FUJIFILM MEDICAL SEMINAR 2015 Report デジタル画像処理技術がもたらす未来

富士フイルムメディカル株式会社では,創立50周年記念イベントとして全国各地で「FUJIFILM MEDICAL SEMINAR 2015」を開催した。2015年6月20日(土)には,東京都千代田区のJP TOWER Hall & Conferenceで,“未来に向かって進化し続けるX線画像診断システム”が行われ,田所秋宏氏(日本大学医学部附属板橋病院 中央放射線部)がVirtual Gridの活用について講演した。

2015.6.20 in 東京

Virtual Gridがポータブル撮影を変える!〜被ばく低減は可能?

田所 秋宏(日本大学医学部附属板橋病院 中央放射線部)

日本大学医学部附属板橋病院(診療科36科,病床数1037床)の救命救急センターは,CCU,SCU,BCU,母体救命対応総合周産期母子医療センター,こども救命センターのユニットがあり,受け入れ患者数は年間2000人以上,診療放射線技師は日勤帯4名の体制で,装置としてはCT,血管撮影装置各1台,ポータブルX線撮影装置2台が導入されている。当センターでは,2014年9月にグリッドレスでの撮影を可能にする新しい画像処理ソフトウエアである“Virtual Grid”を導入し,初療時のポータブル撮影などに利用している。Virtual Grid導入後の撮影ワークフローや被ばく低減の評価について報告する。

救命救急センターでの使用環境

救命救急センターでは,富士フイルムメディカルの「FUJIFILM DR CALNEO flex」と,ポータブルX線撮影装置「Sirius Star Mobile 130HP Flexible FPD Type」(日立メディコ社製)で,FPDによる撮影を行っている。センター内には専用の無線回線を整備し,撮影オーダの受信から画像転送まで,すべて無線で行う完全ワイヤレス仕様での運用となっている。2014年9月からVirtual Gridを使用したグリッドレスでのポータブル撮影を行っている(図1)。

図1 Virtual Gridによる撮影条件とワークフロー

図1 Virtual Gridによる撮影条件とワークフロー

 

Virtual Grid導入後のワークフローについて

Virtual Gridを使用するには,まず,「Console Advance」のユーザーユーティリティで, VG処理(VGP)をONにして,グリッド比,グリッド密度,グリッド中間部材を,施設の使用状況に合わせて設定する。Virtual Gridでは,X線の到達線量から入射表面線量や体厚を推測するため,VGPをONにする場合,kV,mAs,SID(FPD間距離)のデフォルト撮影条件の決定が重要になる。特に,SIDについては撮影後には簡単に変更することができないため,実際の臨床では設定したSIDで撮影できないことも考えられる。そこで,SIDの設定と実際の撮影距離の違いによる画像の変化,および検査時の実際の撮影距離のばらつきについて検証した。
目標距離を120cmに設定し,ポータブル撮影装置を用いて診療放射線技師20名の目視による実際の撮影距離を計測し,有意水準5%で分散検定を行った。その結果,標準偏差は120cm±6cmで,最小値108cm,最大値130cmとなった。胸部ファントムにおける肺野のCNR(contrast to noise ratio)では,実際の撮影距離に合わせて,その都度SIDの設定を行いVG処理した群と,SID設定を120cm固定にしたままVG処理した群では,ともに実グリッド群とは有意差はなく,距離計測が困難な実臨床の状況においても画質に与える影響は少ないことが確認できた。

被ばく低減と画質維持の実現

Virtual Gridを用いた撮影では実グリッド(RG)と比較して同等か,それ以上のCNRの向上が認められた。そこで,従来のRGの撮影条件より線量低減が可能かどうかを検討した。
画像収集条件として,90kV,0.8〜2.5mAs,SID120cm固定,基準条件としてRGの2.5mAsをリファレンスとし,評価方法として解像特性:presampled MTF,ノイズ特性:normalized NPS(NNPS),コントラスト特性:CNR,視覚的評価:スコア評価で検討を行った。
その結果,MTFは,RGとVirtual GridともmAsを下げてもMTFの変化はなく,撮影条件による違いは見られなかった(図2)。NNPSでは,リファレンスとなるRGの2.5mAsがVirtual Gridの1.6mAsと2.0mAsの中間に位置することから,RGに比べて30%の線量低減が可能と考えられた(図3)。CNRはVirtual Gridの1.2mAsと有意差がなく,約50%の線量削減が可能という結果となった(図4)。視覚的評価では,胸部ファントム画像に対して読影医による画像粒状性のスコア評価を行ったところ,統計学的には1.0mAsまで有意差はなかったが,読影不可の評価がなかった1.2mAsを最低条件として,線量の低減が可能になると考えられた。
評価に用いた胸部ファントム画像で,RGの90kV,2.5mAsと,Virtual Gridの90kV,1.6mAs(36%低減)および1.2mAs(52%低減)の画像を比較した(図5)。Virtual Gridでは,RGに比べて肺野と縦隔のコントラストは同等かそれ以上になっており,特に肋骨に関しては重なり合った部分の描出能が向上して,骨梁まで確認できる。また,気管支部分については,RGとVirtual Gridで濃度に差異は認められないが,Virtual Gridでは肺野や縦隔と重なる気管支分岐部以降でもコントラストが保たれ評価が可能になっている。

図2 Virtual Gridと実グリッドの撮影条件の検討:presampled MTF

図2 Virtual Gridと実グリッドの撮影条件の検討:presampled MTF

 

図3 Virtual Gridと実グリッドの撮影条件の検討:normalized NPS

図3 Virtual Gridと実グリッドの撮影条件の検討:normalized NPS

 

図4 Virtual Gridと実グリッドの撮影条件の検討:CNR

図4 Virtual Gridと実グリッドの撮影条件の検討:CNR

 

図5 胸部ファントム画像による実グリッドとVirtual Gridの比較

図5 胸部ファントム画像による実グリッドとVirtual Gridの比較

 

救命救急センターでの活用

当センターにおけるVirtual Gridを用いたポータブル撮影の運用について紹介する。緊急搬送での外傷患者の場合,搬送時には受傷機転から骨折状況などを予測するのは難しく,X線撮影には細心の注意が必要となる。実グリッド使用時には,撮影部位ごとにグリッドの交換が必要だったが,Virtual Gridでは胸部から胸部周辺部位,腹部など連続した撮影が可能になった。
当センターでは,ホットライン入電後,ワイヤレス通信など装置の準備を行い待機する。Primary surveyでは胸部と骨盤の撮影を行うが,現場ではCALNEO flexの確認用PCの画面で,医師をはじめスタッフがその場で画像を参照することも多い。図6は,53歳,男性,転落外傷の患者の救急撮影だが,胸部はデフォルトでVG処理を適応し,骨盤部は通常の骨盤の処理と腹部のVG処理を行って,良い方の画像を転送している。Virtual Gridによって散乱線が効果的に除去されコントラストが改善し,実グリッド使用時よりも画質の向上を実感している。
Virtual Gridは,病棟撮影でも有効で,実グリッド使用時に発生する斜入による左右の濃度やコントラストの差など画像のばらつきがなく,安定した画像の提供が可能になっている。

図6 転落外傷で搬送された53歳,男性のVirtual Gridを用いたprimary survey画像

図6 転落外傷で搬送された53歳,男性のVirtual Gridを用いたprimary survey画像
a:胸部 b:骨盤部

 

まとめ

Virtual Grid導入のメリットは,画質以外に重量軽減が挙げられる。当センターで使用しているCALNEO flexのFPD(CALNEO C)にグリッドを装着すると約5kgになり,片手で持ち運ぶには厳しい。Virtual Gridでグリッドレス化することで,実グリッド分の1.26kgが軽減できるほか,最新のCALNEO Smartではパネル自体も約1kg軽くなっており,さらなる軽量化が期待できる。
Virtual Gridの導入によって,画質に関しては実グリッドと比較して高コントラストが得られ,斜入の影響もなく安定した画像が得られている。胸部撮影では,グリッド比3:1では実グリッドを使用した場合の50%近い線量削減が可能になる。Virtual Gridでは,従来のワークフローを大きく変えることなく,X線画像の高画質化と被ばく低減と同時に作業効率の向上が期待できると考えられる。

 

田所 秋宏

1995年 日本大学医学部付属練馬光が丘病院放射線部入職。2005 年日本大学医学部附属板橋病院一般撮影,MRIを経て,心臓カテーテル・救命センターグループに配属,現在に至る。

 

 

 

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