求められる文書については,すでに入力ずみのデータを利用して自動転記することで作成の支援を行っている。例えば,入院診療計画書では,医事システム,患者プロファイル,病名ツールなどから自動転記される(図4)。自動転記の仕組みでは,外来から入院までの間に,電子カルテやその他の文書で作成されるデータについて,入力されるタイミングや必要な文書,利用シーンなどを考慮しながら,最適なフローをスタッフ間で検討して構築した。

図3 CITA Clinical Finder:画面レイアウト例

図3 CITA Clinical Finder:画面レイアウト例

 

図4 必須文書への自動転記(例:入院診療計画書)

図4 必須文書への自動転記(例:入院診療計画書)

 

JCIも視野に入れた医療安全への取り組み

院内では多くのチェックリストが動いているが,CITAではクリニカルフロー画面で患者ごとのチェック項目を一覧表示し,必要な項目を確認できる。検査オーダが出ているかどうか,同意書が取れているかや,画像検査の結果の状況,感染症リスク,転倒転落のリスク評価など多種多様な項目を,進捗状況を含めて一目で把握できる。
当院では,国際的な医療施設の認証機構であるJCI(Joint Commission International)の受審に向けて準備を進めているが,JCIでは1000を超える審査項目があり,それらについて診療プロセスに基づいて漏れなく迅速,かつ正確に診療記録が作成されているかが厳しくチェックされる。病院情報システムにおいても,記載についてJCIの受審を前提としたチェック項目を設けて入力をサポートする仕組みを設けているが(図5),仕組みさえ作ればうまくいくわけではない。従来は,決められた診療プロセスにしたがって一貫した診療が行われているかどうかは医師の裁量に任されていたが,医療安全の観点からは,主治医だけでなく,診療にかかわる他科の医師や看護師,MSW,診療情報管理士などが病院全体としてチェックする体制が必要だと考えている。
第7次システムでは,安全チェックの機構として電子カルテではオーダの標準化やオーダ支援の仕組みの構築,実施の三点認証などの導入を行っている。さらに,監査では主治医による1次チェック,次に診療科(医局担当者)によるカンファレンスなどでの確認(2次チェック),さらに病院(診療情報管理士)による3次チェックの体制を取っている。将来的にはカルテがオープンになることで,患者自身(社会)がチェックする時代になることが予想される。われわれは,そこまで視野に入れて,まずは病院としてしっかりしたチェック体制が取れるようにシステム構築を進めているところである。

図5 クリニカルフローと国際認証(JCI)

図5 クリニカルフローと国際認証(JCI)

 

CITAを用いた既読/未読管理

CITAでは,ガジェットを任意にレイアウトして,未読文書を一括で参照できる。また,未読・既読の管理が必要な文書については,画面上の既読/未読ボタンをクリックしてステータスの変更を行う仕組みを用意することで,レポートがきちんと見られているかを管理できるようにした(図6)。また,時系列一覧表示では,チェックが必要な文書には未読のバッジを表示することで,未読レポートがわかる仕組みになっている。

図6 CITA Clinical Finder既読管理画面:病理レポート

図6 CITA Clinical Finder既読管理画面:病理レポート

 

まとめ

今後は,患者中心の医療への変更が求められるが,そのためには患者にかかわるさまざまな職種が協力して診療を進める体制が必要となる。患者を助けたいという医療者の気持ちや願いを実現するためには,患者のデータを集めて使える形にすることが近道である。われわれは,そのための仕組みを構築するために,今後とも最大限の努力をして,達成していきたいと考えている。

 

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