TwinBeam Dual Energy 
ルーティン検査でDECTを 
村上省吾(社会医療法人社団更生会 村上記念病院放射線科)
<Session Ⅱ The frontiers of CT technology>

2016-11-25


村上省吾(社会医療法人社団更生会 村上記念病院放射線科)

当院は2015年9月,シーメンス社製のSingle Source CT「SOMATOM Definition Edge」を導入した。同装置には,1管球でDual Energy CT(DECT)のルーティン検査を実現する“TwinBeam Dual Energy”が搭載されている。本講演では,造影CT検査にDual Energyと自動管電圧最適化機構“CARE kV”を常時使用している当院での使用経験と,非造影CT検査へのDual Energyの適用について述べる。

TwinBeam Dual EnergyによるDECTとは

SOMATOM Definition Edgeは,StratonX線管やStellar Detector,CARE kV,逐次近似画像再構成法“ADMIRE”,金属アーチファクト低減技術“iMAR”など最先端技術を多数搭載しているが,核となる技術がTwinBeam Dual Energyである。シーメンス社のDual Energy Imagingは,2管球で同時に異なるエネルギーのX線を照射するDual SourceやDual Spiralが特徴である。一方,TwinBeam Dual Energyは1管球でも管電圧を切り替えることなく,1回の照射でDECTを可能にする新しいコンセプトの技術である。
TwinBeam Dual Energy は,1管球から照射する120kVのX線をAu(金)とSn(錫)のSplit filterで17keV差の2つの実効エネルギースペクトルに分離し,64列検出器で0.6mm×32列の低エネルギー(Au)と高エネルギー(Sn)の画像データを同時に取得する。17keV差は,Dual Source CTの80kVと140kVの実効エネルギー差に相当する。Au120kV,Sn120kV,AuとSnを合成したAuSn120kVに加え,画像解析によりVirtual Non Contrast(VNC)やIodine mapを得ることができる。
TwinBeam Dual Energyの撮影プロトコールとワークフローはシンプルであり,DECTが必要になった時にいつでも追加することができる。当院では,Dual Energy撮影後にAuSn120kV画像とAu120kV画像をサーバに転送し,通常の読影に用いている。さらに画像診断ITソリューション“syngo.via”により,さまざまなDual Energy解析が可能である。任意の仮想単色X線画像を得られる
“DE Monoenergetic Plus(Mono+)”は,造影効果を上昇させる強力な
ツールであり,造影剤量の低減や画像コントラスト向上に利用することができる。
また,骨髄イメージングの“DE Bone Marrow”は,MRによって担われている骨髄浮腫の評価をCTで実現する新しい手法である。

造影CT検査におけるCARE kVとDECTの常時使用

当院では,造影CTは全例でCARE kV とDECTを組み合わせて撮影している。造影CTの早期動脈相,後期動脈相,門脈相は100kVで撮影しているが,造影効果の増強を実感しており,造影剤の減量を検討中である。平衡相はAuSn120kV画像とAu120kV画像を確認し,Mono+にて40〜70keVで造影効果を調整している。DECTを用いることで,後からMono+で造影効果を調整できることは,特に平衡相においてメリットが大きい。ほかにもDECTの特長として,iMARとHigh-keVでハイブリッドに金属アーチファクトを除去できること,100kVで造影効果の遷延するwashoutも確認できることなどが挙げられる。
症例1(85歳,男性)は,イレウス疑いで造影検査となった鼠径ヘルニア症例である。門脈相ですでに造影効果が低下しているため,平衡相で確認するためにMono+でLow-keV画像を作成した(図1)。50keV画像では粘膜の造影効果()も確認できる。Low-keVにすることで造影効果を増強し,かつノイズも上昇しない非常に見やすい画像を得ることができる。

図1 症例1:鼠径ヘルニアの平衡相DECT

図1 症例1:鼠径ヘルニアの平衡相DECT

 

非造影CT検査におけるDECTの活用

1.DE Bone Marrow
当院では,骨折が疑われるが単純X線検査で骨折線を確認しにくい場合や,骨折部以外に痛みを訴える場合などにDE Bone Marrowを適用し,骨挫傷や骨髄浮腫を確認している。画像処理に関しては,syngo.viaでリアルタイムに解析して読影端末に転送している。
症例2(54歳,女性)は転倒による膝蓋骨骨折で,脛骨にも痛みがあったが,単純X線検査では膝蓋骨以外に骨折線が認められなかった。そこでDE Bone Marrowを適用すると,脛骨内側前縁に濃度変化が認められた(図2)。翌日のMRI検査で同部位に挫傷を指摘できたことから,DE Bone Marrowは挫傷による浮腫の観察に有用であると考えている。

図2 症例2:DE Bone Marrow(挫傷による浮腫の観察)

図2 症例2:DE Bone Marrow(挫傷による浮腫の観察)

 

2.DECT+iMAR
iMARは撮影後に処理可能な金属アーチファクト低減技術で,DECTのHigh-keV処理と併用することができる。その効果は非常に強力で,アーチファクトでほとんど見えない状態からでも観察可能な画像を得ることができる。
症例3(83歳,男性)は両側大腿骨頸部骨折で,両側にスクリューが固定されているため非常に強いアーチファクトを生じるが,iMARの適用によりアーチファクトが軽減し,造影効果も確認することができる(図3)。
なお,DECTとiMARの併用では,iMARの金属アーチファクト低減処理に加え,Mono+を用いてさらに金属アーチファクトの低減や造影効果をコントロールすることができるため,検査目的に応じてコントラストとアーチファクトのバランスを取って使用することで,非常に有効な検査法になると考える。

図3 症例3:両側大腿骨頸部骨折へのiMARとHigh-keVの併用処理(形態だけでなく造影効果も確認)

図3 症例3:両側大腿骨頸部骨折へのiMARとHigh-keVの併用処理(形態だけでなく造影効果も確認)

 

3.DE Kidney Stones
尿路結石は大きさやCT値から治療方針が決められるが,結石の性質がわかれば追加情報として有用と考え,現在,“DE Kidney Stones”で解析した性質と破砕した結石を調べ,整合性を検証している。
症例4(38歳,男性)は,両側に尿路結石が見られた。右尿管結石についてDE Kidney Stonesで解析したところ,HydroxyapatiteやCalcium oxalateが主成分のカルシウム結石であることが予測された(図4)。
1cmに満たない尿管結石は飲水などで自然に排石されるが,当院では1か月経過しても排石されない,あるいは経過観察で結石評価を求められた場合などにDE Kidney Stones解析を行っている。結石の性質解析により,破砕しやすい結石かどうかの情報を提供できれば,治療適応検討にも有用な検査法として存在意義が高まると思われる。

図4 症例4:DE Kidney Stones(右尿管結石)

図4 症例4:DE Kidney Stones(右尿管結石)

 

4.Non contrast brain CT
中大脳動脈を対象とした急性期脳梗塞のCT所見としては,レンズ核辺縁,島皮質の不鮮明化,皮髄境界の不鮮明化を伴う吸収値低下,脳溝の狭小化,hyperdense MCA sign(超早期脳塞栓)がある。これらを確認しやすい画像を,DECTでデザインすることを検討した。
デザインの基本方針は,Low-keVによるレンズ核と島皮質の明瞭化,皮髄境界のコントラスト強調,Stellar Detectorによる脳溝の高空間分解能化である。hyperdense MCA signについては,High-keVが適していると考えられた。
撮影・読影手順は,DECTでAuSn120kV画像とAu120kV画像の1mm厚,5mm厚をサーバに転送し,AuSn120kVの5mm厚画像とAu120kVの5mm厚画像を比較する。また,Au120kVの1mm厚画像をMPR再構成(3〜5mm厚)して比較し,Mono+で70〜80keV,5mm厚の画像を基準にDual Energy解析を行う。
症例5(85歳,男性)は,通常のCTでもhyperdense MCA signや低吸収域が見られたが,脳血管疾患や脳挫傷の既往もあるため判然としなかった。Au120kV画像で濃度差が少し強調されたことから,DECTでの観察が有用と考えた。75keV画像を作成すると,濃度差がさらに強調されて低吸収域が明瞭化し,同日に撮像したMRIのDWIにおける基底核の高信号と整合性が認められた(図5)。
本症例についてエネルギーによるCT値の変化を見ると,血栓は50〜60keVでも他部位より高濃度となることから,Low-keVで梗塞巣と血栓を一度に確認できると思われる。症例により個体差はあるものの,白質と灰白質の濃度はLow-keVからHigh-keVまで一定の差を保持すると考えられる。
これまでの経験から,脳梗塞の診断においては70〜80keVが至適範囲と考えている。術後の経過観察画像でもDECTの方が病変を観察しやすいと思われ,今後検討を重ねていきたい。

図5 症例5:脳梗塞のDECT(左内頸動脈閉塞)

図5 症例5:脳梗塞のDECT(左内頸動脈閉塞)

 

まとめ

DECTを通常検査に追加することで,造影CTとは異なる情報をリアルタイムに得ることができ非常に有用である。特に,Mono+による造影効果の向上は臨床的に非常に有用であり,今後日常的に活用され,さらに有効性が増すものと期待さ
れる。

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