Dual Energy CT in Emergency Radiology 
土谷飛鳥(独立行政法人国立病院機構 水戸医療センター救急科)
<Session Ⅲ Focus on Acute Care>

2017-11-24


土谷飛鳥(独立行政法人国立病院機構 水戸医療センター救急科)

本講演では,Dual Energy CT(DECT)の特長を利用した救急医療の実際について報告する。

DECTの特長

DECTの特長の1つは,物質弁別能が高い(物と物の区別が得意である)ことである。DECTでLow-kVとHigh-kVの2種類のエネルギーで撮影することで,物質固有の異なるCT値となり,弁別が可能となる。
2つ目の特長は,仮想単色X線画像を得られる(コントラストが強調された“識別しやすい”画像が作れる)ことである。DECTは仮想的にさまざまなkeVの画像を作成可能で,Low-keVでヨードのCT値が高くなりコントラストが強調されたわかりやすい画像を得ることができ,臨床において非常に有用である。

救急医療におけるDECTの活用

●出 血
症例1は下行結腸憩室出血症例で,通常のCT画像(図1 a)では憩室出血の描出が不明瞭だが,DECTのLow-keV画像(図1 b)ではコントラストが強調され出血点が容易に同定できる。また,DECT特有のヨードマップ画像(図1 c)を作成することで,さらに病変が明瞭となる。なお,本症例は,造影剤漏出により120mLのうち30mLしか投与できなかったが,少量の造影剤でも出血点を描出できていることは特筆すべきことである。
憩室出血と憩室内石灰化の鑑別は造影CTのみでは困難であり,単純CTと比較しなければならない。DECTでは造影CT画像から造影効果のみを除去し,仮想単純(非造影)画像を作成することができるため(図1 d),単純CT撮影の省略が可能となる。DECTを用いて単純CTを省略し,かつヨードマップ画像を追加したプロトコルと従来のMDCTでのプロトコルとを比較した文献では,前者の感度,特異度,陽性適中率,陰性適中率のいずれも高い値を示しており1)〜4),このDECTプロトコルは有用であると考えている。
造影剤腎症のリスクは,造影剤投与量に依存するとされているが,DECTでは造影剤量を半減しても,Low-keV(50keV)で大動脈の造影効果は保たれ,かつノイズの程度も同等との報告5),6)もあり,当センターでも造影剤を減量したプロトコルに取り組んでいる。
仮想単純画像については,小さく(3mm未満)かつCT値が低い石灰化は見えにくいとの報告7)〜9)もあるが,救急診療上問題になることは少なく,その信頼性は高いと考える。時間との戦いである救急診療においては,得てして被ばく量は考慮されないが,単純CTを省略することで被ばく量を低減し,必要に応じて仮想単純画像を作成する戦略は,非常に有意義であると考える。

図1 症例1:下行結腸憩室出血(79歳,女性)

図1 症例1:下行結腸憩室出血(79歳,女性)

 

●虚 血
症例2,3は,それぞれ絞扼性イレウス(図2),NOMI(non-occlusive mesenteric ischemia:非閉塞性腸管膜虚血:図3)による腸管虚血症例で,通常のCT画像(図2 a,図3 a)と比べ,DECTのLow-keV(図2 b,図3 b)・ヨードマップ画像(図2 c,図3 c)では虚血腸管を明瞭に同定でき,術後の病理標本(図2 d,図3 d)でも同部位に虚血性変化が確認された。ヨードマップは色を付けてカラーにすることもできるため,虚血領域がより明瞭となり,腸管切除の必要性の判断,切除範囲の決定において有用である。
また,術後に膿瘍を形成した場合にも,DECTのLow-keV画像やヨードマップで腔壁のコントラストを強調して確認することで,膿瘍腔と漿液腔の鑑別が容易となる。
Swineモデルでは,DECTのLow-keV画像+ヨードマップ画像で虚血腸管と正常腸管の識別が顕著になると報告されており10),今後のエビデンスの蓄積が待たれる。
症例4は壊死性胆囊炎症例である。通常のCT画像(図4 a)では胆囊壁の造影効果は一様に不良であるが,DECTのLow-keV画像(図4 b)では造影効果の有無が明瞭に描出されており,部分的に壊死していることがわかる。術後の病理標本では,造影効果が消失していた部分に一致して胆囊壁の穿孔を認めた。

図2 症例2:絞扼性イレウスによる腸管虚血(76歳,男性)

図2 症例2:絞扼性イレウスによる腸管虚血(76歳,男性)

 

図3 症例3:NOMI(83歳,男性)

図3 症例3:NOMI(83歳,男性)

 

図4 症例4:壊死性胆囊炎による虚血(66歳,女性:冠状断像)

図4 症例4:壊死性胆囊炎による虚血
(66歳,女性:冠状断像)

 

●多発外傷
DECTのヨードマップ画像により外傷性急性硬膜下血腫内の血管外漏出像も同定が可能となり,治療方針決定において有用である。図5のearlyとdelayを比べると,出血が徐々に広がっていることが確認で
き,今後持続的に出血が広がることが予想され,緊急の開頭術が必要であると判断できる11)〜13)。当センターでは現在,外傷については単純CTを省略したプロトコルとしており,これにより平均在室時間が13.4分から8.4分へと短縮した(全国平均12.2分)。単純CT撮影を省略し,必要に応じて仮想単純画像を作成することで,撮影時間も短縮できる。

図5 症例5:急性硬膜下出血(71歳,女性)

図5 症例5:急性硬膜下出血(71歳,女性)

 

●肺塞栓
肺塞栓では,DECTの仮想血流シンチグラフィ(DE Lung PBV)を用いることで,血流低下領域(perfusion defect)をより明瞭にとらえることができる。このperfusion defectは,V/Q scanning(肺血流シンチグラフィ)ともよく相関し,予後予測・治療効果判定にも有用であることが報告されている14),15)。症例6の治療前後を比較すると,血流の改善が一目瞭然である(図6)。

図6 症例6:肺塞栓のDE Lung PBV(77歳,女性)

図6 症例6:肺塞栓のDE Lung PBV(77歳,女性)

 

●骨 折
DECTのHigh-keV画像では体内金属のアーチファクトを軽減できるため,整形外科領域の術後経過観察によく用いられる。7年前に鎖骨骨折でプレート固定術を行い,起床時からの鎖骨痛で受診した症例7は,一般X線撮影で詳細が不明だったことから,DECTを撮影した(図7)。通常のCT画像(図7 a)では金属アーチファクトにより骨や金属のつながりがわかりにくいが,DECTの140keV画像(図7 b)ではアーチファクトが軽減され,金属骨折の詳細がわかる。

図7 症例7:金属骨折(体内人工物)(43歳,男性)

図7 症例7:金属骨折(体内人工物)(43歳,男性)

 

●救急領域はスピードが命:Flash Spiral撮影
救命救急はスピードが命であり,この点において,シーメンスのDual Source CTはきわめて有用である。Single Source CTと比べ,Dual Source CTによるFlash Spiral撮影は,高ピッチ撮影でも画像に欠損が生じず,ブレのない良質な画像を得ることができる。撮影しながらの読影は不可能なほど,高速撮影ができる。
当センターでは,ショック状態の多発外傷,体動が激しい場合,息止め不可能な場合,小児,循環器系疾患では,高速撮影が可能なFlash Spiral撮影を行っている。特に,大動脈解離などでは,大動脈基部の画像のブレは診断上問題となるが,Flash Spiral撮影では基部解離の有無を鑑別でき,さらに冠動脈・肺動脈の評価も同時に可能となるため,非常に有用である(図8)。

図8 症例8:大動脈解離(74歳,男性)

図8 症例8:大動脈解離(74歳,男性)

 

まとめ

DECTは,見えないものを見えるようにする技術ではなく,「見えにくいものを少し見やすくする」,あるいは「見えているものをより見やすくする」技術である。つまり,「感度が高くなる」もしくは「見逃しが少なくなる」技術であり,これにより正確な診断,治療につながる。若手はもちろんベテランの医師・診療放射線技師にとっても役に立つ。DECTの有用性は多岐にわたることから,救急領域に限らず,今後ますます発展すると確信している。

●参考文献
1)Kennedy, D.W., et al., J. Vasc. Interv. Radiol., 21・6, 848〜855, 2010.
2)Yoon, W., et al., Radiology, 239・1, 160〜167, 2006.
3)Martí, M., et al., Radiology, 262・1, 109〜116, 2012.
4)Sun, H., et al., Eur. J. Radiol., 84・5, 884〜891, 2015.
5)Shuman, W.P., et al., Acad. Radiol., 23・5, 611〜618. 2016.
6)Carrascosa, P., et al., Int. J. Cardiovasc. Imaging, 30・8, 1613〜1620, 2014.
7)Mangold, S., et al., Radiology, 264・1, 119〜125, 2012.
8)Takahashi, N., et al., AJR, 190・5, 1169〜1173, 2008.
9)Takahashi, N., et al., Radiology, 256・1, 184〜190, 2010.
10)Potretzke, T.A., et al., Radiology, 275・1, 119〜126, 2015.
11)Won, S.Y., et al., Stroke, 44・10, 2883〜2890, 2013.
12)Brouwers, H.B., et al., Stroke, 43・12, 3427〜3432, 2012.
13)Watanabe, Y., et al., Neuroradiology, 56・4, 291〜295, 2014.
14)Thieme, S.F., et al., Eur. J. Radiol., 68・3, 369〜374, 2008.
15)Apfaltrer, P., et al., Eur. J. Radiol., 81・11, 3592〜3597, 2012.

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