セミナーレポート(富士フイルムヘルスケア)

2015年8月号

第103回日本泌尿器科学会総会 ランチョンセミナー17 超音波による診断と治療の最前線

イメージガイドを用いた前立腺癌診断・治療─Focal therapyへの展開

齋藤 一隆(東京医科歯科大学医学部附属病院泌尿器科)

齋藤 一隆 氏

近年,前立腺生検はMRIや超音波などを用いた画像ガイド下生検へとシフトしてきている。本講演では,画像ガイド下生検に対するわれわれの考え方と生検の実際を踏まえ,当院で行っているFocal therapyについて述べる。

前立腺癌の現状

高齢化の進行に伴い,わが国では前立腺癌患者が急速に増加している。早期前立腺癌においては,PIVOT(the Prostate Cancer Intervention Versus Observation Trial)1)の結果として,前立腺全摘除により生存率に差が認められたのは高リスク症例のみであることが報告されており,中・低リスク症例に対して根治療法を行うと過剰治療となる危険性がある。この結果を踏まえ,NCCNガイドライン(Version 2.2014 Prostate Cancer)2)では,グリソンスコアやグレーディングなどを含めた詳細なリスク評価により治療法を選定することが推奨されており,個別化医療へと治療の考え方がシフトしてきていると思われる。

前立腺生検はイメージガイド下生検へ

前立腺生検の目的は,存在診断からgrading accuracyや容量評価,局在診断へと変化し,生検方法もSuper Extended biopsyから,最近では画像を組み合わせた方法が模索されている。前立腺癌の診断においてはMRIが有用であり,われわれも通常の系統的生検では検出できない尖部腹側の癌の検出に,生検前multiparametricMRI(mpMRI)が有用な可能性があることを報告している3)。また,EAUガイドライン20154)では,上記の内容に加え,MRIを用いた生検は前立腺癌の悪性度評価により有用と記載されており,MRI検出病変を標的とする狙撃生検を行っていく必要があると考えている。
狙撃生検には,最も精度の高いMRIガイド下に直接行う方法や,MRIと経直腸的前立腺超音波検査画像(MR-TRUS)フュージョンガイド下に行うなどの方法があるが,臨床での実用性,簡便性と狙撃効率のバランスに優れたMR-TRUSフュージョンガイド下に行うのが最適と考え,当院でも2012年頃から日立アロカメディカル社の“Real-time Virtual Sonography(RVS)”システムを導入してRVSガイド下狙撃生検を開始し,現在はこれを標準的に行っている。また,狙撃生検の開始と同時期にFocal therapyも開始した。

MR-TRUSフュージョンガイド下狙撃生検の意義

1.系統生検との比較検討
当院にてMRIで病変が検出され,系統生検と狙撃生検の両方を同時に行った216症例を対象に検討を行った。検討項目は,(1) 最も高いグリソンスコアを持つ陽性コアの同定率(grading accuracy),(2) 最も長い癌長を持つ陽性コアの同定率(volume estimation accuracy),(3) significant cancerの検出率,(4) insignificant cancerの検出率で,1.5T MRIにて癌の可能性について5段階で判定し,3(可能性は否定できない)以上を標的病変とした。なお,系統生検は経会陰14か所または立体14か所にて行った。
図1にMR-TRUSフュージョン画像を示す。MRIのボリュームデータをTRUSプローブの磁気センサに同期させて位置合わせを行い,MRIとTRUS画像が同期して動くことを確認してからMRI検出病変にROIをとり,同期したROIをめざして狙撃生検を行っている。
検討の結果,significant cancerは62%,insignificant cancerは10%で,陽性率は約70%であった。また,grading accuracyおよびvolume estimation accuracyは,両生検法にて同等であった。一方,significant cancerの検出能は同等であったが,insignificant cancerはMR-TRUSフュージョンガイド下狙撃生検の方が検出能が低く,治療が必要な癌を効率良く検出できると思われた。
次に,至適サンプリング本数について,前述の検討と同様の癌検出率の群で見ていくと,系統生検を100%とした場合のMR-TRUSフュージョンガイド下狙撃生検によるsignificant cancerの検出率は3本以上で系統生検と同等となった。また,grading accuracyは4本の方が良い結果が得られたことから,至適サンプリング本数は4本と考えている。

図1 MR-TRUSフュージョン画像

図1 MR-TRUSフュージョン画像

 

2.前立腺生検における有用性
前立腺生検におけるMRIおよびMR-TRUSフュージョンガイド下狙撃生検の有用性については,われわれの検討結果と同様の報告が見られるほか,MRI狙撃生検のみで十分との見解も報告されており,index lesionの検出と適切なリスク評価による個別化医療に有用と考えている。

Focal therapyへ

1.Focal therapy実施の背景
前立腺癌においてはロボット支援手術など低侵襲化が進んでいるが,臓器温存という点では十分とは言えない。限局性前立腺癌においては根治療法が最も有用であるが,排尿・性機能障害を伴い過剰治療のリスクがある。また,待機療法は治療関連合併症を回避できるが,過小治療のリスクがある。一方,この両方の有用性を併せ持つFocal therapy(部分治療)は,治療が必要な癌病巣のみを治療することで排尿・性機能の温存が可能である。ただし,病巣あるいは領域ごとにsignificant cancerの有無の正確な評価が求められることから,多発病巣や非可視病巣ではFocal therapyが困難とされてきた。
しかし,多発病巣の中でも経過に影響を及ぼしたり致死的なものとなるのは最大容量ボリュームの病変(index lesion)であるとの報告があり,基本的にはindex lesionをメインの治療ターゲットにすればよいという考え方が成り立つ。また,非可視病巣については,当科の沼尾らが,MRIネガティブでPSA 10ng/mL未満,直腸指診(DRE)ネガティブという条件では,significant cancerが検出される確率は9〜13%であり,前立腺容量が大きい場合にはさらに低頻度であることを報告している5)
index lesionの評価にはMRIガイド下生検が有用であり,これによりFocal therapyの適格患者を絞り込めると考えている。

2.標的部位設定
Focal therapyにおける標的部位の設定方法には,True Focal therapyと言われる病巣治療法(Lesion-specific Focal therapy)と,Quadrant therapyあるいはHemi-gland therapyと言われる区域治療法(Segment Focal therapy)がある(図2)。病巣治療法は理想的な方法ではあるが,実際には病巣のマージンやターゲットとなる病巣の特定が困難で非可視病巣は治療できず,過小治療となるリスクがある。一方,区域治療法は治療不要な領域の同定が必要であるが,治療区域設定は比較的容易で,非可視病巣もある程度治療対象とすることができる。正常域が含まれるため過剰治療のリスクはあるが,過小治療のリスクは低減することから,当院では区域治療法を施行している。

図2 Focal therapyの標的部位設定

図2 Focal therapyの標的部位設定
*TX:therapy

 

3.適格患者の同定
Focal therapyの適格患者の同定には病巣分布の評価が重要であり,MRIを含めた局在診断が有用と思われるが,MRI非可視病巣もあるため,標準的な系統生検とMRIを併用することで局在診断が可能になると思われる。実際に,当科の松岡らが,MRIガイド下生検と多箇所系統生検の併用により1/4まで治療領域を縮小可能であることを報告しており6),適格患者の同定が可能であると考えている。

4.治療法
わが国において現実的に応用可能な治療法として,われわれは小線源治療を行っている。国際的なコンセンサスミーティングにて,小線源治療を用いたFocal therapyの報告も出てきており,ある程度の方向性も示されている。
当科では2010年から前立腺の片葉小線源治療を行ってきた。適応基準および治療法を図3に示す。対象症例は,年齢の中央値が71歳,リスク分類はlowが12名,intermediateが11名の計23名である。術後のPSA値は全例で改善しており,Phoenix定義に基づく生化学的再発は全例において認めていない(図4)。排尿機能は術後早期に一過性の増悪があるが,1年ほどで治療前のレベルに回復。性機能も治療前後でほとんど変化は認めず,治療前に良好な機能を示す症例では,射精を含めた全性機能が温存された。

図3 前立腺片葉小線源療法の適応基準と治療法

図3 前立腺片葉小線源療法の適応基準と治療法

 

図4 前立腺片葉小線源療法後のPSA値の推移

図4 前立腺片葉小線源療法後のPSA値の推移

 

まとめ

前立腺癌診断における有用性から,イメージガイド下生検は前立腺生検効率の向上に寄与する。
MR-TRUSフュージョンガイド下狙撃生検は,治療が必要な癌をより効率的に検出し,過剰診断のリスク軽減につながる。
MRIガイド下生検と多箇所系統生検により,Focal therapyに向けた局在診断が可能となる。
小線源部分治療の短期の局所制御,排尿・性機能温存は良好であり,前立腺癌部分治療法として期待される。

●参考文献
1)Prostate Cancer Intervention Versus Observation Trial(PIVOT).
https://clinicaltrials.gov/ct2/showNCT00007644
2)NCCN Guidelines:前立腺癌(2014年 第2版). 日本泌尿器科学会 監訳, 2014.
http://www.tri-kobe.org/nccn/guideline/urological/japanese/prostate.pdf
3)Komai, Y., et al. : High diagnostic ability of multiparametric magnetic resonance imaging to detect anterior prostate cancer missed by transrectal 12-core biopsy. J. Urol., 190・3, 867〜873, 2013.
4)EAU Guidelines on Prostate Cancer.
http://uroweb.org/guideline/prostate-cancer/
5)Numao, N., et al. : Usefulness of prebiopsy multiparametric magnetic resonance imaging and clinical variables to reduce initial prostate biopsy in men with suspected clinically localized prostate cancer. J. Urol., 190, 502〜508, 2013.
6)Matsuoka, Y., et al. : Candidate selection for quadrant-based focal ablation through a combination of diffusion-weighted magnetic resonance imaging and prostate biopsy. BJU Int., 2014(Epub ahead of print).

 

齋藤 一隆(Saito Kazutaka)
1994年 東京医科歯科大学医学部卒業。2005年 東京医科歯科大学大学院修了。2011年〜同大学医学部講師。

 

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