技術解説(フィリップス・ジャパン)

2017年9月号

Step up MRI 2017 MRI技術開発の最前線

MRI高速イメージングの技術革新“Compressed SENSE”

中村 理宣(MRフィールドマーケティング)

MRIは,多様なコントラストが得られ,非侵襲的にさまざまな情報を得ることができる画像診断装置である。MRIの特徴に対し,撮像時間短縮はその有用性を生かすために大きく関与しており,常に与えられ続けた課題であると言えよう。近年,新しい高速撮像技術として,compressed sensingが注目されている。compressed sensingは,少数のサンプリングデータから画像に必要な基データを推定し,画像を再構成する技術である。現在までハードウエアやソフトウエアにより高速化を図った技術に対し,情報理論に基づいた新しい技術である。フィリップスのcompressed sensingである“Compressed SENSE”は,“SENSE”で培ったアルゴリズムとフルデジタルコイルシステムである“dStream”を組み合わせることによりパフォーマンスが向上し,画質を維持した状態で,大幅な撮像時間短縮が期待できる。本稿では,フィリップス独自の技術を用いたCompressed SENSEの特長について解説する。

■高速化と高画質化の両立

Compressed SENSEは,可能なかぎり少ないデータ量から,対象となる基の情報を復元する技術である。基の情報を正確に復元するために,いくつかの条件を満たす必要があり,この条件が,コントラストや信号/ノイズを最小限に抑えた高速化を実現する重要なポイントとなる。

1.情報劣化を抑えた“Optimized Variable-density Sampling”
compressed sensingでは,k-space上のデータ充填法として,ランダムサンプリングが用いられる。k-spaceをランダムに間引いて充填した場合,折り返しアーチファクトは規則性を有さず,ノイズ状としてFOV全体に分散する。ノイズ状に分散した信号は,実信号(非ゼロ成分)との分離が容易なデータを取得できる。しかし,compressed sensingに用いられるランダムサンプリングは,高速化を図ると重要な情報の劣化を招いてしまい,少ない情報から理想的な画像を得るためには限界があった。すなわち,MRアンギオや心筋のcine画像など,比較的高コントラストの対象は理想的な効果(実信号とノイズ成分の分離)を得やすかったが,組織間コントラストがわずかな対象には理想的な画像を得ることが困難であったと考えられる。Optimized Variable-density Samplingは,Compressed SENSEに採用されているサンプリング技術である。この技術は,k-spaceの中心を密に,周辺を疎にランダムサンプリングする技術である(図1)。k-spaceの低周波成分を増すことにより,組織間コントラストがわずかな対象においても,重要な情報の劣化を最小限に抑え,実際の画像を推定しやすくできる。図2は,SENSEとCompressed SENSEの画像の比較である。reduction factorの上昇に伴う画像劣化(ノイズの増加)が,Compressed SENSEでは最小限に抑えられていることが確認できる。
compressed sensingで重要な条件であるデータサンプリングは,この技術により,撮像時間短縮を求めた場合においても理想的な画像の取得が可能となる。

図1 Compressed SENSEの概要

図1 Compressed SENSEの概要

 

図2 SENSEとCompressed SENSEの画像の比較

図2 SENSEとCompressed SENSEの画像の比較

 

2.“dS-SENSE”との融合による有効性
dStreamと呼ばれるフルデジタルコイルシステムは,収集した信号をコイル内でデジタルに変換することで,大幅なSNRの向上をもたらした。また,dStream技術を備えたハードウエアをベースに,SENSEアルゴリズムも一新され(dS-SENSE),不適切なコイルエレメントの使用によるジオメトリファクタの上昇に伴う画質低下や,高いreduction factorを用いた場合の展開精度不良など,SENSEの問題点を改善し,ノイズや展開精度不良に伴うアーチファクトを低減した画像が得られるようになった。これら,dStreamによるSNRの向上とdS-SENSEによる展開精度の向上は,compressed sensingに有効に働く。Compressed SENSEは,dS-SENSEの優れた特長を融合し,画像劣化の少ない高速化を実現している。画像処理では,dS-SENSEの展開処理後,残ったノイズ成分を除去する処理を行っており,もともとノイズやアーチファクトの少ないdS-SENSEの画像から,効率的なノイズ成分除去処理を可能としている。また,reduction factorは,コンソール上で設定した値に対し,撮像部位とコイルの位置関係,関心領域の大きさ,そして事前に得たジオメトリファクタの情報から,最も効果的なdS-SENSEとCompressed SENSEのファクタが選択されるため,Compressed SENSEのみと比べ,撮像時間短縮と画質を両立した理想的な画像が得られる。

3.画像再構成時間の解決
Compressed SENSEの開発時から,画像再構成時間は課題であった。実際の臨床で高速化が可能となっても,撮像時間以上の画像再構成時間では,臨床応用は困難であると言わざるを得ない。画像再構成時間延長の要因として,ノイズ成分と実成分の分離を繰り返し行うことにある。具体的には,ランダムサンプリング後,スパース変換を行ったデータに対し,ノイズを除去し,ノイズ除去前のデータとの差分からノイズ成分のみが除去され,閾値以上の実信号が適正と判断されるまで繰り返される。Compressed SENSEでは,dS-SENSEの融合により,そもそもノイズ成分やアーチファクトの少ない画像の取得が可能であるため,ノイズ除去処理を効率的に行うことができ,結果として実用的な画像再構成時間を可能とする。

■臨床応用

Compressed SENSEは,前述した技術により臨床応用へ高い期待が持てる。3D撮像のみならず,ルーチン検査のほとんどを占める2D撮像にも対応しているため,EPIやradial scanを除く,現状の撮像プロトコールにほぼ制限なく対応が可能である。また,50%以上の短縮率を図っても,画像劣化を最小限に抑えた画像が得られる(図3)。さらに,Optimized Variable-density Samplingは,効率的な撮像時間短縮を図る要素であるとともに,k-space中心部を密にランダムサンプリングすることから,モーションアーチファクトを減少させる特長も生まれる。図4は,2D-高速スピンエコーを用いたT2強調画像である。脊髄内に発生したモーション性のゴーストアーチファクトが,Compressed SENSEを併用した場合,減少していることが確認できる。

図3 Compressed SENSEのモーションアーチファクト低減効果

図3 Compressed SENSEのモーションアーチファクト低減効果

 

図4 SENSEとCompressed SENSEの比較画像

図4 SENSEとCompressed SENSEの比較画像

 

フィリップス高速撮像の技術革新として,Compressed SENSEについて技術的な特徴を中心に解説した。compressed sensing元年とも言えるこの年に,実用性の高いCompressed SENSEのさらなる臨床応用に期待したい。

 

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