技術解説(GEヘルスケア・ジャパン)

2017年4月号

Cardiac Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

心臓専用半導体SPECT装置「Discovery NM 530c」による心臓領域の定量

大久保公美子(MI営業推進部)

心疾患の評価において重要な役割を果たしている核医学検査は,心筋虚血の評価が可能で,膨大なエビデンスやデータを有する。しかしながら,核医学検査における心筋血流の評価については,血流低下度をスコア化し,心筋分画モデルと組み合わせた半定量的な評価は可能であるものの,視覚的,定性的な評価が主である。近年,半導体SPECT装置の出現により,低投与もしくは短時間収集が可能になっただけでなく,さまざまな領域での定量評価も可能となった。本稿では,心臓専用半導体SPECT装置と,それにより算出可能である心筋血流量(以下,MBF)と冠血流予備能(以下,CFR)による冠動脈機能の定量について紹介する。

■半導体カメラによる高エネルギー分解能と高空間分解能の実現

GE社製「Discovery NM 530c」は,半導体(以下,CZT)検出器と心臓にフォーカスしたマルチピンホールコリメータの組み合わせによる,GEの技術を集結した心臓専用半導体SPECT装置である(図1)。Discovery NM 530cでは,19個のCZT検出器モジュールが半リング状に心臓にフォーカスするように配置されている(図2)。そのため,従来のSPECT装置のように,データ収集中にガントリを回転させる必要がなく,効率良く短時間撮像が可能となる。

図1 GE社製Discovery NM 530c

図1 GE社製Discovery NM 530c

図2 心臓フォーカスコリメータ

図2 心臓フォーカスコリメータ

 

従来のSPECT装置で使用されているNaIシンチレータの場合,γ線が被検者から放出され診断画像となるまでの間には,蛍光への変換,電子化,光電子増倍管(以下,PMT)での増幅など,いくつかの過程を経ている。図3で示すとおり,従来の検出器とCZT検出器の変換効率を比較すると,約47倍の差(700 vs. 33000electrons)が存在し,この変換効率がエネルギー分解能に大きく影響する。NaIシンチレータの空間分解能は,PMTサイズやフォトンの到達率にも影響するため,この点でもCZT検出器は大変有利である。図4に,実際のPMTとCZT素子の写真を示す。CZT素子は,PMTに比べてきわめてコンパクトである。

図3 従来タイプ検出器とCZT検出器

図3 従来タイプ検出器とCZT検出器

 

図4 PMTとCZT検出器の比較

図4 PMTとCZT検出器の比較

 

これらの特性を最大限に活用し,Discovery NM 530cではMBFとCFRによる定量評価が可能である。これは,従来のSPECT装置による血流のdynamic SPECT収集データでは過小評価となってしまう可能性があるが,半導体SPECT装置での収集データは定量解析に十分な分解能の担保も可能となるからだ1)。実際には,図5のプロトコールを使用し,リストモードによるdynamic SPECT収集と,SPECT収集を実施後,核医学専用ワークステーション「Xeleris」に搭載されている“4DM”アプリケーションを用いて解析を行う。解析はほぼ自動である反面,dynamic SPECT収集データの各フレームの体動に対し,マニュアルで補正できる機能を有するなど操作に柔軟性を有する。図6に解析結果を示す。

図5 Discovery NM 530cにおける定量プロトコール

図5 Discovery NM 530cにおける定量プロトコール

 

図6 4DMによる心臓定量解析結果画面

図6 4DMによる心臓定量解析結果画面

 

■SPECTでの定量の重要性と優位性

近年では,虚血診断だけではなく,MBF,CFRが心疾患の予後評価としてきわめて重要であると報告されている。同時に,部分冠血流予備量比(以下,FFR)に基づいたカテーテル治療が予後を改善することも報告され,多く用いられており,高い注目を集めている。しかし,FFRではSPECTと比較して病変そのものの重症度を判定できるが,SPECTのように虚血範囲を加味した重症度判定は,今のところ困難であるとされる。微小循環障害を反映しているとされるCFRによる定量評価を,従来の心筋血流の定性的評価に加えることで,SPECTでは苦手とされる多枝病変の検出や詳細な重症度評価が可能となると期待されている2)〜4)
現在,PET装置やMRI装置を用いたMBF,CFRの測定も実施されているが,SPECT装置で算出可能であることには前述以外にも有利な点がある。まず,PET/CTに比較すると,コスト面で有利である。さらに,心筋血流PET製剤は2〜10分の短半減期核種であるため,検査の実施はサイクロトロンを持つ施設に限られる。また,MRIでは,ガドリニウム系造影剤を使用する必要があり,検査時間が長いことが挙げられる。したがって,CBFおよびMBFなどの定量値が一般的に用いられているSPECT心筋血流製剤を用い,再現性の高いSPECT検査で,虚血診断とともに算出可能であることは大変重要である。

心臓専用半導体SPECT装置により可能になった,MBF,CFRによる冠動脈機能の定量について紹介した。すでに,PET/CTによるCFRと比較して相関があることも報告されている5)が,Discovery NM 530cで収集したデータは,核医学専用ワークステーションXeleris上でCT吸収補正が可能であるため,今後さらなる定量精度の向上が期待される。

●参考文献
1)Petretta, M., Storto, G., Pellegrino, T., et al. : Quantitative Assessment of Myocardial Blood Flow with SPECT. Prog. Cardiovasc. Dis., 57・6, 607〜614, 2015.
2)Majmudar, M.D., Murthy, V.L., Shah, R.V., et al. : Quantification of coronary flow reserve in patients with ischaemic and non-ischaemic cardiomyopathy and its association with clinical outcomes. Eur. Heart J. Cardiovasc. Imaging, 16・8, 900〜909, 2015.
3)松尾仁司 : 血流予備能定量化の臨床的意義. 日本心臓核医学学会誌, 18・1, 21〜22, 2016.
4)木曽啓祐 : 心臓核医学による心筋虚血の検出 ; 予後予測から治療選択における最新の知見とFFR との比較. 日本心臓核医学会誌, 18・1,
7〜8, 2016.
5)Nkoulou, R., Fuchs, T.A., Pazhenkottil, A.P., et al. : Absolute Myocardial Blood Flow and Flow Reserve Assessed by Gated SPECT with Cadmium-Zinc-Telluride Detectors Using 99mTc-Tetrofosmin ; Head to Head Comparison with 13N-Ammonia PET. J. Nucl. Med., 57・12, 1887〜1892, 2016.

 

●問い合わせ先
GEヘルスケア・ジャパン株式会社
MI営業推進部
〒191-8503
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TEL:0120-202-021
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