セミナーレポート(富士フイルムヘルスケア)

第53回日本肝癌研究会が2017年7月6日(金),7日(土)の2日間,京王プラザホテル(東京都新宿区)にて開催された。7日に行われた株式会社日立製作所共催のランチョンセミナー13では,横浜市立大学附属市民総合医療センター消化器病センター部長の沼田和司氏を座長に,愛媛大学大学院消化器・内分泌・代謝内科学准教授の廣岡昌史氏が,「シミュレーター,ナビゲーターの進歩で変わる肝がん治療」をテーマに講演した。

2017年10月号

第53回日本肝癌研究会ランチョンセミナー13

シミュレーター,ナビゲーターの進歩で変わる肝がん治療

廣岡 昌史(愛媛大学大学院消化器・内分泌・代謝内科学)

廣岡 昌史(Hirooka Masashi)

肝がんのラジオ波焼灼療法(RFA)においては,経験豊富な術者や施設での治療がより有益であり,再発率も少ないことが報告されている。臨床経験を重ねることが上級医に近づく条件と考えられるが,そのためのトレーニングとして,シミュレーターやナビゲーションを活用することが大いに役立つと思われる。また,超音波とCT/MRIのfusion imagingの活用がRFAの成績向上に貢献するとの研究結果が2017年に示され1),fusion imagingは,すべての医師にとって有用であると思われる。
私は,2000年頃からRFA支援のための技術開発に取り組み,株式会社日立メディコ(現・日立製作所)との共同研究も行ってきた。本講演では,その成果やfusion imagingの歴史と進化を踏まえ,日立製作所社製超音波診断装置「ARIETTA 850」に搭載されたRFA支援ツール“3D Sim-Navigator”と新開発の“E-field Simulator”の有用性を中心に報告する。

Fusion imagingの歴史と進化

超音波における世界初のfusion imaging技術は,株式会社日立メディコ(当時)が2003年に発表した“Real-time Virtual Sonography(RVS)”である。これは,エコー断面とCTもしくはMRIの断面を,磁場発生装置と位置認識システムを用いて同期表示させるという画期的なシステムであった。その後,2008〜2015年にかけて,他社製超音波診断装置にもfusion imaging技術が搭載されるようになり,この間,同期させる画像も,CT,MRIに加えて造影超音波画像などの超音波のボリュームデータも可能となった。
一方,2008年には,RFA電極針の先端認識機能が登場し,超音波画面上で針先の位置が認識可能となった。また,2016年には,われわれと大阪赤十字病院,日立製作所社の共同研究によって開発された3D Sim-Navigatorが発売された(図1)。3D Sim-Navigatorは,RVSをベースとした穿刺のシミュレーション・ナビゲーションシステムであり,バイポーラ電極針による肝がんのRFAの普及に伴って注目されるようになった。

図1 3D Sim-Navigator

図1 3D Sim-Navigator

 

3D Sim-Navigatorの有用性

3D Sim-Navigatorで表示される仮想穿刺ラインは,RFAの実施時に,ハイリスク症例に対して血管や周囲臓器との位置関係を踏まえた穿刺ルートを事前に検討した上で治療を行いたいとの思いから着想した,virtual puncture line2)という概念が基となっている。仮想穿刺ラインの設定は,まず,RVSにて同期表示させたCTやMRIのボリュームデータ上で腫瘍にマーキングし,そこに超音波ガイド下に穿刺を行う。この電極針を履歴登録すると,三次元画像上に仮想穿刺ラインが表示される3)。複数本穿刺では,上級医でも腫瘍と電極針との位置関係の理解が難しいが,仮想穿刺ラインがあれば複雑な穿刺形態でも視覚的に理解が容易となり,また,針間距離が数値で表示されるため,より客観的な理解も可能となる。
さらに,3D Sim-Navigatorでは,さまざまな画像を連動して表示可能であり,特に有用なのが穿刺方向と直交して腫瘍の最大断面を表示するC-plane(colonal plane)画像(図2 a)である3)。仮想超音波画像(図2 b)で示した穿刺ラインは,C-plane画像の×で示されたところを通ることが容易に理解でき,特に複数本穿刺で威力を発揮する。

図2 C-plane画像の有用性

図2 C-plane画像の有用性

 

●症例提示
症例1(図3)は,尾状葉肝がんに対するマルチポーラRFAで,バイポーラ4cm針の3本穿刺を行った。病変は下大静脈に接しており,右肋間から穿刺すると下大静脈の裏側が焼灼不十分になると考え,右肋間から2本,心窩部からもう1本を下大静脈の裏まで穿刺した。この時,C-plane画像(図3 c)にて最初の2本がやや頭側寄りの配置であることが確認できたため,3本目(↑)は尾側寄りに穿刺し,十分な焼灼を行うことができた。
近年,マルチポーラRFAにて,腫瘍に直接穿刺せずに焼灼を行うNo-touch ablationが行われることがある。小肝がん(症例2)では有用であるが,超音波にて腫瘍が見えない位置に向かって穿刺するため,腫瘍と電極針との位置関係の把握が非常に難しい。しかし,3D Sim-Navigatorでは3D画像にて位置関係が容易に把握でき,有用である(図4)。
RFAの実施に当たり重視しているのは,焼灼形状がより球形に近いことである。当院の症例を検討したところ,3D Sim-Navigatorを使用した方がより理想的な形状で焼灼でき,治療成績も良好であった4)

図3 症例1:尾状葉肝がんに対するマルチポーラRFA

図3 症例1:尾状葉肝がんに対するマルチポーラRFA

 

図4 症例2:小肝がんに対するNo-touch ablation

図4 症例2:小肝がんに対するNo-touch ablation

 

E-field Simulatorの活用

上述のとおり,3D Sim-Navigatorはバイポーラ電極針でのRFAで使用することがほとんどであったが,ARIETTA 850に新たに焼灼範囲の予測機能であるE-field Simulatorが搭載されたことで,モノポーラ電極針でのRFAで活用することが多くなった。
E-field Simulatorは,複数電極の配置から決定されるラジオ波の電場(電気的物理量)の強さをCT/MR画像上に重畳表示する機能である。E-field Simulatorの活用が期待される例として,(1) 可変型電極針で先端長を可変した場合の焼灼範囲予測(図5),(2) ハイリスク症例における合併症予防,(3) 重ね焼き(オーバーラップ法)での焼灼範囲予測,(4) 複数本穿刺(マルチポーラ)の焼灼形状予測が挙げられるが,このうち(1) 〜(3) はモノポーラ電極針での活用である。特に,オーバーラップ法では焼灼不十分となることを防げる可能性がある。

図5 E-field Simulatorによる可変型電極針で先端長を可変した場合の焼灼範囲予測

図5 E-field Simulatorによる可変型電極針で先端長を可変した場合の焼灼範囲予測

 

●症例提示
症例3(図6)は,肝S6下端の肝がんである。モノポーラRFAにて,まず電極針の先端長を2cmに可変して焼灼したが(図6 a),これ以上範囲を広げると腹壁側や大腸側に熱傷が及ぶ可能性がある一方,肝の辺縁側に焼灼不十分な部位が残ると考え,先端長を1.5cmに可変して追加焼灼を行った(図6 b)。治療後の画像では,周囲に熱傷が及ぶことなく,十分なマージンを取って腫瘍が焼灼されており,E-field Simulatorを有効に活用できた。
また,E-field Simulatorは,マルチポーラRFAでも有用である。症例4(図7)は,肝S5の肝がんに対するバイポーラ3cm針3本でのマルチポーラRFAであるが,広範囲の焼灼が可能なため,肝動脈造影下CT(CTHA)にて腫瘍周囲にコロナ濃染を呈するドレナージ領域よりも少し広めにマーキングして複数本穿刺を行った。1本目,2本目の穿刺による焼灼範囲をE-field Simulatorにて予測し,C-plane画像(図7 a)にて焼灼不足になると思われる位置に3本目(↑)を穿刺すると,3D画像(図7 b)でも腫瘍を含有した十分な焼灼が可能であることを確認できたため,実際に治療を行った。治療後の画像でも,シミュレーションに非常に近い焼灼形状が得られており,きわめて高精度なソフトウエアであると実感している。

図6 症例3:肝S6下端の肝がんへのモノポーラRFA

図6 症例3:肝S6下端の肝がんへのモノポーラRFA

 

図7 症例4:肝S5の肝がんに対するマルチポーラRFA

図7 症例4:肝S5の肝がんに対するマルチポーラRFA

 

まとめ

ARIETTA 850に搭載された3D Sim-Navigatorは,3画面表示となり,使い勝手が大幅に向上した。また,E-field Simulatorが登場したことで,マルチポーラ,バイポーラのRFAはもとより,モノポーラRFAも含めて,活用の幅がさらに広がっていくことが期待される。

●参考文献
1)Ahn, S. J., et al., J. Hepatol., 66・2, 347〜354, 2017.
2)Hirooka, M., et al., Am. J. Roentgenol., 193・2, W149〜 151, 2009.
3)Hirooka, M., et al., PLOS ONE, 11・2, e0148298, 2016.
4)Hirooka, M., et al., J. Gastroenterol. Hepatol., 2017(Epub ahead of print).

 

廣岡 昌史(Hirooka Masashi)
1998年 愛媛大学医学部医学科卒業。同年 同医学部附属病院消化器内科医員。済生会西条病院,愛媛大学医学部附属病院消化器内科助教,同講師を経て,2016年より愛媛大学大学院消化器・内分泌・代謝内科学准教授。

 

●そのほかのセミナーレポートはこちら(インナビ・アーカイブへ)

【関連コンテンツ】
TOP