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オープンMRIにおける日立の非造影MRアンギオ技術“VASC-ASL”の原理と活用

2016-9-26


近年,特に高磁場MRI装置において,非造影MRアンギオの手法が多々考案され,頭頸部だけでなくさまざまな領域において活用されています。高磁場MRI装置では撮像断面に流入する血液をRFパルスによりラベリングし,血液を高信号に描出するASL法(Arterial Spin Labeling)が広く普及しています。ASL法は,組織のT1値が静磁場強度に比例し延長するため高磁場MRI装置が有利な手法です。しかし,最新の日立のオープンMRIでは,高磁場MRI装置と同様にASL法を用いた非造影MRアンギオの技術の一つである「VASC-ASL(Veins and Arteries Sans Contrast-Arterial Spin Labeling)」を搭載することができます。MRI装置における非造影MRアンギオの重要性がますます高まるなか,オープンMRIにおける新たな非造影MRアンギオの手法VASC-ASLの原理とその活用について解説します。

VASC-ASLの原理

VASC-ASLは,IR(Inversion Recovery)パルスを用いて血流などの流体を描出する機能で,Balanced SARGEを応用したパルスシーケンスです。本手法では,IRパルスのON/OFFを2回取得し差分を行う差分法,およびIRパルスをONのみの画像を利用する非差分法の二通りの方法が使用できます。
図1に示すように,差分法は,まずIRパルスを付加せずに撮像を行います。そのため,描出目的とする血管は高信号に描出されます。続いて,IRパルスを描出目的とする血管の上流部に空間的に印加し,TI(Inversion Time)経過後,血液がnullポイントとなるタイミングで撮像を行うと,IRパルスを受けて流入した血管だけが低信号に描出されます。この空間選択IRパルス(Selective IRパルス)をONとOFFにした画像をそれぞれ撮像し,取得した2種類の素画像を差分することによって,IRパルスでラベリングした血液のみを高信号に描出します。

図1 差分法におけるVASC-ASLの概念

図1 差分法におけるVASC-ASLの概念

 

図2に示す方法は,空間選択IRパルスをONとした画像のみを使用し,撮像領域に流入する血液だけを高信号に描出する手法です。この場合,空間選択IRパルスを撮像領域も含めた広い範囲に印加し,TIを血液のnullポイントに設定して撮像することによって撮像領域を含めて低信号にします。ただし,撮像領域内の血流は,常に上流から流入する新たな血液により置換されるため高信号を呈します。

図2 非差分法におけるVASC-ASLの概念

図2 非差分法におけるVASC-ASLの概念

 

VASC-ASLは,主に腎動脈や門脈の描出のために使用されています。これらの部位では,呼吸の影響を受けるため,呼吸同期を併用して撮像を行います。図3にVASC-ASLで撮像した腎動脈と門脈の画像を示します。

図3 VASC-ASLによる腎動脈,門脈の画像

図3 VASC-ASLによる腎動脈,門脈の画像

 

VASC-ASLの活用

VASC-ASLは,主に腎動脈や門脈の撮像で用いられますが,ここで他の部位への適応を考えてみます。体幹部におけるVASC-ASLの撮像は,呼吸の影響を無視できないため呼吸同期を併用していました。一方で,呼吸の影響が比較的出にくい下腹部や四肢の動静脈においては,呼吸よりも血行動態や血流の速さを考慮する必要があります。
一般的なTime of Flight法に代表されるような手法は,主に血液の流れによる流入効果を利用しています。そのため,心収縮期に撮像タイミングを合わせることで,最も効果的に信号を取得できます。これに対しVASC-ASLは,血液が流れる心収縮期よりも血液の流れが比較的緩やかな心拡張期でデータを取得することで描出できます。これは,心収縮期では血液の流速が大きくなり,拍動流や乱流の影響で位相分散を起こし信号低下が起こりやすいためです。このため,同期計測において心拡張期にタイミングを合わせ,撮像することが重要です。今回は,心電同期や脈波同期を使用した体幹部や四肢の動静脈の撮像を考えてみたいと思います。
心拡張期にタイミングを合わせて撮像を行う場合,その心拍ごとに同期をかけると血液のT1が十分に回復できません。そのため,血液のT1が十分に回復するだけの時間を待つ必要があります。そこで,おおよそ3心拍に1回の信号収集とするようにします。図4に示すように,Countを3と設定するようにします。
図5に差分法で取得した鎖骨下動脈の画像を示します。図5 aは空間選択IRパルスをOFFで取得した動脈像+静脈像,図5 bは空間選択IRパルスをONで取得した静脈像です。そして,図5abを差分した画像がcの動脈像となります。
3心拍ごとに心拡張期で撮像を行っているため,十分に血液が回復でき,良好に鎖骨下動脈が描出できています。オープンMRIは,高磁場装置と比べると磁化率の影響を受けにくいという特長もあります。そのため,鎖骨下動脈付近で発生しやすいバンディングアーチファクトは,高磁場装置と比較すると少なくなります。オープンMRIの開放性を生かして,腕を外転させた状態でも撮像することが可能です。

図4 撮像条件中のCountの入力

図4 撮像条件中のCountの入力

 

図5 VASC-ASLの差分法における鎖骨下動脈の画像

図5 VASC-ASLの差分法における鎖骨下動脈の画像

 

さて,手や足といった部位の非造影MRアンギオは,さまざまな手法が考案されていますが,被検者に無理な体勢を強いたり,脂肪信号の抑制不良が起こりやすかったりと血管の描出には制約の多い部位です。しかし,日立のオープンMRIは,これらの課題を解決すべく,開放性を生かしたラテラルスライドする寝台を採用しており,被検者が楽な姿勢のまま撮像したい部位を磁場中心に移動することができます。図6 aに非差分法で撮像した橈骨・尺骨動脈の画像を示します。図6 bのように手部側に空間選択IRパルスを配置し,心拡張期のタイミングとなるようにdelay時間を設定した上で3心拍ごとに撮像を行っています。広い居住性を確保したラテラルスライドする寝台と日立のMRIの基礎技術に裏付けされた脂肪抑制技術があるからこそ実現できる撮像です。
VASC-ASLは,呼吸や血行動態,血流の速さなど,生理的な状態だけでなく,IRパルスの位置や厚さ,TIといったパラメータの設定により描出される血液が変化する撮像法です。そのため,目的の血管に合わせたパラメータを設定する必要があります。今回はVASC-ASLの原理とその応用について概説しました。非造影MRアンギオ検査における新たな選択肢として,VASC-ASLをご活用ください。

図6 VASC-ASLの非差分法における橈骨動脈,尺骨動脈の画像

図6 VASC-ASLの非差分法における橈骨動脈,尺骨動脈の画像

 

*VASCは株式会社 日立製作所の登録商標です。


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