The Innovations of SOMATOM CT 
伊藤俊英(シーメンスヘルスケア株式会社 ダイアグノスティックイメージング事業部DIリサーチ&コラボレーション部)
<Session III Keynote lecture>

2016-11-25


伊藤俊英(シーメンスヘルスケア株式会社 ダイアグノスティックイメージング事業部DIリサーチ&コラボレーション部)

シーメンスがDual Source CTを市場に投入してから今年で11年目となる。この間もDual Source CTは絶え間なく進歩し続け,現在では単なる2管球CTという枠組みを超え,Low-kV scan,もしくはLow-keV imagingの代名詞としてのポジションを確立した。本講演では,Low-kV scanを実用・実践のレベルに導いた,X線管球「Vectron」や検出器「StellarInfinity Detector」について解説し,さらに,新たなCTの可能性として期待されるPhoton Counting Detector CTの開発について言及する。

Low-kV scanを実現するハードウェアの開発

Vectronは低管電圧撮影時にも最良の画質を得ることをコンセプトに開発されており,特に70,80,90kVでは1300mAという,従来にない大出力を誇るX線管球である(図1)。これは最低管電圧の70kVにおいても,腹部撮影時の平均的な線量と考えられている15mGy(= CTDIvol)の線量を出力するためである。また,Low-kV scanの最大の魅力は高いコントラストゲインにある。特に70kVにおけるヨード造影剤のCT値は,120kVと比べて約1.8倍にもなるため,例えば実質臓器における淡い濃染などの検出能の改善に期待ができる。
Low-kV scanの実現には検出器の改良も欠かせない。われわれは,電気的なノイズを大幅に低減したStellar Detectorを2011年に製品化した。その後,さらに小型化を進めた現在のStellarInfinity Detectorは,Conventional Detectorと比べて電気ノイズを約50%低減することに成功している。
図2はVectronおよびStellarInfinity Detectorが,70kV撮影による画質改善にどのように寄与するのかを示したものである。図2 aは腹部の標準的な撮影条件,120kV,15mGyで撮影した体幹部ファントムの画像である。ここで単純に管電圧だけを70kVに変更しようとしても,残念なことに従来型管球では15mGyもの高線量を出力することはできない。その結果,仮に管球の最大出力にしたとしても,得られた画像は図2 aに比べて高いノイズに汚染されてしまう(図2 b)。ところが,StellarInfinity Detectorは図1 bと同一撮影条件下でもおおよそ12%のノイズ低減が可能であり,CNRは120kVの画像(図2 a)とほぼ同程度まで回復する(図2 c)。しかし,Low-kV scanのメリットは,十分な線量を照射してこそ享受される。図2 dの画像は120kVの画像と同等レベルの画像ノイズにするために,管電流を1030mAにまで引き上げて撮影されたものである。120kVでは不明瞭であった淡い濃染のCT値が,70kVの管電圧によって増強されているのみならず,画像ノイズの低下によって辺縁の境界が明瞭になっていることがわかる。このときのCTDIvolは12mGyであり,120kVの画像と比較しても,おおよそ20%ほどの被ばく低減に貢献している。これこそがLow-kV scanの本質であり,Vectronが70kVで1300mAもの出力を備えている理由でもある。

図1 Vectron管球の低管電圧における性能

図1 Vectron管球の低管電圧における性能

 

図2 Vectron+StellarInfinity Detectorによるノイズと被ばく線量の低減

図2 Vectron+StellarInfinity Detectorによるノイズと被ばく線量の低減

 

Photon Counting Detector CTの可能性

1.Photon Counting Detectorの特長
これから10年後のCTを想像するのは極めて困難であるが,研究開発を進めていくべき要素技術のひとつと考えられるのは,Photon Counting Detector CTであろう。広く知られているように,現在のCTで採用されている検出器メカニズムはEnergy Integrating Detector(EID)と呼ばれている。検出器に入射したX線は,まずシンチレータ素子によって光に変換され,次にフォトダイオードを介して光電流へと変換される。最終的に光電流は一定時間積分され,その積分値をX線の強度として検出している(図3 a)。一方,Photon Counting Detector(PCD)は,入射したX線がセンサー内部に発生させた電子を,アノードピクセルで個々にカウントすることによって,X線の強度とエネルギーを検出している(図3 b)。
図4 aは,20〜140keVにおけるEIDとPCDのエネルギー検出特性の比較である。EIDはエネルギーの高いX線ほど強いシンチレーション光を発生させるので,高いエネルギーのX線ほど強度が重み付けされてしまう。しかし,PCDではEIDのようなエネルギーに対する重み付けがないため,相対的に低エネルギー領域ほどEIDに比べて高い感度を示すことになる(図4 b)。そのため,低エネルギー領域に豊富な情報を含むと考えられる人体の軟部組織やヨードの計測には,PCDが大きく貢献するものと考えられる。
われわれのファントム実験によれば,EIDと比較してPCDにおけるヨードのCT値は20%増加し,ノイズは5%減少する結果となった。CNRに換算すると,25%の増加に相当する。

図3 EIDとPCDの原理

図3 EIDとPCDの原理

 

図4 エネルギーと検出器レスポンスの関係

図4 エネルギーと検出器レスポンスの関係

 

2.シーメンスの研究用PCD-CTの概要
われわれは,Dual Source CT「SOMATOM Definition Flash」の検出器の1つをPCDに交換した研究用CT装置を開発し,EIDとPCDそれぞれの物理的な特性を研究している。独自開発のPCDはマテリアルにテルル化カドミウム(CdTe)を採用している。1つのセンサーユニットは,縦横0.225mm,厚さは約1.6mmの素子を4×4に配置して形成されている(図5)。信号の読み出しを担うASICのパルス形成時間は20ns未満,エネルギー弁別数は2ないし4である。エネルギーの弁別はあらかじめ設定しておいた閾値との比較によって行われる。PCDではパルスのカウント数はX線の強さを,パルスの波高はエネルギーをそれぞれ反映している。PCDの利点のひとつは電気的ノイズを計測信号から除去できることだが,これは電気ノイズに汚染されていると考えられるエネルギー帯(例えば20keV以下)のパルスを,閾値処理によって計測データから除外することによって実現している。

図5 シーメンスが独自に開発したPCDの概要

図5 シーメンスが独自に開発したPCDの概要

 

3.PCDの物理的な課題
一方,PCDにはPulse Pileupという物理特性がある。パルス形成時間よりも短いタイミングで複数のパルスが連続した場合,それぞれのパルスを分離してカウントすることが困難になる。その結果,カウント数を過小評価したり,パルス同士の重畳による波形の歪によって,波高を過大評価するなどの計測エラーを発生させる。Pulse Pileupは,例えば高線量撮影時のCT値の変動,画像ノイズの増加として観察される。Pulse PileupはPCDに関連する重要な研究開発テーマのひとつであり,多くの研究者が関心を持って,その対策に取り組んでいる。

4.Photon Counting Detector CTの展望
PCDは原理的に複数のエネルギー弁別が可能であることを前述したが,仮に3つ以上の異なるエネルギーを精度良く検出できるならば,K-edgeイメージングが可能となり,この技術を軸にしたMolecular CTの時代が現実のものとなってくるだろう。
一方,PCDは計測データから電気ノイズの影響を除去できることや,特に低エネルギー領域における軟部組織,ヨードなどの検出感度がEIDよりも優れていることなどから,グレースケールを基底とするCTの基本的な画質改善にも寄与するものと考えられている。
しかし,これこそが冒頭で説明したDual Source CTによってわれわれが目指したものである。VectronとStellarInfinity DetectorによるLow-kV scanは,まさにCTの基本的な画質改善を目指したものであり,その結果はすでに示したとおりである(図2)。
加えて,われわれは錫合金フィルタ(Tinフィルタ)によってX線のスペクトルを最適化する“Selective Photon Shield”を開発し,実効的なX線のエネルギーを20keV以上引き上げることに成功している(図6 b)。Dual Energy CTでは収集するエネルギー差が大きければ大きいほど高画質で,高精度なイメージングにつながることから,重要で不可欠な技術と言える。
Dual Energyイメージングのアプリケーションの中でも,仮想単色X線画像(Mono画像)はコントラストを引き上げるテクニックとして注目されている。これはLow-kV scanに通じる考え方で,ヨードの信号ゲインを最大化するべく,できるだけ低keVのMono画像を使用しようとするものである。しかし,Mono画像のノイズ特性は70keV近傍に最良点を持つ釣り鐘状の分布を示すため,ヨードのコントラストゲインが増大する低keVでは,むしろCNRが急激に劣化してしまうというジレンマがある(図6 c)。われわれは,DE Monoenergetic Plus(Mono+)によって,この問題を解決した。これは画像ノイズを選択的に抑制することによって,低keV領域におけるCNRを改善するイメージング手法である。図6 aの臨床例が示すように,Mono+の40keV画像はノイズに汚染されることなく,ヨードのコントラストを十分活かした画像であることがわかる。

図6 スペクトルの変化とMono+画像

図6 スペクトルの変化とMono+画像

 

まとめ

シーメンスが開発したStellarInfinity DetectorやVectronは,Low-kV scanとRight Dose scanを実践する重要な技術であり,結果としてDual Source CTにおける画質の向上と,被ばく線量の低減,造影剤の低減を実現した。Photon Counting Detector CTについてはいまだに研究段階であり,残念ながらそのパフォーマンスは現在のDual Source CTに及ばない。しかし,未来のCTを支える要素技術のひとつとして,今後もさらに研究を進めていきたいと考えている。

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