セミナーレポート(富士フイルムヘルスケア)

第103回日本泌尿器科学会総会が2015年4月18日(土)〜21日(火)の4日間,石川県立音楽堂(石川県金沢市)などを会場に開催された。19日(日)に行われた日立アロカメディカル株式会社共催のランチョンセミナー17では,大阪市立大学医学部附属病院泌尿器科教授の仲谷達也氏を座長に,藤田保健衛生大学泌尿器科主任教授の白木良一氏と東京医科歯科大学医学部附属病院泌尿器科講師の齋藤一隆氏が,「超音波による診断と治療の最前線」をテーマに講演した。

2015年8月号

第103回日本泌尿器科学会総会 ランチョンセミナー17 超音波による診断と治療の最前線

ロボット支援腎部分切除術(RAPN)における術中超音波の有用性

白木 良一(藤田保健衛生大学泌尿器科)

白木 良一氏

ロボット支援腹腔鏡下根治的前立腺全摘除術(RARP)が2012年4月に保険収載されて以降,わが国では手術支援ロボット「da Vinci」(Intuitive Surgical社製)の国内での臨床導入が急速に進んでいる。導入数および症例数は,2012年の約70台・約3000症例から,2014年には約190台(世界第2位)・約1万症例となった。また,全症例における泌尿器疾患の割合は90%以上であることから,泌尿器科がロボット支援手術のイニシアチブを取っていくべき状況となっている。
ロボット支援手術において前立腺全摘除術の次に保険適用が期待されるのは腎部分切除と考えられるが,手術を安全かつ安心して進めるためには,術中超音波が不可欠である。本講演では,日立アロカメディカル社製超音波診断装置「ARIETTA 60」を用いたロボット支援腎部分切除術(RAPN)の実際について,症例を供覧しながら述べる。

RAPNの特徴と有用性

国内のRAPN実施数は徐々に増加しており,2014年は約300症例であった。
腎部分切除術によるネフロン温存手術(NSS)の重要なポイントとして,取り残しのない完全な腫瘍の切除,collecting systemの完全な閉鎖,残腎の順応化,慎重な温阻血(早期の遮断解除)などがある。また,癌制御(切除断端陰性率,多発腫瘍)や残腎機能の温存(温阻血時間:WIT),術後の課題や合併症の克服(出血,尿漏れ,用手補助手術や開放手術への移行)などが求められるが,技術的に難しい内視鏡下の腎部分切除における課題と言える。
RAPNのアドバンテージとしては,視野の改善(2Dから3Dへ),治療器具の改善,CTと超音波の融合によるリアルタイムナビゲーションが挙げられる。これらにより,WITの短縮,出血量の減少,短期間での社会復帰が可能となる。腎部分切除術の適応は通常,4cm以下の小径腎腫瘍や単腎症例,両側同時性症例,腎機能低下症例などであるが,最近では,開放手術でも切離困難な完全内包型腫瘍,あるいは腎門部の腫瘍にも適応を広げられるのではないかという印象を持っている。

Robotic US probeの有用性

近年,RAPNにおいては気腹装置や超音波プローブ,ブルドッククランプ,縫合糸などの技術的進歩があり,それら最新のデバイスを用いることで,術者が意図した通りの手術が可能となる。なかでも,日立アロカメディカル社製のRobotic US probeは,手術の質の向上に大きく貢献する。
後腹膜アプローチでのRAPNにおいては,従来のUSプローブでは,助手がコントロールする際に助手ポートからの距離があまり取れないため,操作する角度に限界があり,腫瘍の位置によってはマージンが見づらい,深さがわからない,などの問題がある。一方,ARIETTA 60で使用可能なRobotic US probe(図1)は,術者自らがロボットのアームで把持して容易に操作可能なことに加え,持ち手がプローブの根元にあり,従来のプローブと比べてコードが柔らかく可動性と柔軟性に優れるため,ポートから近くても腫瘍の全体および深さまで明瞭に確認可能である。術者自らが操作できることは大きなメリットである1)

図1 日立アロカメディカル社製のRobotic US probe

図1 日立アロカメディカル社製のRobotic US probe

 

症例提示

症例1は,74歳,女性。右腎の腎門部の背側に約24mmの腫瘍が認められ,後腹膜アプローチにて超音波ガイド下にRAPNを施行した。Robotic US probeでは,必要な箇所に多方向からプローブをしっかり当てられるので,マージンの確認も容易に可能である(図2)。本症例は,手術時間は全体で2時間7分,術者がロボット操作を行うコンソール時間は1時間27分,WITは17分,出血量は30mL,摘出重量は14g,病理組織診断は淡明細胞型腎細胞癌のGrade 2で,切除断端は陰性であった。

図2 症例1:腎細胞がん(後腹膜アプローチ)

図2 症例1:腎細胞がん(後腹膜アプローチ)

 

症例2は,40歳,男性。右腎に20mmの完全埋没型の腫瘍が認められる。腫瘍は腎の中心にあり,動脈が2本あり困難な手術が予想されたが,後腹膜アプローチにてRAPNを施行した。Robotic US probeは形状がフラットなため腫瘍が比較的検出しやすく,解像度も優れている。カラードプラでは,腫瘍の周囲に血流が豊富に認められた(図3)。本症例の場合,腎周囲の剥離開始時には腫瘍が目視できなかったため,ある程度進んだところで再度超音波にて腫瘍の位置を確認し,完全に切除を終えることができた。コンソール時間は2時間を超えたが,WITは22.5分,出血量は80mL,摘出重量は13g,病理組織診断は淡明細胞型腎細胞癌のGrade 2で,切除断端は陰性であった。

図3 症例2:完全埋没型の腎細胞がん(後腹膜アプローチ)

図3 症例2:完全埋没型の腎細胞がん(後腹膜アプローチ)

 

症例3は,63歳,女性。経腹膜アプローチにてRAPNを施行した(図4)。経腹膜アプローチでは,腫瘍までの距離は十分にあり,鉗子との干渉も少ないが,ポートの位置を決める上で,Robotic US probeのフレキシビリティがメリットとなる。

図4 症例3:腎細胞がん(経腹膜アプローチ)

図4 症例3:腎細胞がん(経腹膜アプローチ)

 

超音波ガイド下RAPNのポイント

超音波ガイド下RAPNのポイントとして,1つ目に,術前に超音波で腫瘍形態や見え方を確認しておくことが挙げられる。術前と術中ではプローブが異なるが,同じ装置で体表から腫瘍を確認しておくと,術中における方向性やエコーの見え方を理解しやすい。2つ目に,術中に腫瘍の位置を確認して,特に周囲の脂肪などをしっかり剥離し,剥離範囲を十分に広く取っておくと良い。3つ目に,マージンを取るときは,超音波にてさまざまな方向から180°程度の範囲をしっかり確認した上でマーキングすることが重要である。そして最後に,腫瘍の深さや,ドプラなどで血流の状態を確認しておく必要がある。

RAPNの今後の展望

従来使用されてきた「da Vinci Si Surgical System」に加えて,2015年3月に「da Vinci Xi Surgical System」が医薬品医療機器等法にて承認されたことで,RAPNのさらなる普及が予想される。RAPNについては神戸大学の藤澤らによる多施設での臨床試験2)が終了し,早期に保険適用になる可能性が高いとのことである。
RAPNにRobotic US probeを導入することで,より術者の意図に沿った手術が可能となり,難易度の高い症例には必須のものであると考えている。

●参考文献
1)Kaczmarek, B. F., Sukumar, S., Kumar, R. K., et al. : Comparison of robotic and laparoscopic ultrasound probes for robotic partial nephrectomy. J. Endourol., 27・9, 1137〜1140, 2013.
2)腎癌患者を対象としたda Vinciサージカルシステム(DVSS)によるロボット支援腹腔鏡下腎部分切除術の有効性および安全性に関する多施設共同非盲検単群臨床試験.
https://upload.umin.ac.jp/cgi-open-bin/ctr/ctr.cgi?function=brows&action=brows&type=summary&language=J&recptno=R000016267

 

白木 良一(Shiroki Ryoichi)
1984年 慶應義塾大学医学部卒業。1988年 国家公務員共済組合立川病院医員。ワシントン大学外科リサーチフェロー,藤田保健衛生大学医学部泌尿器科講師,同助教授を経て,2014年〜同主任教授。

 

●そのほかのセミナーレポートはこちら(インナビ・アーカイブへ)

【関連コンテンツ】
TOP